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第五章 獣人国編
第98話 大隊長 ガラク
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ライベルの商工会議所で地元住民の治療をしていたところ、武装した兵士30名が俺を取り囲んだ。
俺がインチキ呪い師だそうだ。
「お前がインチキ呪い師か?」
「いや俺は呪い師じゃない。ただの人狼ソウだ。」
俺の治療を待つ衆人の中、俺を捕縛しようとしている竜族の兵士に答えた。
「口答えをするな。平民が!!」
竜族の隊長は手に持った槍の石突きで俺の腹をついた。
よけるのも面倒なので突きを受けたが、少しかゆい程度で何のダメージも受けなかった。
槍の柄で俺の腹をついた隊長の方がよろめいた。
隊長にしてみれば堅い岩をついたような感覚だっただろう。
「逆らうか!!」
「逆らってないだろう・・馬鹿なの?」
「う、うるさい。口答えをするな。こいつやはり怪しい。俺の突きをくらって平気だなんて。なにか変な呪いをしているはずだ!!捕らえろ。」
兵士全員が武器を構えて俺ににじり寄る。
「おいおい。何も抵抗していないだろうが、俺を捕まえたいのなら捕まってやるが、乱暴にするなら、俺も抵抗するぞ。」
俺はマジッグバックから雷鳴剣2を取り出した。
雷鳴剣は青くスパークしている。
俺は人の居ない方向に剣を向けて軽く一振りした。
剣先の向こうには大木があったが、俺が剣を振ると、剣先から稲妻が迸り、『ドガーン』と雷鳴が響き渡り大木を真っ二つにした。
それを見た隊長と何人かの兵士が腰を抜かした。
「て、抵抗するか!!・・・・」
「だから抵抗しないって言ってるだろ。お前らの大将に会ってやるって言ってるんだ。そちらがおとなしくすれば何もしないよ。」
兵士達は真っ二つになった大木と俺を交互に見ている。
狼狽しているのがあきらかだ。
「ほ、本当だな、抵抗するなよ。おい縄をうて。」
隊長がオークの部下に命じた。
俺は雷鳴剣を収納し、兵士のなすがままに任せた。
オークの部下は、俺を捕縛するように命じられたものの、腰が引けて行動に移せないようだ。
「なにしている。早く縛れ、早く!!」
「は、はい。」
オークの部下は恐る恐る、俺に近づき、縄で俺を縛ろうとした。
俺は縄くらいなら簡単にちぎり飛ばせるから、そのまま縛られてやろうと思っていた。
ところが、小さな石がどこからか、飛んできて、俺を縛ろうとしたオークのヘルメットに当たった。
「ひぃ」
オークは手に持った縄をその場に落とした。
俺が抵抗したとでも思ったのだろうか。
「誰だ!!」
隊長が周囲を見渡した。
いつのまにか商工会議所から治療を終えた患者が出てきて、俺と兵士達を取り囲んでいた。
「誰だ?兵士に反抗するやつは?兵士に逆らえば反逆罪だぞ?」
患者達は黙ってこちらをにらんでいる。
「かせ!!俺がやる。」
隊長がオークの兵士から縄を受け取り、俺を縛ろうとした。
すると、
カン!カン!カン!!!!
小石のつぶてが雨あられのように隊長に降り注いだ。
「や、やめろ。何する。お前ら本当に反逆罪でしょっぴくぞ。」
患者達はそれでも投擲をやめようとしない。
バラバラと小石が兵士達に降り注ぐ。
兵士達はひとかたまりになって、盾で体を覆い石をよけている。
「何が、反逆罪だ。神様に縄をうつ、お前らの方が反逆だろう、神罰だ。バカヤロウ」
朝方、猫の親子を邪険にしていたオークが叫んでいた。
「そうだ。そうだ。帰れ兵隊。治療の邪魔するな。」
兵士達は住民の意外な反撃に驚きを隠せない。
隊長が盾の隙間から顔をのぞかせた。
「何を言うか、俺たちは代官様の命令で、お前達を悪の手から守ろうとしているだけだ。なぜ悪人を守るんだ?」
「神様だからだによ。そこにいるソウ様は紛れもない神様だからだによ。治療費も受け取らず、一日中患者を診てくださる神様だによ。俺は見てきただによ。
自分は気を失いそうになるほど疲れているのに、休まず子供達、年寄り達、重病人を一生懸命、治療してくださる姿をよ。
お前らにそんなことできるか?お前達の出来ることは毒入りの水を高く売ることだけだろう。なぁみんな。」
レンヤがそう叫ぶと、周囲の者もそれに同意した。
「そうだ。そうだ。お前らが毒入りの水を売ったから、こうなんたんじゃねぇか。捕まるのはお前達だ。」
投擲される石の勢いが増してきた。
「やめろ、やめろ。全員、槍構え!!隊列を整えろ。石を投げるやつは攻撃してもかまわない。」
兵士達は隊長命令で槍や、剣を構えた。
臨戦状態になってしまった。
群衆の中には女子供も居る。
俺は石つぶてにさらされている兵士達の前に立った。
石つぶては止まった。
「みんな。ありがとう。でも、もういいよ。俺は大丈夫だ。城へ行って話し合ってくる。俺一人じゃこの病と闘うにも限度がある。城の偉い人と話し合ってみるよ。だから大人しくまっていてくれ。必ず治療に戻る。」
俺の言葉で群衆は静まった。
俺は兵士の隊長に向き直った。
「おい。大人しくついて行くから、縄はやめろ。どうしても縄をうちたいのなら、俺は別にかまわんがな。ハハ」
俺は隊長にそう告げた後、群衆をチラリと見た。
「あ、う、大人しくついてくるか?」
「ついていくと言っているだろ。」
「それじゃ縄は勘弁してやる。」
こうなっても隊長の威厳とかいうものを保ちたいようだ。
俺が兵士と共に、城へ向かおうとした時、商工会長のロダンさんが近づいてきた。
「ソウ様、私も一緒にまいります。」
「いいのか?面倒になるかもしれんぞ。」
「これだけお世話になっておきながら、このような目に遭わせることをお許しください。私がこの目で見てきたこと。ソウ様がアラガミビトだということを、私の口からも代官様に話します。」
「わかった。頼むよ。」
城へ向かう道すがらロダンさんが教えてくれた。
この要塞都市ライベルはジュベル国王の弟「レギラ」が統治を任されていて、そのレギラはジュベル国の首都オラベルに滞在中であること。
ヌーレイというゴブリン族の男がレギラの代官として、このライベルを治めていること。
疫病が流行り始めた頃、代官のヌーレイの指示で貧民街の病人宅を焼き払ったり、城内の井戸水を高値で売り始めたりしたこと。
今回の俺の捕縛もおそらくヌーレイの指示だろうということ。
「ロダン殿、無駄口は控えるように。」
隊長がロダンに言ったが、俺が少しにらむと隊長は視線をそらせた。
商工会館から30分ほど歩くと、ライベル城の城門へついた。
「かいもーん。ルステ小隊、任務完了。敵を捕縛終了した。かいもーん。」
隊長が、そう見張りに告げると城壁から跳ね橋が降りてきて堀に渡された。
「おい隊長。俺は敵なのか?」
俺は隊長の「敵を捕縛」という言葉に少し反応した。
「あ、いや、その、め命令なので・・・」
隊長は青ざめている。
(まぁいいか。・・・)
城門をくぐると長い石畳が左右に分かれ城へ続いている。
石畳の先には石作の城が建っている。
大きさは現代日本の国会議事堂程度だ。
城の前には大きな庭があるが、庭の中程で兵士が訓練をしている。
城に至るまでの両脇には大小様々な石造りの建物が整然と並んでいる。
俺は、そのまま城の中に入り、代官に会うのかと思っていたが、連れて行かれた先は城の中ではなく、その途中の粗末な石造りの建物だった。
隊長が俺に命じた
「入れ。」
「どこだ?ここは?」
「入牢前の取り調べをする場所だ。」
「入牢?牢屋へ入れるつもりか?」
俺は代官か誰かこの町の管理権限を有する者に面会して、自分の汚名をそそぐと共に、今後の対策を協議するつもりで、大人しく従っていたのだ。
「俺は牢屋には入らないぜ、代官か誰か責任者に会わせろ。」
「それは、無理だ・・・俺が命令されているのは、お前を捕縛してここまで連れてくることだけだ。・・・」
「あ、そう。じゃ帰るわ。帰って治療の続きをする。」
「か、かえるだと?そ、そうはいかんぞ。犯罪者をそのまま帰すわけにはいかん。いかん・・・」
隊長は槍を構えた。
他の隊員は武器を構える者もいれば、お互いに顔を見合わせてオロオロしている者と様々だ。
「まぁ、まぁ、隊長さん。貴方に釈放権限のないことは、わかりましたから。どうです?
上の方の指示を仰いでみては?ソウ様が争いに来たのではないことは、あなた様にも十分理解できているでしょう?」
ロダンさんが、仲裁に入った。
「それは・・そうだが・・俺にもメンツというものが・・・」
「俺は、お前のメンツのためにここまで来たんじゃないぞ。疫病対策を講じるためだ。早く上を呼んでこい。」
俺は少しいらついてきたので少し怒気をはらんだ言い方になってしまった。
隊長は構えた槍を上げも下ろしも出来なくなっていた。
「あの・・小隊長、・・・大隊長に報告してきましょうか?・・」
隊員の一人が隊長にささやいた。
「うむ・・・それが良いかもな・・」
隊長の返事を聞いた隊員は、すぐに部屋の外へ出て行った。
俺は、部屋の中にあった椅子に勝手に座り込んでマジックバッグから暖かいコヒー缶を取り出した。
俺がプルトップを引き「プシュッツ」と音を立てたところ兵士の何人かが飛び退いた。
何か俺が武器を使うのかもしれないと勘違いしたのだろう。
もう一本取りだしてロダンさんに進めたが遠慮された。
隊長と隊員数名が武器を手にしたまま、コーヒーを飲む俺を取り囲んでいる。
隊員の中には武器を手にしたまま少し震えている者も居る。
俺の雷鳴剣2の威力を目の当たりにして俺の実力の一部を感じ取り(戦闘になったら・・)と怯えているのだろう。
「あんたら、俺は戦いたくない。街の人々を救いたいだけなんだ。だから武器を下ろせよ。にらみ合いになると疲れるぜ、それに事故が起きやすい。」
俺はセプタの戦いで、にらみ合いの末、ゲラニ軍から先に攻撃をしかけてしまい、ブラックドラゴンに蹂躙された苦い出来事を思い出していた。
にらみ合いのまま5分ほど経過したときに入り口のドアが開いた。
入ってきたのは先ほどの連絡係の兵隊と、身の丈2メートルはありそうな男だった。
その男はオーガ族だろう。
髪の毛は赤色、いわゆるモヒカン頭で、前頭部に小さな角が二本、生えている。
体重はゆうに200キロを超えていそうだが、軍服の上からも判るほど、逞しい体つき、筋骨隆々といった感じだ。
目つきは鋭く理知的な感じがする。
厚い唇からは、少し犬歯がはみ出ている。
オーガは俺を一瞥した後、隊長を見た。
「ルステ小隊長、これはどうしたことかな?捕縛したはずの犯人が縄もうたれずに、ゆうゆうとくつろいでいるように見えるがな?」
「あ、はい、いや、・・・捕縛しましたが・・その・・言うことを聞かないもので・・・」
オーガの目つきが鋭くなった。
「ほほう。一個小隊全員でかかって縄も打てず、言うことも聞かないから、俺に助けを求めたと言うことかな?」
「いえ、けっしてそのような・・ガラク大隊長殿、・・・その・・・・あ、商工会長が幹部と会わせろというもので・・ですから、そのう・・」
オーガの大隊長は「ガラク」というらしい。
「うちわモメは後でやってくれ、時間が惜しい。話を進めようぜ。」
いられた俺が先に口火を切った。
ガラクが俺を向いた。
「お前が噂の呪い師か?ふてぶてしいな。」
「呪い師じゃない。人狼ソウだ。」
俺がインチキ呪い師だそうだ。
「お前がインチキ呪い師か?」
「いや俺は呪い師じゃない。ただの人狼ソウだ。」
俺の治療を待つ衆人の中、俺を捕縛しようとしている竜族の兵士に答えた。
「口答えをするな。平民が!!」
竜族の隊長は手に持った槍の石突きで俺の腹をついた。
よけるのも面倒なので突きを受けたが、少しかゆい程度で何のダメージも受けなかった。
槍の柄で俺の腹をついた隊長の方がよろめいた。
隊長にしてみれば堅い岩をついたような感覚だっただろう。
「逆らうか!!」
「逆らってないだろう・・馬鹿なの?」
「う、うるさい。口答えをするな。こいつやはり怪しい。俺の突きをくらって平気だなんて。なにか変な呪いをしているはずだ!!捕らえろ。」
兵士全員が武器を構えて俺ににじり寄る。
「おいおい。何も抵抗していないだろうが、俺を捕まえたいのなら捕まってやるが、乱暴にするなら、俺も抵抗するぞ。」
俺はマジッグバックから雷鳴剣2を取り出した。
雷鳴剣は青くスパークしている。
俺は人の居ない方向に剣を向けて軽く一振りした。
剣先の向こうには大木があったが、俺が剣を振ると、剣先から稲妻が迸り、『ドガーン』と雷鳴が響き渡り大木を真っ二つにした。
それを見た隊長と何人かの兵士が腰を抜かした。
「て、抵抗するか!!・・・・」
「だから抵抗しないって言ってるだろ。お前らの大将に会ってやるって言ってるんだ。そちらがおとなしくすれば何もしないよ。」
兵士達は真っ二つになった大木と俺を交互に見ている。
狼狽しているのがあきらかだ。
「ほ、本当だな、抵抗するなよ。おい縄をうて。」
隊長がオークの部下に命じた。
俺は雷鳴剣を収納し、兵士のなすがままに任せた。
オークの部下は、俺を捕縛するように命じられたものの、腰が引けて行動に移せないようだ。
「なにしている。早く縛れ、早く!!」
「は、はい。」
オークの部下は恐る恐る、俺に近づき、縄で俺を縛ろうとした。
俺は縄くらいなら簡単にちぎり飛ばせるから、そのまま縛られてやろうと思っていた。
ところが、小さな石がどこからか、飛んできて、俺を縛ろうとしたオークのヘルメットに当たった。
「ひぃ」
オークは手に持った縄をその場に落とした。
俺が抵抗したとでも思ったのだろうか。
「誰だ!!」
隊長が周囲を見渡した。
いつのまにか商工会議所から治療を終えた患者が出てきて、俺と兵士達を取り囲んでいた。
「誰だ?兵士に反抗するやつは?兵士に逆らえば反逆罪だぞ?」
患者達は黙ってこちらをにらんでいる。
「かせ!!俺がやる。」
隊長がオークの兵士から縄を受け取り、俺を縛ろうとした。
すると、
カン!カン!カン!!!!
小石のつぶてが雨あられのように隊長に降り注いだ。
「や、やめろ。何する。お前ら本当に反逆罪でしょっぴくぞ。」
患者達はそれでも投擲をやめようとしない。
バラバラと小石が兵士達に降り注ぐ。
兵士達はひとかたまりになって、盾で体を覆い石をよけている。
「何が、反逆罪だ。神様に縄をうつ、お前らの方が反逆だろう、神罰だ。バカヤロウ」
朝方、猫の親子を邪険にしていたオークが叫んでいた。
「そうだ。そうだ。帰れ兵隊。治療の邪魔するな。」
兵士達は住民の意外な反撃に驚きを隠せない。
隊長が盾の隙間から顔をのぞかせた。
「何を言うか、俺たちは代官様の命令で、お前達を悪の手から守ろうとしているだけだ。なぜ悪人を守るんだ?」
「神様だからだによ。そこにいるソウ様は紛れもない神様だからだによ。治療費も受け取らず、一日中患者を診てくださる神様だによ。俺は見てきただによ。
自分は気を失いそうになるほど疲れているのに、休まず子供達、年寄り達、重病人を一生懸命、治療してくださる姿をよ。
お前らにそんなことできるか?お前達の出来ることは毒入りの水を高く売ることだけだろう。なぁみんな。」
レンヤがそう叫ぶと、周囲の者もそれに同意した。
「そうだ。そうだ。お前らが毒入りの水を売ったから、こうなんたんじゃねぇか。捕まるのはお前達だ。」
投擲される石の勢いが増してきた。
「やめろ、やめろ。全員、槍構え!!隊列を整えろ。石を投げるやつは攻撃してもかまわない。」
兵士達は隊長命令で槍や、剣を構えた。
臨戦状態になってしまった。
群衆の中には女子供も居る。
俺は石つぶてにさらされている兵士達の前に立った。
石つぶては止まった。
「みんな。ありがとう。でも、もういいよ。俺は大丈夫だ。城へ行って話し合ってくる。俺一人じゃこの病と闘うにも限度がある。城の偉い人と話し合ってみるよ。だから大人しくまっていてくれ。必ず治療に戻る。」
俺の言葉で群衆は静まった。
俺は兵士の隊長に向き直った。
「おい。大人しくついて行くから、縄はやめろ。どうしても縄をうちたいのなら、俺は別にかまわんがな。ハハ」
俺は隊長にそう告げた後、群衆をチラリと見た。
「あ、う、大人しくついてくるか?」
「ついていくと言っているだろ。」
「それじゃ縄は勘弁してやる。」
こうなっても隊長の威厳とかいうものを保ちたいようだ。
俺が兵士と共に、城へ向かおうとした時、商工会長のロダンさんが近づいてきた。
「ソウ様、私も一緒にまいります。」
「いいのか?面倒になるかもしれんぞ。」
「これだけお世話になっておきながら、このような目に遭わせることをお許しください。私がこの目で見てきたこと。ソウ様がアラガミビトだということを、私の口からも代官様に話します。」
「わかった。頼むよ。」
城へ向かう道すがらロダンさんが教えてくれた。
この要塞都市ライベルはジュベル国王の弟「レギラ」が統治を任されていて、そのレギラはジュベル国の首都オラベルに滞在中であること。
ヌーレイというゴブリン族の男がレギラの代官として、このライベルを治めていること。
疫病が流行り始めた頃、代官のヌーレイの指示で貧民街の病人宅を焼き払ったり、城内の井戸水を高値で売り始めたりしたこと。
今回の俺の捕縛もおそらくヌーレイの指示だろうということ。
「ロダン殿、無駄口は控えるように。」
隊長がロダンに言ったが、俺が少しにらむと隊長は視線をそらせた。
商工会館から30分ほど歩くと、ライベル城の城門へついた。
「かいもーん。ルステ小隊、任務完了。敵を捕縛終了した。かいもーん。」
隊長が、そう見張りに告げると城壁から跳ね橋が降りてきて堀に渡された。
「おい隊長。俺は敵なのか?」
俺は隊長の「敵を捕縛」という言葉に少し反応した。
「あ、いや、その、め命令なので・・・」
隊長は青ざめている。
(まぁいいか。・・・)
城門をくぐると長い石畳が左右に分かれ城へ続いている。
石畳の先には石作の城が建っている。
大きさは現代日本の国会議事堂程度だ。
城の前には大きな庭があるが、庭の中程で兵士が訓練をしている。
城に至るまでの両脇には大小様々な石造りの建物が整然と並んでいる。
俺は、そのまま城の中に入り、代官に会うのかと思っていたが、連れて行かれた先は城の中ではなく、その途中の粗末な石造りの建物だった。
隊長が俺に命じた
「入れ。」
「どこだ?ここは?」
「入牢前の取り調べをする場所だ。」
「入牢?牢屋へ入れるつもりか?」
俺は代官か誰かこの町の管理権限を有する者に面会して、自分の汚名をそそぐと共に、今後の対策を協議するつもりで、大人しく従っていたのだ。
「俺は牢屋には入らないぜ、代官か誰か責任者に会わせろ。」
「それは、無理だ・・・俺が命令されているのは、お前を捕縛してここまで連れてくることだけだ。・・・」
「あ、そう。じゃ帰るわ。帰って治療の続きをする。」
「か、かえるだと?そ、そうはいかんぞ。犯罪者をそのまま帰すわけにはいかん。いかん・・・」
隊長は槍を構えた。
他の隊員は武器を構える者もいれば、お互いに顔を見合わせてオロオロしている者と様々だ。
「まぁ、まぁ、隊長さん。貴方に釈放権限のないことは、わかりましたから。どうです?
上の方の指示を仰いでみては?ソウ様が争いに来たのではないことは、あなた様にも十分理解できているでしょう?」
ロダンさんが、仲裁に入った。
「それは・・そうだが・・俺にもメンツというものが・・・」
「俺は、お前のメンツのためにここまで来たんじゃないぞ。疫病対策を講じるためだ。早く上を呼んでこい。」
俺は少しいらついてきたので少し怒気をはらんだ言い方になってしまった。
隊長は構えた槍を上げも下ろしも出来なくなっていた。
「あの・・小隊長、・・・大隊長に報告してきましょうか?・・」
隊員の一人が隊長にささやいた。
「うむ・・・それが良いかもな・・」
隊長の返事を聞いた隊員は、すぐに部屋の外へ出て行った。
俺は、部屋の中にあった椅子に勝手に座り込んでマジックバッグから暖かいコヒー缶を取り出した。
俺がプルトップを引き「プシュッツ」と音を立てたところ兵士の何人かが飛び退いた。
何か俺が武器を使うのかもしれないと勘違いしたのだろう。
もう一本取りだしてロダンさんに進めたが遠慮された。
隊長と隊員数名が武器を手にしたまま、コーヒーを飲む俺を取り囲んでいる。
隊員の中には武器を手にしたまま少し震えている者も居る。
俺の雷鳴剣2の威力を目の当たりにして俺の実力の一部を感じ取り(戦闘になったら・・)と怯えているのだろう。
「あんたら、俺は戦いたくない。街の人々を救いたいだけなんだ。だから武器を下ろせよ。にらみ合いになると疲れるぜ、それに事故が起きやすい。」
俺はセプタの戦いで、にらみ合いの末、ゲラニ軍から先に攻撃をしかけてしまい、ブラックドラゴンに蹂躙された苦い出来事を思い出していた。
にらみ合いのまま5分ほど経過したときに入り口のドアが開いた。
入ってきたのは先ほどの連絡係の兵隊と、身の丈2メートルはありそうな男だった。
その男はオーガ族だろう。
髪の毛は赤色、いわゆるモヒカン頭で、前頭部に小さな角が二本、生えている。
体重はゆうに200キロを超えていそうだが、軍服の上からも判るほど、逞しい体つき、筋骨隆々といった感じだ。
目つきは鋭く理知的な感じがする。
厚い唇からは、少し犬歯がはみ出ている。
オーガは俺を一瞥した後、隊長を見た。
「ルステ小隊長、これはどうしたことかな?捕縛したはずの犯人が縄もうたれずに、ゆうゆうとくつろいでいるように見えるがな?」
「あ、はい、いや、・・・捕縛しましたが・・その・・言うことを聞かないもので・・・」
オーガの目つきが鋭くなった。
「ほほう。一個小隊全員でかかって縄も打てず、言うことも聞かないから、俺に助けを求めたと言うことかな?」
「いえ、けっしてそのような・・ガラク大隊長殿、・・・その・・・・あ、商工会長が幹部と会わせろというもので・・ですから、そのう・・」
オーガの大隊長は「ガラク」というらしい。
「うちわモメは後でやってくれ、時間が惜しい。話を進めようぜ。」
いられた俺が先に口火を切った。
ガラクが俺を向いた。
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