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シャーク・エマージェンシー

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「…………重い。」

 もうすっかり慣れたはずだったが、俺は両隣を見て小さく呟いた。右には一姫が寝ており、左には二葉、足元にはアイルがいた。
 本来なら女性に対して言う言葉ではないのかもしれないが、流石に重かった。

「どうなってるんだよ全く…。」

 アイルをそっとどけながら、俺は部屋を出て行った。



「買い出し?」

「うん、何か新しい野菜でも育てようかなって。」

 朝食後、俺と一姫は畑の前で2人話していた。なんでも、畑が広がり少し余裕ができたとか。

「なんでもいいの?」

「そうね…出来れば、たくさん買ってきてくれればありがたいわね。」

「なら適当に見てくるよ。」

「私も行きますわ、少し欲しいものがあるので。」

「わかった、じゃあ行こっか。」

 五十鈴と近くにいたリアスの3人で地上に上る事となった。



「いつ見ても綺麗ですね…。」

 空気泡の中で、リアスは周りの景色を見ながら小さく呟いた。

「いろんな魚がいるからね…。あ、アリビアエビ達だ。久しぶり!」

「魚達と話せるんですか?」

「うん、みんな優しいよ。」

 そのまま陸の方へと進んでいこうとした時だった。

『おーい!』
 
「ん?………はぁ?!」

 鋭い牙をむき出しにした大きな口が、俺たちの方に迫ってきていた。口は、巨大な鮫のものだった。

「や、やば!逃げなきゃ!」

「私が始末して今日の晩御飯にしましょうか?」

「ダメだよ!五十鈴が怪我しちゃうから!」

 腕まくりをする五十鈴の手を掴み、その場から全力で逃げようとした。

『ま、待ってくれ!助けて欲しいんだ!』

「え?」

 鮫は俺たちのところまで来ると、泣きそうな表情になった。

『ひ、姫様が拐われちまったんだ!』

「姫様…?」

『俺が少し目を離したうちにいなくなっちまって…』

「ちょ、一旦落ちついて最初から説明してくれ。」
 
 鮫の話によると、海岸沿いの岩の縁で人魚姫が日光浴をして楽しんでいたらしい。鮫は陸に上がることが出来ないので海面から少しだけ顔を出して見守っていたらしいが、姫に『人間が怖がってしまうから後で迎えにきて』と頼まれ5分ほど海に潜ったそうだ。そして海面に顔を出したら、姫の姿がいなくなっていたというわけだ。
 それを2人に話すと、2人とも心配そうな表情になった。

「海に帰ったんじゃなくて?」

『人魚族の島に一回戻ったけど、いなかったんだ…。頼む、あんた最近噂の海底都市の領主だろ?姫を一緒に探してくれ!』

「海底都市の領主…。」

「ナギサ様、どうなさいますか?」

 五十鈴は今すぐどうにかしたいと言った感じで、覗き込んできた。

「もちろん助けるよ。五十鈴は鮫と2人で海をくまなく探してくれるか?俺はリアスと地上を探してみるよ。」

「わかりましたわ。鮫様、急いで探しましょう!」

『面目ねぇ…!この恩はいつか必ず返すぜ!』

 鮫はそう言って、五十鈴とものすごい速さで遠くの海へと泳いで行った。

「じゃあ俺たちは陸を探そうか。」

「はい!」

 俺も空気泡を陸の方へと全速で押して行った。



「ここらへんかな…。」

 鮫の言っていたであろう小さな岩が並ぶ場所で、俺とリアスは何か手がかりを探していた。

「何もないですね。」

「でもここからヒレで陸に上がれないし、拐われたとなると…。」

 俺は大陸の中心にある、王国の方に視線を向けた。人魚族が拐われたとなると、しかないだろう。

「急がないとマズイかもね。」

「…まさか、奴隷商ですか?」

「多分ね。人魚族は高い値段で取引されてるって聞いたことがあるから、早くしないと手遅れになる。」

「急いで向かいましょう!」

「『海の扉マリン・ゲート』」

 俺は扉を作り、2人で中に入った。



 王都に向かって、一台の馬車が軽快に進んでいた。扉には、セトエル家の家紋が描かれている。

「あーイライラしますわ!」

 馬車の中で、ナギサの元妹・テレサはカリカリしていた。ナギサというサンドバックがいなくなり、ストレスがたまっているらしい。
 隣に座っていた次男のリクトが優しく妹の頭を撫でた。

「落ち着きなよテレサ。確かに気持ちはわかるけど、家のためだよ。あんなヤツいない方が良かったんだ。」

「それはそうですけど…この怒りをどこにぶつければよろしくて?!」

 キレそうなテレサに、ベーゼがある提案をした。

「テレサ様、奴隷を買われてみてはどうでしょうか?旦那様の話によれば、旦那様の雇っている奴隷商の売人達が、先程人魚の女性を捕らえたそうですよ。」

「人魚…珍しいわね。わかった、その人魚私が買うわ!」

 テレサは嬉しそうに馬車の中で叫んだ。
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