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第二章

運命の一夜⑦

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 カウンターに腰を掛けたさくらを見て、コの字のカウンターの対面に座った。顔見知りのバーテンダーは、怜の姿を見て一瞬目を見開き驚く。なんの前触れもなくグループのトップが現れたのだ。だが、怜がさくらへ向ける視線に気づいたようだ。

 何も言わず目の前にドリンクを出し、声を掛けることはしない。一流と言われるホテルのバーテンダーの対応は満点だ。

 さくらの様子を見ながら、怜もグラスを傾ける。今までのことでも思い出しているのか、表情が時折歪む。

 アルコールに強いのかは定かではないが、飲むペースが早すぎる。強くても酔ってしまう……。

 酔いたいのかも知れないが、見ていられない。

「すまない。彼女のカクテルをノンアルに代えてくれ。あと、支払いは俺に付けといてくれ」
「かしこまりました」

 さくらの知らないところで、そんな会話が交わされていた。

 そろそろ、さくらも限界に近いだろうと思い、隣の席に移動した。

 怜の呼びかけに、自分が話しかけられているとは思っていないのか、反応がない。再度呼びかけると、アルコールで頬を赤らめ目を潤ませたさくらが怜の方に顔を向けた。

 
 いつも冷静で冷酷と言われる怜でさえ、動揺するほどの破壊力。今この瞬間、さくらに向き合っているのが自分で良かったと心から思う。

 さくらの今の状況を詳しく把握したくて、初対面を理由に話を聞き出す。聞けば聞くほど、田崎のいい加減さに苛立つ。

 昔から優しい容姿で人が集まりリーダー的な印象を与えるが、怜から見ると八方美人で優柔不断の印象しかない。学生時代は、常に違う女性を連れていた気がする。

 怜に近寄ってくる下心がある後輩のうちの一人だった。容姿に騙されがちだが、実際はかなりの野心家だ。それを見抜いていた怜は、他の後輩同様相手にしていなかった。

 ただ、神楽坂グループ傘下の社長の息子。嫌でも顔を合わせることはある。

 一度、秘書としてさくらを連れて歩いているところを見掛けたことがあった。

 綺麗な女性だとは思ったが、田崎が連れている女に興味はない。パーティー会場で見るまで、さくらのことは忘れていた。

 どん底のさくらと、あのタイミングで再会したのは、ある意味怜にとって運命だったと思えた。
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