異世界の片隅と彼らの物語

立花 Yuu

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第一章~フレイヤ国、北東領地、ヴァジ村~

第二話

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 クリーム色のカーテンから斜光が透けていた。
 眩しさで目を細めたヴレイは布団の中から手を出して、目を擦った。
 瞼に当たる感触に違和感を覚え、手を広げた。
 両方の手には包帯が何重にも巻かれていた。
 
 しばらく見つめてから、バタッと手を布団の上に落とし、周囲を見回した。
 白で統一された部屋だ。だだっ広いだけで物が何もない、今寝ているベッドと戸棚が置いてあるだけだ。
 頭の上から、心音か何かを測っている機械が、ピ、ピ、と一定の音を病室内に刻んでいた。
 
 とりあえず安全確認をし終えてから、ヴレイは上半身を起こそと力を入れると、力を入れた個所に痛みが走り、それでもどうにか体を起こした。
「いってぇ、どーなってんだ……、そういえば――」
 村で起こった惨劇が脳裏に蘇った。
 
 首を締められたかのように息が苦しくなった、全身から血の気が引いて身震いする。
 包帯で締め付けられた両手で腕を抱いた。
 あれは、夢じゃない、じゃあ皆は、母さんは、ザイドは――
 目の前の景色から色が抜け、目眩と共に吐き気に襲われた時、部屋のドアがノックされた。

「入ります」と外から女性の声がした。
 ハッとして身を硬直させたヴレイは、部屋の中に入ってきた足音に耳を澄ました。
 ヒールを響かせた足音がベッドの横まで来て止まった。
「体力を回復させた以降の予定を申し上げます」

 顔を上げたヴレイは、ベッドの横に佇む女性の顔を見上げた。
 三十代だと思われる落ち着いた風貌だ。薄茶色の髪を肩口で切り揃え、赤紫色の濃い口紅が白い肌に生えていた。
 着ている服は軍人らしい詰襟の制服に、襟には徽章が付いていた。

「それよりヴァジ村は! 村はどうなったんだ、母さんは!」
「ヴァジ村には州護衛軍とセイヴァ支部が救援に行きました。死傷者はいましたが、半数以上は助かりました。しかし、あなたの母親は、遺体で見つかりました」
 彼女の声色がとんでもなく平坦で、何の温かみも感じられなかった。
 死者を労わる感情を生まれながら知らないかのように。
 
 何となく予想はしていた、それでもやっぱり涙が溢れそうになった。
 だがヴレイはグッと堪えて、喉の奥へ飲み込んだ。
「あの、俺の友達の消息を知りたいんですが」
「被災者名簿を作っています、後ほど連絡が入ります」
 淡々と女性は応えた、まるで機械みたいに。
 
 外は清々しく晴れ渡っているのだろう、カーテンを射す日光からは熱さえ感じた。
 凄惨過ぎるあの一夜がまるで嘘みたいに、虚空は澄んでいた。誰が死んで、何が起きても、何事も無かったかのように、日々は無情に過ぎていく。
「ここはどこですか」

「ここはジルニクス帝国防衛機関セイヴァ、フレイヤ支部の第一病棟。私はセイヴァの生活管理課総務局の職員です」
 いっぺんに言われても理解できなかったヴレイは、聞き覚えのある単語だけを繰り返して呟いた。
「セイヴァって、親父がいる所のーー」

「そうです。ラクルナ・リルディクス司令長官はこの事態を聞き、あなたを本部の官邸へ戻すと、指示を出されました。今後は本部の訓練施設で普通教育と特別訓練を受けてもらいます」
 ヴレイは呆然としたまま、彼女の話は右から左へ流れてしまった。

 村が崩壊し、母親が命を落とし、息子が大ケガを負ったにもかかわらず、父親が迎えに来ていない事実に、孤独感を覚えた。顔も覚えていない父親に愛着はないが、ザイドの消息も掴めない今、空元気さえて出てこない。
「七日後、フレイヤ支部を出発し、本部へ向かいます。それまで安静にしていてください。では失礼します」

 結局、彼女の名前は明かされないままだった。
 ヴレイが返事をしようがしまいが関係ないらしい、颯爽と病室を出て行った。
 再び、心拍数の測定音だけが室内にこだました。
 
 嫌味なぐらいに晴れ渡っている同じ空の下で、ザイドは絶対に生きていると自分に言い聞かせた。絶対に生きている、だからまた会える。
 ヴレイは下唇を噛みしめ、必死に熱くなった目尻を抑えたが、努力は空しく、布団を握る手の甲にポツリと雫が染みついた。
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