異世界の片隅と彼らの物語

立花 Yuu

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第二章~ジルニクス帝国、護衛機関セイヴァ本部~

第四話

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 圧し付けられるような重力を一瞬だけ我慢すると、眼前の視界が紺青色の虚空に覆われた。
 さらに濃い紺青色が遥か頭上に広がっていた、下方には波打つ雲の峰々と、雲間から地上がチラッと見えた。
 途方に暮れたくなるほど広い空の下に、ザイドもルピナもきっといる。
 仲間の機体の元へ、ヴレイは操縦桿を倒した。
 
 ヴレイは最後尾から、先輩たちのアンドラス機隊の後に従った。
 前方にはセイヴァの戦闘機が視界いっぱいに広がっており、思わず息を呑んだ。
 敵艦や敵戦闘機は肉眼ではまだ点の塊にしかみえないが、これ以上詰められたら、本格的な戦闘態勢に入ってしまう距離でもあった。
 まだ侵攻してきている空域図を見ていた時、背中に鳥肌が走って視線を上げた。

「危ないっ!」と叫んだ時には、味方の戦闘機が次々と弾け飛び、爆発音が轟いた。
 花火のように散る爆炎が上空を飲み込んでいく。
 視界が爆炎に遮られた時、特務のレーシー部隊とアンドラス部隊にも撃墜弾が降り注いだ。
 攻撃直前まで敵機の反応はモニターに表示されていなかった。

 ありえない、と拒絶しても目の前で起こった光景は事実だ。
『妖源力』に対抗した、相手側の意地を見せつけられた。

『全機、離脱せよ! 全機、空域から離脱せよ!』
 退却命令が繰り返し叫ばれるが、爆音に囲まれ退却どころではない状況だ。
 ヴレイが乗るアンドラスにも強い衝撃が襲った。

 一瞬、機体が粉々になるんじゃないかと思い、全身から血の気が引いた。
 コックピット内に警報が鳴り響いた。
 モニターに映された機体損傷部分は、右腕だった。

『全員戻るんだぁーー』
 まだ無事だったかと恐ろしく胸の奥が安堵した。
「ジール隊長! 大丈夫ですか、早く隊長も!」
『ヴレイっ、早く艦に戻れっ――』

 ジール隊長の声が唐突に途切れた。

「隊長っ、そんなーー」
 皆が、やれてしまう、あの時みたいにーー。
 心臓をえぐられるような衝撃が胸の奥を突いた。

 両手が燃えるように熱くなり、視界に映る光景は、村の家々が炎に包まれ人々が逃げ惑う凄惨な絵図に変貌していた。
「ハァハァハァ、どうして、ここはーー何がどうなって」

 戦慄するあまりヴレイは息苦しさを覚えた。吸えば吸うほど息ができなくなった。
 人のような影が目だけを光らせて近づいて来る。
「ハァハァハァ、くるなああぁぁぁ――」

『ヴレイ、妖源力が増大している、危険域だ! 早く離脱しろ!』
 オペレーターからの入電直後、稲妻に打たれたような衝撃がヴレイのアンドラスを襲った。
 今度こそ粉々にされると思った。

 衝撃で後頭部を何かで打った。
 顔面に生ぬるい血液が流れ落ち、ぽたりと腿の上に落ちる。
 操縦桿を握る手は燃えるように熱く、小刻みに震えた。

 この熱さを操縦グリップが吸い取ってくれているような感覚に、深い安心を覚え、ますます抑えることができない。
 ガラスの向こう側は煙幕で視界の半分以上が曇っていた。
 それでもヴレイは敵の位置を確実に捉え、猛然と歯を食いしばった。

 喉の奥から自分の声とは思えない、唸りが湧いて出た。
『稼働率がゼロになる、至急、本艦へ帰還しろ!』
 オペレーターが何度も叫んでくる。

 言葉は理解できるが、視界に入る敵を潰さなくては気が治まらない。
 躊躇なく、ヴレイは操縦グリップを前へ倒す。

『再び撃墜弾がきます! 弾道が分散されます! 本艦にも来ます!』
『弾道を予測、防御弾を展開します』
『ヴレイの防壁を解除、強制帰還コードのデータを全機に送信』

 敵の放った実弾は煙を突き破り、止めの一撃を降らせた。
 血で滲んだヴレイの視界に、間近まで迫った弾の群れが見えた。

 昔、ザイドと一緒に眺めた星空のように、無数の光が散った。

* * *

「日照時間も多く、雨も少なかったので、今年はブドウの成りがいいんですよ。ルピナ様のお口にも合うワインができましょう」
 太くよかな農婦は収穫したブドウを籠に入れながら、ルピナに笑いかけた。

「それは楽しみじゃ」
 まるで紫紺色の宝石のようなブドウをルピナは見上げていた。
 ブドウの木の間から、日差しが強く射した。
 今年も暑くなりそうだ。

 ヴレイとルピナの再会が、すぐそこまで近づいていた。
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