異世界の片隅と彼らの物語

立花 Yuu

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第三章~フレイヤ国、北東領地エルム~

第五話

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「四時の方向に戦闘機だ!」と叫んだヴレイは指を差した。
「あの色の機体はベフェナだ、おいっ、ベフェナの残存部隊じゃねえのか!」

 オッサンのしゃがれた声が皆に緊張感を与えた。
 数機の機体が全て姿を現すと、こちらはまだ状況が掴めないでいる中、突如、数発撃ち込まれた。
 無防備の相手に対して、一方的な攻撃だ。次々と撃ち込まれ、地面ごと弾け飛ぶ。
 
 場は一瞬にして散り散りになった。
 頭上を戦闘機が空を切って横切る、旋回してまた戻ってきた。
 脅かしではない、本気で潰しにかかっていた。
 
 報復だろうが、エルムに向かっている時点で、つけられていたのだ。
 セイヴァ側は輸送船とアンドラス機に戻る中、隠れ場のない総督側は身を屈めていた。
 石を握りしめたルピナを見つけて、ヴレイの鼓動は高鳴った。
 
 ルピナは護衛に守られている、でもここで見捨てて、別れればもう二度と会わないかもしれない。
 踵を返し、振り返ったヴレイは避難する仲間とは逆走した。

「ルピナ!」

 耳に届いたルピナは振り返って立ち止まった。
 護衛たちがまたルピナを囲む前に、ヴレイは腕を伸ばして、ルピナの手首をしっかり掴んだ。

「こっちだ!」

 上空から撃ち込まれ続ける中、ヴレイはルピナの手を引いてアンドラスに向かった。
 ついて来られるルピナの足も意外と速かった。
 
 顔の真横を弾がすり抜けた、無事にアンドラスまで走り抜けた。
 ルピナを先に機体に乗せ、ヴレイも素早く乗り込み、妖源動力を発動させた。
 グリップから流れた『妖源力』はアンドラスを起動させ、他の機体と共に上空へ飛んだ。

 一人乗り用のコックピットに、二人はやはり狭かった。
 体の密着具合がとんでもなく濃厚で、ルピナはヴレイが座るシートにしがみ付いていた。
 必然とルピナの顔が真横にきてしまうのは仕方がない。

「何かに掴まれ!」
「そうは言うが、どこにっ、きゃっあ!」

 機体が激しく揺れて、ルピナがヴレイの太腿の上に、派手に倒れた。
 ルピナが倒れると同時に、太腿に感じる柔らかい感触の正体が分かって、口から心臓が出そうになった。中々大きいなと思いながら、落ち着けとヴレイは自分に念じた。

「すまぬっ、今どく――」
「ちょっ、今起きるな、もうこのままでいろ!」

 太腿の上でもごもご動かれては、色々な意味で集中できない。

「何を言うか! この状態でいろというのか!」

 敵船と打ち合いになり、回避と攻撃に必死になるヴレイは、ルピナにはこのまま倒れいてもらうほうが、都合がいいと判断した。

「今動かれちゃ、気が散る!」

 人の太腿の上に横たわったままでいられるのも、十分気は散っているが。
 輸送船を死守しながら、後退するが、敵船はしつこく追い駆けてきた。
 アンドラス機の後方に敵が滑り込んだその時、ガンッと嫌な衝撃が機体に響いた。

「マズッ、第一変換器がやられた」
「というとどういうことじゃ!」

 ルピナが下から上目遣いで訊ねてきた。直視できないでいたヴレイは、いちいち高鳴る鼓動に苛立ちさえ感じた。

「妖源力がアンドラスの推進力だ。要は、妖源力を動力に変換する機械が、やられた」

 意味が分かっていないのか、ルピナはまだ上目遣いを続けていた。

「アンドラスは背中の小型飛行機で飛ばしてる、その飛行機も妖源力だ。残念ながら第一変換機は飛行機とも繋がってる」

 コックピット内は、妖源力の供給不足を警告音で知らせている。
 第二変換器もあるが、一つだけでは飛行が安定しない。緊急時には自動に第二変換器が主になるが、第二変換機の処理能力だけでは、とても戦闘には耐えられない。

「クソッ、下向いてろ、一匹片付ける!」

 高度を落としながらしつこい敵を欺くため、空を縦横無尽に飛び回った。
 相手を掻き回した後、振り返り様に左腕の筒砲を後方に向け、射程内に入った敵を撃ち抜いた。
 だが同時に、敵が放った弾がアンドラスの左肩と飛行機を撃ち抜かれた。

「いよいよ落ちるぞ!」
「何っ! 落ちるってどこにだ!」
「地上だよ! 今度こそ掴まってろよ、運が良ければ助かる!」
「運が良ければって、ヴレイっ――」

 この状態で脱出機能は使えない、無事に脱出できるか分からない。
 できるだけ衝撃は抑えたいところだが、クッションになりそうな木々はなく、高山植物と丸裸な地面が眼下に広がっていた。

「クッソぉーー!」

 ギリギリまでグリップを握っていたヴレイは、墜落する直前にルピナを抱き込んだ。
 地上に叩き付けられた衝撃は想像以上だった。木っ端微塵に弾け飛ぶかと思った。
 シートベルトをしていたヴレイがルピナを押さえたことで、吹っ飛ばされずに済んだ。

 予想以上のアンドラスの頑丈さに、心底感謝した。
 警報も止み、コックピットは魂が抜けたように、静止していた。
 はぁ助かったと安堵すると、太腿の柔らかい感触を再確認した。

「どうやら助かったようじゃな、で、君はいつまでそうしておるつもりじゃ」
「えっ、うわぁ、違っ、ちょっと安心してただけだ」

 派手に驚いてしまった。咄嗟に気を引き締めると、今度は要らぬ緊張感に取り憑かれた。
 ルピナとの密着状態から早く解放されなくてはと、ヴレイは頭上の、非常用ハッチを手動で操作すると、瓶のような蓋は自動に口を開いた。
 前屈みにアンドラス機は不時着したようで、通常は上に開くはずの非常口は横に開いた。

「どこだここ、たぶんエルムからはまだそんなに離れてないはずだけど、ちょっとごめん」

 ルピナの体と密着したまま、ヴレイはシートベルトを外して、開口部から這い出た。
 口の縁に足を掛け、どうにか機体の上によじ登った。
 清々しい風が湿った額を撫でて、火照った体がゆっくりと冷えていく。

「外に出られるか? とりあえず縁に立って」

 返事がないままルピナの頭が出てくると、言われた通り、縁に立って「こうか?」とヴレイを見上げた。広く開いた谷間が、上からだと良く見えた。

「で、俺の手を掴んで、引き上げるから」

 伸ばされた手を掴んで、幸いにも滑らない素材の手袋だったので、ヴレイは一気に引き上げた。

「高いところは平気か? って平気だよな、屋根の上にいたんだから」

 林のある地帯はもっと下の方に見えた。
 背後には、鈍色の地肌が剥き出しの険しく高い山脈が直ぐそこまで迫っていた。
 たまたまここら辺一帯には木々が生えておらず、前方の山脈の麓にはまだ多少の木々が生い茂っていた。エルムの町は既に山の陰に隠れてしまったようだ。
 どうしたもんかと、ヴレイはその場に尻を突いて、立て膝を突いた。

「西じゃ、エルムから南西へ飛んでいた。幸いここは高台じゃ、ここから見えるあの川はロマノまで通じているトゼ川じゃ。トゼ川沿いにロマノ方面へ登れば、ヴァジ村がある」

 景色を一目見ただけで、べらべらと現在位置を割り出したルピナは、機体の上で仁王立ちしていた。
 長剣を腰に掛け、ワンピースではあるが、勇ましさは幼少期から培った賜物なんだろうなと、華奢なのに迫力があった。

「エルム方面へ戻るより、ヴァジ村に行って、総督府と連絡を取ったほうが身の安全は確保されそうじゃな」

 ヴレイは思わず我慢できなくなり、噴き出してしまった。

「その喋り方変わってないなぁ、王族ってみんなそんな喋り方なのか?」

 失礼だとは思ったが、笑いを堪えすぎて、涙目になった。

「そこまで笑わなくともいいじゃろ! そんなにおかしいか? にしても君も変わっておらぬな」
「おかしいってもんじゃーーていうか、覚えてたのか、俺のこと」

 そういえば、先の戦闘中に名前を言われたような。
 腰に手を当てるルピナは不機嫌そうに唇を突き立て、見下してきた。

「覚えておるに決まっておる。エルムに越せば、君たちに会えるかと思っておった、じゃが結局会えなかった」
「また、今こうして会えただろ。寧ろ、あんたの地位が高すぎて、こうして会えただけでも奇跡だと思うけどね」
「奇跡か、そうじゃな、奇跡じゃな」

 ルピナは澄み切った碧空のように笑った。
 そう、その笑顔だ。あの時も、ヴレイとザイドに向けてその笑みを向けた。
 突然じわっと目頭が熱くなった。
 腰を上げたヴレイは開口部の側に設置された、非常用ケーブルを取り出した。先には足を乗せる鐙がくっ付いている。

「じゃあ、先に降りて。鐙に足を掛けて、ケーブルを掴んで」

「こうか」とルピナは素直にロープを掴んで、足を掛けた。

「機械が下してくれるから、そのまま降りられる」

 ルピナは黙って降ろされると、ケーブルを自動巻きで引き上げ、今度はヴレイが降下した。

「機体はこのまま置いておくのか?」
「救難信号は出したから、勝手に回収されるだろ。でも、いつになるか分からないから、俺たちはヴァジ村に行ったほうが良いな」

 地面に降りて分かったが、結構な斜面だった。川沿いに斜面を歩くにしても、しばらく歩けば足に堪えそうだ。
 斜面をよく眺めると剥き出しの岩肌と、新緑色の草原がまだらに広がる、清々しい渓谷だった。
 そういえばヴァジ村から隣町に行く途中によく似た景色だと思い出し、懐かし空気を腹いっぱいに吸い込んだ。

「それじゃあ行こう、ヴァジ村へ」
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