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第三章・偶然の連続
20・私の決意*
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私のそんな切実な思いをよそに、クリスティンは無言のままペンを走らせている。これ以上の重要なことなどあるの?そう憤って、ジリジリと息詰まる時が過ぎる。そしてもう一度言おうかと迷っていると…
「離婚してどうする。ノートン伯爵家に戻るのか?あの家にお前の居場所なんてないように思うが…」
クリスティンは視線を動かすことのないままそう言い放つ。この期に及んでそんな態度を崩さない夫には、本当に呆気に取られて…
離婚しない!とは言わないまでも、驚いたり理由を聞いたりしてくれるのだと思っていた。それなのに…私達はもう、そういう関係でもないというの?私にはそんな価値さえもないと?
自分が余りにも哀れに感じて、思わず口を噤んで押し黙る。それから気を取り直して、あなたには関係ないことだと伝え何とか自分を保つことができた。それから再び無言の時間が流れて…
「一月後に、お生まれになった第二王子のお披露目パーティーがある。出て行くならその後にしてくれ。そうしてくれれば、暫くは困らないくらいの慰謝料をやろう。言い出した訳でもないのに、何故私が慰謝料を払わなければならないのか皆目分からないがな…」
そんな言い草に、思わずクッ…と堪え切れず息が漏れる。
──皆目…分からないですって!それをあなたが言うの?
そしてこんな場面でさえも、あなたが考えるのはフェリシアのことだけなのかと愕然とする。
「他人の子のお披露目パーティーに何の意味があるの…」
そう呟きながら蹌踉めいて、ふらふらと執務室を出た。その後ろから何か聞こえたような気がしたけど、ショックを受ける私の耳には一切入らない。返事をせずに出たことで肯定だと取られたかも知れない。だけどもう、どちらでもいいわ…
「虚しい…私のここでの三年間って、一体何だったのかしら。何もかもが無駄だったの…?」
もう何も感じなくなっていた…幸せな家庭を持つという唯一の夢が破れて。私はただの抜け殻になっていた。もうこれ以上は考えない…考えたくはない!
やるせない想いを抱えて、一人部屋に籠もった。きっと今頃は屋敷中に私達が離婚するって噂が拡がっているだろう。それには複雑な気持ちで…
三年もここで暮らしたもの…私だって去っていくことに抵抗はある。そしてクリスティンからだって…
決心したものの、何故か無性に悲しくなって、ひとしきり泣いた。そしていつの間にか寝てしまっていて、それから何時間か後にふと目が覚める。だけどこのまま朝まで寝てしまおうと、ゴロンと寝返りを打つと…目にしたものに心臓が止まりそうになる!
気が付かないうちにクリスティンが隣で寝ている。きっともう私とは一緒に寝ないのだと思っていて…
静かな寝息を立てる端正な横顔。あとどれくらいこうして顔を見ていられるのかしら?そう思ったら、また涙が流れてくる。
──ホントに馬鹿ね…私って。泣いてしまうくらいこの人のことが好きだなんて!それなのに…
それからクリスティンの頬へと手を伸ばす。寝ている時しか触れられないもの…そして指先でその感触を確かめて、頬を包み込むように手のひらを当てる。手に伝わる温かさに満足していると、突然ガッとその手を握られて…
「きゃっ!」
どうかしてたわ…その刺激でクリスティンが起きてしまった。どうにか誤魔化さなくては!とオドオドして…
たけどクリスティンはその手を離そうとせず、そのまま私の手のひらを自分の口元に近付けて…
「チュッ」
そんなリップ音が響く。それに呆然として…ど、どういう意味なの?離婚を言い出した妻に、それはあり得るのかしら…
──もしかして、誘っている?
そんな夫に困惑する。昼間はあんなに冷たい態度だったのに私を誘うの?信じられない!
それから冷ややかな表情のまま、顔を近付けてくるクリスティン。そして…熱く口付けてきた。何度も何度も角度を変えて深く奥まで侵入され、舌で押し返そうとするが上手くいかない!かえって絡め取られて…
ああ、もう駄目だと観念した。愛する人に触れられ、求められて、それを拒否できる筈もない。
──私はこの男を愛している!この非情な人を…
愛を返してはくれなくとも、全身で幸せを感じてしまうの。そう自覚して、逞しい胸に私を押し付ける。すると貪りつくように全身を撫で回し、器用な舌で刺激を与えられる。それに甲高い嬌声を上げて…
私の唇に、胸に、胎内に、あなたを刻み込むわ。余すことなく全身に、あなたという人を刻み込みたい!もう二度と会えない…声も聞こえない。どんなにあなたを求めても、目に映ることさえ叶わない。あなたを恋しくなって涙しても…そうなっても耐えられるように、あなたを私の中に刻み込むことにする。
いつもの平然とした顔を崩して、欲望に歪むあなたの顔。これは私だけのものよ!
「きて、クリスティン…」
そう言ってあなたを迎え入れる。その頭の中が真っ白になるような刺激に喘ぎながら、私は感じていた…これがあなたに抱かれる最後になるのだと。そして流れる涙はそのままに、ぎゅっと離れないように抱き着いた。
「離婚してどうする。ノートン伯爵家に戻るのか?あの家にお前の居場所なんてないように思うが…」
クリスティンは視線を動かすことのないままそう言い放つ。この期に及んでそんな態度を崩さない夫には、本当に呆気に取られて…
離婚しない!とは言わないまでも、驚いたり理由を聞いたりしてくれるのだと思っていた。それなのに…私達はもう、そういう関係でもないというの?私にはそんな価値さえもないと?
自分が余りにも哀れに感じて、思わず口を噤んで押し黙る。それから気を取り直して、あなたには関係ないことだと伝え何とか自分を保つことができた。それから再び無言の時間が流れて…
「一月後に、お生まれになった第二王子のお披露目パーティーがある。出て行くならその後にしてくれ。そうしてくれれば、暫くは困らないくらいの慰謝料をやろう。言い出した訳でもないのに、何故私が慰謝料を払わなければならないのか皆目分からないがな…」
そんな言い草に、思わずクッ…と堪え切れず息が漏れる。
──皆目…分からないですって!それをあなたが言うの?
そしてこんな場面でさえも、あなたが考えるのはフェリシアのことだけなのかと愕然とする。
「他人の子のお披露目パーティーに何の意味があるの…」
そう呟きながら蹌踉めいて、ふらふらと執務室を出た。その後ろから何か聞こえたような気がしたけど、ショックを受ける私の耳には一切入らない。返事をせずに出たことで肯定だと取られたかも知れない。だけどもう、どちらでもいいわ…
「虚しい…私のここでの三年間って、一体何だったのかしら。何もかもが無駄だったの…?」
もう何も感じなくなっていた…幸せな家庭を持つという唯一の夢が破れて。私はただの抜け殻になっていた。もうこれ以上は考えない…考えたくはない!
やるせない想いを抱えて、一人部屋に籠もった。きっと今頃は屋敷中に私達が離婚するって噂が拡がっているだろう。それには複雑な気持ちで…
三年もここで暮らしたもの…私だって去っていくことに抵抗はある。そしてクリスティンからだって…
決心したものの、何故か無性に悲しくなって、ひとしきり泣いた。そしていつの間にか寝てしまっていて、それから何時間か後にふと目が覚める。だけどこのまま朝まで寝てしまおうと、ゴロンと寝返りを打つと…目にしたものに心臓が止まりそうになる!
気が付かないうちにクリスティンが隣で寝ている。きっともう私とは一緒に寝ないのだと思っていて…
静かな寝息を立てる端正な横顔。あとどれくらいこうして顔を見ていられるのかしら?そう思ったら、また涙が流れてくる。
──ホントに馬鹿ね…私って。泣いてしまうくらいこの人のことが好きだなんて!それなのに…
それからクリスティンの頬へと手を伸ばす。寝ている時しか触れられないもの…そして指先でその感触を確かめて、頬を包み込むように手のひらを当てる。手に伝わる温かさに満足していると、突然ガッとその手を握られて…
「きゃっ!」
どうかしてたわ…その刺激でクリスティンが起きてしまった。どうにか誤魔化さなくては!とオドオドして…
たけどクリスティンはその手を離そうとせず、そのまま私の手のひらを自分の口元に近付けて…
「チュッ」
そんなリップ音が響く。それに呆然として…ど、どういう意味なの?離婚を言い出した妻に、それはあり得るのかしら…
──もしかして、誘っている?
そんな夫に困惑する。昼間はあんなに冷たい態度だったのに私を誘うの?信じられない!
それから冷ややかな表情のまま、顔を近付けてくるクリスティン。そして…熱く口付けてきた。何度も何度も角度を変えて深く奥まで侵入され、舌で押し返そうとするが上手くいかない!かえって絡め取られて…
ああ、もう駄目だと観念した。愛する人に触れられ、求められて、それを拒否できる筈もない。
──私はこの男を愛している!この非情な人を…
愛を返してはくれなくとも、全身で幸せを感じてしまうの。そう自覚して、逞しい胸に私を押し付ける。すると貪りつくように全身を撫で回し、器用な舌で刺激を与えられる。それに甲高い嬌声を上げて…
私の唇に、胸に、胎内に、あなたを刻み込むわ。余すことなく全身に、あなたという人を刻み込みたい!もう二度と会えない…声も聞こえない。どんなにあなたを求めても、目に映ることさえ叶わない。あなたを恋しくなって涙しても…そうなっても耐えられるように、あなたを私の中に刻み込むことにする。
いつもの平然とした顔を崩して、欲望に歪むあなたの顔。これは私だけのものよ!
「きて、クリスティン…」
そう言ってあなたを迎え入れる。その頭の中が真っ白になるような刺激に喘ぎながら、私は感じていた…これがあなたに抱かれる最後になるのだと。そして流れる涙はそのままに、ぎゅっと離れないように抱き着いた。
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