独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました

せいとも

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1巻

1-1

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    プロローグ


 当番日明けの朝日は、疲れた身体には眩し過ぎる。私、雫石月しずくいしるなは、今にも閉じそうな瞼と重い身体を引きずるようにして、近くのバス停に向かっていた。
 春を迎えたばかりの穏やかな季節のはずが、昨日は急に気温が上昇し、夏日を観測するほどの暑さになる。その影響で、熱中症の症状と思われる患者からの救急要請が次から次へと入り、出動から搬送までを終えて、署に戻ることなく次の現場に向かうハードな勤務だった。本来は取れる夜中の仮眠も、ほとんど取れないまま夜が明けてしまう。
 この季節、朝晩の寒暖差に身体がついていけず、目に見えなくとも負担になっている。しかも、夏ほど意識して水分を摂っていない。おかしいと気づいた時には、身体が限界を迎えているのだ。
 大学を卒業後、国家試験に見事合格し、採用試験も突破し救急救命士として勤務をして三年が経つ。そして四年目に入る今春、初めての転勤を経験した。
 同じ市内なのだが、以前の人口が少なく長閑な地域とは違い、人口が多い地域の配属になった。救急車の出動件数も桁違いに多く、まだまだ慣れない日々……
 署からバスで十五分ほどのところに引っ越してきて正解だった。以前は実家の近くのマンションで一人暮らしをしていたけれど、そこからだと、ここまで通勤に四十分ほどかかる上に乗り換えもある。だから転勤を機に思い切ってこの地域に引っ越してきたのだ。
 通勤通学のピークは過ぎても、車内はまだまだ混み合っている。たまたま目の前の席に座っていた学生が降りていき、周りを見渡してもお年寄りや身体の不自由な人の姿もなかったので、座らせてもらうことにした。
 座ってすぐに、急激な睡魔に襲われる。心のどこかでは、乗り過ごさないように寝てはダメだとわかっているけれど、疲労と睡魔には勝てない。
 ほんの数分深い眠りに落ちていた時だった。
 突然ドンッと強い衝撃を身体に感じる。

「きゃー」
「助けてー」

 衝撃と共に悲鳴が辺りに響き渡り、一気に眠りから現実に引き戻された。

「一体、何が!?」

 立って乗っていた乗客達が重なり合って転倒し、車内は大勢のケガ人が出ているとわかる。そして驚くことに、このバスはなんと前のバスに追突して止まっていた。
 座席に座っていた私は、幸いにも無傷で済んでいる。

「大丈夫ですか?」

 目の前に倒れている男子学生に声をかけた。

「はい……何とか」

 捻挫や擦り傷程度の軽傷の人が多そうだけど、とにかく一旦外に出てもらって、ケガ人を診てみないことには何とも言えない。

「すみません! 扉付近にいらっしゃる方、慌てずに扉を開けて順番に外へ避難してください」
「わ、わかりました」

 事故の衝撃で騒がしい車内だが、私の指示は聞こえたようだ。サラリーマン風の男性が返事をしてくれる。扉が開かれて、外の生暖かい空気が車内に流れ込んできた。

「運転席付近におられる方、運転手さんの状況は?」
「それが、事故の直前から胸を押さえ始めて、今は意識がないです」

 今回の事故の原因は、運転手の体調不良かもしれない。すぐに駆けつけたいけど、まだバスの中は騒然としていて移動もままならない。
 誰かが通報しているかもしれないが、一刻を争う状況だ。きっと警察に連絡をしてくれているだろうと予想して、私は救急車を呼ぶために消防へ電話をかけた。

「はい、一一九番、港浜みなとはまです。火事ですか? 救急ですか?」
港浜南みなとはまみなみ消防署の雫石です。事故に遭遇しました。場所は、港浜中町みなとはまなかまちバス停付近です。バス同士の衝突事故で、多数のケガ人がいる模様。後続のバスに乗っていましたが、運転手の意識はないようです」
「わかりました。出動可能な救急車が向かいます」
「ありがとうございます」

 電話を切って、救助作業に入る。私の周りの乗客達は、ケガをしているけれど意識があり、自力で動けそうだ。

「どなたか、近くのお店かどこかでAEDを借りてきてもらえませんか?」
「はい! 探して来ます」

 ちょうど後部の扉から降りようとしていたOL風の女性が返事をしてくれた。
 少しずつ動きの取れるようになった車内で、状況を見ながら前方の運転席を目指す。

「大丈夫ですか?」

 途中、足をくじいたのか立てない学生が目に入る。

「足が痛くて」
「僕が肩を貸します!」
「ありがとうございます。お願いします」

 すぐ側にいた乗客が救護してくれた。
 運転席にたどり着くと、数名の乗客が協力して運転手を寝かせてくれている。

「すみません。サイドブレーキは?」
「はい。先ほど引きました」
「ありがとうございます」

 突然緊急事態に遭遇すると慌てふためいてしまうが、的確に行動してくれる人達がいて、誰しもが協力的で助かる。
 危機に直面した時の団結力は侮れない。
 運転手はまだ息をしているけれど、顔面蒼白で痙攣している。一刻も早くAEDが必要だ。

「AEDが必要な患者はどこだ?」
「ここです! 貸してください」

 先ほど返事をくれた女性ではなく、ボサボサの髪にマスク姿の長身の男性がAEDを持って、バスに乗り込んできた。

「チビは出しゃばるな。俺がする」
「チ、チビ!?」

 あまりの言いように、思わず叫んでしまう。
 彼はまるで私の叫びが聞こえていないかのように、淡々と手を動かす。見知らぬ男性に突然チビ呼ばわりされて正直苛つきが拭えないけれど、今は一刻の猶予もない状態だ。AEDの使い方も理解しているようなので、ここは任せるしかない。男性は迷いなく的確な処置を施していき、その巧みな手さばきに不覚にも魅入ってしまった。目の前の患者を助けるという強い意志が伝わってくる。男性の言葉に苛ついていたのが嘘のように、いつしか意識を持っていかれて釘づけになっていた。
 他にもケガ人はたくさんいるのだと自分に言い聞かせて処置をしていくものの、ついつい男性に視線を向けてしまう。細くて綺麗な指と強い眼差しが印象的だ。
 運転手は、ボサボサマスク男によって無事に蘇生措置が取られ、タイミングよく到着した救急車に乗せられて搬送される。そして――

「チビ団子、またな」

 ボサボサマスク男が最悪な一言を残すと、救急車に同乗してあっという間に去っていった。

「ちょっと、チビ団子って何? 失礼な人!」

 仕事の時は邪魔になるので、ロングヘアーをまとめて団子にしているけれど、チビ団子とは失礼にもほどがある。そんな失礼な男だったが、見事な処置に不覚にも魅了されてしまった。
 AEDを迷いなく使いこなしていたので、医療従事者か同業者の可能性が高い。迷いない動きと、巧みな手さばきを思い出すとドキドキしてしまう。
 でも、でもだ。確かに長身の彼からすると私はチビかもしれないが、あんな言い方しなくても……。自分のボサボサ頭を棚に上げて本当に失礼だ。二度と会いたくないと思う気持ちと、ドキドキと高鳴る胸が、私の中で複雑に渦巻く。
 一気に最悪な気分になったはずが、男性の正体が気になるのは事実で……
 とはいっても、今はまだまだケガ人が多数いてそれどころではない。
 駆けつけた同僚の救急隊員達に助けられ必死に救助し、当番日明けのボロボロの身体で、結局昼まで手伝うことになった。
 やっと現場が落ち着いた頃、ふと先ほど言われた言葉が蘇った。
 チビ団子――またなと言われたけれど、また会うことはあるのだろうか?
 これが彼と私の衝撃な出会いの瞬間だった――



    第一章 俺様ドクターとの再会


 事故に遭遇したあと、家にたどり着いた時には身体が限界を迎えていた。
 普段から事故現場に出動することも多く慣れてはいるけれど、当番日明けの身体にはかなりこたえた。そんな中、初めて会った見知らぬ男性からチビ団子と言われたことに腹が立って、余計な気力を消耗した気がする。それに加えて、不覚にもなぜかその男性にドキドキしてしまい、ドッと疲れてしまった。
 玄関を通り抜けて、シャワーも浴びずベッドに直行。そのまま寝てしまい、次に起きた時には辺りは真っ暗で、一瞬今がいつなのかわからないくらい熟睡していた。
 時計を見ると真夜中で、半日近く寝ていたようだ。昨夜は仮眠をする時間もなく、身体が睡眠を欲していたのだろう。
 消防署は三週間を一サイクルとして、三交替制の勤務になっている。
 当番日は、朝八時半から翌朝八時四十分まで勤務し、朝に仕事が終わるとその日は非番日になる。基本は休みだけれど、残っている仕事をしたりイベントなどに人手が足りないと手伝いに行ったり、当番日には参加できない研修が入ったりと必ず休めるわけではない。何もなければ休みになる感じだ。非番日の翌日は、公休日か当番日に当たる。
 事故の日の翌日、私は公休日になっていたので、何とか気力も体力も回復できた。
 事故のバス二台には、合わせて百名弱の乗客が乗っていたけれど、死亡者がいなかったことが不幸中の幸いだ。
 私の乗っていたバスの運転手だけが重症で入院している。やはり事故直前の心臓発作が原因だったのだ。他の乗客は、捻挫や打撲程度のケガで済んでいるが、こういう事故の場合どちらかというと精神的ショックの方が心配だ。
 普段から事故現場に出動している私でも、突然のことに動揺する。
 ボサボサマスク男の発言で、動揺していた気持ちが一瞬にして吹き飛んだのは感謝だが、やはり今思い出しても腹が立つことに変わりはない。
 もう二度と会いたくない気持ちと、どこかでもう一度会いたい気持ちが葛藤する。
 ところが運命のいたずらかなのか、必然なのか……再会の日はすぐにやって来た――


 公休日明け、私は身体も軽く出勤する。
 今日の気温は、平年並みの予報だ。朝は肌寒さも感じるくらいで、熱中症の心配はあまりないだろう。
 ただ、他にも様々な理由で救急要請は入るのだ。
 この日の午前中は、救急要請はあるものの、二台ある救急車のどちらかは署にある状態で落ち着いていた。
 ところが、午後になって痛ましい事故で救急要請が入って来た。
 幼稚園児のお散歩の列に、高齢者の運転する車が突っ込んだと第一報が入り、署内が一気に慌ただしくなる。
 出動時点では、複数人のケガ人が出ているとの情報しかない。救急車とレスキュー車に出動指示が出た。いつでも出動できるように備えているので、ほんの数分で署を出発する。私の乗る救急車には、今日は男性の先輩隊員二人が同乗していた。そのうちの一人は、ちょうど幼稚園に入園したばかりの子供をもつパパで、他人事ではない。

「ひどい事故ですかね」
「現場に着かないと何とも言えないな」
「搬送先の病院に、受け入れ可能状況を確認します」
「ああ」

 搬送先が決まらずに、救急車の中で立ち往生してしまうことがある。前もってできる限りのことをしておきたい。

港浜みなとはま救命救急センターです」
「こちらは港浜南みなとはまみなみ救急です。ただいま、事故現場に急行中ですが、現在患者の搬送受け入れは可能ですか?」
「こちらも今、事故の患者の処置中でして、あと二人が限界ですね」
「了解しました。現場の状況を見て再度連絡します」

 港浜救命救急センターは、救急はもちろん医療センターとして一般診療も行う、この地域最大の病院だ。

浜中はまなか総合病院救急です」
「港浜南救急です。事故現場に急行中なのですが、救急搬送は可能ですか?」
「比較的余裕はありますが、人数がわかり次第もう一度連絡をください。ただ、本日脳外科の先生の手が足りていないです」
「了解しました。改めて連絡します」

 浜中総合病院も、この地域では港浜に次ぐ救急対応の病院だ。
 サイレンを鳴らして走ると周囲の車が避けてくれるので、現場まではすぐに到着する。
 今回の事故現場は片側一車線で、辛うじて両側に歩道はあるものの、比較的狭い道だ。
 現場の手前では車が渋滞している。パトカーも到着したところで、交通整理もままなっていない。
 何とか一般車両に避けてもらいたどり着いた現場は、かなり悲惨な状況だった。
 スピードが出ていたのか、車は縁石を越えて、歩道の奥にある住宅の壁に衝突して止まっている。
 車の助手席側は完全に潰れて、エアバッグが出ている。エアバッグに助けられた運転手は意識があり、何とか自力で脱出できたようで、車の側に座り込んで呆然としていた。
 それよりも事故車両の周辺で、園児達が泣いているではないか。

「重傷の子はいますか?」
「助けてください! 子供の足がまだ車と壁に挟まれてます」
「えっ!?」

 よく見ると、車の助手席側で大泣きしている子の足が、まだ車と壁の間に残ったままだ。

「痛いよ~」

 ただ不幸中の幸いなのが、潰されているわけではなく隙間に挟まっている状態で、足を切断する可能性は少ないだろう。

「すぐに、車を動かしてもらいます。車の下敷きになった子はいませんか?」
「はい。下敷きにはなっていませんが、車が何人かに接触して壁にぶつかったので、ケガ人はたくさんいます」
「わかりました」

 その場にいた警察官と救急隊員で、車を少し後ろに動かし救出した。
 足が解放されて、その場に座り込んで泣き続けている子供の目線にしゃがみ込み、症状を診るために話しかける。

「お名前教えてくれる?」
「ウッウッ、グスン、たっくん」
「たっくん、痛かったね。お姉ちゃんに足を触らせてくれる?」
「痛くしない?」
「軽く触れるだけなんだけど、痛かったら教えてくれる?」
「うん……」

 すでに腫れて熱を持っている足に、そっと触れた。

「痛い~」
「どんな感じで痛いか教えてくれる?」
「ずっと叩かれているみたいに痛いの」
「それは痛いね。すぐに病院へ行くからね」
「うん」

 命に別状はないが重傷であるたっくんを、優先して搬送してもらえるように、先輩に声をかけた。
 救急車が搬送から戻って来るまでに、他の患者の処置をする。
 運転手は、あとから到着した救急隊員が診てくれていた。
 固まって泣き続ける園児と先生の元にも、警察官と救急隊員の姿が見える。
 でも大人の男性ばかりに囲まれて、子供達は怯えているようだ。

「失礼します。救急救命士の雫石です。子供達とお話しさせてもらってもいいですか?」
「お姉ちゃんも救急車に乗る人なの?」

 女の子が、私に気づいて話しかけてくれた。

「そうだよ。お名前は?」
「りな」
「りなちゃん、私は月って名前なの。よろしくね」

 りなちゃんは、この園児の中では一番しっかりしているようだ。先ほどまで子供達を囲んでいた警察官達は、一歩下がって私達の話を聞いてくれている。

「月ちゃん」
「そうだよ。怖かったね」
「うん。びっくりした。びっくりして転んじゃったの」

 足を見ると膝やふくらはぎに傷ができ、出血している。

「私も!」
「僕も!」

 りなちゃんをきっかけに、みんながこぞって傷を見せてくれた。擦り傷程度から、少し縫うかもしれない傷の子までいるけれど、元気に反応してくれている。
 そんな中、一人ボーッとしている子が気になった。

「僕のお名前は?」
「……」
りょうくんだよ。あのね、私、亮くんの隣にいたんだけど、車が来た時に後ろに転んで、ドンッて壁に頭を打ってたよ」
「えっ!? 亮くん、お姉ちゃんの声が聞こえる?」
「……」

 目は開いているのに、反応がない。呼吸と脈は正常だが、どこかおかしい。驚いて黙っているわけではなさそうだ。

「ごめんね。ちょっと頭を触らせてね」

 反応はないけれど、声をかけてからそっと触れると、後頭部に大きなたんこぶができていた。かなりの衝撃を受けたのだと予想できる。すぐに病院へ搬送するべきだと判断した。

「救急車は?」
「雫石さんが乗って来た、先ほど男の子を搬送した救急車が間もなく戻って来るそうです」
「そうですか。私は、亮くんと戻った救急車で病院に向かいます。もう一台の救急車もすぐに戻って来ると思うので、ケガの処置と搬送をお願いしてください。あとは、警察にお任せします」
「わかりました」

 戻って来た救急車のストレッチャーに亮くんをそっと乗せて、急いで救急車に乗り込む。

「先ほどの患者はどこに搬送されたんですか?」
「男の子と運転手は浜中だ」
「電話では、脳外の先生が足りないとか?」
「病院でも直接確認したから間違いない」
「じゃあ、港浜ですね」
「すぐに確認する」

 確認してくれている間にも、急変しないか心配だ。

「港浜オッケーだ。出すぞ」
「良かった~」

 サイレンを鳴らして走り出す。救急車だと、五分くらいで病院に着くだろう。

「私、ここに転勤してから港浜救命救急センターの搬送は、まだ今回で二回目です」
「そうなのか?」
「たまたまだと思いますが、浜中ばかりで」
「じゃあ、脳外の若き天才貴公子を知らないのか?」
「き、貴公子? プッ、何ですか? それ」
「知らない方が珍しいぞ。全国から貴公子目当てで患者がやって来るんだ」
「貴公子見たさに?」
「ああ、違う違う。天才って言っただろう? 見た目だけでなく腕もピカイチだ」
「なんか胡散臭いですね。絶対に性格悪そう……」
「性格はわからないが、人にも自分にも厳しいって聞くな」

 命を預かる現場なのだから厳しくて当然だろう。それは医者だけではなく、私達救急隊員も同じだ。

「先輩は見たことあるんですか?」
「数回な。まあ救急対応には、よっぽど人手が足りない時にしかいないから」
「へぇー」
「興味なさそうだな」
「全くないです。頭が良くて仕事ができて、貴公子なんて……絶対に性格悪いし信用できません」
「雫石って本当に変わってるよな。みんながすごい美少女が転勤してきたって、大騒ぎしてたんだ。しかも小柄だし、体力勝負のこの世界で本当に大丈夫か? って心配したけど、実際は男顔負けの働きっぷりで驚いた」
「び、美少女!? 誰が?」

 先輩が急に美少女なんて意味のわからないことを言うから、驚いて叫んでしまう。先日、ボサボサマスク男にチビ団子と言われたばかりだ。どちらかと言えば、美少女よりはチビ団子の方が自分でもしっくりくる気がする。
 亮くんの様子に変化はなく、寝転んだ状態でただボーッとしたままだ。
 脳震とうで出血などなければいいが、事故現場を目にしただけでも、かなりの衝撃だったとわかる。子供が車の下敷きになるという最悪の事態はまぬがれたが、一歩間違えば何人も命を落としていただろう……

「着きます!」

 運転していた先輩からの一言に、亮くんの意識があるまま病院に到着できてホッとする。まだまだ予断を許さない容態だけど、無事に医師の元へと送り届けることができたのだ。
 大きな事故現場では、救急車が到着時にはすでに死亡していたり、救急車の中で亡くなるケースも多い。
 病院の救急入り口に到着した瞬間、いきなり後部座席のドアが開いた。
 その先には、白衣を着た超絶イケメンの姿が――

「えっ?」
「患者は?」
「あっ、こちらです。吉田よしだ亮くん五歳です。血液型はA型、アレルギーはなしです。ご両親もこちらに向かっております」

 救急車が出発する前に、亮くんの担任の先生に確認した。この幼稚園では、万が一に備えて散歩など外出の時には、先生が専用のスマホを持って出かける。そのスマホには、血液型やアレルギーの有無、緊急連絡先などの情報が登録されているのだ。

「すぐにCT検査するぞ」
「わかりました」

 イケメンドクターは、ストレッチャーと共にあっという間に、病院内へと消えて行った。

「見ただろ? 貴公子」
「はぁ、確かにイケメンですね……」
「実物を見ても興味なさそうだな」
「そうですね。全く」
「女性って医者でイケメンなんて、お近づきになりたいと思うもんじゃないのか?」
「まあ、そういう人もいるかもしれませんね。私は、一日で疲れそうなイケメンは無理です。目立つこと間違いなしですよ? 考えただけで恐ろしい」

 お前一人でも充分目立っていると、敢えて口にしなかった先輩の何か言いたげな視線には、全く気づかなかった……
 亮くんの病状は気になるけれど、救急搬送する患者は彼だけではない。
 病院に搬送して受け入れ手続きをしたら、署に戻って次の出動に控えなくてはならないのだ。車両の消毒、整備をして、備品の補充を行う。

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