堕ちた貴族の復讐譚~バニーガールな魔術師から与えられた能力は、何度もで生き返る力だった

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王国編

不死身?の男

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「――――っ!!」

 我に返ったアルベールは声を上げて跳ね起きた。

 が、そこはあの謎の空間ではなかった。
 アルベールはベッドに寝ていて、イザベラの姿はどこにもない。

 窓を見ると、そこに映っている風景からは見馴れた城下町の姿を望むことが出来た。
 色とりどりの民家の屋根や、正午の日射しを受けてキラキラと輝く聖堂の尖塔、他にも都を縦断している川の流れ……。
 全てが登城した際に見える風景だった。

(全部、夢?)

 動こうそうとすると、
「う……っ!」
 身体を貫く激痛に腹を押さえる。
 薄手の衣服の胸元をはだけると、包帯がお腹にきつく巻かれていた。
 
 と、消毒液の匂いがしている部屋の扉が開けられた。
 姿を見せたのは、金髪の髪をポニーテールに結い、瞳は澄んだライトブルーの少女。

 アルベールは目を瞠った。
 少女もまた起き上がったアルベールの姿に目を瞠り、次の瞬間、抱きついてきた。

「うお!?」

 驚きながらも、少女――フィオナーレンをそっと抱く。

「良かった……良かった、アルベール……っ」

 フィオナーレン、いや、フィオナーレン・リュート・アマルティ・ベルストラーザは、その名前の通り、ベルストラーザ王国の国王リュート4世の娘。
 しかし母は王妃ではなく、側室である。

 そしてアルベールとフィオナーレンは同い年で、生まれた頃からの幼馴染、現在は許嫁の関係だった。

「フィオ、悪い。そんな強く抱かれると痛いんだ……」
「あ、ごめんっ!」
 フィオナーレンはそっと距離を取った。
 アルベールは許嫁の姿に笑う。
「また将軍相手に剣の稽古か?」
 フィオナーレンは腰に剣を帯びていた。
「一刻も早くこの国のお役に立ちたいもの」
「剣じゃなくたって、叔父上の名代で街や病院を表敬訪問したり……」
「それは誰でもできるでしょ。私は自分の力で役に立ちたいの」

 フィオナーレンは自分が妾腹の生まれであることを気にしている。
 母は下級貴族の出自であり、たまたま王のお手つきで身籠もった。
 当然宮中での風当たりは強く、リュート4世はその事実を鑑《かんが》みて、少しでもフィオナーレンを守ろうと、自分の甥に当たるアルベールの許嫁にした。

 それでもフィオナーレンは自ら武功を立てて誰にも侮られまいとしていた。
 実際、彼女は何度か盗賊退治で実戦経験もある。
 アルベールとしては気持ちは分かるが、フィオナーレンにはやはり危ないことをして欲しくはなかった。
 だが何度そう言っても、頑固な彼女は聞かなかった。

 フィオナーレンは泣き笑いの顔になる。
「本当に無事で良かった……。医師は昨夜が山だと言っていて。生き残るには奇跡が必要だとも……」
「その奇跡が起きてくれたみたいだ。――泣くなよ」
 アルベールはフィオナーレンの目に浮かんだ涙を指でそっと拭う。
「ふふ」
 フィオナーレンは照れくさそうに微笑んだ。
 アルベールはそろそろいいか、と話を切り出す。
「なあ、一体何があったんだ。どうして館を近衛騎士が包囲してたんだ?」
 フィオナーレンは俯き、目を反らす。
「頼む、フィオナーレン。教えてくれっ!」
「……叔父上は謀反を画策していた証拠が見つかったの」
「父上が謀反!? なんでそんな必要が……うっ」
「アルベール!」
 歯を食いしばり、傷の痛みをこらえる。
「……へ、平気だ……。でも謀反?」
「叔父上が謀反を画策していたと言う密告の書状が送られてきて。そこに書かれている場所――谷の洞窟の中には確かに多数の武具が隠されていて」
「そんな馬鹿なことがあるかっ。どうして謀反なんて起こさなきゃならないんだ……。父上は大将軍として叔父上を補佐してるじゃないか」
「私は兵の動きに気付いて後を追いかけて……。私だって叔父上がそんなことをなさるとは思っていないっ。でも館に着いた時にはもう火が放たれていて、庭に倒れていたあなたを抱き抱えて、医者に連れて行ったの」
「……叔父上は俺も疑っているんじゃないか?」
「ええ。でも私がお願いして、どうにか……」
「ありがとう」
「感謝なんてやめて。だって叔父上たちは……。でもね、まだ名誉を回復する方法があるわ。アルが父上に無罪を訴えるの。あなたが知ってることを話して、身の潔白を証明するの。そうすれば父上もきっと!」
「そうだな。こんなところで悶々と考えてたってしょうがないっ。ひとまず叔父上に話を聞いて頂くっ。――フィオ。肩を貸してくれ」
「え! 今から行くの?」
「早いほうがいいっ。時間が経てば立つ程、叔父上は周囲に影響されてしまうかもしれないから」
「……分かったわ」
 フィオナーレンの肩を借り、自分でもイライラしてしまうほどの遅さで部屋を出た。
 少し進むだけで脂汗が出るが、構わず足を動かした。

 城内でアルベールを知らないものはいない。
 昔は王の甥として、今は謀反人の息子として。
 視線が痛い。
 誰もが侮蔑の目を向けてくる。
 それに耐えきれず、顔を伏せてしまうが、

「あんな連中、気にする必要はないわ。人を蔑む人間は元々大した奴じゃない――子どもの頃、アルはそう言ってくれたでしょ?」
 フォオナーレンが声をかけてくれた。
「……そうだったっけ?」
「そう」
 足に力がこもったその時、勢い良く手前の扉が開く。
「っ!?」
 何かを言うよりも先に、男が突っ込んで来た。
 その手にはナイフ。
 男が体当たりしてくると同時に、ナイフの刃は左胸に吸いこまれ、心の臓を一突きに――。

「うわあああああああ……!!」

 飛び起きたアルベールは左胸を探る。
 しかし突き刺さったナイフなどどこにもない。
 胸元を開けるが、傷痕ひとつなかった。

(ゆ、夢?)

 全身にじっとりと脂汗をかいていた。
 だがそれにしては、あまりにも生々しい。
 フィオナーレンと話している時も、彼女と会って嬉しかった感覚も何もかもが、まるで現実のようだった。
 辺りを見回すと、そこは医務室だ。

(ひどい夢だ……)

 扉が開く音に顔を上げる。
 そこにはフィオナーレンがいた。
 彼女は起きたアルベールを見るなり、抱きついてきた。
「良かった……良かった、アルベール……っ」
「あ、ああ……」
 アルベールはフィオナーレンの背中を撫でる。
「フィオ、悪い。そんな強く抱かれると痛いんだ……」
「あ、ごめんっ!」
 フィオナーレンの腰を見ると、剣を帯びている。
「……剣術の稽古をしていたのか」
「ええ。一刻も早くこの国のお役に立ちたいもの」

(……この会話、さっきの夢でも……)

 たまたま、タダの偶然だ。頭から振り払う。

「アル、本当に無事で良かった……。医師は昨夜が山だと言っていて。生き残るには奇跡が必要だとも言ってたのに」
「な、泣くなよ」
 アルベールはフィオナーレンの目に浮かんだ涙を指でそっと拭いかけ、動きを止めた。
「どうしたの?」
「何でもない」
 アルベールはフィオナーレンの涙を拭う。
「ふふ」
 フィオナーレンは照れくさそうに微笑んだ。
「フィオ。一体何があったんだ。どうして館を近衛騎士が包囲してたんだ? 教えてくれっ!」
「……叔父上は謀反を画策していた証拠が見つかったの」
「!? ほ、本当……か?」
「ええ。私も全然信じられないんだけれど」
(確かさっきの夢では、武器などが谷の洞窟に隠されてたと……)
 アルベールは祈るような気持ちで、フィオナーレンの答えを待つ。
 しかし。
「でも叔父上が謀反を画策していたと言う密告の書状が送られてきて。そこに書かれている場所には確かに多数の武具があって……」
 同じだった。
「……な、なあ、この会話前にもしなかったか?」
「え?」
「この話、聞いた覚えがあるんだ」
「だ、誰から?」
「フィオからさ」
 フィオナーレンはいぶかしげに、アルベールを見てくる。
「何を言ってるの? 私は今来たばかりなんだから。――まあ仕方ないわね。今は起きたばかりなんだから、記憶が混乱していて……」
「と、とにかく叔父上に会うっ。叔父上に会って、無実を……」
「でも……」
「時間が経てば立つ程、叔父上は周囲に影響されてしまうかもしれないから」
「分かったわ」

 フィオナーレンの肩を借りて、立ち上がった。
 態勢も何もかも夢で見た通り。
 薄気味が悪かった。
 自分に向けられる侮蔑の眼差しすら同じ。

「あんな連中、気にする必要はない。人を蔑む人間は元々大した奴じゃない――子どもの頃、アルはそう言ってくれたでしょ?」
「っ!」
 はっとしてフィオナーレンを見る。
「……そ、そうだったっけ」
「そう」

 バンッ!!

 扉が開かれると同時に、男が飛び出してくる。
 その手にはナイフ。
 その顔は、

(夢で見た……っ!)

 アルベールはフィオナーレンを突き飛ばす。
 同時にナイフの切っ先が胸を突き破る。

「……っ!」

 目覚めたそこは廊下だった。
 アルベールは混乱し、足を止めた。

「どうしたの?」
 びっくりしたように告げたのは、フィオナーレン。
 辺りを見回せば、そこは廊下。
 すぐ後ろには医務室。
「こ、ここは?」
「平気? アルが父上に謁見するって……」
「俺は本当にそう言ったのか?」
「やっぱり戻りましょっ。起きるのが早すぎたのよっ」
「ま、待ってくれっ。大丈夫、だから」
(どうなってるんだ! 一体どうなってるんだよっ!)
 歩き出す。
 そしてあの扉が見えてくる。
「フィオ。お前はここにいるんだ」
「どうして?」
「頼む」
「う、うん……」
 フィオナーレンを遠ざけると、アルベールは壁に手をつきながら、その扉に向かう。

 瞬間、扉が開き、男が飛び出して来た。

「どうなってるんだよおおおおお!!」
 ナイフで心の臓を突こうと向かってくる男に組み付くが、しかし腹を蹴られ、押し倒されてしまう。
 傷を攻撃され、抗えない。
「アル!!」
 フィオナーレンが剣を抜き、駆け寄ってくる。
「フィオ! 来るな――」
 その間にも馬乗りになった男が大きく振りかぶり、ナイフが心の臓めがけ突き立てる――。

「……ぐっ」
 次に目が覚めた時、アルベールは心身共に疲弊していた。
 怖かった。
 さっきから何度も同じ場所を繰り返し体験しているのだ。
 どれもこれもがとても夢とは思えないほど生々しかった。
 実際、胸を突かれた時、痛みが全身を走った。
 何度も死んでいた。
 夢ではありえない。
 あんな生々しい夢なんて知らない。
 あるはずが――。

「大丈夫~?」
「っ!?」
 呑気な声にそちらを見れば、イザベラがいた。
「お前……! い、イザベラ……?」
「えへへ~♪ さすがにこれ以上放っておくとおかしくなっちゃうと思ったから、出て来ちゃった~♪ 何度も同じ経験をして、びっくりしてるんじゃない?」
「やっぱりお前の仕業か!?」
「半分ピンポンピンポ~ン、半分ブッブ~、かなぁ~?」
「何を訳の分からないことを……」
「怒ったら傷に障っちゃうよ?」
「構うものか……うっ」
「ほ~ら。無理しな~い♪ ――さっきのことだけどね、私言ったよね。力を上げるって」
「……何度も殺される力か?」
「違うよぉ~。死んだら、その日のそれ以前の時刻に飛んで、やり直せるって力だよ~」
「……それ以前の時刻に、飛ぶ?」
「うん! この後、アルはフィオと一緒に王様の元へ行くでしょ~?」
「どうしてお前がフィオのことを知ってるんだ!」
「それは見てたから~っていうか、それは今はいいの~♪ 真剣に聞く気、あるぅ~?」
 腹が立つが、この妙な体験から逃れるにはイザベラの話を聞くしかない。
「……つまり、俺はあの男に刺されるたび、それよりも前の時間帯に飛ぶ……。飛ぶ時刻というのは選べるのか?」
「それは運。だけど、回数制限はないから。死んでやり直せばいいのぉ~。ね、便利でしょ♪」
「確かに便利かもな」
 
 しかし日がまたげないのなら、親を貶めた手紙の主を見つけられないことになる。
 その時、扉が開く。
 フィオナーレンが入って来る。

「おい、イザベラ――」
 隠れろ、と言おうとしても遅い。
 フィオナーレンは相変わらず色気をふりまく、なぞのウサギ耳を生やしたイザベラを見てしまっている。

(やばい!)

 どんな言い訳をするべきか考えあぐねていると、
「あら、あなた見ない顔ね」
 フィオナーレンはあっさりと言った
 イザベラは折り目正しく頭を下げた。
「フィオ~、ちょっと、アルと話すからぁ、部屋を出てて~?」
「分かったわ」
 フィオナーレンは、イザベラの存在をなんら疑問を持つことなく出ていった。
「……ど、どうなってるんだ?」
「私の存在はこの世界ではあくまで自然に処理されのぉ~。すごいでしょ~♪」
 アルベールに授けた力と言い、フィオナーレンの今の反応と言い、イザベラは本物の魔法使いだということを嫌でも認めざるを得ない。
「それで~質問に答えちゃうとね~、私はアルを頼りにこの世界に戻ってきたからぁ、傍を離れられないんだぁ~」
「分かった」
「分かっちゃった!?」
「何が問題か?」
「だって~これまで不審の塊だったじゃ~ん。そんなあっさり了解されちゃうとな~」
 イザベラがモジモジすると頭の上のウサ耳まで、ふるんふるんと動く。
「俺だって我ながら馬鹿らしいと思ってる。でも……しょうがないだろ」
「ま、いっかぁ~。じゃ、これね~♪」
 渡されたのは短刀。
「それを使ってね~」
 イザベラは煙のように消えてしまう。
 でもさっきのイザベラの言葉を踏まえるなら姿が見えなくなっただけで、そばにはいるのだろう。
「フィオ、入っていいぞっ」
 フィオナーレンが入って来る。
 しかしさっき話したイザベラが消えたというのに、一向に気にした風でもない。

 その後は何度も繰り返したやりとりを行い、肩を貸して貰う。
 ナイフは背中のズボンに隠して、いつでも抜けるようにしていた。
 そしていよいよあの部屋に近づく。

 バンッと勢い良く扉が開き、男がナイフを手に飛び込んできた。
 アルベールはフィオナーレンをやんわりと脇へ追いやると、背中に隠していたナイフで、男の得物を弾いた。
 男はバランスを崩す。

「衛兵!」

 剣を抜いたフィオナーレンが負傷しているアルベールの代わりに、男を俯せの格好で拘束してくれる。

「アル、ケガは!?」
「平気だ」
「でもそのナイフはどうしたの?」
「一応護身のために、な。だって今の俺はこの城の中じゃ謀反人の子どもって立場なんだからな」
 衛兵が駆けつけてくると、引き渡した。
「やめろ! 離せっ! わ、私は謀反人を殺し、王国を守るためにぃぃぃぃぃ……!!」
 男のわめき声が響く。
「アル……」
 フィオナーレンは心配そうな表情したが、アルベールは「行こう」と促した。
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