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第五章 獣人国編

第115話 三大英雄

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達はライベルでの水銀中毒問題を解決してから一路ジュベル国の首都オラベルを目指していた。

オラベルへ向かうウルフには俺、ドルムさん、ピンター、ガラクが乗車していた。
ライベルからオラベルまでは約2000キロ、順調に進めば3日ほどの旅路だ。

「しかし、この馬車、すごいな。馬よりも早く疲れることもない。乗り心地も抜群だ。」

ガラクがつぶやいた。
そのつぶやきを聞いたドルムさんが反応した。

「この馬車のすごいところは走りだけじゃ無いぜ。ナビ、ビール出して。」

運転席と助手席の間にある白いボックスから缶ビールがせり出してきた。
ドルムさんは缶ビールのプルトップを開けると一口飲んで、残りをガラクに差し出した。

「うむ。口の中で冷たい酒が踊ってる。うまいな。」

ウルフは暖房が効いているので冷たいビールは美味しいはずだ。
俺は笑いながら言った。

「ドルムさん。そこそこにして下さいよ。いつ敵があらわれるかも知れないですからね。」

「わかってるって。ガラクにウルフの説明をしたかっただけだ。」

「ほんとうですか?ハハ」

俺の言う敵とはヒュドラ教のことだ。

ライベルでもガラクと戦う前に狙撃されたし、ライベルの毒水もヒュドラ教の仕業だった。

ジュベル国の獣人そのものも立場上敵と言えないこともなかったが、俺の内心では敵視していなかった。
ルチアやガラク、俺の身内とも言える獣人がいるからだ。
今オラベルへ向かっているのもゲラン国とジュベル国の戦争を回避するためなのだ。

戦争で傷つくのはいつも女子供だ。
俺は今までに俺に親切にしてくれたキノクニの人々や俺を信じてくれているあちこちの村人のためにも無益な戦争を回避したいのだ。

ライベルを出発してから3日目の昼頃、俺達はオラベル領内に入った。
オラベルはジュベル国の首都、人口30万人程度、北は人間では踏破不可能な山岳地帯、東には、今は亡きダニクの出身地ラーシャ国、西にはドルムさんの生国グリネルがある。

住人は、ほぼ獣人だがラーシャやグリネルとの交流もあるので人族も多く住んでいる。
国王はライオン獣人「ゼルシム・ガント、通称獅子王」だ。

治世は王の下、各種族の代表による合議制が敷かれている。
王は世襲制では無く、数年に一度、各種族の代表が戦い、その地位を決定するとのこと。
これらのことを道中ガラクから教わった。

「ガラク、獅子王はどんな人だ?」

俺は獅子王に関する情報をもっと得たかった。

「どんなとは?」

「強いのか?」

「ああ、俺が10人束になってかかってもかなわないよ。」

ガラクは強い。
俺が獣王になる前にガラクと戦った時、窮地に追い込まれたことがある。
俺の体調が不十分だったということもあるが、ガラクが身体変化し、あの金棒を持てば、まさしく「鬼に金棒」並の戦士では勝てないだろう。

そのガラクが言うのだ。
「俺が10人いても勝てない」と

「なんといっても獅子王様の『咆吼』はすさまじい。あれを受けてまともに立っていられる者はこの世にいないだろうな。獅子王様には魔法攻撃は効果無いし、物理攻撃もほぼ効かない。俺は獅子王様に勝てる戦士を想像すらできない。」

「そうなのか・・・」

ドルムさんが割り込んだ。

「ソウ、心配すんな。獅子王と戦わなけりゃ負けることは無いさ。アハハ」

俺は獅子王と戦いたいとは思っていなかった。
それでも戦争を避けるために獅子王と戦うことが必要になれば、戦うつもりでは居た。

ナビが音声案内した。

『オラベル検問所まで後1キロ地点に到着しました。これからの指示をお願いします。』

「ナビ、ご苦労。周囲を検索してウルフを隠せる場所を探してくれ。」

『了解しました。200メートル西方の森が適切な場所と判断します。移動しますか?』

「ナビ、その場所へ移動だ。」

俺達はオラベルの城下町から少し離れた森に移動した。

「ドルムさん、ピンター、まずガラクと一緒に街の様子を見てくる。ルチアと会えるようになったら呼ぶから、ここで待機して。」

「ああ、わかった。」

「兄ちゃん、待ってる。」

オラベル領内には隣国の商人達も出入りしているそうだからドルムさんやピンターが入国しても問題ないだろうが、万が一を考えて安全策を取ることにした。

俺とガラクで歩いてオラベル城壁へ向かった。
オラベル城はライベル同様の要塞都市で高さ7~8メートルの城壁が見渡す限り続き城壁内には住宅地が広がっている。
住宅地の奥には二つ目の城壁があり、その奥に巨大な石造りの城がある。

城の右隣には大きな広場がある。
観客席らしきものがあることから、おそらく闘技場なのだろう。

森を出て主たる街道を歩いて城の外門に向かった。

「ガラク、街へ入るのに問題は無いか?」

「ああ、問題ない。人族ならば通行証が必要だが、俺やソウのように一目で獣人だとわかる者は難なく通行できる。」

俺は今、獣人Ⅱの姿をしている。
獣王の姿で居る方が楽なのは楽なのだが、獣人Ⅱの姿でいると魔力消費が激しく負荷がかかる。

負荷がかかるということは魔力増加の訓練にもなるのだ。
つまり俺は常時、魔力増加の訓練をしていることになる。

門の外側には、行商人や旅人が長い列を作っている。
並んでいる人の数から考えて門の中へ入るのには数時間かかりそうだ。

検問の順番を待っていると巡回中の兵士がガラクの前で足を止めた。
その兵士はガラクの姿を見て

「ガラク大隊長殿?・・」

と声を出した。

「おお、ドラガ、久しぶりだな」

ドラガと呼ばれた兵士はガラクに敬礼をした。

「いつご帰還をされました・・・それより、どうしてここに並ばれているのでありますか?」

「いや、いろいろあってな、俺は今平民だ。かまわず職務に戻ってくれ。」

「いや、そういうわけにはまいりません。」

兵士はガラクの耳元で何かささやいた。
ガラクは俺を向いた。

「ソウ、行こう。兵士が何か尋問したいそうだ。俺達を連行するってよ。」

「え?」

「いいから、黙ってついて行こう。」

ガラクは微笑んでいる。
おそらくガラクの知人が気を利かせて、検問の順番をとばしてくれるのだろう。

俺達は兵士に前後を挟まれた形で、検問所へ進んだ。
道すがらガラクから聞いてドラガはガラクの直属の元部下だったことがわかった。

ドラガに続いて検問所の横手のドアから検問所内へ入った。

ドラガは俺達を椅子に座るように勧めてくれ、部下に命じて飲み物を用意してくれた。

「ガラク大隊長殿、よければ詳しく話していただけますか、何かお役に立てることがあれば申しつけて下さい。」

検問所内の事務室でドラガという兵士が話しかけてきた。

「たいしたことじゃないさ。ヌーレイの野郎に逆らったら、死刑を言い渡されただけさ。」

ドラガは目を見開いた。

「いや、それ大したことありますから。よくぞご無事で。」

ガラクは俺を見て

「この御仁。ソウが俺を助けてくれた。武力で助けてくれたのではなく、住民を総動員してヌーレイを説得したんだ。たいしたもんだよ。」

「ヌーレイ様を説得したなんて驚きですね。」

「ああ、驚きだ。もっともソウの力をもってすれば、ヌーレイやライベルの兵士では太刀打ちできなかっただろうがな。俺なんてボディ一発で沈められたからな。フフ」

ドラガが俺を見る。

「それほどのお力をお持ちで・・・」

少し照れる。

「俺のことはどうでもいいよ。それより早くライジンに会えるようにしてくれ。」

俺は一刻も早くライジン将軍に会い、ルチアの無事を確認したかった。
それに停戦規約を破ってセプタを殲滅させた理由も聞き出したかった。

「あわてるな。俺は今平民だ。いろいろと根回しをしないと、すぐには会えない。ソウが直接、城に乗り込んでも面会は無理だろう。ソウはゲランの交渉人、ジュベルにとっては敵であることに違いないからな。へたすればいきなり戦闘になるかもしれないぞ。」

そういわれれば、そうだ。
俺はゲラン国のネゴシエーターとしてセトやライジン将軍と接してきたのだ。
ジュベル国にとってみれば憎いゲラン国の一員なのだ。

ガラクの言葉にドラガが反応した。

「今、ゲラン国といいませんでしたか?」

ガラクがドラガを見て言った。

「気にするな。ゲラン国というのは聞き間違いだろう。このソウは、ライベルの民数万人を病から救った英雄だ。」

ドラガは不審な表情をした。

「ライベルの街が流行病に冒されているというのはライベルからの遠話による定期報告で城内にも知らされていました。そして流行病も鎮圧されたと。しかしそれはヌーレイ様が手に入れた秘薬によるものだと聞いています。」

ヌーレイも自分が毒水を売って病が広まったとは報告できないだろう。
それにしても・・

ガラクが牙をむきだした。

「ヌーレイの野郎・・・」

「ガラク隊長?・・治療はヌーレイ様の秘薬によるものではないのですか?」

「違うよ。全てはこのソウの力によるものだ。・・・まぁいずれ真相は誰にもわかるはずだ。ライベルの住民全員が知っていることだしな。それより、ドラガ、頼みがある。」

「はい。」

「城内の近衛隊まで行ってセトに伝言をしてくれないか?」

「お安いご用で。」

「ガラクとソウがセトに会いたがっていると。」

「了解しました。ここでお待ちください。すぐに行って参ります。」

事務室には若い兵隊2人と俺達が残った。
若い兵隊の一人が飲み物のおかわりを持ってガラクに近づく。

「あのう・・・」

「なんだ?」

「あなた様は、あの三大英雄、ガラク様、ガラク大隊長様でしょうか?」

「その呼び名は止めろ。こっぱずかしい。」

ガラクが照れている。
面白い。

俺はガラクをからかいたくなった。
少しにやけ顔でガラクに言った。

「何だ?その三大英雄っていうのは?」

ガラクはむっとした。

「止めろよ。ソウまで。」

「俺はお前のことをまだよく知らない。教えろよ。フフ」

「んむぅ・・・昔この国が隣国ラーシャとの戦争になった時、俺とセトそれにライジン将軍が大勢を相手に戦ったことがある。その時についた二つ名だ。」

「へぇ、じゃセトもライジンも英雄なんだ・・・」

「そういうことになるな。」

「大勢の敵って何人くらい?」

「詳しくはしらんが数千だろうな・・・」

若い兵隊がしゃしゃり出た。

「それにドラゴンも。」

俺はブラックドラゴンを思い出し、驚いた。
アウラ様でさえ苦戦したあのドラゴンをガラク達がやっつけたというのか?

「え?ドラゴンもやっつけたの?」

「ああ、といってもワイバーンだがな。2~3匹は倒したような記憶がある。」

ワイバーンなら俺も倒したことがある。
ブラックドラゴンとは比べものにならないが、それでも獣人や人間の相手になるような代物ではない。

「ワイバーンでもすごいな。それも複数倒すなんて。」

「実力で倒したのは一匹だけだ。後は魔物使いを殺して無力化した。」

魔物使いというのは遠隔で獣をあやつる加護を持つ者のことだ。
俺やアウラ様もフォナシス火山でその加護に手を焼かされた。

若い兵士達と雑談をしているうちに1時間ほど過ぎただろうか。
事務室のドアが開いてドラガとセトが入ってきた。

セトはライジン将軍の部下で竜人族、セプタを襲撃した軍の一員だ。

セトはガラクを見た後、俺を見た。
そして俺の前に歩み寄り片膝をついて頭を下げた。

「すまない。」

ガラクを含めて周りは驚いている。
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