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第四章 首都ゲラニ編
第71話 晩餐会 ラジエル侯爵
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宮中の料理人、ウンケイさんと会った翌朝、俺はキノクニ総領、カヘイさんの元に居た。
宮中で王女の側仕えをしているブルナのことを相談するためだ。
「カヘイさん、何か良い知恵はないでしょうか。」
カヘイさんは難しい顔をして畳に座っている。
「そうですなぁ。即解決という方法は思い当たりませぬが、ラジエル公爵に相談してみるのが良いかもしれません。王室に関わる問題じゃから、王室の一員であるラジエル公爵なら、何か良い案が浮かぶかもしれませんな。」
ラジエル公爵は前王サルエルの実の弟、現王カイエルの叔父にあたる。
「今日、情報部恒例の晩餐会があるがラジエル公爵も、おいでになる。その席でソウ殿を紹介しましょうぞ。」
俺は、少し迷った。
俺は、この街では、キノクニのシン相談役として、過ごしている。
しかし、本当は殺人指名手配のソウなのだ。
いくらカヘイさんといえども、殺人指名手配犯を王族に紹介するのはまずいのではないか。
そんな俺の心を読んだようにカヘイさんが言った。
「心配せずとも良いですぞ。ソウ殿の事はある程度、ラジエル公爵に伝えてあります。スタンピートからキノクニを救ってくれたこと。麻薬事件で活躍した事。そして何かの手違いにより、殺人の汚名を着せられている事。
ラジエル公爵は、キノクニ、特にブンザのことを信用しておいでだ。そのブンザと私が保証するのですから、問題ないですよ。」
それを聞いて安心した。
たとえ間違いでも俺が殺人犯人として指名手配されていることを隠して国の重鎮と会うことは、キノクニの為に避けたかった。
「ブンザ、あれをお持ちしなさい。」
「はい。」
傍で控えていたブンザさんにカヘイさんが何事かを命じた。
「ソウ様、これをどうぞ。試着してください。」
ブンザさんが持ってきたのは、何かの制服だった。
その制服は、学生服、いや映画で見た日本海軍の制服のように見えた。
白い生地で、詰襟に7つボタン、袖には金の刺繍線が3本入っている。
両肩には長方形の飾り、胸は3本のモールで飾られている。
ズボンの体側線にも金の刺繍線が入っている。
俺は上着だけ羽織ってみた。
ピッタリだ。
「これは?」
「はい。キノクニの礼服です。半纏は作業着です。」
ブンザさんから渡された制服を羽織った俺を見て、カヘイさんが微笑んでいる。
「ふぉふぉ。よく似合っておりまするな。袖の階級章にあと2本、線を足せば、更に似合いそうですぞ。」
カヘイさんの言葉を聞いたブンザさんが、なぜか顔を赤らめた。
「おじい様。無理を言うものではないです。」
階級章3本線に後2本の線を足せば、5本線の最上位階級。
つまりキノクニ総領
将来のキノクニ総領はブンザさんのはずだ。
(あ、そういうことね・・・)
つまりカヘイさんは、将来俺とブンザさんが結婚して後を継いでほしいということを暗に言ったのだろう。
俺はカヘイさんに向かい軽く頭を下げた。
「お気持ちありがたく頂戴いたします。ですが、私はいずれ元の世界、日本へ帰る所存です。それまでに、この大恩あるキノクニに最大限の恩返しをするつもりですので、それでお許し下さい。」
「ふぉふぉ。これはすみませんな。軽い気持ちで自分の夢を言うてしまいました。お気になさらずに。ふぉふぉ。」
(ごめんね。カヘイさん。でもブンザさんには、好きな人がいるんですよ。・・誰だろ?)
カヘイさんが、俺に礼服をくれたのは、今夜、情報部で開催される晩餐会の為だった。
情報部の晩餐会には、多くの王族、貴族が出席する。
王族貴族に、キノクニの幹部を印象付けるためにキノクニの者は、全員この礼服を着用するのだそうだ。
社屋で礼服をもらった後、キューブへ戻り、改めて礼服を着てみた。
「兄ちゃん、かっこいい。」
「ニイニ、カッコイイ」
「「キャウキャウ」」
子供たちが誉めてくれた。
「お、なんだ、なんだ。見合いでもするのか?」
ドルムさんがからかう。
(この世界にも見合いってあるのか・・)
「良くお似合いです。凛々しいですよソウ様」
テルマさんは、このところとても元気だ。
子供たちの世話や、俺達の食事の世話をかいがいしくこなしてくれる。
日常生活が戻ったのが嬉しいのだろう。
「どこかへ、おでかけでがんすか?」
ドランゴさんは、キノクニの作業所で働き始めた。
経済面で言えば、働く必要がないのだが、何もせずにじっとしているのが嫌な性格のようで、作業所の鍛冶場で馬車の修理や、蹄鉄の打ち直しをしている。
「今晩、キノクニの晩餐会があるので、そのための礼服です。」
その日の夕方、エリカが迎えに来た。
迎えの馬車には、既にカヘイさんとブンザさんが、乗り込んでいた。
俺は、晩餐会でラジエル公爵に合わせてもらう前に、ラジエル公爵のことを知っておきたいと思い、ブンザさんに話しかけた。
「ブンザさん。ラジエル公爵は、どんな方です?」
「そうですね。一言で言えば大人物。豪快で優しくて、それでもって人情家。私達平民にも礼儀正しく接して下さります。英雄といっていいですね。」
随分な誉めようだ。
(ブンザさんの好きな人って、ラジエル公爵かな?)
ブンザさんは言葉を続けた。
「ラジエル公爵は、キノクニに、いえ、この国とってなくてはならない人です。この国は今、宗教戦争に突入しようとしていますが、それを何とか止めているのが、ラジエル様達です。
戦争になれば、多くの犠牲が出ますし、我々キノクニも、戦時徴用令で、国の組織に吸収されてしまうかもしれません。ですから、我々キノクニもラジエル様に最大限の援助を行っているのです。」
俺は素朴な疑問をぶつけた。
「ラジエル様は前王様の弟でしょ?戦争回避するために王様を動かすことはできないのですか?」
そこでカヘイさんが口をはさんだ。
「この国は王政ですが、国を動かすのは、王そのものではないのですじゃ。枢密院という王の諮問機関があって、国の政策、大きな決定は、この機関で決定されまする。
枢密院の議員は王族、貴族から構成されていて、参与としてヒュドラ教会から枢機卿も参加しておりまする。ですから、戦争する、しないは、この議会で決定されるのですじゃ。
今は、戦争反対派と『聖戦』を掲げた開戦派が争っていて、開戦派が、やや優勢と言ったところですな。」
つまり、この国は独裁主義ではなく、一部の王族、貴族による議会制貴族主義が取られているということだ。
開戦派には宰相ゼニスと第一王子、それの取り巻き貴族、ヒュドラ教の枢機卿もいる。
反戦派は、現王とラジエル公爵とその取り巻き貴族、一見して現王の所属する反戦派が力を持つようにも思うが、開戦派には、この国の国教ヒュドラ教が付いている。
『聖戦』を唱えられると、かなり分が悪いそうなのだ。
宰相が開戦を唱えるのは、国が乱れてクーデターを起こしやすい環境を整えるためのようだ。
宰相一派とヒュドラ教の利害が一致しているのだろう。
馬車内で、ラジエル公爵の話をしているうちに貴族街にある情報部の屋敷へ到着した。
屋敷内一階の大広間に入ると、キノクニの従業員が、せわしく働いて晩餐会の準備をしているところだった。
会場内で、ブンザさんと雑談をしていたところ、ケンゾウ部長が会場に現れた。
俺に顔を向けた後、会場の上座に座っているカヘイさんに挨拶をし、何か話し始めた。
二人がこちらを見たので、おそらく、今夜、俺をラジエル公爵に紹介する手はずでも行っているのだろう。
そこへエリカが現れた。
見違えた。
エリカは白いドレスで、胸にはルビーのペンダント、銀色の髪飾りがストレートに垂らした金髪に良く似合っている。
肌は透き通るように白く、唇は真紅で、白い肌が際立つ。
長いまつげと青い目、整った鼻、まるで外国の映画スターのようだ。
ブンザさんもドレス姿が良く似合っているが、エリカに比べると見劣りしてしまう。
「こんばんは、ブンザ様、シン様」
エリカは右足を後ろに引き、膝を軽く折り曲げ頭を下げた。
貴族式の挨拶だ。
「こんばんはエリカさん。」
「ああ、こんばんは、エリカ」
これほど優雅で綺麗なエリカもこの世界では、美的な評価は最低ランクだそうだ。
それが不思議でならない。
「エリカ、ドレスが良く似合っているね。」
俺は社交辞令でそういった。
エリカは顔を赤らめた。
「あ、ありがとうございます。」
エリカはモジモジしてそれ以上何も言わなかった。
諜報部員らしからざる姿だ。
開宴の時間が近づくと、カヘイさんを筆頭として、キノクニの従業員全員が、大広間入り口左右に整列した。
来客者を出迎えるためだ。
キノクニ総領自らが入り口に立って来客を出迎えるのには驚いたが、よく考えれば、カヘイさんといえども、平民。入り口に立って王族や貴族を出迎えるのは当然かもしれない。
開宴時刻間近になって、次々と客が訪れた。
皆、豪華に着飾っている。
客が入場する度にキノクニのメンバーが頭を下げている。
カヘイさんもケンゾウ部長も貴族たちに頭を下げたり、立ち止まる貴族と挨拶をかわしたりしている。
俺もカヘイさんにならって、来客度に頭を下げた。
見知らぬ人ばかりだが、誰だか知らない貴族に頭を下げている時、突然声をかけられた。
「シン様」
レイシアだった。
着飾ったレイシアはいつも以上に美しい。
「これは、レイシア様、いらっしゃいませ。」
俺が敬語を使ったので、レイシアは戸惑っている。
俺はレイシアのことを『バカ娘』と罵ったこともある身なので、レイシアに対して敬語を使うのはむず痒かった。
しかし、カヘイさんでさえ頭を下げているのだ、ここでタメ口をきくわけにはいかなかったのだ。
「シン様?・・後で、お席にうかがいますわ。」
後がつかえていたので、レイシアはすぐにその場を立ち去った。
貴族の列は続いていて、開宴までに俺は何十回も頭を下げ続けた。
(社会人と言うのはきびしいものだな・・・)
何気に日本のサラリーマンを思い出していた。
貴族の列が途切れ、最後に体格の良い人物が、ゆっくりと入場した。
身長は170センチ位だが体重は100キロくらいありそうだ。
太く濃い眉毛、大きな鼻、目元は微笑んでいる。
体格もさることながら、その人物の出す雰囲気、オーラとでも言おうか、その気配に圧倒された。
俺がたまに出す怒気とは違うが、周囲を圧倒するようなオーラを感じる、どちらかと言えばアウラ様に感じる気配に似ている。
その人物は、俺をチラリと見た後、カヘイさんに近づき挨拶をした。
カヘイさんの様子から見て、おそらくこの人がラジエル公爵、その人であろう。
ラジエル公爵が上座についた後、ケンゾウ部長がステージで挨拶をし、宴会が始まった。
宮中で王女の側仕えをしているブルナのことを相談するためだ。
「カヘイさん、何か良い知恵はないでしょうか。」
カヘイさんは難しい顔をして畳に座っている。
「そうですなぁ。即解決という方法は思い当たりませぬが、ラジエル公爵に相談してみるのが良いかもしれません。王室に関わる問題じゃから、王室の一員であるラジエル公爵なら、何か良い案が浮かぶかもしれませんな。」
ラジエル公爵は前王サルエルの実の弟、現王カイエルの叔父にあたる。
「今日、情報部恒例の晩餐会があるがラジエル公爵も、おいでになる。その席でソウ殿を紹介しましょうぞ。」
俺は、少し迷った。
俺は、この街では、キノクニのシン相談役として、過ごしている。
しかし、本当は殺人指名手配のソウなのだ。
いくらカヘイさんといえども、殺人指名手配犯を王族に紹介するのはまずいのではないか。
そんな俺の心を読んだようにカヘイさんが言った。
「心配せずとも良いですぞ。ソウ殿の事はある程度、ラジエル公爵に伝えてあります。スタンピートからキノクニを救ってくれたこと。麻薬事件で活躍した事。そして何かの手違いにより、殺人の汚名を着せられている事。
ラジエル公爵は、キノクニ、特にブンザのことを信用しておいでだ。そのブンザと私が保証するのですから、問題ないですよ。」
それを聞いて安心した。
たとえ間違いでも俺が殺人犯人として指名手配されていることを隠して国の重鎮と会うことは、キノクニの為に避けたかった。
「ブンザ、あれをお持ちしなさい。」
「はい。」
傍で控えていたブンザさんにカヘイさんが何事かを命じた。
「ソウ様、これをどうぞ。試着してください。」
ブンザさんが持ってきたのは、何かの制服だった。
その制服は、学生服、いや映画で見た日本海軍の制服のように見えた。
白い生地で、詰襟に7つボタン、袖には金の刺繍線が3本入っている。
両肩には長方形の飾り、胸は3本のモールで飾られている。
ズボンの体側線にも金の刺繍線が入っている。
俺は上着だけ羽織ってみた。
ピッタリだ。
「これは?」
「はい。キノクニの礼服です。半纏は作業着です。」
ブンザさんから渡された制服を羽織った俺を見て、カヘイさんが微笑んでいる。
「ふぉふぉ。よく似合っておりまするな。袖の階級章にあと2本、線を足せば、更に似合いそうですぞ。」
カヘイさんの言葉を聞いたブンザさんが、なぜか顔を赤らめた。
「おじい様。無理を言うものではないです。」
階級章3本線に後2本の線を足せば、5本線の最上位階級。
つまりキノクニ総領
将来のキノクニ総領はブンザさんのはずだ。
(あ、そういうことね・・・)
つまりカヘイさんは、将来俺とブンザさんが結婚して後を継いでほしいということを暗に言ったのだろう。
俺はカヘイさんに向かい軽く頭を下げた。
「お気持ちありがたく頂戴いたします。ですが、私はいずれ元の世界、日本へ帰る所存です。それまでに、この大恩あるキノクニに最大限の恩返しをするつもりですので、それでお許し下さい。」
「ふぉふぉ。これはすみませんな。軽い気持ちで自分の夢を言うてしまいました。お気になさらずに。ふぉふぉ。」
(ごめんね。カヘイさん。でもブンザさんには、好きな人がいるんですよ。・・誰だろ?)
カヘイさんが、俺に礼服をくれたのは、今夜、情報部で開催される晩餐会の為だった。
情報部の晩餐会には、多くの王族、貴族が出席する。
王族貴族に、キノクニの幹部を印象付けるためにキノクニの者は、全員この礼服を着用するのだそうだ。
社屋で礼服をもらった後、キューブへ戻り、改めて礼服を着てみた。
「兄ちゃん、かっこいい。」
「ニイニ、カッコイイ」
「「キャウキャウ」」
子供たちが誉めてくれた。
「お、なんだ、なんだ。見合いでもするのか?」
ドルムさんがからかう。
(この世界にも見合いってあるのか・・)
「良くお似合いです。凛々しいですよソウ様」
テルマさんは、このところとても元気だ。
子供たちの世話や、俺達の食事の世話をかいがいしくこなしてくれる。
日常生活が戻ったのが嬉しいのだろう。
「どこかへ、おでかけでがんすか?」
ドランゴさんは、キノクニの作業所で働き始めた。
経済面で言えば、働く必要がないのだが、何もせずにじっとしているのが嫌な性格のようで、作業所の鍛冶場で馬車の修理や、蹄鉄の打ち直しをしている。
「今晩、キノクニの晩餐会があるので、そのための礼服です。」
その日の夕方、エリカが迎えに来た。
迎えの馬車には、既にカヘイさんとブンザさんが、乗り込んでいた。
俺は、晩餐会でラジエル公爵に合わせてもらう前に、ラジエル公爵のことを知っておきたいと思い、ブンザさんに話しかけた。
「ブンザさん。ラジエル公爵は、どんな方です?」
「そうですね。一言で言えば大人物。豪快で優しくて、それでもって人情家。私達平民にも礼儀正しく接して下さります。英雄といっていいですね。」
随分な誉めようだ。
(ブンザさんの好きな人って、ラジエル公爵かな?)
ブンザさんは言葉を続けた。
「ラジエル公爵は、キノクニに、いえ、この国とってなくてはならない人です。この国は今、宗教戦争に突入しようとしていますが、それを何とか止めているのが、ラジエル様達です。
戦争になれば、多くの犠牲が出ますし、我々キノクニも、戦時徴用令で、国の組織に吸収されてしまうかもしれません。ですから、我々キノクニもラジエル様に最大限の援助を行っているのです。」
俺は素朴な疑問をぶつけた。
「ラジエル様は前王様の弟でしょ?戦争回避するために王様を動かすことはできないのですか?」
そこでカヘイさんが口をはさんだ。
「この国は王政ですが、国を動かすのは、王そのものではないのですじゃ。枢密院という王の諮問機関があって、国の政策、大きな決定は、この機関で決定されまする。
枢密院の議員は王族、貴族から構成されていて、参与としてヒュドラ教会から枢機卿も参加しておりまする。ですから、戦争する、しないは、この議会で決定されるのですじゃ。
今は、戦争反対派と『聖戦』を掲げた開戦派が争っていて、開戦派が、やや優勢と言ったところですな。」
つまり、この国は独裁主義ではなく、一部の王族、貴族による議会制貴族主義が取られているということだ。
開戦派には宰相ゼニスと第一王子、それの取り巻き貴族、ヒュドラ教の枢機卿もいる。
反戦派は、現王とラジエル公爵とその取り巻き貴族、一見して現王の所属する反戦派が力を持つようにも思うが、開戦派には、この国の国教ヒュドラ教が付いている。
『聖戦』を唱えられると、かなり分が悪いそうなのだ。
宰相が開戦を唱えるのは、国が乱れてクーデターを起こしやすい環境を整えるためのようだ。
宰相一派とヒュドラ教の利害が一致しているのだろう。
馬車内で、ラジエル公爵の話をしているうちに貴族街にある情報部の屋敷へ到着した。
屋敷内一階の大広間に入ると、キノクニの従業員が、せわしく働いて晩餐会の準備をしているところだった。
会場内で、ブンザさんと雑談をしていたところ、ケンゾウ部長が会場に現れた。
俺に顔を向けた後、会場の上座に座っているカヘイさんに挨拶をし、何か話し始めた。
二人がこちらを見たので、おそらく、今夜、俺をラジエル公爵に紹介する手はずでも行っているのだろう。
そこへエリカが現れた。
見違えた。
エリカは白いドレスで、胸にはルビーのペンダント、銀色の髪飾りがストレートに垂らした金髪に良く似合っている。
肌は透き通るように白く、唇は真紅で、白い肌が際立つ。
長いまつげと青い目、整った鼻、まるで外国の映画スターのようだ。
ブンザさんもドレス姿が良く似合っているが、エリカに比べると見劣りしてしまう。
「こんばんは、ブンザ様、シン様」
エリカは右足を後ろに引き、膝を軽く折り曲げ頭を下げた。
貴族式の挨拶だ。
「こんばんはエリカさん。」
「ああ、こんばんは、エリカ」
これほど優雅で綺麗なエリカもこの世界では、美的な評価は最低ランクだそうだ。
それが不思議でならない。
「エリカ、ドレスが良く似合っているね。」
俺は社交辞令でそういった。
エリカは顔を赤らめた。
「あ、ありがとうございます。」
エリカはモジモジしてそれ以上何も言わなかった。
諜報部員らしからざる姿だ。
開宴の時間が近づくと、カヘイさんを筆頭として、キノクニの従業員全員が、大広間入り口左右に整列した。
来客者を出迎えるためだ。
キノクニ総領自らが入り口に立って来客を出迎えるのには驚いたが、よく考えれば、カヘイさんといえども、平民。入り口に立って王族や貴族を出迎えるのは当然かもしれない。
開宴時刻間近になって、次々と客が訪れた。
皆、豪華に着飾っている。
客が入場する度にキノクニのメンバーが頭を下げている。
カヘイさんもケンゾウ部長も貴族たちに頭を下げたり、立ち止まる貴族と挨拶をかわしたりしている。
俺もカヘイさんにならって、来客度に頭を下げた。
見知らぬ人ばかりだが、誰だか知らない貴族に頭を下げている時、突然声をかけられた。
「シン様」
レイシアだった。
着飾ったレイシアはいつも以上に美しい。
「これは、レイシア様、いらっしゃいませ。」
俺が敬語を使ったので、レイシアは戸惑っている。
俺はレイシアのことを『バカ娘』と罵ったこともある身なので、レイシアに対して敬語を使うのはむず痒かった。
しかし、カヘイさんでさえ頭を下げているのだ、ここでタメ口をきくわけにはいかなかったのだ。
「シン様?・・後で、お席にうかがいますわ。」
後がつかえていたので、レイシアはすぐにその場を立ち去った。
貴族の列は続いていて、開宴までに俺は何十回も頭を下げ続けた。
(社会人と言うのはきびしいものだな・・・)
何気に日本のサラリーマンを思い出していた。
貴族の列が途切れ、最後に体格の良い人物が、ゆっくりと入場した。
身長は170センチ位だが体重は100キロくらいありそうだ。
太く濃い眉毛、大きな鼻、目元は微笑んでいる。
体格もさることながら、その人物の出す雰囲気、オーラとでも言おうか、その気配に圧倒された。
俺がたまに出す怒気とは違うが、周囲を圧倒するようなオーラを感じる、どちらかと言えばアウラ様に感じる気配に似ている。
その人物は、俺をチラリと見た後、カヘイさんに近づき挨拶をした。
カヘイさんの様子から見て、おそらくこの人がラジエル公爵、その人であろう。
ラジエル公爵が上座についた後、ケンゾウ部長がステージで挨拶をし、宴会が始まった。
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