14 / 20
王国編
旅立ち
しおりを挟む
騒ぎから半月後。
アルベールの《蛇の巣》行きが決まった。
出発を明日に控えたところで、アルベールは昼間から町に向かう。
夜は酒場やダンスホールなどで盛り上がるが、昼間は昼間で市場が軒を連ねて、客呼びの声が響きあっている。
アルベールはビッグ・ママの酒屋を訪ねる。
「悪いね、まだ営業じゃ……」
「ビッグ・ママ。俺です」
カウンターの向こうで酒瓶を磨いていたビッグ・ママがびっくりしたように目を見開く。
「よく来たね、アルベール! あんたのお陰で助かったよ! まさか帝国を蹴散らしちまうなんてねえ」
「何とかやれました」
「そういや女魔術師が王女殿下を暗殺されそうになったそうで、それもあんたの功績らしいじゃないさ」
ビッグ・ママは軽くウィンクする。
アルベールは苦笑した。
「相変わらず早耳なんですね」
宮廷のことが筒抜けになりすぎて、かなり心配になってしまう。
「俺はあの魔術師が、父上をハメたと考えているんです……」
すまないね、とビッグ・ママは申し訳なさそうな顔をした。
「正直、魔術師関係はさっぱりなんだよ。そっちは完全にお国の領分で……。私らもウンベルト様の仇を取りたい気持ちは一緒さ」
「そういう意味ではないんです! すビッグ・ママは十分やってくれてます! 本当です!」
つい自分が攻めるような物言いをしてしまったことに気付いて、頭を下げる。
「やめな。大した情報を集められてないっていうのは本当なんだからさ」
「大丈夫です。そこは俺に任せて下さい」
「任せるって、上方集めを?無理をするのはやめな。蛇の道は蛇、さ」
「俺は《蛇の巣》に行きます」
ビッグ・ママは目を見開く。
「《蛇の巣》? 本気かいっ!? あそこは宮廷なんか比べものにならないくらいの魑魅魍魎の世界だよっ!」
「分かっています。でも虎穴に入らずんば虎児を得ず。やってみせます」
「……私らも操作領域を広げてやってみるからね。あんたは一人じゃないよ」
「ありがとうございますっ」
ビッグ・ママの大きな手が、頭に置かれた。
「いいかい。情報を得る極意はね、焦らないこと、踏み込みすぎないこと。腹八分……いや、でやめること」
「はい、分かりましたっ」
「ふふ~♪ あたしもいますから大丈夫で~す♪」
いきなり姿を見せたイザベラは元気よく言えば、ビッグ・ママは笑う。
「そうねだねっ! あんたがいれば、問題ないねっ!」
※
町を離れた後は、自分が生まれ育った館跡に足を向けた。
館は王都の外にある。
無論、王都にも館はあるが、父は本宅のある自然を愛した。
草原の中の白亜の館。
今は館の残骸は処理され、大きな空き地しかない。
「大きな家だったんだね~っ」
イザベラが広い空き地を走り回りながら言った。
「だろ? 五階建てで、使用人が三十人くらいいたからな」
「すっごぉ~い♪」
「……そうだな。すごいな」
今となってはあまりにもの寂しいばかりだ。
周りの緑の鮮やかさや、雲ひとつない抜けるような青空の美しさが、空き地の痛々しさをより強める。
すべて見馴れた、変わらない日々の風景だった。
風が草原を渡る。
まるで緑色の波のように、草原が揺れた。
風の涼やかさが気持ちいい、
アルベールは、空き地を前に手を合わせる。
謀反人の烙印を押されている以上、両親と兄の墓を建てることは叶わない。
(父上、母上、兄上、館に使えてくれたみんな……絶対に仇を捜し出し、そいつの首を墓前にそなえてみせるっ。たとえ相手が誰であろうと……っ)
手を合わせるのを止めて隣を見れば、イザベラまでぎゅっと目を閉じて手を合わせていたのが面白くって、思わず笑いそうになった。
なんと言ってもウサ耳まで神妙そうに垂れていたのだ。
「お前も手を合わせることはないんだぞ?」
「何となく~♪」
「何となくって……面白い奴」
イザベラはふにゃふにゃしているけれど、あの女魔術師との戦いでは助けてくれた。
(イザベラ……計り知れないな)
「行こう」
アルベールは歩き出した。
※
王城にあてがわれた部屋に戻ると、荷物整理を始める。と言っても、大したものはない。
そもそも本当の荷物は火災で館と共に灰になってしまったから。
そこに扉をノックする音。
「はい」
「私。入っても?」
「入ってくれ」
扉が開くと、フィオナーレンが入って来た。
彼女は出入り口のところで立ち止まる。
「準備、進んでる?」
「準備ってほどじゃない。最低限の着替えくらいさ。――あとは学校の制服かな」
白を基調にした上下を引っ張りだす。
「ふうん。そっか。――どれくらいで戻るの?」
「そうだな。四年かな」
「そんなに?」
「《蛇の巣》は四年生だからな。途中で帰ってくるってことは俺がやらかして落第した時だな……。そうはならないように頑張るよ」
フィオナーレンは寂しそうに笑う。
「大丈夫。俺たちが許嫁だってことは変わらない。俺がお前を想っていることも……」
「うんっ」
「――フィオも来ちゃえばいいんだよ♪」
嬉しそうにイザベラが言った。
「そんな訳いくかっ。フィオは王女なんだぞ」
「えぇ~~~! 一緒の方が楽しいのにぃ~~」
「黙れ。――悪いな。騒がしくって」
「ううん。二人がいなくなったら寂しくなるわ」
アルベールは、フィオナーレンの左肩に手を置く。
「大丈夫。みんながお前を守ってくれる」
「でもあの魔術師の正体を明らかにしたのはあなたよ?」
「……魔術師が犯人ってことは、魔術師の中に王国に仇をなそうと言う連中がいるのかもしれない。あいつがどこに所属しているのかはおいおい分かるだろうし……。でも《蛇の巣》にいるよりhじゃ」
「……私、行くわね」
「夜、一緒に食事は?」
「ごめんね。ちょっと用事があるから」
「明日の朝は?」
「それもごめんなさい」
「……それじゃあ、これでお別れか」
アルベールは、フィオナーレンの忙しさを知っている。
こうしているのも、彼女が色々な用事と用事の合間に作ってくれた貴重な時間だ。
「かもね」
「意味深だな」
最後に抱き合い、手を振って、フィオナーレンを見送った。
「あ~~~ん! 寂しいよぉ~! アルは寂しくないのぉ~っ!」
イザベラが唇を尖らせた。
「寂しいに決まってるだろ。でも《蛇の巣》に行くことが、あいつの身を守ることにもつながるかもしれないんだ。ここにいたままじゃ受け身なままだからな」
とあることを思いついて、イザベラを見る。
彼女は不思議そうな顔をしている。
「そういや、お前も魔術師なんだから、『蛇の巣』は知ってるんだろ? どんな場所なんだ? あ、そこの記憶はないのか?」
イザベラが記憶喪失だということを忘れていた。
しかしイザベラはすんなり答えてくれる。
「う~ん、そうだなぁ~。――小うるさい連中がいる場所、かな?」
「小うるさい?」
「そ~。あれするな~、これするな~、あれをしろ~、これをしろ~って」
嫌な思い出があるのか、イザベラは頬を大きく膨らましていた。
「いけ好かない連中ばっかりってことか」
「そ~っ。魔術師見習いと~普通の人間が一緒に暮らしてて~、教師は全員魔術師で~……」
「記憶喪失の割にはよく覚えてるんだな」
「でもそれ以外はよく分かんない」
「まあ行けば分かるよな。もしかしたらお前って奴の手がかりも見つけられるかもしれないし、な」
※
翌朝。
まだ朝霧が出て視界が悪い中、アルベールたちの馬車は発った。
本来、『蛇の巣』に入校を許されるとなれば、国挙げての見送りになるのが通例だが、さすがに時季外れの特例の入校となって見送る人は誰もいなかった。
もちろんアルベールが上層部の廷臣たちから煙たがられているということもあるが。
※
王都を出立して、十分ほどが経った時。
座席の後ろ側――荷物を入れている場所が、ガタガタと揺れ始める。
「なんだっ!」
アルベールは御者に止まるよう命じると、短剣を抜いて構える。
ゴソッ、ゴソゴソゴソゴソ……!
次の瞬間、にゅっと白い手が飛び出した。
「っ!!」
「んっ……んんっ……んぅ……」
かすかなうめき声。
アルベールの鼓動は早鐘を打つ。
手が引っ込んだかと思うと、次の瞬間、顔が出た。
「フィオナーレン!?」
そこは金髪をポニーテールに結った、青い瞳の王女がいた。
「ごめん。ちょっと手、貸して貰える……。あははは……」
「こんなところで何してるんだ!?」
腕を引っ張ると、ずるずるとフィオナーレンが出て来た。
「ありがとう」
「ありがとうじゃなくって、こんなところで何してんだよ」
「私も『蛇の巣』に行こうと思って……」
「思ってって……それだけで行ける訳ないだろ!? 入学許可がいるんだよ」
「平気よ。私も行けることになってるし」
「は?」
フィオナーレンは、アルベールも所持している『蛇の巣へ入港を認める』という書状をもっていた。
「そんなもの、どうやって手に入れたんだ?」
「父上に相談したの。ここでは暗殺者に狙われ続ける可能性があるけど、『蛇の巣』では暗殺者も簡単には手が出せないだろうって」
「叔父上は認めたのか?」
「ううん。駄目って言われたから、こっそり父上の印章を使って書状を作って、『蛇の巣』に新しい学生の受け入れをお願いするって送ったの」
「……な、何やってんだよ……」
「あ、言っておくけど、名前は偽造したけど、それ以外の抱負とかここで何をしたいかだったり、成績なんかのことは全部、正直だから」
「そういうことを言ってるんじゃないんだけどな……」
真面目なフィオナーレンとは思えない行動力に、言葉が続かない。
ただ彼女が入学に適しているのは明らかだ。
なにせ剣術はウンベルト、学業は王立アカデミーの学者たちから直接教えを請える環境に生まれた時からあったのだ。
「でもね、私があなたがいなくなった後の王都にいるのが心配だったのは本当よ。アルのそばにいれば、安心かな~って。それに、私のせいで王都の人たちに迷惑をかけるのはできないわ。今回のことだって城の人たちを巻き込んで……。あなたがいたから被害は最小限に済んだの」
「そうかもしれないけど……って、俺たちはいいのか?」
「そういう意味じゃないわ。でも《蛇の巣》で蹴撃なんてさすがにそんな無茶はできないはずよ。私を狙ってる人も」
「まあ、そうだな……」
王都にいるよりもずっと《蛇の巣》がフィオナーレンを守る盾になってくれるのは納得できた。
と、イザベルが首を突っ込んできた。
「一緒に行けて良かったね♪」
「ええ。イザベル、よろしくね」
二人は女同士通じるものがあるのか、ガッチリと握手する。
「……戻るつもりはないんだよな」
「当たり前よっ」
「でも黙って出発なんて叔父上が心配するだろ………」
「平気。手紙はちゃんと置いてあるから」
「勝手なことはしないこと。分かったか?」
「人を子どもみたいにしないで。私だって分別くらいは……」
「お姫様の言葉とは思えないな」
「自分の身は自分で守ろうとしてるだけ」
アルベールは御者に進むよう伝えれば、馬車が動き出した。
アルベールの《蛇の巣》行きが決まった。
出発を明日に控えたところで、アルベールは昼間から町に向かう。
夜は酒場やダンスホールなどで盛り上がるが、昼間は昼間で市場が軒を連ねて、客呼びの声が響きあっている。
アルベールはビッグ・ママの酒屋を訪ねる。
「悪いね、まだ営業じゃ……」
「ビッグ・ママ。俺です」
カウンターの向こうで酒瓶を磨いていたビッグ・ママがびっくりしたように目を見開く。
「よく来たね、アルベール! あんたのお陰で助かったよ! まさか帝国を蹴散らしちまうなんてねえ」
「何とかやれました」
「そういや女魔術師が王女殿下を暗殺されそうになったそうで、それもあんたの功績らしいじゃないさ」
ビッグ・ママは軽くウィンクする。
アルベールは苦笑した。
「相変わらず早耳なんですね」
宮廷のことが筒抜けになりすぎて、かなり心配になってしまう。
「俺はあの魔術師が、父上をハメたと考えているんです……」
すまないね、とビッグ・ママは申し訳なさそうな顔をした。
「正直、魔術師関係はさっぱりなんだよ。そっちは完全にお国の領分で……。私らもウンベルト様の仇を取りたい気持ちは一緒さ」
「そういう意味ではないんです! すビッグ・ママは十分やってくれてます! 本当です!」
つい自分が攻めるような物言いをしてしまったことに気付いて、頭を下げる。
「やめな。大した情報を集められてないっていうのは本当なんだからさ」
「大丈夫です。そこは俺に任せて下さい」
「任せるって、上方集めを?無理をするのはやめな。蛇の道は蛇、さ」
「俺は《蛇の巣》に行きます」
ビッグ・ママは目を見開く。
「《蛇の巣》? 本気かいっ!? あそこは宮廷なんか比べものにならないくらいの魑魅魍魎の世界だよっ!」
「分かっています。でも虎穴に入らずんば虎児を得ず。やってみせます」
「……私らも操作領域を広げてやってみるからね。あんたは一人じゃないよ」
「ありがとうございますっ」
ビッグ・ママの大きな手が、頭に置かれた。
「いいかい。情報を得る極意はね、焦らないこと、踏み込みすぎないこと。腹八分……いや、でやめること」
「はい、分かりましたっ」
「ふふ~♪ あたしもいますから大丈夫で~す♪」
いきなり姿を見せたイザベラは元気よく言えば、ビッグ・ママは笑う。
「そうねだねっ! あんたがいれば、問題ないねっ!」
※
町を離れた後は、自分が生まれ育った館跡に足を向けた。
館は王都の外にある。
無論、王都にも館はあるが、父は本宅のある自然を愛した。
草原の中の白亜の館。
今は館の残骸は処理され、大きな空き地しかない。
「大きな家だったんだね~っ」
イザベラが広い空き地を走り回りながら言った。
「だろ? 五階建てで、使用人が三十人くらいいたからな」
「すっごぉ~い♪」
「……そうだな。すごいな」
今となってはあまりにもの寂しいばかりだ。
周りの緑の鮮やかさや、雲ひとつない抜けるような青空の美しさが、空き地の痛々しさをより強める。
すべて見馴れた、変わらない日々の風景だった。
風が草原を渡る。
まるで緑色の波のように、草原が揺れた。
風の涼やかさが気持ちいい、
アルベールは、空き地を前に手を合わせる。
謀反人の烙印を押されている以上、両親と兄の墓を建てることは叶わない。
(父上、母上、兄上、館に使えてくれたみんな……絶対に仇を捜し出し、そいつの首を墓前にそなえてみせるっ。たとえ相手が誰であろうと……っ)
手を合わせるのを止めて隣を見れば、イザベラまでぎゅっと目を閉じて手を合わせていたのが面白くって、思わず笑いそうになった。
なんと言ってもウサ耳まで神妙そうに垂れていたのだ。
「お前も手を合わせることはないんだぞ?」
「何となく~♪」
「何となくって……面白い奴」
イザベラはふにゃふにゃしているけれど、あの女魔術師との戦いでは助けてくれた。
(イザベラ……計り知れないな)
「行こう」
アルベールは歩き出した。
※
王城にあてがわれた部屋に戻ると、荷物整理を始める。と言っても、大したものはない。
そもそも本当の荷物は火災で館と共に灰になってしまったから。
そこに扉をノックする音。
「はい」
「私。入っても?」
「入ってくれ」
扉が開くと、フィオナーレンが入って来た。
彼女は出入り口のところで立ち止まる。
「準備、進んでる?」
「準備ってほどじゃない。最低限の着替えくらいさ。――あとは学校の制服かな」
白を基調にした上下を引っ張りだす。
「ふうん。そっか。――どれくらいで戻るの?」
「そうだな。四年かな」
「そんなに?」
「《蛇の巣》は四年生だからな。途中で帰ってくるってことは俺がやらかして落第した時だな……。そうはならないように頑張るよ」
フィオナーレンは寂しそうに笑う。
「大丈夫。俺たちが許嫁だってことは変わらない。俺がお前を想っていることも……」
「うんっ」
「――フィオも来ちゃえばいいんだよ♪」
嬉しそうにイザベラが言った。
「そんな訳いくかっ。フィオは王女なんだぞ」
「えぇ~~~! 一緒の方が楽しいのにぃ~~」
「黙れ。――悪いな。騒がしくって」
「ううん。二人がいなくなったら寂しくなるわ」
アルベールは、フィオナーレンの左肩に手を置く。
「大丈夫。みんながお前を守ってくれる」
「でもあの魔術師の正体を明らかにしたのはあなたよ?」
「……魔術師が犯人ってことは、魔術師の中に王国に仇をなそうと言う連中がいるのかもしれない。あいつがどこに所属しているのかはおいおい分かるだろうし……。でも《蛇の巣》にいるよりhじゃ」
「……私、行くわね」
「夜、一緒に食事は?」
「ごめんね。ちょっと用事があるから」
「明日の朝は?」
「それもごめんなさい」
「……それじゃあ、これでお別れか」
アルベールは、フィオナーレンの忙しさを知っている。
こうしているのも、彼女が色々な用事と用事の合間に作ってくれた貴重な時間だ。
「かもね」
「意味深だな」
最後に抱き合い、手を振って、フィオナーレンを見送った。
「あ~~~ん! 寂しいよぉ~! アルは寂しくないのぉ~っ!」
イザベラが唇を尖らせた。
「寂しいに決まってるだろ。でも《蛇の巣》に行くことが、あいつの身を守ることにもつながるかもしれないんだ。ここにいたままじゃ受け身なままだからな」
とあることを思いついて、イザベラを見る。
彼女は不思議そうな顔をしている。
「そういや、お前も魔術師なんだから、『蛇の巣』は知ってるんだろ? どんな場所なんだ? あ、そこの記憶はないのか?」
イザベラが記憶喪失だということを忘れていた。
しかしイザベラはすんなり答えてくれる。
「う~ん、そうだなぁ~。――小うるさい連中がいる場所、かな?」
「小うるさい?」
「そ~。あれするな~、これするな~、あれをしろ~、これをしろ~って」
嫌な思い出があるのか、イザベラは頬を大きく膨らましていた。
「いけ好かない連中ばっかりってことか」
「そ~っ。魔術師見習いと~普通の人間が一緒に暮らしてて~、教師は全員魔術師で~……」
「記憶喪失の割にはよく覚えてるんだな」
「でもそれ以外はよく分かんない」
「まあ行けば分かるよな。もしかしたらお前って奴の手がかりも見つけられるかもしれないし、な」
※
翌朝。
まだ朝霧が出て視界が悪い中、アルベールたちの馬車は発った。
本来、『蛇の巣』に入校を許されるとなれば、国挙げての見送りになるのが通例だが、さすがに時季外れの特例の入校となって見送る人は誰もいなかった。
もちろんアルベールが上層部の廷臣たちから煙たがられているということもあるが。
※
王都を出立して、十分ほどが経った時。
座席の後ろ側――荷物を入れている場所が、ガタガタと揺れ始める。
「なんだっ!」
アルベールは御者に止まるよう命じると、短剣を抜いて構える。
ゴソッ、ゴソゴソゴソゴソ……!
次の瞬間、にゅっと白い手が飛び出した。
「っ!!」
「んっ……んんっ……んぅ……」
かすかなうめき声。
アルベールの鼓動は早鐘を打つ。
手が引っ込んだかと思うと、次の瞬間、顔が出た。
「フィオナーレン!?」
そこは金髪をポニーテールに結った、青い瞳の王女がいた。
「ごめん。ちょっと手、貸して貰える……。あははは……」
「こんなところで何してるんだ!?」
腕を引っ張ると、ずるずるとフィオナーレンが出て来た。
「ありがとう」
「ありがとうじゃなくって、こんなところで何してんだよ」
「私も『蛇の巣』に行こうと思って……」
「思ってって……それだけで行ける訳ないだろ!? 入学許可がいるんだよ」
「平気よ。私も行けることになってるし」
「は?」
フィオナーレンは、アルベールも所持している『蛇の巣へ入港を認める』という書状をもっていた。
「そんなもの、どうやって手に入れたんだ?」
「父上に相談したの。ここでは暗殺者に狙われ続ける可能性があるけど、『蛇の巣』では暗殺者も簡単には手が出せないだろうって」
「叔父上は認めたのか?」
「ううん。駄目って言われたから、こっそり父上の印章を使って書状を作って、『蛇の巣』に新しい学生の受け入れをお願いするって送ったの」
「……な、何やってんだよ……」
「あ、言っておくけど、名前は偽造したけど、それ以外の抱負とかここで何をしたいかだったり、成績なんかのことは全部、正直だから」
「そういうことを言ってるんじゃないんだけどな……」
真面目なフィオナーレンとは思えない行動力に、言葉が続かない。
ただ彼女が入学に適しているのは明らかだ。
なにせ剣術はウンベルト、学業は王立アカデミーの学者たちから直接教えを請える環境に生まれた時からあったのだ。
「でもね、私があなたがいなくなった後の王都にいるのが心配だったのは本当よ。アルのそばにいれば、安心かな~って。それに、私のせいで王都の人たちに迷惑をかけるのはできないわ。今回のことだって城の人たちを巻き込んで……。あなたがいたから被害は最小限に済んだの」
「そうかもしれないけど……って、俺たちはいいのか?」
「そういう意味じゃないわ。でも《蛇の巣》で蹴撃なんてさすがにそんな無茶はできないはずよ。私を狙ってる人も」
「まあ、そうだな……」
王都にいるよりもずっと《蛇の巣》がフィオナーレンを守る盾になってくれるのは納得できた。
と、イザベルが首を突っ込んできた。
「一緒に行けて良かったね♪」
「ええ。イザベル、よろしくね」
二人は女同士通じるものがあるのか、ガッチリと握手する。
「……戻るつもりはないんだよな」
「当たり前よっ」
「でも黙って出発なんて叔父上が心配するだろ………」
「平気。手紙はちゃんと置いてあるから」
「勝手なことはしないこと。分かったか?」
「人を子どもみたいにしないで。私だって分別くらいは……」
「お姫様の言葉とは思えないな」
「自分の身は自分で守ろうとしてるだけ」
アルベールは御者に進むよう伝えれば、馬車が動き出した。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる