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第五章 獣人国編

第150話 五分の盃

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ライベルの戦争は膠着状態だった。
攻める側のゲラニ軍の攻撃は魔法攻撃が主体だったが、守る側のライベル守備隊にはセトをはじめ魔法攻撃を無効化するスキルを持つ兵士が多く居たし、物理攻撃はライジンやレギラがことごとく返り討ちにしていた。

しかしライベル側にも弱みはあった。
戦闘が長引けば自然と兵糧が無くなる。
いわゆる兵糧攻めをされると弱い立場なのだ。
現場の兵士に食料が行き渡ってないようなのだ。

俺はライベル側にもゲラン側にも付かないつもりだったが、オオカミ村に避難したライベル住民の食糧を確保するためにも一計を案じた。

「ロダンさん。もしジュベル国首都オラベルとここをゲートでつなげれば食料を確保できますよね?」

「それは、もちろんです。首都オラベルにはここの兵士や住民を養う兵站が十分に備蓄されています。ただ・・」

「何です?」

「大量の食料を移動させるには国の許可が必要です。特に軍事作戦中は商業としての食料の大量売買は厳しく監視されますので、私だけの力では少量の食料しか確保できないかと・・」

戦時中の物資が国の管理下に置かれるのは当然のことだろう。
食料も例外では無い。

「わかった。国の許可があればいいんだね。ここで言うなら誰がその許可を出せる?」

「それは、ヌーレイ様かレギラ様かと・・」

ヌーレイもレギラもやっかいだな。
どちらかと言えばレギラか・・
レギラは馬鹿だが卑怯では無い。

「わかった、レギラと掛け合ってくる。ロダンさんは運搬の準備をしてて。」

「はい。わかりましたが大丈夫ですか?」

ロダンさんは俺とヌーレイ、レギラとのいきさつをある程度知っていて心配してくれているのだろう。

「大丈夫ですよ。ジュベル国の助けにもなるんだから。たぶん・・・」

そばにいるドルムさんが心配そうな顔をしている。

「喧嘩すんなよ。ソウ。」

「うん。わかってますって。ハハ」

俺は戦闘が止んだ隙に正面の門にいるレギラに近づいた。

「レギラ・・」

俺が声をかけると同時にレギラが殺気を込めた拳を俺に向け、振り抜いた。
俺はレギラの行動を予想していたので戦闘態勢で近づいた。
未来予測のおかげでレギラの拳を見切ることが出来た。

高速で硬度の高い拳が俺の顔の横をすり抜ける。
タテガミが何本かちぎれた。

追撃でレギラの右足が飛んでくる。
俺はレギラの前蹴りを一歩下がって避ける。
前髪が何本かちぎれ飛ぶ。
俺は守備体制を解かないが攻撃の姿勢も見せない。

「チッ!!」

レギラが舌打ちをする。

「あれが当たらないのか。どんな加護をもってやがる。ふん」

側に居たセトが口を開いた。

「ソウ。何の用だ。友達は無事救出したんだろ?」

「ああ、おかげで無事だ。今日はそのことにも関連がある話だ。あの時俺の友達は敵軍、ゲラン軍にいた。それはいろいろな事情があるんだが、ま、それはおいといて、俺はその敵軍を助けた。だがら、それは、お前達に対する借りだと思っている。」

レギラが苦々しい顔をして言った。

「で、なんだ。その貸しを返しに来たとでも言うのか?ふん。」

「ああ、そうだ。借りを返しに来た。」

レギラもセトも「え?」という顔をしている。

「単刀直入に言う。ゲラン軍はおそらくお前達を兵糧攻めにするだろう。ここライベルの泣き所は食料だ。なぜ食料が少ないのかは知らないが、城の備蓄はわずかだという。だから俺がそれを補填しよう。オラベルからここまで食料を運んでやる。すぐににだ。」

レギラが言う。

「どうやって?どうしてお前がそんなことをする?」

「言っただろう借りを返すためだ。それと俺はライベルの子供や女性お年寄りを3000人くらい保護している。その子達の食料も確保したいんだ。だからオラベルにある食料庫を開放しろ。俺がゲートで運んでやる。」

セトがレギラを見る。

「若、ソウの言っていることは事実です。ここライベルに子供や女性、老人が見当たらないのは、ソウが避難させているからだそうです。私の直属の部下からの報告ですので間違いないと思われます。」

「なんだと。3000人もソウが保護しているというのか?ヌーレイは何も言ってなかったぞ?間違いないのか?」

俺はレギラに言った。

「本当だ。ここライベルには縁のある人が多い。だからその家族、女子供を俺があずかっている。なんなら見に来るか?俺の村を。」

「住民に何の縁があるというのだ?」

「流行病から救った縁だ。一度救った者を見殺しに出来ないからな。」

「それが3000人も居るというのか?」

「それ以上だ。」

「・・・・・」

セトが口を開いた。

「もしソウが食料を運んでくれるならライベルにとって大きな利益です。ご心配なら、一度ソウの言うことを確認されてはいかがでしょう?」

「ソウの村へ行けというのか?」

「はい。私もお供致します。」

レギラは少し悩んだが俺を見て言った。

「わかった。確かめてやろうじゃないか。ただし少しでもウソがあれば、その場で・・」

「俺を殺すんだろ。いいぜ、その時はお前の拳を正面から受けてやるよ。死なないけどな・・ハハ」

俺は、その場にオオカミまでのゲートを開いた。

レギラは度胸があるのか何も言わず、指示されるままゲートをくぐった。
セトもそれに続いた。

ゲートから出たレギラは目を丸くしている。
美しい町並みと街路樹。
清らかな水が流れる水路。
広場には噴水のある池と子供達の笑い声。

「こ、ここは・・・」

「俺の村、オオカミ村だ。」

セトもあんぐりと口を開けている。

「これは・・村と言うよりも都市だな。ライベルよりも整っている。」


ゲートから出てきた俺達を広場で遊んでいた子供達が見つけて駆け寄ってきた。

「兄ちゃんお帰り。」
「ソウ様お帰りなさい。」
「「「「おかえりなさーい」」」」

ピンター、ライチ、ヒュナ、レンヤさんの子供、シゲルさんの子供、その他多くの子供達。獣人、人間、種族のことは全く関係なく仲良く遊んでいたようだ。

レギラがピンターを見た。

「人間の子供もいるようだが?」

「ああ、ライベル以外の場所からもヒュドラの迫害を受けた子供達を連れてきている。」

「全員、お前が面倒をみているのか?」

「ああ、俺と俺の仲間が子供達の面倒を見ている。」

俺達を見つけたロダンさんも駆け寄ってきた。

「子供だけではありませんよ。レギラ様。老人や女性、怪我人もソウ様のお世話になっています。」

「ロダン・・久しいな。では、ライベルを流行病から救ったのも・・・」

「そうです。全てソウ様がお一人で、何万人という患者を治療なされました。それこそ自分の体を犠牲にしながらお救いくださったのです。ソウ様はライベルの大恩人でございます。」

レギラは何も言わなくなった。
代わってセトが口を開く。

「ソウ。世話になったな。礼を言う。」

「礼なんていらない。それよりこの子達の食べ物を用意しろ。俺が運んでやる。」

セトがレギラを見る。
レギラは重い口を開いた。

「どうやら俺が間違っていたようだな。謝罪すべきだろうな。」

レギラが俺を向く。
レギラが頭を下げようとするが、俺がそれを遮る。

「やめろ。レギラ。一国の王族が簡単に頭を下げるな。お前はお前の信念に基づいて行動したんだろ?だったらそれでいいじゃないか。お前の謝罪なんてもらっても腹は満たない。それよりも国元にかけあって食料をわけてくれ。」

「しかし・・・それでは俺の気がすまん。俺が悪かった。ソウすまない。」

レギラは馬鹿だが卑怯では無い。
むしろ正直者のようだ。

「・・・わかった。謝罪は受け取った。この件はこれ以上無しだ。それより食料をなんとかしてくれるか?」

セトもロダンさんもほっとしている。

「もちろんだ。国元の兄上に説明した上、備蓄食料を解放しよう。兵士にも、もちろん子供達にも。」

これで食糧事情は解決される。
おまけにレギラの誤解も解けたようだ。
誤解が解けたレギラの動きは早かった。
俺がオラベルまでのゲートを開通させると、レギラ自らが国王に報告をし、国の備蓄食料をライベルに流した。

ライベルの備蓄食料が少なかった件や流行病の顛末を国元から派遣された調査官が調べたところヌーレイとサルディアの様々な不正が発覚しヌーレイとサルディアは拘束されて裁判にかけられることとなった。

その間一週間、戦争は膠着状態のままだ。
俺はライベル城の領主の間にいる。

「ソウ。いろいろとすまなかった。俺は人を見る目がなかったようだ。」

「いいさ、今更。俺は自分の知人を救いたかっただけだ。」

「それにしてもお前はすごいな。腕力もさることながら病人の治療もできるし大きな街を造るし、ゲランにそんな人物がいるなんて聞いたこと無いぞ。」

「俺はゲラン国人じゃない。」

「では、いったいどこから?」

「口では説明出来ないほど、遠いところからだ。」

「ふーん。なにやら事情がありそうだな。・・・それより、どうだソウ。俺と一緒に兄上、獅子王様に仕える気は無いか?俺と共にジュベル国を守ってくれないか?」

「レギラ、誘いは嬉しいが、俺はどこの国にも属さないつもりだ。俺は俺の仲間と共に自分の故郷へ帰るのが一番の目標だ。だから困った人の手助けはするが誰かに仕えることは無い。わかって欲しい。」

レギラは天井を見上げた。

「そうか・・・それは残念だが無理はいえんだろうな。だが、これならどうだ?俺と兄弟分になれ。五分の杯だ。それが駄目なら俺が弟分でもいい。お前とはわずかな付き合いだが、俺はお前に男として惚れた。俺と兄弟になれ。」

セトとその他の部下が驚いている。
レギラと兄弟分になると言うことはジュベル国次期国王であろう王族と縁故になるということだ。
もちろん血のつながりは無いが得る権力は計り知れないものがある。
俺は少し迷った。

レギラからの申し出は正直嬉しかったが、異世界の俺がこの世界にしがらみを作って良いのかどうか。
しかしよく考えてみればピンターやドルムさんドランゴさん達、この世界へ来てから知り合った人達と家族同様の間柄になっているのだから、今更一人増えたところでどうっていうことはない。

「わかった。レギラ兄弟分になろう。どっちが上でも下でも無い。お前と俺は五分の兄弟だ。お互いに助け合おう。」

「よっしゃ。」

俺とレギラは固く握手をした。

セトと部下達が拍手をする。
俺はレギラと何度か喧嘩をしたがレギラのことが嫌いでは無かった。

むしろレギラのようなカラッとした性格は好きな方だ。
俺と喧嘩した理由も国民のことを思った上でのことだから何も遺恨は無い。
それにレギラは行方不明のルチアの伯父でもある。
仲良くなっていても損は無いだろう。

その夜レギラをキューブへ招いた。
レギラは大酒飲みだった。
何分もかからずアウラ様、ドルムさん、ドランゴさんと仲良くなった。
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