異世界の片隅と彼らの物語

立花 Yuu

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第二章~ジルニクス帝国、護衛機関セイヴァ本部~

第一話

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 機械油が充満する狭苦しい中で、オッサンはバサッと新聞を広げた。
「鉱脈発見以来、ロマノ帝国とは仲悪いなぁ、相変わらず」
「こんな狭いところで、新聞広げるなよ。――鉱脈って、ヴァリッツ鉱山のやつ?」
 機械の奥を覗きながらヴレイは曖昧に呟いた。社会事情が把握できていないわけではないが、今は作業に集中したい、ただでさえ、整備は苦手な分野だ。

「それしかねえだろ。ジルニクス帝国が四年前に鉱脈を発見しただろ。ヴィリッツ鉱山の一部は隣国ロマノ帝国にも跨ってるから、仲違いは仕方ねえのかねぇ」
「じゃあ俺がセイヴァに入隊した時からごたごたしてんのかぁ、でも鉱脈はジルニクス側じゃないか、発見したのも。向こうが口出してくるのははおかしいだろ」
 目的の場所を見つけてヴレイは手をねじ込んだ。

「大人の事情ってやつだよ。向こうは元々鉱物産業で潤ってきた大国だ、昔は鉱山全域もロマノ領地だったしな。鉱脈の所有権は自分たちにあると、ロマノが発掘権を主張してる」
 新聞に書かれた内容を聞きながら、ヴレイはどうにかネジを締める。
 隣で体を縮めながらも、完全にくつろいでいるオッサンは、痰が絡んだ声で続けた。

「ヴィリッツ鉱山国境地帯では緊張状態が続いてるってよ、あそこら辺の国境線は曖昧だからな。ロマノとやり合う事態になったら面倒だぞ」
「絶対ごめんだー、しかもどうしてロマノは今頃そんなこと、ここはこんな感じでいいですか?」
「ん、あーいい感じだ、作業は丁寧なんだが、早く順序を覚えろよ。アンドラスの整備も搭乗者の役目だ。いざって時の予備工具で、こいつを直さなきゃなんねえのは搭乗者だぜ」
 ヴレイの肩をバシッと強く叩いてから、新聞を畳んだオッサンは狭い間口から体を出して、デッキに降りた。

「そうは言っても。滅茶苦茶難しいじゃないですか。手順も多いし。卒業試験ももう直ぐだし、はぁヤダなぁ、覚えらんねえよ」つい嘆いてしまう。
 試験勉強も始めなくてはいけないのに、特に暗記分野が中々進まない。
「おお、いよいよかぁ、早めに始めておけよ」と酒焼けしたような声で豪快に笑われた。

「その調子じゃあ、座礁した船って感じだな。機械もそうだが、この部分は何故こうなっているか理由を考えてみろ。ただ覚えようとするから難しい」
 珍しく真剣めいた助言をしてきたので、反論する意欲を削がれた。

「そうは言ってもさぁ」
 と渋った後に目の前の機械を見て、ヴレイはげんなりした。
「アンドラス機はお前のかあちゃんが基礎を創ったんだぞ、そういう器用さまでは息子に遺伝しなかったらしいな」
 デッキに降りヴレイは、降りた早々また背中を叩かれた。

 母親はヴレイが産れる前に、アンドラス機の基礎を創り上げた。産んでからも、精力的にアンドラス機の開発を続け、初の臨床実験後に引退した。母親の過去を講義で初めて知らされた。
 別にショックとかはなかった、過去を話すにしても五年前のヴレイはまだ幼すぎた。
 ヴァジ村に住んでいた頃も学校には通っていたが、村と習うレベルが違い過ぎだと、黒板に向かって眼を飛ばす日々だった。寮で復習しようにも、風呂に入ると爆睡してしまい、翌朝を迎える。それでも何とか高等科の卒業試験まで間近となっていた。

「大きなお世話だ。器用不器用は遺伝とは関係ないし、っていうか、キレイなおねえさんが先生だったらまだやる気が出る――イッツゥ」
 オッサンの拳が脳天を直撃して、涙が浮いた。
「それが整備以外にも色々と教わった奴の態度かぁ」
「軽い冗談。そんなことより、早く昼飯行こうよ、腹減ったぁ」

 昼時間を過ぎた頃から、ネジを回しながら腹の虫が泣きっぱなしだった。
『戦闘隊形の敵艦発見。戦闘員は至急、各持ち場に戻ってください。繰り返します――』
 すきっ腹に沁みる放送だった。

「飯は帰って来てからだな、まぁ特務が出動するかは分からんけどな」
「マジかよ、だったら俺は先に食堂へ行かせてもらい――ウグゥ」

「ほら行くぞ」
「やっぱり、行かなきゃダメっすよねぇ」
 逃げようとしたヴレイの襟をオッサンに掴まれて、連行された。
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