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第三章:ン・キリ王国、モンスターの大攻勢を受けるのこと。
第六節:近衛隊長ロベンテ、ルーチェの悩みを聞くのこと。
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「どうだ、美味かったか」
食事が終わったのか、あるいはルーチェが満足そうな顔をしていたからか、そろそろと言ったていで問いかけるロベンテ。
「はいっ!」
一方で、笑顔で頷くルーチェ。彼女にとって、本日の経験はかなり貴重なものであったのか、いい顔をしていた。
「さて、それじゃ城に戻るか。いーお、定勘お」
「っいは
にり造お、げ揚田竜、に皿2米、蛮南の魚身白、すまりなにセゼ8計合で鍋手猪小」
「うお。……れほ」
「すまいざごうとがりあ。すまいざごでセゼ2のり釣おはでれそ」
「ああ、なはで」
「すまいざごうとがりあどいま、いは」
「……さて、ん?どうしたルーチェ」
本朝語が流暢なのに面食らったのか、程度の感覚でまたしても驚くルーチェに問いかけるロベンテ。だが、彼女が驚いたのは、また違った現象であった。それは。
「……今の人、紙も使わずに計算してませんでした?」
「ああ、そうだな」
「すごいですね……」
「ああ、とはいえまあ、これも向こうでは普通らしいが」
眼前のそこまで裕福でもなさそうな店員がいともたやすく暗算をやってのけたことに、またしても驚くルーチェ。彼女にとって、本朝国とは非常に興味深い国に映ったようだ。
「……とんでもない国ですね、ホンチョウって……」
「ま、そういうわけだ。さて、特に何も用がないなら城に戻るが……」
「そ、そうですね。もうこんな時間ですし」
「……ルーチェ、何か悩みがあるなら相談くらいには乗るぞ」
「……では、少し、いいですか?」
「ああ」
「実は、この前の「昔話」のことなんですが……」
「ほう?」
ルーチェが相談したかった事、それは……。
さらに遡って大陸暦910年1月28日朝、ヤセガエル亭の一室にて。
「昔話、ですか?」
「ああ」
「……それは、ひょっとして……」
「先回りするな、回復魔法についての説教ではない。本当に、俺が昔経験した話のことだ」
「はあ……」
「およそ、10年以上は前のことだ。当時俺はまだ駆け出しだった。しかもかなりいきがっていて同郷の相方と二人旅でおおよそのことを解決してきたこともあって、師が止めるのもろくに聞かず「キヤカの虎穴」に突入した。噂によると、そこにはアルガダという伝説の都があるという話だったからな」
「……で、あったんですか?」
「……ああ、ただそれは伝説の楽園などではなかった。そこにあるのは、約束された理想郷などではなく、今までのモンスターが動物に見えるほどの凶悪なモンスターが闊歩する無間地獄だった。どうにか脱出を試みて、俺は脱出できたんだが、相方が……」
「…………」
「相方は、貴重な治癒魔法の使い手だった。何せ、同郷どころか、当時その地方にはあいつほどの治癒魔法の使い手はいなかっただろう。その、治癒魔法の使い手を殺した。故郷に帰ることもできなくなった俺は、一人さすらうことになった。かつては、優男だったんだぜ?こう見えて」
「…………」
「おいおい、泣くな泣くな。自業自得なんだから。……ま、そういうわけで、だ。回復魔法の使い手ってのはそういう立場の人間なんだ。俺みたいな、頑健なだけが取り柄の一山いくらで取引されうる魔法もろくに使えない戦士とは違う。だから、今は休め。あいつら二人の身を案じるならば、休んで魔力を回復しろ。それが一番の戦術だ」
「……隊長さんは、その人を本当に殺したんですか?」
「いや?ただ、あいつが脱出できなかった情景をただ見守ることしかできなかった。事実上、殺したようなもんなんだよ」
「…………」
「相談ってのはそれだけか?」
「実は、まだありまして……」
「なんだ、早く言え」
「最近、妙な視線を感じるんです。最初は敵意かと思ったんですが、妙にその視線は穏やかでして……」
「……そうか。俺もそれは感じていた。魔法使いや神官などを見ている以上、おそらくは魔力目当ての偵察だろう。まったく、もはやこの世界情勢は人間同士で争っている状態じゃないというのに……」
「そう、ですよね、あはは……」
「まあ、近衛隊でもそれなりに警戒はしてみる。もう夜も遅い、帰るぞ」
「はいっ!」
食事が終わったのか、あるいはルーチェが満足そうな顔をしていたからか、そろそろと言ったていで問いかけるロベンテ。
「はいっ!」
一方で、笑顔で頷くルーチェ。彼女にとって、本日の経験はかなり貴重なものであったのか、いい顔をしていた。
「さて、それじゃ城に戻るか。いーお、定勘お」
「っいは
にり造お、げ揚田竜、に皿2米、蛮南の魚身白、すまりなにセゼ8計合で鍋手猪小」
「うお。……れほ」
「すまいざごうとがりあ。すまいざごでセゼ2のり釣おはでれそ」
「ああ、なはで」
「すまいざごうとがりあどいま、いは」
「……さて、ん?どうしたルーチェ」
本朝語が流暢なのに面食らったのか、程度の感覚でまたしても驚くルーチェに問いかけるロベンテ。だが、彼女が驚いたのは、また違った現象であった。それは。
「……今の人、紙も使わずに計算してませんでした?」
「ああ、そうだな」
「すごいですね……」
「ああ、とはいえまあ、これも向こうでは普通らしいが」
眼前のそこまで裕福でもなさそうな店員がいともたやすく暗算をやってのけたことに、またしても驚くルーチェ。彼女にとって、本朝国とは非常に興味深い国に映ったようだ。
「……とんでもない国ですね、ホンチョウって……」
「ま、そういうわけだ。さて、特に何も用がないなら城に戻るが……」
「そ、そうですね。もうこんな時間ですし」
「……ルーチェ、何か悩みがあるなら相談くらいには乗るぞ」
「……では、少し、いいですか?」
「ああ」
「実は、この前の「昔話」のことなんですが……」
「ほう?」
ルーチェが相談したかった事、それは……。
さらに遡って大陸暦910年1月28日朝、ヤセガエル亭の一室にて。
「昔話、ですか?」
「ああ」
「……それは、ひょっとして……」
「先回りするな、回復魔法についての説教ではない。本当に、俺が昔経験した話のことだ」
「はあ……」
「およそ、10年以上は前のことだ。当時俺はまだ駆け出しだった。しかもかなりいきがっていて同郷の相方と二人旅でおおよそのことを解決してきたこともあって、師が止めるのもろくに聞かず「キヤカの虎穴」に突入した。噂によると、そこにはアルガダという伝説の都があるという話だったからな」
「……で、あったんですか?」
「……ああ、ただそれは伝説の楽園などではなかった。そこにあるのは、約束された理想郷などではなく、今までのモンスターが動物に見えるほどの凶悪なモンスターが闊歩する無間地獄だった。どうにか脱出を試みて、俺は脱出できたんだが、相方が……」
「…………」
「相方は、貴重な治癒魔法の使い手だった。何せ、同郷どころか、当時その地方にはあいつほどの治癒魔法の使い手はいなかっただろう。その、治癒魔法の使い手を殺した。故郷に帰ることもできなくなった俺は、一人さすらうことになった。かつては、優男だったんだぜ?こう見えて」
「…………」
「おいおい、泣くな泣くな。自業自得なんだから。……ま、そういうわけで、だ。回復魔法の使い手ってのはそういう立場の人間なんだ。俺みたいな、頑健なだけが取り柄の一山いくらで取引されうる魔法もろくに使えない戦士とは違う。だから、今は休め。あいつら二人の身を案じるならば、休んで魔力を回復しろ。それが一番の戦術だ」
「……隊長さんは、その人を本当に殺したんですか?」
「いや?ただ、あいつが脱出できなかった情景をただ見守ることしかできなかった。事実上、殺したようなもんなんだよ」
「…………」
「相談ってのはそれだけか?」
「実は、まだありまして……」
「なんだ、早く言え」
「最近、妙な視線を感じるんです。最初は敵意かと思ったんですが、妙にその視線は穏やかでして……」
「……そうか。俺もそれは感じていた。魔法使いや神官などを見ている以上、おそらくは魔力目当ての偵察だろう。まったく、もはやこの世界情勢は人間同士で争っている状態じゃないというのに……」
「そう、ですよね、あはは……」
「まあ、近衛隊でもそれなりに警戒はしてみる。もう夜も遅い、帰るぞ」
「はいっ!」
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