6 / 29
第二章~ジルニクス帝国、護衛機関セイヴァ本部~
第一話
しおりを挟む
機械油が充満する狭苦しい中で、オッサンはバサッと新聞を広げた。
「鉱脈発見以来、ロマノ帝国とは仲悪いなぁ、相変わらず」
「こんな狭いところで、新聞広げるなよ。――鉱脈って、ヴァリッツ鉱山のやつ?」
機械の奥を覗きながらヴレイは曖昧に呟いた。社会事情が把握できていないわけではないが、今は作業に集中したい、ただでさえ、整備は苦手な分野だ。
「それしかねえだろ。ジルニクス帝国が四年前に鉱脈を発見しただろ。ヴィリッツ鉱山の一部は隣国ロマノ帝国にも跨ってるから、仲違いは仕方ねえのかねぇ」
「じゃあ俺がセイヴァに入隊した時からごたごたしてんのかぁ、でも鉱脈はジルニクス側じゃないか、発見したのも。向こうが口出してくるのははおかしいだろ」
目的の場所を見つけてヴレイは手をねじ込んだ。
「大人の事情ってやつだよ。向こうは元々鉱物産業で潤ってきた大国だ、昔は鉱山全域もロマノ領地だったしな。鉱脈の所有権は自分たちにあると、ロマノが発掘権を主張してる」
新聞に書かれた内容を聞きながら、ヴレイはどうにかネジを締める。
隣で体を縮めながらも、完全にくつろいでいるオッサンは、痰が絡んだ声で続けた。
「ヴィリッツ鉱山国境地帯では緊張状態が続いてるってよ、あそこら辺の国境線は曖昧だからな。ロマノとやり合う事態になったら面倒だぞ」
「絶対ごめんだー、しかもどうしてロマノは今頃そんなこと、ここはこんな感じでいいですか?」
「ん、あーいい感じだ、作業は丁寧なんだが、早く順序を覚えろよ。アンドラスの整備も搭乗者の役目だ。いざって時の予備工具で、こいつを直さなきゃなんねえのは搭乗者だぜ」
ヴレイの肩をバシッと強く叩いてから、新聞を畳んだオッサンは狭い間口から体を出して、デッキに降りた。
「そうは言っても。滅茶苦茶難しいじゃないですか。手順も多いし。卒業試験ももう直ぐだし、はぁヤダなぁ、覚えらんねえよ」つい嘆いてしまう。
試験勉強も始めなくてはいけないのに、特に暗記分野が中々進まない。
「おお、いよいよかぁ、早めに始めておけよ」と酒焼けしたような声で豪快に笑われた。
「その調子じゃあ、座礁した船って感じだな。機械もそうだが、この部分は何故こうなっているか理由を考えてみろ。ただ覚えようとするから難しい」
珍しく真剣めいた助言をしてきたので、反論する意欲を削がれた。
「そうは言ってもさぁ」
と渋った後に目の前の機械を見て、ヴレイはげんなりした。
「アンドラス機はお前のかあちゃんが基礎を創ったんだぞ、そういう器用さまでは息子に遺伝しなかったらしいな」
デッキに降りヴレイは、降りた早々また背中を叩かれた。
母親はヴレイが産れる前に、アンドラス機の基礎を創り上げた。産んでからも、精力的にアンドラス機の開発を続け、初の臨床実験後に引退した。母親の過去を講義で初めて知らされた。
別にショックとかはなかった、過去を話すにしても五年前のヴレイはまだ幼すぎた。
ヴァジ村に住んでいた頃も学校には通っていたが、村と習うレベルが違い過ぎだと、黒板に向かって眼を飛ばす日々だった。寮で復習しようにも、風呂に入ると爆睡してしまい、翌朝を迎える。それでも何とか高等科の卒業試験まで間近となっていた。
「大きなお世話だ。器用不器用は遺伝とは関係ないし、っていうか、キレイなおねえさんが先生だったらまだやる気が出る――イッツゥ」
オッサンの拳が脳天を直撃して、涙が浮いた。
「それが整備以外にも色々と教わった奴の態度かぁ」
「軽い冗談。そんなことより、早く昼飯行こうよ、腹減ったぁ」
昼時間を過ぎた頃から、ネジを回しながら腹の虫が泣きっぱなしだった。
『戦闘隊形の敵艦発見。戦闘員は至急、各持ち場に戻ってください。繰り返します――』
すきっ腹に沁みる放送だった。
「飯は帰って来てからだな、まぁ特務が出動するかは分からんけどな」
「マジかよ、だったら俺は先に食堂へ行かせてもらい――ウグゥ」
「ほら行くぞ」
「やっぱり、行かなきゃダメっすよねぇ」
逃げようとしたヴレイの襟をオッサンに掴まれて、連行された。
「鉱脈発見以来、ロマノ帝国とは仲悪いなぁ、相変わらず」
「こんな狭いところで、新聞広げるなよ。――鉱脈って、ヴァリッツ鉱山のやつ?」
機械の奥を覗きながらヴレイは曖昧に呟いた。社会事情が把握できていないわけではないが、今は作業に集中したい、ただでさえ、整備は苦手な分野だ。
「それしかねえだろ。ジルニクス帝国が四年前に鉱脈を発見しただろ。ヴィリッツ鉱山の一部は隣国ロマノ帝国にも跨ってるから、仲違いは仕方ねえのかねぇ」
「じゃあ俺がセイヴァに入隊した時からごたごたしてんのかぁ、でも鉱脈はジルニクス側じゃないか、発見したのも。向こうが口出してくるのははおかしいだろ」
目的の場所を見つけてヴレイは手をねじ込んだ。
「大人の事情ってやつだよ。向こうは元々鉱物産業で潤ってきた大国だ、昔は鉱山全域もロマノ領地だったしな。鉱脈の所有権は自分たちにあると、ロマノが発掘権を主張してる」
新聞に書かれた内容を聞きながら、ヴレイはどうにかネジを締める。
隣で体を縮めながらも、完全にくつろいでいるオッサンは、痰が絡んだ声で続けた。
「ヴィリッツ鉱山国境地帯では緊張状態が続いてるってよ、あそこら辺の国境線は曖昧だからな。ロマノとやり合う事態になったら面倒だぞ」
「絶対ごめんだー、しかもどうしてロマノは今頃そんなこと、ここはこんな感じでいいですか?」
「ん、あーいい感じだ、作業は丁寧なんだが、早く順序を覚えろよ。アンドラスの整備も搭乗者の役目だ。いざって時の予備工具で、こいつを直さなきゃなんねえのは搭乗者だぜ」
ヴレイの肩をバシッと強く叩いてから、新聞を畳んだオッサンは狭い間口から体を出して、デッキに降りた。
「そうは言っても。滅茶苦茶難しいじゃないですか。手順も多いし。卒業試験ももう直ぐだし、はぁヤダなぁ、覚えらんねえよ」つい嘆いてしまう。
試験勉強も始めなくてはいけないのに、特に暗記分野が中々進まない。
「おお、いよいよかぁ、早めに始めておけよ」と酒焼けしたような声で豪快に笑われた。
「その調子じゃあ、座礁した船って感じだな。機械もそうだが、この部分は何故こうなっているか理由を考えてみろ。ただ覚えようとするから難しい」
珍しく真剣めいた助言をしてきたので、反論する意欲を削がれた。
「そうは言ってもさぁ」
と渋った後に目の前の機械を見て、ヴレイはげんなりした。
「アンドラス機はお前のかあちゃんが基礎を創ったんだぞ、そういう器用さまでは息子に遺伝しなかったらしいな」
デッキに降りヴレイは、降りた早々また背中を叩かれた。
母親はヴレイが産れる前に、アンドラス機の基礎を創り上げた。産んでからも、精力的にアンドラス機の開発を続け、初の臨床実験後に引退した。母親の過去を講義で初めて知らされた。
別にショックとかはなかった、過去を話すにしても五年前のヴレイはまだ幼すぎた。
ヴァジ村に住んでいた頃も学校には通っていたが、村と習うレベルが違い過ぎだと、黒板に向かって眼を飛ばす日々だった。寮で復習しようにも、風呂に入ると爆睡してしまい、翌朝を迎える。それでも何とか高等科の卒業試験まで間近となっていた。
「大きなお世話だ。器用不器用は遺伝とは関係ないし、っていうか、キレイなおねえさんが先生だったらまだやる気が出る――イッツゥ」
オッサンの拳が脳天を直撃して、涙が浮いた。
「それが整備以外にも色々と教わった奴の態度かぁ」
「軽い冗談。そんなことより、早く昼飯行こうよ、腹減ったぁ」
昼時間を過ぎた頃から、ネジを回しながら腹の虫が泣きっぱなしだった。
『戦闘隊形の敵艦発見。戦闘員は至急、各持ち場に戻ってください。繰り返します――』
すきっ腹に沁みる放送だった。
「飯は帰って来てからだな、まぁ特務が出動するかは分からんけどな」
「マジかよ、だったら俺は先に食堂へ行かせてもらい――ウグゥ」
「ほら行くぞ」
「やっぱり、行かなきゃダメっすよねぇ」
逃げようとしたヴレイの襟をオッサンに掴まれて、連行された。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる