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第二章~ジルニクス帝国、護衛機関セイヴァ本部~
第三話
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ヴレイが入隊した当時からアンドラス機は未だ試運転中だ。
機体数も少なく、そもそも『妖源力』を保持した人間が稀だった。
生まれつきの能力で、幼少期は異端児として真っ先に弾き出されるそうだが、ヴレイが育った村は『妖源力』者が大多数だったので、差別とは無縁だった。
ジール隊長以外にも搭乗者たちと交流したいのだが、授業と機械整備、アンドラス訓練でつい疎かにしてしまっていた。自覚がある分、孤独を感じる時もしばしばあった。
かといって皆も慣れあう様子はなく、程良い距離感を保っているようだった。
ヴァジ村で育ったヴレイには、それが皆の常識であり程良い関係なのだと理解した。そう思うとジール隊長は誰に対してもオープンだった。部隊を統率する意識が高いのかもしれない。
「それでもヴレイがアンドラスに乗るようになってから、かなりのデータが収集できたぞ。最前線での本格始動も遠くないかもな」
評議会が認めるまでに、出る釘は打てみたいな精神で攻撃され続けては、こっちも溜まったもんじゃない。
母親はどうして妖源動力システムを作ろうとしたんだろう、ふと気になったが、父親に訊けるはずもなく、まぁいいやと別の話題に変えた。
「にしてもアレクドが侵攻してくるのはこれで三度目だけど、やっぱりうちへの冷やかしか?」
空域図は相変わらず敵艦の位置を表示し続けていた。
集められた隊員たちもヴレイと同様、またあそこかよと物々ぼやいていた。
「冷やかしならいいがな。一度目の時に、決起の映像を送ってきただろ。妖源力システムは世界の破滅、神への冒涜だとかなんとか、紋切型の文句だったが、三度目の侵攻が、三度目の正直にならなきゃいいがな」
「変なこと言わないでくださいよ、だとしても俺たちが出る幕なんてーー」
なければいいなと思うのは、早く飯にあり付きたいから、だけではなく、戦いなんてまっぴらごめんだかだ。
「ったくお前は若いくせに腰が据わってねえなぁ、おまけに最年少だろうが」
「そのおまけは余計だ、オッサンこそ年のくせに血の気が多い――」
『特務第二のレーシー部隊、アンドラス部隊は発艦準備。第一、第二艦隊のサポートに回れ』
とヴレイの言葉は艦内放送に遮られた。同時にどうしてアンドラスまで出すんだよ、とヴレイは空きっ腹を押さえて、自己中心的に苛立った。
「ほらいくぞ!」とオッサンの分厚い手で背中を叩かれ、ヴレイは胃液を吐きそうになった。
「ヴレイ、帰ったら飯、奢ってやるから、さっさと片付けようぜ」
ジール隊長の口端の片方の上げて笑う顔が、ザイドの勝気な笑みと重なった。
「約束っすよ、ジール隊長!」
* * *
『司令長官より入電です。全機に繋ぎます』
整備を終えたばかりの愛機、とまでは執着はないが、一応可愛げはある自分の機体に搭乗したヴレイは、操縦グリップを掴んで異常がないか確かめた。
オペレーターからの入電後に、ラルクナ・リルディクス司令長官の音声がスピーカーから放たれた。
『侵攻中の艦隊は、前回と同じ、アレクド国連軍の連合艦隊と判明した』
抑揚がなく、心情を読み取らせない一方的な声色が、アンドラスのコックピットに響く。
『お能の仕事をしろ。全艦迎撃戦準備、第一艦長の作戦内容に問題はない、実行しろ』
「迎撃って、戦闘する気かよ」と思わず独り言が出た。
唐突に入電は終わり、静けさが戻った。
モニターに映し出された空域図には、敵艦隊を示すラインが群れをなして、本艦に近づいてくる様子を示していた。
アンドラス機は魚型機体のレーシー戦闘機とは違う。
人型に似せた造形をしているので、コックピットからは、レーシー機が眼下に整列している光景が窺える。
人とよく似た背中には飛行を可能にする、後付け飛行機が搭載される。特徴的なのは、左腕の先が筒状の噴射砲に化けているのだ。『妖源力』を武器として生かせるよう設計されている。
唯一、ジルニクス帝国が『妖源力』を武器として使用できるよう、開発した技術が、妖源動力システムだ。
ただいま侵攻中のアレクドのように、妖源動力システムを破滅させたい国があれば、共同開発を提案してくる国もある。行政が関わっているようで結局のところヴレイにはよく分からない大人の事情が渦巻いている。
『アンドラス部隊はあくまで試験運転だ、最後尾でレーシー部隊のサポートを優先』
今度は特務第二艦のアモン艦長が入電してきた。
『了解』とヴレイは返事をすると、他のアンドラス搭乗者も『了解』と声を揃えた。
『ヴレイ、お前は念のため最後尾だ。何かあった時、最年少が生き残ってくれたほうが、希望がある』
気遣ってくれた隊長の音声は、不敵に笑ったようだった。
まだ実戦経験が浅いヴレイへの配慮なのだと分かって、急に胸の内に熱がこもった。
ザイドは手厳しい奴だったが、隊長はやや甘やかしてくる節があるので、いかんいかんとヴレイは自分を叱咤した。
「はい。でも俺も皆と戦います」
『良い返事だが、無理すんな』と隊長の語尾はまた笑っていた。
何かと気に掛けてくれる隊長は皆からも人気者だ。
講義と試験勉強、整備に訓練と忙しさを言い訳に、アンドラス部隊とあまり深い交流をしない、寧ろセイヴァに心許せる隊員がいないヴレイにとって、隊長は歳の離れた兄貴のような存在だった。ザイドも随分な兄貴分だったので、隊長とザイドの印象が重なっていた。
モニターには配置図が映し出された。
百八十度がガラス張りのコックピットは、窮屈ではなかった。なんせ足が伸ばせるからだ。しかも、肘掛けに操縦桿が突き刺さっているので、腕が疲れる心配もない。
快適だが、ヴレイは緊張と空腹で、胃がぐるぐると鳴って酔いそうだった。
『第一、第二艦隊のレーシー部隊、全機発艦しました。続いて、特務第二艦のレーシー部隊は発艦してください、続いてアンドラス機の発艦準備』
整備班のオペレーターが入電してきた。
「はい、お願いします」
返事をしながらヴレイは手袋を外した。
革に似た素材の手袋は皮膚にぴったり張り付いているので、とんでもなく外し難い。
両手の掌に刻まれた深い傷跡が、チラッと目に入った。
傷跡を視界から隠すように、操縦桿を握った。
手の傷を見るたびに、自分自身でも分からない、ドロドロした胸糞悪い悪寒が走る。
『アンドラス、防御フィールドを展開、妖源動力稼働率に問題なし、ダグシステムバックアップ問題ないし、搭載飛行機の最終安全装置、解除します』
機械的にオペレーターが確認事項を早口で読み上げる。
否応なく高鳴る鼓動を落ち着かせようと深呼吸した。
「了解、射出ルートを確認。ヴレイ・アンドラス機、発艦します」
アンドラスが直立していた場所から、そのまま真上へ急上昇した。
機体数も少なく、そもそも『妖源力』を保持した人間が稀だった。
生まれつきの能力で、幼少期は異端児として真っ先に弾き出されるそうだが、ヴレイが育った村は『妖源力』者が大多数だったので、差別とは無縁だった。
ジール隊長以外にも搭乗者たちと交流したいのだが、授業と機械整備、アンドラス訓練でつい疎かにしてしまっていた。自覚がある分、孤独を感じる時もしばしばあった。
かといって皆も慣れあう様子はなく、程良い距離感を保っているようだった。
ヴァジ村で育ったヴレイには、それが皆の常識であり程良い関係なのだと理解した。そう思うとジール隊長は誰に対してもオープンだった。部隊を統率する意識が高いのかもしれない。
「それでもヴレイがアンドラスに乗るようになってから、かなりのデータが収集できたぞ。最前線での本格始動も遠くないかもな」
評議会が認めるまでに、出る釘は打てみたいな精神で攻撃され続けては、こっちも溜まったもんじゃない。
母親はどうして妖源動力システムを作ろうとしたんだろう、ふと気になったが、父親に訊けるはずもなく、まぁいいやと別の話題に変えた。
「にしてもアレクドが侵攻してくるのはこれで三度目だけど、やっぱりうちへの冷やかしか?」
空域図は相変わらず敵艦の位置を表示し続けていた。
集められた隊員たちもヴレイと同様、またあそこかよと物々ぼやいていた。
「冷やかしならいいがな。一度目の時に、決起の映像を送ってきただろ。妖源力システムは世界の破滅、神への冒涜だとかなんとか、紋切型の文句だったが、三度目の侵攻が、三度目の正直にならなきゃいいがな」
「変なこと言わないでくださいよ、だとしても俺たちが出る幕なんてーー」
なければいいなと思うのは、早く飯にあり付きたいから、だけではなく、戦いなんてまっぴらごめんだかだ。
「ったくお前は若いくせに腰が据わってねえなぁ、おまけに最年少だろうが」
「そのおまけは余計だ、オッサンこそ年のくせに血の気が多い――」
『特務第二のレーシー部隊、アンドラス部隊は発艦準備。第一、第二艦隊のサポートに回れ』
とヴレイの言葉は艦内放送に遮られた。同時にどうしてアンドラスまで出すんだよ、とヴレイは空きっ腹を押さえて、自己中心的に苛立った。
「ほらいくぞ!」とオッサンの分厚い手で背中を叩かれ、ヴレイは胃液を吐きそうになった。
「ヴレイ、帰ったら飯、奢ってやるから、さっさと片付けようぜ」
ジール隊長の口端の片方の上げて笑う顔が、ザイドの勝気な笑みと重なった。
「約束っすよ、ジール隊長!」
* * *
『司令長官より入電です。全機に繋ぎます』
整備を終えたばかりの愛機、とまでは執着はないが、一応可愛げはある自分の機体に搭乗したヴレイは、操縦グリップを掴んで異常がないか確かめた。
オペレーターからの入電後に、ラルクナ・リルディクス司令長官の音声がスピーカーから放たれた。
『侵攻中の艦隊は、前回と同じ、アレクド国連軍の連合艦隊と判明した』
抑揚がなく、心情を読み取らせない一方的な声色が、アンドラスのコックピットに響く。
『お能の仕事をしろ。全艦迎撃戦準備、第一艦長の作戦内容に問題はない、実行しろ』
「迎撃って、戦闘する気かよ」と思わず独り言が出た。
唐突に入電は終わり、静けさが戻った。
モニターに映し出された空域図には、敵艦隊を示すラインが群れをなして、本艦に近づいてくる様子を示していた。
アンドラス機は魚型機体のレーシー戦闘機とは違う。
人型に似せた造形をしているので、コックピットからは、レーシー機が眼下に整列している光景が窺える。
人とよく似た背中には飛行を可能にする、後付け飛行機が搭載される。特徴的なのは、左腕の先が筒状の噴射砲に化けているのだ。『妖源力』を武器として生かせるよう設計されている。
唯一、ジルニクス帝国が『妖源力』を武器として使用できるよう、開発した技術が、妖源動力システムだ。
ただいま侵攻中のアレクドのように、妖源動力システムを破滅させたい国があれば、共同開発を提案してくる国もある。行政が関わっているようで結局のところヴレイにはよく分からない大人の事情が渦巻いている。
『アンドラス部隊はあくまで試験運転だ、最後尾でレーシー部隊のサポートを優先』
今度は特務第二艦のアモン艦長が入電してきた。
『了解』とヴレイは返事をすると、他のアンドラス搭乗者も『了解』と声を揃えた。
『ヴレイ、お前は念のため最後尾だ。何かあった時、最年少が生き残ってくれたほうが、希望がある』
気遣ってくれた隊長の音声は、不敵に笑ったようだった。
まだ実戦経験が浅いヴレイへの配慮なのだと分かって、急に胸の内に熱がこもった。
ザイドは手厳しい奴だったが、隊長はやや甘やかしてくる節があるので、いかんいかんとヴレイは自分を叱咤した。
「はい。でも俺も皆と戦います」
『良い返事だが、無理すんな』と隊長の語尾はまた笑っていた。
何かと気に掛けてくれる隊長は皆からも人気者だ。
講義と試験勉強、整備に訓練と忙しさを言い訳に、アンドラス部隊とあまり深い交流をしない、寧ろセイヴァに心許せる隊員がいないヴレイにとって、隊長は歳の離れた兄貴のような存在だった。ザイドも随分な兄貴分だったので、隊長とザイドの印象が重なっていた。
モニターには配置図が映し出された。
百八十度がガラス張りのコックピットは、窮屈ではなかった。なんせ足が伸ばせるからだ。しかも、肘掛けに操縦桿が突き刺さっているので、腕が疲れる心配もない。
快適だが、ヴレイは緊張と空腹で、胃がぐるぐると鳴って酔いそうだった。
『第一、第二艦隊のレーシー部隊、全機発艦しました。続いて、特務第二艦のレーシー部隊は発艦してください、続いてアンドラス機の発艦準備』
整備班のオペレーターが入電してきた。
「はい、お願いします」
返事をしながらヴレイは手袋を外した。
革に似た素材の手袋は皮膚にぴったり張り付いているので、とんでもなく外し難い。
両手の掌に刻まれた深い傷跡が、チラッと目に入った。
傷跡を視界から隠すように、操縦桿を握った。
手の傷を見るたびに、自分自身でも分からない、ドロドロした胸糞悪い悪寒が走る。
『アンドラス、防御フィールドを展開、妖源動力稼働率に問題なし、ダグシステムバックアップ問題ないし、搭載飛行機の最終安全装置、解除します』
機械的にオペレーターが確認事項を早口で読み上げる。
否応なく高鳴る鼓動を落ち着かせようと深呼吸した。
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