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第五章 獣人国編
第97話 商工会議所 インチキまじない師
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ライベルにあるライチの叔父の家で水銀中毒にかかっていたライチの叔父一家や隣家のオーク一家を治療したところ、その効果絶大で、元気になった子供達が意図せず、そのことを町中に広めてしまった。
本当はライチをライベルへ送り届けた後、ライベルには長居せず、ルチアを追いかけるつもりだったが、今にも死にそうな獣人達を見捨てることができず、結局、下町中の病人を治療する羽目になってしまった。
病気の原因は水銀中毒、城内の井戸から汲んできたという水からメチル水銀が検出されたのだ。
念のために町内の井戸水を検査したところ、こちらからも水銀が検出された。
幸いなことに街から少し離れた川の水は汚染されていなかった。
井戸水に何らかの原因があることは間違いないようだ。
治療場所を確保するため、ライチの叔父レンヤが商工会議所に掛け合い、商工会議所の講堂を仮の診療所とすることにした。
俺はレンヤに連れられて、商工会議所の商工会長の部屋に居る。
「レンヤ、この方が?」
「会長、そうですだに。俺の一家もシゲルの一家も、瞬く間に治してくださっただによ。」
商工会長は白いあごひげを蓄えた竜族の男だ。
会長は俺を見て会釈する。
「初めまして、商工会議所会長ロダンと申します。組合員がお世話になったそうで、ありがとうございます。」
「いえ、たいしたことはしていないです。先祖が残してくれた薬が役立ったようです。」
「ご先祖の貴重な遺産を見ず知らずの者に分け与えるとは、神の慈悲のような行いですな。心より感謝いたします。」
会長は深々と頭を下げた。
「それで、私たち商工会にできることはございませんでしょうか。」
「あります。城からの井戸水も含めて、この地域にある一切の水を飲まないようにしてください。」
会長は驚いた顔を見せた。
「なんと。お城の水まで飲んではいけないとは、やはり水が汚染されていたのですか?」
「ええ、詳しいことを説明している時間はあませんが、今、流行っている病気の正体は毒です。おそらくこの地域の井戸全てが汚染されているのでしょう。ですからお城の水も危険です。飲んではいけません。」
「しかし、水を飲まないと、みな干からびてしまいます。」
「少し遠いですが川の水を使ってください。一度煮沸すれば大丈夫です。」
「しかし・・・」
会長は俺のことを、まだ信用できないようだ。
無理もない。
町民を治療したとはいえ、ごく少数を治療したに過ぎない。よそ者の俺に「すべての水が毒だ。」と言われても、一朝一夕には信用できないのだろう。
「俺の事を信用できないのはわかります。それなら、俺の治療を見てから、再度判断してください。」
商工会議所に俺の噂を聞いてやってきた病人は約80名、全てこの商工業地区に住んでいる住人だ。
レンヤとシゲル家族の知り合いばかりだ。
俺はその80人に連続してヒールをかけ、特に重篤だった竜人の子供にはキレート剤を服用させた。
患者80人は、さっきまで病気だったとは思えないほどの回復ぶりを見せた。
重篤だった竜人の子供は、けろっとした顔で、母親に甘えている。
竜人の母親は、ひざまずいて涙ながらに、俺を拝んでいる。
「こ、これは・・・あなた様は子供達の言うとおり、現神人であらせられますか?」
とうとうアラガミビトとまで呼ばれてしまった。
「そんないいもんじゃないですよ。アウラ様に失礼だ。アハ」
「アウラ様?龍神様をご存じで?」
「ええ。たまに一緒にご飯食べますよ。なっ」
俺はそばに居たピンターに相づちを求めた。
「うん。アウラ様、酒癖悪いよね。ウフフ」
会長は竜人族、アウラ様はロダン会長の先祖とも言える。
会長はその場にひざまずいた。
「これは、これは、やはり、神の使徒様でございましたか。全て納得がいきました。おいいつけどおり、この街の全ての人に井戸水を飲まないように通知いたします。」
「とりあえず、そうして。毒の排出源を探せば、問題は解決できるかもしれない。原因をつきとめるまでは、井戸水を飲まないようにして。ちょっと面倒だけど、川の水は安全だから。」
80人を治療して一息ついていたところ、商工会義所の外が騒がしくなった。
何事かと扉を開けたところ、数百名の獣人が列をなしていた。
いずれの人も生気が無い。
(やっぱり、こうなるよねー)
ロダン会長が俺を見た
「ソウ様、他の住民と一部、貧民街の住人も居ます。いかがなされますか?」
「いかがなされますかって・・・治療するしかないでしょうが・・・」
「貧民街の者達もですか?」
獣人の世界でも上下関係、差別的な関係は存在するようだ。
そもそも、この街で流行っている病気は貧民街が発生源だという風評が立ち、貧民街で暮らす人々は肩身の狭い思いをしていたようだ。
「俺は誰からも謝礼を受け取らない。ならば、金があろうが無かろうが関係ないだろう。」
俺は少し怒気を含めて返事をした。
会長はその怒気をすぐに感じ取ったのか、一歩引いて頭を下げた。
「申し訳ございません。やはりあなた様は現神人であらせられる。・・・」
「賛辞はいいから、会議所の連中と、元気になった患者にも手伝って欲しいことがある。」
「はい、何なりと。」
「外に並んでいる人々のうち子供と老人それに、今にも死にそうな人を先頭へ並ばせてくれ、喧嘩にならないよう、必ず全員診てやると言って落ち着かせろ。」
いわゆるトリアージだ。
俺の体力にも薬にも限界がある。
命を救うのが先だ。
軽傷者は俺のヒールだけでもなんとかできるし最悪、俺の体力、魔力がつきても生きてさえいれば、俺の回復を待って治療すればいいだけのことだ。
俺は治療に専念したいのだ。
俺は商工会議所内で、次々と患者を診療しヒールをかけ続けた。
治療を終わって元気になった患者には、治療の手伝いをさせた。
最初、数百人だった患者は、治療しても治療してもその数を減らすことはなく、徐々にその数を増やしていった。
通信手段のないこの世界でも、命がかかった情報は口コミでも素早く行き渡るようだ。
(きりが無いな・・・)
「ソウ、大丈夫か?まだまだ増えそうだぞ。」
様子を見に来たドルムさんが心配そうに俺の表情を伺う。
「今のところ大丈夫です。でもあと100人くらいが今日の限度かも・・・」
「今日の限度って・・・明日もやるつもりか?」
「仕方ないでしょ。アハ」
「・・・仕方ないな。ソウらしいわ。ハハ」
俺は、その日深夜まで治療を続けた、おそらく1000を超える患者の治療をしたはずだ。
最後には意識を失いそうになった。
「ドルムさん。後たのむよ。」
俺はドルムさんを呼んで、後のことを頼み、意識を手放した。
翌朝、体力魔力が少し回復して目覚めたとき、会議所の外には千人を超える患者が待っていた。
患者の中には今にも死にそうな人も居たが、本当に病人なのか?と疑わしいほど元気な人も並んでいた。
ロダン会長に頼んで、一層のトリアージをお願いした。
昼頃までに200人程度の治療を終えた。
ほとんどの人は軽症でヒールのみの治療だったが、重症患者にはキレート剤を投与した。
キレート剤の残余は120錠程度。
昼食をとりながら休憩していると、外が騒がしくなった。
俺が様子を見に行くと若いオークが騒いでいる。
「俺が先にならんでんのに。なんでこんな貧民の猫を先に並ばせる。おかしいじゃねぇか。」
トリアージに文句を言っているようだ。
商工会議所の職員がオークをなだめている。
「だから、重病人が先なんだよ。そういう命令だからおとなしくしてくれ。」
「しるかよ。そんなこと。そんな猫、ほっときゃいいだろ。そいつらがこの病を流行らせたんだから。商工会の組合員の俺より、その猫の方が先だっていうのはおかしいだろ。組合費払わねぇぞ。」
なにか勘違いをしているようだ。
猫人を連れた母親が頭を下げた。
子猫はぐったりとしている。
「すみません。後ろに並びますから。でもどうか、この子を治してください。お願いします。」
オークが母親を蹴った。
「ここに並ぶな、くそ猫、おまえら巣に帰れ。ここは商工会議所だぞ。職人の施設だよ。」
(どこにでもいるよな・・まったく)
俺は母猫を助け上げてオークに質問した。
「ここは職人しか利用できないのかい?」
「当たり前だろ。ここは商工会議所。貧民が来るところじゃねぇよ。」
「そうか。すまんかった。じゃ俺は別の場所で治療するよ。」
俺は子猫に手をかざした。
俺の手のひらから青い光がまばゆく伸びて子猫を包み込む。
更に、キレート剤をミルクで飲ませた。
ぐったりとしていた子猫の顔に、みるみる生気が戻る。
子猫は目を開けて自分のお腹をさすった。
「母さん。痛くない。痛くないよ~」
母親の顔が輝く。
「ありがとう。ありがとうございます。」
俺の前にひざまずく母親の頭に手をかざして子猫同様にヒールした。
ヒールの光は青く美しく母猫を包んだ。
その様子を見ていた他の獣人が、一斉にひざまずいて俺に手を合わせた。
母猫を蹴飛ばしたオークが、その場に立ち尽くしてオロオロしている。
他の住人が冷たい視線をオークに浴びせた。
「どうだ?ここへは職人以外入れないのか?俺は職人じゃない。ここを立ち去るべきなのか?」
「あ、あ、あの、・・・すみませんでした。・・」
オークはその場に土下座した。
「謝る相手が違うだろ。」
「はい。」
オークは母猫に向かい謝罪した。
「それと、いっておくぞ、流行病の原因は毒だ。貧民街からではない。井戸の水に毒が入ってるんだ。街の井戸にも城の井戸にも。だから井戸水を飲むな。川の水を沸かして飲め。いいな。」
「「「「はい。」」」」
その日も深夜までかかって1000人近くの治療をした。
キレート剤はあと80錠ほど。
翌朝、治療の準備をしていると、ロダン会長があわててやってきた。
「ソウ様。たいへんです。」
「なんだ?」
「憲兵隊が、ソウ様を出せと。」
「なんで?」
「なんでも、インチキまじないで庶民をたぶらかしているとか。」
「どういうことだ?」
「おそらくですが、城の井戸水が毒だという噂が広まったのかと。その噂の元がソウ様だと・・」
この町を統べる者は、貧民街が汚染源だとして、貧民街の家を燃やし城の井戸水が安全だとして水銀入りの水を有料販売している。
おそらく、毒水を販売している者が商売を邪魔されて怒っているのだろう。
実力を行使して逃走しても良いが、病人はまだ沢山残っている。
原因は城内の井戸水にあるだろうから、その原因を調べたい気もする。
もし捕縛されても、よほどの事が無い限り脱走はできるだろう。
ここは一つおとなしく捕縛されて城内の様子を探ることにした。
「いいだろう。つきあうことにするよ。」
「え?捕まるのですか?私はあなた様を逃がそうと・・・」
「無理すんな。会長。俺を逃がすと、あんたが困るだろう?いいよ。俺はいつでも逃げ出せるよ。逃げなれているしね。アハハ」
ピンター達をキューブへ避難させた後、俺は自ら屋外へ出た。
屋外には重装備の竜族の兵士20名ほどが待機していた。
隊長らしき男が歩み寄って来た。
「お前か、インチキ呪い師は。」
「違う。呪い師じゃない。ただの人狼、ソウだ。」
本当はライチをライベルへ送り届けた後、ライベルには長居せず、ルチアを追いかけるつもりだったが、今にも死にそうな獣人達を見捨てることができず、結局、下町中の病人を治療する羽目になってしまった。
病気の原因は水銀中毒、城内の井戸から汲んできたという水からメチル水銀が検出されたのだ。
念のために町内の井戸水を検査したところ、こちらからも水銀が検出された。
幸いなことに街から少し離れた川の水は汚染されていなかった。
井戸水に何らかの原因があることは間違いないようだ。
治療場所を確保するため、ライチの叔父レンヤが商工会議所に掛け合い、商工会議所の講堂を仮の診療所とすることにした。
俺はレンヤに連れられて、商工会議所の商工会長の部屋に居る。
「レンヤ、この方が?」
「会長、そうですだに。俺の一家もシゲルの一家も、瞬く間に治してくださっただによ。」
商工会長は白いあごひげを蓄えた竜族の男だ。
会長は俺を見て会釈する。
「初めまして、商工会議所会長ロダンと申します。組合員がお世話になったそうで、ありがとうございます。」
「いえ、たいしたことはしていないです。先祖が残してくれた薬が役立ったようです。」
「ご先祖の貴重な遺産を見ず知らずの者に分け与えるとは、神の慈悲のような行いですな。心より感謝いたします。」
会長は深々と頭を下げた。
「それで、私たち商工会にできることはございませんでしょうか。」
「あります。城からの井戸水も含めて、この地域にある一切の水を飲まないようにしてください。」
会長は驚いた顔を見せた。
「なんと。お城の水まで飲んではいけないとは、やはり水が汚染されていたのですか?」
「ええ、詳しいことを説明している時間はあませんが、今、流行っている病気の正体は毒です。おそらくこの地域の井戸全てが汚染されているのでしょう。ですからお城の水も危険です。飲んではいけません。」
「しかし、水を飲まないと、みな干からびてしまいます。」
「少し遠いですが川の水を使ってください。一度煮沸すれば大丈夫です。」
「しかし・・・」
会長は俺のことを、まだ信用できないようだ。
無理もない。
町民を治療したとはいえ、ごく少数を治療したに過ぎない。よそ者の俺に「すべての水が毒だ。」と言われても、一朝一夕には信用できないのだろう。
「俺の事を信用できないのはわかります。それなら、俺の治療を見てから、再度判断してください。」
商工会議所に俺の噂を聞いてやってきた病人は約80名、全てこの商工業地区に住んでいる住人だ。
レンヤとシゲル家族の知り合いばかりだ。
俺はその80人に連続してヒールをかけ、特に重篤だった竜人の子供にはキレート剤を服用させた。
患者80人は、さっきまで病気だったとは思えないほどの回復ぶりを見せた。
重篤だった竜人の子供は、けろっとした顔で、母親に甘えている。
竜人の母親は、ひざまずいて涙ながらに、俺を拝んでいる。
「こ、これは・・・あなた様は子供達の言うとおり、現神人であらせられますか?」
とうとうアラガミビトとまで呼ばれてしまった。
「そんないいもんじゃないですよ。アウラ様に失礼だ。アハ」
「アウラ様?龍神様をご存じで?」
「ええ。たまに一緒にご飯食べますよ。なっ」
俺はそばに居たピンターに相づちを求めた。
「うん。アウラ様、酒癖悪いよね。ウフフ」
会長は竜人族、アウラ様はロダン会長の先祖とも言える。
会長はその場にひざまずいた。
「これは、これは、やはり、神の使徒様でございましたか。全て納得がいきました。おいいつけどおり、この街の全ての人に井戸水を飲まないように通知いたします。」
「とりあえず、そうして。毒の排出源を探せば、問題は解決できるかもしれない。原因をつきとめるまでは、井戸水を飲まないようにして。ちょっと面倒だけど、川の水は安全だから。」
80人を治療して一息ついていたところ、商工会義所の外が騒がしくなった。
何事かと扉を開けたところ、数百名の獣人が列をなしていた。
いずれの人も生気が無い。
(やっぱり、こうなるよねー)
ロダン会長が俺を見た
「ソウ様、他の住民と一部、貧民街の住人も居ます。いかがなされますか?」
「いかがなされますかって・・・治療するしかないでしょうが・・・」
「貧民街の者達もですか?」
獣人の世界でも上下関係、差別的な関係は存在するようだ。
そもそも、この街で流行っている病気は貧民街が発生源だという風評が立ち、貧民街で暮らす人々は肩身の狭い思いをしていたようだ。
「俺は誰からも謝礼を受け取らない。ならば、金があろうが無かろうが関係ないだろう。」
俺は少し怒気を含めて返事をした。
会長はその怒気をすぐに感じ取ったのか、一歩引いて頭を下げた。
「申し訳ございません。やはりあなた様は現神人であらせられる。・・・」
「賛辞はいいから、会議所の連中と、元気になった患者にも手伝って欲しいことがある。」
「はい、何なりと。」
「外に並んでいる人々のうち子供と老人それに、今にも死にそうな人を先頭へ並ばせてくれ、喧嘩にならないよう、必ず全員診てやると言って落ち着かせろ。」
いわゆるトリアージだ。
俺の体力にも薬にも限界がある。
命を救うのが先だ。
軽傷者は俺のヒールだけでもなんとかできるし最悪、俺の体力、魔力がつきても生きてさえいれば、俺の回復を待って治療すればいいだけのことだ。
俺は治療に専念したいのだ。
俺は商工会議所内で、次々と患者を診療しヒールをかけ続けた。
治療を終わって元気になった患者には、治療の手伝いをさせた。
最初、数百人だった患者は、治療しても治療してもその数を減らすことはなく、徐々にその数を増やしていった。
通信手段のないこの世界でも、命がかかった情報は口コミでも素早く行き渡るようだ。
(きりが無いな・・・)
「ソウ、大丈夫か?まだまだ増えそうだぞ。」
様子を見に来たドルムさんが心配そうに俺の表情を伺う。
「今のところ大丈夫です。でもあと100人くらいが今日の限度かも・・・」
「今日の限度って・・・明日もやるつもりか?」
「仕方ないでしょ。アハ」
「・・・仕方ないな。ソウらしいわ。ハハ」
俺は、その日深夜まで治療を続けた、おそらく1000を超える患者の治療をしたはずだ。
最後には意識を失いそうになった。
「ドルムさん。後たのむよ。」
俺はドルムさんを呼んで、後のことを頼み、意識を手放した。
翌朝、体力魔力が少し回復して目覚めたとき、会議所の外には千人を超える患者が待っていた。
患者の中には今にも死にそうな人も居たが、本当に病人なのか?と疑わしいほど元気な人も並んでいた。
ロダン会長に頼んで、一層のトリアージをお願いした。
昼頃までに200人程度の治療を終えた。
ほとんどの人は軽症でヒールのみの治療だったが、重症患者にはキレート剤を投与した。
キレート剤の残余は120錠程度。
昼食をとりながら休憩していると、外が騒がしくなった。
俺が様子を見に行くと若いオークが騒いでいる。
「俺が先にならんでんのに。なんでこんな貧民の猫を先に並ばせる。おかしいじゃねぇか。」
トリアージに文句を言っているようだ。
商工会議所の職員がオークをなだめている。
「だから、重病人が先なんだよ。そういう命令だからおとなしくしてくれ。」
「しるかよ。そんなこと。そんな猫、ほっときゃいいだろ。そいつらがこの病を流行らせたんだから。商工会の組合員の俺より、その猫の方が先だっていうのはおかしいだろ。組合費払わねぇぞ。」
なにか勘違いをしているようだ。
猫人を連れた母親が頭を下げた。
子猫はぐったりとしている。
「すみません。後ろに並びますから。でもどうか、この子を治してください。お願いします。」
オークが母親を蹴った。
「ここに並ぶな、くそ猫、おまえら巣に帰れ。ここは商工会議所だぞ。職人の施設だよ。」
(どこにでもいるよな・・まったく)
俺は母猫を助け上げてオークに質問した。
「ここは職人しか利用できないのかい?」
「当たり前だろ。ここは商工会議所。貧民が来るところじゃねぇよ。」
「そうか。すまんかった。じゃ俺は別の場所で治療するよ。」
俺は子猫に手をかざした。
俺の手のひらから青い光がまばゆく伸びて子猫を包み込む。
更に、キレート剤をミルクで飲ませた。
ぐったりとしていた子猫の顔に、みるみる生気が戻る。
子猫は目を開けて自分のお腹をさすった。
「母さん。痛くない。痛くないよ~」
母親の顔が輝く。
「ありがとう。ありがとうございます。」
俺の前にひざまずく母親の頭に手をかざして子猫同様にヒールした。
ヒールの光は青く美しく母猫を包んだ。
その様子を見ていた他の獣人が、一斉にひざまずいて俺に手を合わせた。
母猫を蹴飛ばしたオークが、その場に立ち尽くしてオロオロしている。
他の住人が冷たい視線をオークに浴びせた。
「どうだ?ここへは職人以外入れないのか?俺は職人じゃない。ここを立ち去るべきなのか?」
「あ、あ、あの、・・・すみませんでした。・・」
オークはその場に土下座した。
「謝る相手が違うだろ。」
「はい。」
オークは母猫に向かい謝罪した。
「それと、いっておくぞ、流行病の原因は毒だ。貧民街からではない。井戸の水に毒が入ってるんだ。街の井戸にも城の井戸にも。だから井戸水を飲むな。川の水を沸かして飲め。いいな。」
「「「「はい。」」」」
その日も深夜までかかって1000人近くの治療をした。
キレート剤はあと80錠ほど。
翌朝、治療の準備をしていると、ロダン会長があわててやってきた。
「ソウ様。たいへんです。」
「なんだ?」
「憲兵隊が、ソウ様を出せと。」
「なんで?」
「なんでも、インチキまじないで庶民をたぶらかしているとか。」
「どういうことだ?」
「おそらくですが、城の井戸水が毒だという噂が広まったのかと。その噂の元がソウ様だと・・」
この町を統べる者は、貧民街が汚染源だとして、貧民街の家を燃やし城の井戸水が安全だとして水銀入りの水を有料販売している。
おそらく、毒水を販売している者が商売を邪魔されて怒っているのだろう。
実力を行使して逃走しても良いが、病人はまだ沢山残っている。
原因は城内の井戸水にあるだろうから、その原因を調べたい気もする。
もし捕縛されても、よほどの事が無い限り脱走はできるだろう。
ここは一つおとなしく捕縛されて城内の様子を探ることにした。
「いいだろう。つきあうことにするよ。」
「え?捕まるのですか?私はあなた様を逃がそうと・・・」
「無理すんな。会長。俺を逃がすと、あんたが困るだろう?いいよ。俺はいつでも逃げ出せるよ。逃げなれているしね。アハハ」
ピンター達をキューブへ避難させた後、俺は自ら屋外へ出た。
屋外には重装備の竜族の兵士20名ほどが待機していた。
隊長らしき男が歩み寄って来た。
「お前か、インチキ呪い師は。」
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