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第二章 奴隷編

第21話 テルマ 私は平気よ。

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俺は、街の中でも一段と華やかな場所に居た。
いわゆる歓楽街だ。

夜だが、周囲の店の灯りに照らされて、路面がはっきりと見えるほどの明るさだ。

行きかう人は大人の男ばかりで、中にチラホラと、水商売風の女性が混じっている。

日本の歓楽街でもよく見かけるキャッチの姿も見える。

「はい!お兄さん。飲むの?遊ぶの?遊ぶなら、うちへどうぞ。若くてピチピチだよ。」

俺の前にキャッチが回り込んで、立ち塞がる。

「えーと、あの、遊ぶつもりだけど、初めてで、この辺に何件くらいあるの?」

「はい、はい、待ってました。ここいらには3軒あるけど、うちの店が最高だよ。行ってみよー。」

俺が尋ねたのは、娼館の軒数だ。

「おじさんの店はどこ?他の店も見てから、行くよ。」

「お、なかなか遊び人だね兄さん。俺の店はほら、そこの二階建ての赤いレンガの店さ。」

「他の店は何処にあるの?」

「一つは、俺の店の向かい。もう一つはこの路地の裏側だよ。兄さん、若いから商売抜きで教えるけど、路地裏は、やめときな。安いけど怖いぞ。ガハハ」

何となく意味がわかる。
俺は、まず呼び込みのオッサンの向かいの店に向かった。
店の正面にはライトアップされた飾り窓があって、複数の女性が、通りがかる男性に声をかけている。

飾り窓の中の女性の顔を一人一人見渡して、目的の人を探した。

そう、目的の人はブルナだ。

ドルムさんの話では、女奴隷は、若くて綺麗なら、たいてい娼館に売られるという。

だから、今、歓楽街でブルナを探しているのだ。
次はオッサンの店だ。

この店もさっきの店と同じような造りで、飾り窓から何人かの女性が、通りを眺めている。
飾り窓に近づき、ブルナを探したが、やはり居なかった。

その時

「ソウ様?」

飾り窓の内側から声がした。

「ん?」

次の店へ行こうとした俺は、足を止めて、声の方向へ振り向いた。

「ソウ様、やはりソウ様ね。」

厚化粧をしていたが、その顔には見覚えがあった。
ブラニさん達の島、クチル島の村長の娘、テルマだ。

「テルマさん・・」

「ソウ様、無事でしたのね。あの後どうなりました?ピンターは?ブルナは?」

「あ、あ、ちょっと待っててね、テルマさん、すぐ戻るから。」

奴隷長屋から脱走している身分の俺が、こんな明るい場所で、遊女を相手に立ち話もできない。

 「おじさん、あの娘が良いんだけど。」

呼び込みのオッサンに声をかけた。

「お、兄さん、目が高いね、うち一番に目をつけるとは。はいはい。」

と言いながら、俺を店の中に案内した。
俺とおっさんが、店の中に入ると、老婆が出てきて

「いらっしゃい。ご指名はございますか?」

「おうおう、かあちゃん、テルマを指名だよ。」

親子で経営しているのか。

「あら、お目が高い。うち一番の器量よしですからね、お代は前金でお願いします。金貨2枚です。」

この国の一般的な月収が金貨10枚だから、けっこういい値段だ。
しかし、それどころではないな。

俺は懐から金貨2枚を取り出して婆さんに渡した。
二階の客室へ案内されて、ベッドに腰かけていたところ、ドアがノックされて、テルマさんが入って来た。

 テルマさんは何も言わずに俺の隣に腰かけると、スルスルと衣服を脱ぎ始めた。

「テルマさん、テルマさん、ちょ、ちょっと。」

俺は慌てた。

「え?遊びに来たのでしょう?」

子供が友達の家を訪ねてきたような言い草だ。

「違いますよ。」

「アハハ、冗談ですよ。わかっていますよ。」

ホントに冗談?そうは思えないけど・・・
俺は、テルマが意外と明るいのに驚いた。

クチル島では、あまり話したことがなかったが、大抵、こんな環境に落とされれば、暗く沈んだ性格になりそうなものだが・・・

「お元気そうですね。」

「元気な振りだけよ、本当は、ね、わかるでしょ。でもウジウジしても何も変わらないから、いつか島に帰ることを考えて明るく過ごすことにしたの。」

テルマさんは、俺と同い年位だが、俺よりはるかに大人だった。

少し惚れたかも。

「ソウ様は、どうしていたの?てっきり奴隷になっていると思っていたのに、ピンターは?」

「俺も、ピンターと一緒に塩田で奴隷やっています。アハ」

俺は、これまでの経緯や島での出来事をテルマさんと話し合った。

 島の話になると、テルマさんの目は生き生きとして、昔を懐かしむのか、ピンターを助けた時の話や、竹馬が島中の子供たちに広がった話などをすると、とても喜んだ。

時間は、たっぷりとあった。

「ところで、テルマさん、ブルナについて、何か知りませんか。」

「そうね、船で港に着いてから、男と女に分けられたでしょ。更にその後、顔中入れ墨の人とジグルって人が私たち女の前に現れて私たちを二つのグループに分けたの。

その後、私はジグルって人に連れられて、ここへ来たけど私たちのグループにブルナは、いなかったわ。」

そうか、結局ダニクを締め上げてブルナを探すしかないな。

「テルマさん。」

「はい?」

「必ず迎えに来ますから、絶対あきらめないで。いつとは言えないけど、必ずここへ戻ってきてテルマさんを島に返します。」

俺は、テルマさんの娼婦にされても自分を失わない、けなげな姿を見て、テルマさんのことが好きになっていた。

「本当?少し期待しちゃうわよ。でも、そんな風に言ってくださるだけでも嬉しいわ。」

テルマさんは、俺から顔をそむけた。
たぶん涙を見られたくなかったのだろう。

2時間程、テルマさんと話をした後、店を出た。
店を出る時にオヤジに質問した。

「オヤジさん。俺、テルマさんが、気に入った。」

「そうだろ、そうだろ、また来てよ。」

「ところで、相談だけど、もし俺がテルマさんを身請けするとしたら、いくらかかる?」

俺は16歳だけど、そっち方面は、そこそこ、物知りで、娼婦を身請けするというシステムが存在することは、知っていた。

「んん~?兄ちゃんが?テルマを?兄ちゃん、どこかのボンボンか?」

「ボンボンじゃないけど、親戚に金持ちはいます。」

「マジな話かよ。経営者に聞いてみないとわからんが、およそ金貨300枚ってとこだろうな」

およそ、月収30ケ月分か、いい値段だな。
オッサン経営者じゃなかったのか。

ま、経営者が呼び込みなんて、しないよな。

「わかった、ありがとね。」

「おう、兄ちゃん又来いよ。」
 
オッサンと別れてから、念のために路地裏の店へも寄ってみたが、オッサンが「怖いぞ」と言った意味が良くわかった。

 繁華街を出てから、先日ナイフを売った鍛冶屋に寄ってみた。
ドワーフ風の髭親父が出てきて

「おう、こないだの魔剣売れたでがんすよ。ホレ金貨70枚でやんす。」

オヤジは布袋に入った金貨を渡してくれた。
俺に70枚くれたということは、先渡しの10枚を含めて合計100枚で売れたのだろう。

「他にも、いいのが在れば、預かりやすよ。」

魔剣はいくつかあった。
俺が練習の為に作ったナイフや短剣、ロングソードもあったが、それらを一度に見せてしまうと、噂になって怪しまれる可能性がある。

そこで俺は、短剣を一振り、親父に見せた。

「俺の友達が、これを売って欲しいって言うから、預かってきたよ。」

オヤジは短剣をしげしげと眺めた。

「これなら300は行くでがしょうな。条件は、こないだと同じでいいでやんすか?」

「いいよ」

「それじゃ、これ。」

金貨30枚を渡された。

「なぁ、兄ちゃん、そろそろホントの事を教えてくだしあ。兄ちゃんだとは言わないでがすが、父ちゃんか、叔父さんが製作者なんでやんしょ?訳アリはわかるでがすが、教えてくれたら手数料少なくしてもいいでやんすよ。」

まぁ、蔵の中から何本も出てくるような代物じゃないし、言い訳もしずらいな。

「すみません。ホントは身内にいるんですけど、いろいろと訳があってね。そのうち教えますよ。」

「ほんとでやんすか?頼むでやんすよ。兄ちゃん、俺は、その人の弟子になりたいだけでやんすよ。」

(お断りします。)

屋台で肉串を大量に買って、その日は奴隷長屋に帰った。
俺は、奴隷長屋で、ドルムさんと脱走計画を練っていた。

ドルムさんと一緒に脱走することには間違いなかったが、ドルムさんには一つの条件を申し出ていた。

 それは、

(ブルナの居場所がわかるまで、脱出しないか、脱出してもこの街を離れない。)

ということだ。
俺は

「脱出後、ドルムさんだけ逃げてもいいよ。」

と、言ったが、

「それじゃ仲間になった意味がねえよ、バカヤロー。」

と、逆に叱られた。

 ドルムさんを仲間にしてよかった。

「ソウ、おめぇ、ドレイモン習得できねぇか?」

ドルムさんが、言い出した。

「出来ないですよ、それにドレイモンなんて使いたくもない。」

「そうか、ドレイモン使えたら、ブルナさんの居場所もすぐ聞き出せるのにな。」

ふむ、そういえばそうだな、ダニクやジグルが、俺の質問に真面目に答えるはずもないしな。

(マザー、ドレイモンを発生させるのって難しいか?)

『お答えします。ドレイモンは相手の精神を支配する魔法ですので、相当困難です。自らドレイモンのスキルを発生させるのは、長時間の訓練が必要ですし、訓練の対象の用意も必要です。』

そうだろうな、訓練の対象、つまり奴隷にする相手が必要なのか。
そりゃ無理だな・・・・・・

ん?まてよ、マザーは

『自らドレイモンのスキルを発生させるには・・』

って言ったよな。
ということは、第三者に発生させてもらうことが出来るということ?

「マザー、ドレイモンを自分で発生させる方法以外の、習得方法があるのか?」

『はい。スキルをコピーして移植することが出来ます。』

(ええーそんな簡単な方法があるの?)

「具体的には?」

『ソウ様が触れている対象をスキャンして、その対象が持つスキルを私が分析した後、ソウ様に複写することが可能です。ただしスキルはコピーできても、熟練度、つまりLVはコピーできません。』

「そんな簡単なスキルの発生方法があるなら、早く言ってよ。」

『質問されませんでした。』

(ソウデシタネ・・・・)

「ドルムさん」

「何だ?」

「ドルムさんの加護をコピーさせてもらえませんか?」

「どういうことだ?」

「もしかしたら、他人の加護を自分に写し取ることができるかもしれません。それが可能なら、ドレイモンをダニクからコピーできるかも・・」

「そりゃ、すげぇな。おれの加護は「剣技」と「威嚇いかく」くらいのものだが、俺の加護が無くならないのなら、コピーしてもいいぜ。」

「ありがとうございます。」

俺は、ドルムさんの手を握った。

(マザー、ドルムさんのスキル、剣技と威嚇を俺に複写して。)

『了解しました。』

ドルムさんの手を握った俺の手が少し暖かくなり、その温かさが自分の体に流れ込むような感覚があった。

『終了しました。』

(マザー、ステータス表示して。)

『了解しました。』

氏名 ソウ ホンダ 
年齢 16歳
   種族 人狼

   魔力   820
    RP     465/468
    BP     357/360

   
 スキル
   治癒     
        身体回復   LV2 5
        状態回復   LV20
   攻撃魔法   
        火属性 LV 15
        土属性 LV 10
        水属性 LV 13
        闇属性 LV 18
        光属性 LV 12
   
   魔法抵抗 LV 28
   重力操作 LV 8
   物理抵抗 LV 40
           遠話   LV8
   剣技   LV 1
   威嚇   LV 1

おおーコピーできている。

「ソウ、どうだ?」

「あ、複写できました。」

「おーそりゃすごいな、他人の加護を写し取るなんて、聞いたことねぇぜ。つまり、あれか?ドラゴンと握手すりゃ、ドラゴンの力が手に入る。ってことだろ?」

「いえいえ、そんな簡単なものじゃないです。加護を覚えても、熟練度までは写し取れないので、極端に強くはなれません。」

「それでもスゲーよ。」


その夜は、テルマさんの事が気になって寝付かれなかった。

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