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異世界より召喚されし悪魔と生贄の子供達…

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 深夜…暗い森の奥深く、木を切り倒し、根まで掘り出され広げられた場所に大きく描かれた五芒星の魔法陣があり、その中心に煌々と明るく灯る大きな篝火を裸の女達が円を作り狂った様に踊り回っていた。
 そして彼女達を…、やはり全裸で黒マントを羽織った女達が“エロイムエッサイム…”と、詠唱を繰り返し謳っていた。

「エロイムエッサイム…、エロイムエッサイム…。
我が声に耳を傾け給え…。」

 篝火の前には唯一人黒い法衣に女達と同じ黒マントを重ねた男が厚い本を片手に同じく繰り返し唱える。
篝火がどんどん膨らみを帯びたかと思えばまるで生き物の様にうねりまるで触手を伸ばすかの如く踊り狂う女を捕まえ取り込み始めた。
 生きながら肌を焼かれ炎に焚べられた女達の断末魔が幾つも上がり篝火は人の…、いや、翼を広げた天使の様な形を取り出した。

「おお、我等が父よ、我は求め訴えたり!!」

 五芒星の魔法陣が毒々しい紫色に輝き、円筒を作り出すとその煌めきが炎を剥ぎ取り始め、その中より巨大な異形の怪物が姿を現した。
 黒い体毛に覆われた逞しい山羊の下半身に女性の括れた腰腹部…豊満な乳房、その形の良いプロポーションがまた異形さを醸し出し、黒く大きな翼をはためかせ身体に張り付いた炎を吹き飛ばす。男性の様に広い肩幅から生えた腕は異常な長さを見せ大きな掌に伸びた爪は鋭利な刃物を思わせた。
 そしてその胴体には大きな巻角を両側頭部に生やし王冠を乗せた黒山羊の頭が舌舐めずりをして山羊独特の瞳が男を見下ろした。

「偉大なる我等が父にして母なる王よ、私は貴方様を異なる世界より召喚致した者。…ベルカンと申します。」

 黒マント黒法衣の男はフードを取って名乗り、黒山羊の頭を持つ怪物に跪く。顔は少し顎が突き出し、イヤらしい顔付きをしていた。

「王よ、宜しければ偉大なる真名をお聞かせ下さいませ。」

 畏まりながらも男は真名を聞き出そうとする。
 黒山羊の怪物はまるでほくそ笑む様に口を歪ませる。

《バフォメット…。》

 男…ベルカンの頭に太く静かな声が頭の中に響いた。

「バフォメット…、やはり我等が世界では聞かぬ聖名真名
我等が魔法結社アガナマイトは異なる世界の悪魔バフォメット様を快く歓迎致します。」

 ベルカンはバフォメットを名乗った怪物に言い寄る。怪物は瘴気を軽く吐き出すとベルカンに語りかけた。

《異なる世界…。あぁ、感じるよ。とても魔素の濃い…、心地の良い世界だ。
お前はワタシの供物として何を用意している?
…先程の女共だけか?》

 ベルカンは首を横に振り、右手で指を鳴らす。…と、黒マントに全裸を隠した三人の女がそれぞれ泣きじゃくる子供を連れて来た。
 泣くのを我慢している大人になる手前の一人髪の長いソバカスの少女。一人は嗚咽を繰り返す右頬に小さなバッテン傷をこさえた短髪赤毛の少年。そして最後はポロポロと涙を流して大声で泣きじゃくるウェーブのかかった金髪おかっぱの幼娘だった。
 子供達を見た途端にバフォメットは独特の瞳を細め唇を閉じて歯を隠した。

《…三人の子供…か…。》
「はい、我々の世界も子供の生贄が最も好まれております。」

 ベルカンはいやらしい笑みを浮かべ、金髪おかっぱの幼い娘を乱暴に手を取り、その首に短刀の刃を突きつけた。

「さあ、異世界の悪魔バフォメットよ。この子等を生贄として我々と共に!!」

 一気に幼い娘の首を短刀で掻っ切るベルカン。地面にボトリと何かが落ちた。それは地に染まった短刀と…、ベルカンの手首であった。幼子の首は切れておらず、その光景を女達も三人の子供も只呆然と見ていた。
 信じられないと言う顔付きでベルカンは黒山羊を見上げる。

「何故、三人で足りませぬか?…ならば街でもっと子供達を…」
《ワタシは子供を生贄にはせぬ。》

 更に信じられないと云う顔付きを濃くするベルカン。

「子供が…生贄にならない?ならば何を生贄に、…女、生娘ですか?」
《…語るも煩わしい。》

 山羊頭が不快そうに眉間をよせ、子供達を捕まえていた二人の女を突然土塊が触手となり地面に引き摺り込む。そしてウェーブの金髪おかっぱ幼女にバフォメットの大きく長い手が伸びてきた。
 ベルカンは「ひいいっ⁉」と悲鳴を上げて幼女を突き飛ばして逃げる。

「ああっ⁉」

 悲鳴を漏らし地面に倒れ込みそうな金髪の幼い娘を何とバフォメットの大きい掌が広がり、幼女は掌にペタンと顔から倒れる。幼女が顔を上げると目の前にはバフォメットの大きい鼻面があり、幼女の頬を優しく頬擦り、そのまま立ち上がって長い腕を椅子の様にして抱き上げた。

「ロニア⁉」

 長髪のソバカス少女がウェーブの金髪おかっぱ幼女の名を叫ぶ。
 短髪赤毛の少年もロニアと叫んでバフォメットに駆け寄った。

「ロニアを放せ!!」

 しかしバフォメットの後ろから大蛇…尻尾が現れて少年に巻き付き動きを封じた。…が、その絞まりは苦しくはなくそのまま持ち上げる。
 バフォメットは空いている片方の腕をソバカス少女にも伸ばし、差し伸べる。

《来なさい。》

 少女の頭に響く優しい声にソバカス少女は恐る恐ると近付くと長い腕は巻き付く様にソバカス少女も持ち上げ、幼女と同じ様に抱き抱えた。

「きゃあっ⁉」

 思わず少女は悲鳴を上げ、バフォメットは金髪おかっぱ幼女、長髪ソバカス少女、短髪赤毛のバッテン傷の少年を抱えたままにベルカンと女達を見下ろした。

《この子らの面前故に今は見逃そう。…しかし一週間後、供物を受け取りにまた貴様達の前に現れようぞ。》
「あ、新たに生贄をご用意致します。必ずや多くの生娘を…」
《かまわぬ、生贄は貴様等痴れ者共だ。》

 バフォメットの瞳が朱い光で輝いた。黒く大きな翼が羽ばたき、バフォメットの巨体が浮いて蹄が地を離れた。
 白みかけた夜空を子供達を連れて飛び去る異界の悪魔の姿をベルカン達は絶望感を露わにして見送ったのであった。
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