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住人が4人になりました
しおりを挟む「ぷはっ!」
久しぶりに海面から顔を出すと、すぐ近くに大陸があった。
陸に上がると、澪凜は服の水分を弾き飛ばしてくれた。
「よし、じゃあどこかの土でも探そっか。」
「それより先に、換金所に行ってくれるか?」
「なんで換金所?」
「これじゃ。」
澪凜は胸のあたりから、小さな袋を取り出した。受け取って確認すると、中に沢山の宝石が入っている。
「え?!これどうしたの?!」
「海底に落ちておったぞ。何かの船が沈没した時などに流れたんだろう。それを金に換えて、遠慮なく使いなんし。」
「え、でも…。」
「良いのじゃ。わっちは金になど興味はありんせん。それにナギサは屋敷を作るのじゃろ?少しくらい金があった方が良いはずじゃ。その屋敷にはわっちも住むからな。」
「あ、なるほどね…。わかった、じゃあありがたく使わせて貰います。」
「じゃあ行くぞ。」
俺と澪凜は、王国の方へと歩き出した。
もうすぐ王国に着くというところで、俺はある事を思い出して固まってしまった。
「やばい、門番の事忘れてた…。」
「門番?なんじゃそれは?」
「えっとかくかくしかじかでー」
俺が説明をすると、澪凜は納得したような表情になった。
「なるほど、人間はよく考えているようじゃな。」
「だからお金が…。」
「わっちに任せておれ。」
澪凜はなぜか自信ありげに言うと、門の方へと迷う事なく歩いて行った。
「すまない、ここを通して欲しいのだが。」
「じゃあ、1人大銅貨3枚だ。それと、女の人は使い魔がいるみたいだから、プラス1枚かかるぞ。」
「それなのだが…。」
澪凜は小さく呟くと、突然胸のあたりをはだけさせた。門番の男は、澪凜の深い谷間に釘付けになっている。
「遠い村からやってきたばかりでな…金がないのじゃ。見逃してくれたら、帰りに少しいい事をしてやるんだが…。」
なんだからやけに体をくねらせながら、門番にアピールしている。
「それで通れるわけ…。」
「わ、わかりました!どうぞお通りください!」
「は?!」
「ふふっ、お前のような男嫌いじゃないぞ。」
澪凜は妖艶に微笑むと、俺の手を引っ張って迷わず入国した。
「なんか…男の扱い手慣れてるんだな。」
「何を言っておる。こう見えても、わっちはまだ初めてをとってある乙女じゃぞ?」
「まじか…。」
王国のずさんな警備と澪凜のテクニックに呆れながら、俺は換金所を目指した。
「ここかな…。」
俺たちの目の前に、高そうな宝石が並べられているお店があった。
入国してから通行人に何回か訪ねて、ようやくここまで来れた。
「なんか入るの怖いnー」
「失礼する。」
慣れないお店に怖気付く俺をよそに、澪凜は迷う事なく扉を開けた。
俺はため息をつきながら、澪凜の後に続いた。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」
「宝石の換金をお願いしたくて…。」
「かしこまりました、それでは拝見させていただきます。」
店内にいた男に袋を渡し、宝石を見ながら鑑定結果を待った。
「ナギサ、海のような宝石がありんす。」
「ほんとだ、すごい綺麗だな…。」
宝石を見て時間を潰していると、先ほどの男性に受付まで呼ばれた。
「それではこちらになります。」
男性は宝石の袋の隣に、別の袋をそっと置いた。中には高額の硬貨が何枚か入っている。
「うわ、急にお金持ちになったな…。」
「そちらでよろしいでしょうか?」
「はい、ありがとうござー」
「待て。」
「え?」
声のした方を見ると、澪凜が冷たい視線で男を見据えていた。
「お前、嘘をつくなら相手を選べ。」
「「え?」」
澪凜の言葉に、俺と男の声が重なった。
「えっと、どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味じゃ。わっちらを騙したいらしいが、そうはいかんぞ。」
「えっと…」
「とぼけても無駄じゃ。この宝石に見合った金を出せと言っているんじゃ。」
「あ…。」
澪凜の言いたい事がようやくわかった。おそらく、俺たちは少なめのお金をもらっていたらしい。宝石の価値に詳しくないので、言われるまで気がつかなかった。
男は澪凜に睨まれ、営業スマイルが完全崩壊している。
「わ、私はそのような事は…。」
「ほぅ、しらばっくれるという事か。それなら…。」
「ちょっ!」
俺の制止も無視して、澪凜は男の胸ぐらを掴んだ。そして男の顔に、蛇を近づけた。
「きっちり金を払うか、蛇毒で長い間苦しむ…どっちが好みじゃ?わっちの主人を騙そうとするなど、海に沈めてもいいくらいだが。」
「す、すみません!ちゃんと払いますから許してくださいぃ!」
「そうか、なら良いのじゃ。」
澪凜は嬉しそうに笑うと、パッと胸ぐらを掴む手を離した。男は慌てて受付の奥へと金を取りに行った。
「ありがとう澪凜。言われてなかったら気づいてなかった。」
「なに、仕草で嘘がバレバレじゃ。わっちを騙そうなど千年早い。」
「え、やだすごいイケメン。」
男はすぐに別の袋を持ってきた。中には先ほどと同じくらいの硬貨が入っている。
澪凜もそれに満足したのか、袋2つを持って俺たちは換金所を後にした。
「さてと…肥料とかから買おうかな。」
「荷物は惟吹が運ぶから心配しなんし。」
『シャー』
惟吹と呼ばれた蛇は、俺の方を見て嬉しそうに鳴いた。
ひとまず気ままに散策し、肥料の入った袋を4つほど購入した。重さ的にすこし心配だったが、惟吹は余裕そうに体に乗せている。
そのまま散策を続け、買い食いをしながら種や苗も買っていった。
「よし、こんなもんかな。」
「これで全部か?」
惟吹の体には、あれからすこし増えたがまだ楽しそうに荷物を運んでいる。
「あとは…本が欲しいかな。魔法とかの本は今まであまり読んでないからね。」
「そうか、ならそれを買って終わりじゃな。」
「惟吹もまだいけそう?」
『シャー!』
「よし、じゃあ早めに終わらせて帰ろうか。」
最後に本を10冊ほど買い、王国を出て陸の端の方へと向かった。
もちろん澪凜が門番に何かをする事はなかった。
「あ、やべ。完全に忘れてた。」
「どうしたんじゃ?」
俺は海を目の前にして、荷物に目を向けた。今まで陸で暮らしていたから忘れていたが、今日から海の中に暮らすのをすっかり忘れていた。
海の中を行くので、あの空気のある空間まで今日買ったものを濡らさずに運ぶ方法を考えた。
「そうだ…。」
俺は、数時間前にリヴェルガが使った魔法を思い出した。
「確か…『空気泡』」
買ったものに手を向けて詠唱すると、品を包むように丸い空気の塊ができた。
そのまま品ごと空気の塊を海に投げ込むと、濡れる事なく空気の膜に包まれて水面に浮かんだ。
「リヴェルガの言った通りだったな。」
「なかなか器用じゃな。では帰るか。」
俺は空気の膜を両手で押しながら、澪凜と拠点へ帰った。
拠点に帰ると、リヴェルガは既に着いていた。横に倒されたたくさんの木と一緒に。
「おう主人よ、帰ったか。」
「ねぇ…なにその、木?どっから持ってきたの…。」
「少し遠くの海から貰ってきた。セゾンの木と言ってな、季節に合わせて咲く花が変わるんだ。主人の屋敷を綺麗に彩って…って誰じゃ、そこの女は?」
「えっと、さっき会ったー」
俺が紹介するよりも先に、澪凜はリヴェルガに詰め寄った。
「忘れたとは言わせんぞ?こっちは、バカなお主に数百年も下敷きにされておったからな。」
「は?なんの話だ?」
「…もう良い。これでチャラにしてやろう。」
『キシャー!』
「う〝っ…体が、しび…。」
「リヴェルガ?!」
惟吹がリヴェルガに噛み付いたと思ったら、リヴェルガは固まったかのように動かなくなり地面に倒れた。
俺は慌てて駆け寄り、本に載っていた状態異常回復魔法をかけた。
「はぁっ…!助かった…。」
「ふんっ、これでおあいこじゃ。」
「我が何をしたと言うのだ!」
「えっと…実はー」
俺が代わりに説明すると、リヴェルガは申し訳なさそうな顔になっていった。
「その…すまなかった。」
「なに、もう良い。わっちの気も晴れた。今は良い主人がおるし、お互いナギサのために全力を尽くそうではないか。」
「そうだな。」
とりあえず2人が仲直りしたのを見て、俺は力が抜けたかのように座り込んだ。
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