【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO

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第一章・僕が公爵家に居るワケ

10・脱出作戦

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 ビックリした事にリンダさんのお店に置いてもらった僕の作品が…売れたー!

 ──早くない?なんと全てだよ!信じられない…

 僕なりに頑張って作ったけれど、この世界には少々馴染みのない柄だ。造り手としても初心者で、まだまだ様子見しながらといった感じだった。なのに?

 ──もしかして、新しい風吹いた?新鮮だったのかもしれないね!
 
 そりゃあ伝統にのっとった柄も定番で素敵だけど、オリジナリティはないもんね。同じだからこそ落ち着くってこともあるかも?だけど、人と差をつけようとするには新しいものを取り入れないと。それこそお洒落上級者!

 それにしても小物はお安めだし売れるかもって期待していた。だけどあの大作の『花鳥風月』デーブルクロスも売れたとは!価格も決して安くなかったし、売れ残ったらあれに他の商品を並べて…なんて覚悟していた。

 ──僕ってやっぱり才能あるのかも?
 
 もっと奮起させる為に大袈裟に自分で褒めておく。
 現場の意見を聞いた方がいいだろうから、売上を貰いに行くついでにリンダさんに新作について相談してみようかな?楽しみ!


 +++++

 
 あれから早速オリヴァーには連絡を取ってもらって、今からリンダさんのお店に行く事になっている。またそっとお屋敷を抜け出さなきゃ!

 二人で目立たない服に着替えて静かに部屋を出る。辺りをキョロキョロと見渡して誰も居ないのを確認しながらちょっとずつ進む。今の時間帯は使用人達の昼食の時間だし、廊下の人通りは少ない筈。オリヴァーと目配せしながらそうっと廊下を走り抜け庭園に出た。ここまで来たら後は通用門から屋敷の外に出るだけ!って、何でぇ?
 
 驚いたことに、使用人用の通用門の所にミシェルの護衛騎士のギルバートさんがいる。普段こんなところには騎士など居ない。そこ、使用人しか通りませんけど?

 ──な、何で?いつものようにミシェルの護衛しろって!

 僕とオリヴァーは困惑しながら顔を見合わせて、少し離れた所まで撤退することに。

 「どうしてかな?護衛の騎士が何であんな所にいるの?」

 「何故なんでしょうか…今までギルバートさんが通用門になど居た事などないんですが。何かあったんでしょうか…」

 オリヴァーがそう言って押し黙る。それから顔を上げて「ちょっと他の人に聞いて来ます!」と僕をここに残して駆け出して行く。一人残された僕は、誰にも見られないように植え込みの陰に身体を丸めて、隠れていることにした。

 ──弱ったな…約束の時間まであんまりないよ?

 商売は信用が第一だからね?時間に遅れるなんて言語道断だ!そう思って少し焦って来たけど、今回だけは仕方ないか…

 少し経つと、人目を避けるようにオリヴァーが駆け寄ってくるのが見える。

 「大変です!屋敷の周りに怪しい人物が現れたようです。それで全ての出入り口に騎士を配置して警備するようです。だから…今日は外出は難しいんじゃないでしょうか?」
 
 そ、それは困った!今日は新作について相談があったのに。
 やっと売れ始めたところだよ?なのに商品を切らすとこれまでのことが水の泡になってしまう。あれだけしかなかったの?って、見に来てくれることもなくなってしまうかも。おまけにどういう客層だとか聞いてみたいと思っていたのに…リサーチって大切なんだよ!

 そう考え込んでいると、ふとこの公爵家を取り囲んでいる外塀に目がいった。それから目の前の塀の上には、こちらから張り出す大きな木の枝が…

 ──これ、登れるんじゃない?

 僕だって二年前までは平民だ。木登りだってやった事くらいはある。ただ、久しぶりだしどうなんだろ?と不安はあるけど…

 それに行きだけでも何とか外に出る事が出来れば、帰って来る頃には警戒が解除されているかも。例えそうならなくても、それより前に外に出たことにして、屋敷に入れて貰えばいいんじゃない?それをまさか拒否したりしないでしょ!そう感じた僕は、思い切ってオリヴァーに提案してみる。

 「えーっ!マリン様があの木に?おまけに本当に木登りなんて出来ます?私は日を改めた方が良いのではと思いますけど…」

 そう心配するオリヴァーの言葉に、僕はフルフルと首を横に振る。

 ──やるだけやってみよう!お待たせしているリンダさんに申し訳ないし。
 
 そう鼻息を荒くする僕に渋々と言った感じでオリヴァーは頷き、先にスルスルと器用に登って、難なく木から塀の上に飛び移る。それから僕を引き上げようと手を伸ばしてくる。

 ──ワァオ!凄いやぁ~僕もあのルートを辿って登ればいいよね!

 「そこからだとちょっと手が届かないし、僕も一旦木に登るよ。そこから引き上げてくれる?」

 「分かりました。だけど気を付けてくださいね?」

 オリヴァーの心配そうな顔を横目に、背が低くくてごめんね!と意を決して、僕は木の枝に足を掛ける。ぐんと枝の方の足に体重を掛けながら、もう片方を蹴り上げると一段目線が高くなった。

 ──思っていたよりも楽勝~!ホントはあんまり自信が無かったんだけどね。

 そう思いながら次も繰り返して、さてもう一踏ん張り!って体重を掛けると…

 ──メキッ!バキバキ…

 体重を掛けた方の枝が音を立てて折れる!ヤ、ヤバいよ…
 僕は咄嗟に、落ちる覚悟をした。下に強く打ち付けられて、打ち身くらいはあるだろうと。だけど骨折だけは避けたいっ!と身構える。するとその瞬間…誰かが僕のお尻を押し上げる。

 ──だ、誰よ?命の恩人かー!
 
 大袈裟だけど本当にそう思って、僕を支えてくれている人を見下ろす。その人が誰かに気付いて、僕はゴクリと唾を飲み込んだ…

 「あっ、ミシェル様。ごきげんよう…」

 そこには男前が台無しになるほど般若のように顔を歪めていて、僕を落とすまいと尻を懸命に支えるミシェルが!うっそ~
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