異世界の片隅と彼らの物語

立花 Yuu

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第二章~ジルニクス帝国、護衛機関セイヴァ本部~

第二話

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「よお、お二人さん、今日も精が出るな。アラン班長、またヴレイを苛めてたんですか」
 横繋がりのデッキからアンドラス部隊のジール隊長が小走りでやって来た。
「ちげぇーよ、これでも毎日愛情たっぷりにしごいてるぜ」

 オッサンはヴレイの襟を掴んだまま、親指を立ててニッと黄ばんだ歯を見せて笑った。
「心中察するよヴレイ」
「察してくれるなら、助けてくださいよ、隊長ー」
 オッサンに襟を掴まれたままで、解こうともがいても全く歯が立たなかった。

「アラン班長の眼鏡に適ったと思って受け入れるんだな。先に待機室行ってるぞ、お前たちも早く来いよ!」
 と隊長は軽快に掛けていった。
「あー! 待って隊長! 俺も!」
 隊長の人をからかう笑顔には苛立ちしか湧かなかった。

 どいつもこいつも、俺をガキ扱いしやがって!
 早く大人になりたいと、いつも思う。
 大人になって俺の好きなように生きてみたいーーそしてら、行きたい場所にも行ける。
 あいつザイド、どこかかで生きてるなら、それでいいか。

「そういやぁあいつ、結婚したらしいぞ。式の予定はまだないらしいが、いいねぇ、新婚かぁ、俺なんか昔過ぎて覚えちゃいねえが、今でも家内とは毎晩――」
「あーもういい! それ以上言うな! もう早く行こうぜ!」
 きっぱりオッサンの言葉を断ち切り、冷徹に先を急がせた。

* * *

 特務第二艦隊のレーシー戦闘機とアンドラス機の搭乗者の待機室にはモニターがあった。
 空域図には敵艦を示す記号が群れとなって点滅していた。
『信号受信後にアレクド艦を感知、領域内に侵入しました』

 コックピットにいるオペレーターからの報告が随時入るようオンラインになっている。
「それでアレクド艦の進行状況は」
 ヴレイを物凄い力で引っ張ってきたオッサンが、いつにもなく真剣に声を張った。
『南南西から進行中、このままでいけば三時間後には境界線に到達予定』
 オッサンの声に反応したコックピットのオペレーターが、即座に答えた。
「まだ様子見か、本部の司令室から連絡は」

 間髪入れずにオッサンは機敏に訊き返す。
『準備ができ次第、第一艦、第二艦、特務第二艦は発進せよと』
「りょーかい、高度一万五千メートル、方位は送信される座標に固定か」
 整備班のオッサンのくせに何でもお見通しなのは、特務第二艦隊隊長の次に古株だからだ。

 整備に手こずり研修が長引いているヴレイの指導に、アラン・ドイル整備班長、呼称オッサンが腰を上げたのだ。まあオッサンと呼ぶのはヴレイだけらしいが。
 寧ろ、周りからはよくあの班長とつるんでるなと、誤解されている。
 整備の間だけ強制的に、一緒に行動させられているだけだ。整備の試験が終わるまでは仕方がないので、割り切って大人しい生徒をやっている。

「こういう時、特務第一艦は本部で待機なのか」
「特務は非戦闘部隊だからな、専門が妖源動力開発だ。アンドラス開発と並行はしているが、第一、第二と分けたのは、戦闘で二ついっぺんに失うのを避けるためだろ、ま、当然の成り行きだろうな」
 ヴレイの独り言のような呟きに、オッサンは無精髭を掻きながら、当然の如く答えた。

「じゃあ、第二艦が戦闘でやれてもいいってことか」
 捨て駒的な割り当てに、またも父親の顔が浮かんで、悔しさに近い苛立ちが湧き上った。
「まぁ、そう腐るな、アンドラスのデータ収集分析も俺たちの仕事だ、無くなって困るのはメインの技術部なんだぜ」
 分厚い手で力強く背中を叩かれた。

「それよりアンドラス機はまだ試験運転段階だから、俺たちは待機ですよね」
「腹が空いてるからって逃げ腰だなぁ」
 腕を組んで壁に寄り掛かった。イスがない待機室なので寄り掛かるしかない。
「昼飯食いっぱぐれたのか?」
 デッキでヴレイを見捨てたジール隊長が飄々と笑ってきた。

「笑いごとじゃないですよ、切りの良いところで食いに行くつもりだったのに」
「戻って来るまで我慢だな。アンドラス機も動かなないとデータが収集できないからな。いつまでも試運転ってわけにもいかないだろ。認可が下りれば、妖源動力システムを潰したがってる奴らは手が出しにくくなる」
 肩を揺らして隊長は軽く笑った。
「へぇ、どうしてですか? 何か変わるんですか?」

「小僧、まだそんなこと言ってやがんのか、前に教えたろ!」
 いがいが声でハァッとオッサンが喉を鳴らした。
 オッサンのどでかい声に周りの人間が「アラン班長、相変わらず声デカイなぁ」と苦笑いしていた。

「前に! そうでしたっけ?」
 ヤッベ、忘れてた。
 オッサンが説明を始めると長いからだなぁ。眠くなりそうだ。

「いいか、妖源動力システムはまだ大陸軍法評議会が承認してねぇ。開発途中の兵器だからな。どっかの国が「あれは悪い」とか文句付けて潰しに来ても、評議会もまだ認めていないわけだから、もし潰されても俺たちは文句言えねえわけ。評議会が認可すれば、「あれは悪い」と言う奴らが今度は評議会に盾突くことになる。だから、認可される前に、出る釘は潰しときたいんだろ、分かったか!」

 やっぱり声がデカい。
「なるほど、じゃあさっさと認可されたほうがいいってことか」
「まぁな、なんせ妖源力を動力に変換する技術は、未だセイヴァでしか開発されていないからな。評議会も慎重なんだろ。『妖源力』が未知数なだけに」
 やれやれと言った感じでジール隊長は情け笑みを見せて腕を組んだ。
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