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3 事件は風化していたんだと知った日に
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思い切って挨拶をした。
「こんにちわ。」
「ああ、裏のしおりちゃんだね。今日はとびきり可愛くてびっくりだ。お姉さんは元気になったようだね。今日は早速初デートって気合入って出かけたからね。」
あの暴君の姉の事を・・・・覚えて・・・って今日初デートって。
なんでそんなことまで知ってるの?
「この間の男は酷かったから、今度は手堅く大人男子にしたって言ってたけど、どうなるやら。」
おじいさんが愉快そうに笑う。
過去の因縁とも言うべきあの事件の影はどこにもない。
それに、なんで私も、もしかしたら家族も知らない『元カレ』のことまで知ってる風なの?
そっと隣を見た。普通に猫を撫でている。
あの事件はすでに関係者の中では風化してるのだろうか?
「おじいちゃん、ねぇ、可愛いでしょう。」
「ああ、かわいいなあ。三つ子の子猫か。猫の話はお姉さんからも出たことなかったけど、母猫が産んだのかな?」
「いえ、家では飼ってないです。公園で捨てられてるのを見つけたんです。うちでもなんとか一匹なら飼ってもらえるみたいなんてすけど、全員はダメって言う感じで。」
思いっきり媚びた視線になってそうだ。
「うちも一匹ならいいって、ねぇ、おじいちゃん、ここで、一匹面倒見てもらえないかなぁ?」
「・・・まぁ、いいぞ。」
ポツリと言ってくれたおじいさん。
「本当ですか?」
思わず大股で一歩前に出て目の前に立って見上げた。
うおっと言った感じで後ろに下がられた。
「おじいちゃんありがとう!」
「ありがとうございます!良かったね、委員長。」
「うん。」
「良かった、皆、ちゃんとお家ができて、家族が出来て。」
委員長の腕の中の二匹の子猫に顔を寄せて撫でる。
良かった。寂しい時はここに連れてくれば兄弟もいるし・・・・・、あ・・・もし許されるなら。
「ねぇ、委員長、女の子と男の子わかるかな?」
委員長がおじいさんを見る。
お尻を見せるように三匹が並んで、二人でおじいさんの前に立つ。
女の子は私の抱いてる猫だけ。あとは男の子だと言われた。
さっきからなんとなくこの子を抱いてて、この子がいいと思ってる。
「委員長はどの子がいい?」
「うん、どんな基準で選ぶんだろう。直感でこの黒猫かな。」
「しおりさんは?」
「私、この子がすっかり手の中に落ち着いてて、女の子をもらっていいならこの子がいいと思ってる。」
白黒の猫で白い靴下を履いてるように見える。三本の足がそうなのだ。
「おじいちゃんは?」
「残りの子でもいいさ。どの子も可愛いし。」
そう言ってキジトラの子猫に手を伸ばす。
決まったらしい。
自分の手の中の子猫に頬ずりをする。
「よろしくね。後で名前つけてあげるね。」
とは言っても、用意するものがある。
ゲージと保温器。
後はいらないタオルや服を集めて、小皿はあるだろう。
子猫用の餌も買ってこないといけない。
昔あったものは捨ててしまった。
何があったか思い出す。
でも私のお小遣いから出すのなら、必要最低の物からでもいい。
ペットショップは遠い。
猫砂なんて車を出してもらわないと持って帰ってこれない。
とりあえずは段ボールとタオルでいいだろうか?
「日曜日にみんなの分いろいろと買いに行くか?もう少し兄弟の夜を過ごさせてあげてもいいし。連れて帰ってもいいけど。」
三匹まだまだ小さい子猫。
いきなり母親に離されて、その上兄弟からも・・・・・・、それは寂しい。
「おじいさん、お願いしてもいいですか?日曜日にお金をもってここに迎えに来ます。」
「僕も来れるよ。写真だけとって、報告だけはして。おじいちゃん、買い物にも連れてって。」
「じゃあ、決まりだな。日曜日、お昼ご飯はここで食べてもいいよ。」
「しおりさん、一緒に猫を見ながら食べる?」
そんなに甘えてもいいのだろうか?
本当に気がついてない?
忘れてる?
「あの、私の家は裏なんです。お忘れでしょうか?昔に姉がひどく迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。あの時の事は許してもらえるんでしょうか?」
「そりゃあ、あんな昔の子供の喧嘩をいつまでも根に持ってはいないよ。お姉さんのかおりちゃんとは今ではすっかり飲み友達だし。気にしてたのかな?お姉さんは何も言ってない?」
何もとは何を?
「知らないなら、別にいい。若くて可愛い友達が増えてうれしいくらいだから。猫を連れて遊びに来ればいい。この子も寂しくないだろうし。」
本当にすべてを水に流して綺麗に忘れて許してくれて、その上で家に誘ってくれてるらしい。
「ありがとうございます。身勝手でわがままで乱暴者の姉が迷惑をかけてない事を祈ります。」
「まあ、可愛いレベルだから。あんまり変わってはないらしいようだけど。」
委員長は全く事情が分からないらしい。
良かった、変なトラウマになってなければいい。
私も乱暴者一族と思われたくはない。
あくまでも姉がはみ出し者なだけだし。
「じゃあ、日曜日のお昼の時間にしよう。」
「ああ、それより、一総、着替えたらどうだ?」
「ああ・・・・ああ、そうだった。」
「せっかくしおりちゃんは可愛い恰好なのに、残念な奴だなあ。ねえ。」
おじいさんにそう言われた、微笑まれた。
「はい・・・・・。」
確かに・・・・と思った。
「じゃあ、さっきの野菜で早速おかずを作ったから一緒に食べよう。」
私の方を向いて言われた。誘われた。
お昼ご飯をここで?いいの?
「委員長、いいのかな?おばあちゃんは?」
「ああ、おばあちゃんはいないんだ。おじいちゃん一人だから、お姉さんと時々飲んでるって聞いてたんだ。いくつなの?」
それはそう思うだろう。中学生の姉が未成年では・・・・とか。
「大学生だよ。20歳になったばっかり。」
「そうなんだ。仲がいいらしいよ。楽しそうにいろいろ聞いてる。随分・・・・・・ユニークらしいね。」
それは『変わってる』というのを言い替えてくれたのかもしれない。
それとも『変』の一言だろうか?
裏のおじいさんの家で酒盛り?
失恋したことも知ってたし。
まさかここで失態をさらしてないだろうなあ。頼むよ・・・・・。
部屋は綺麗だった。
綺麗好きなおじいさんらしい。
お姉ちゃんも見習うべきだ。
先達から学ぶことは多いだろう、忍耐、礼儀、感謝・・・・整理整頓。
着替えをした委員長はやっぱり普通の恰好だった。
それにあの帽子だったんだろうか・・・・・。
さすがに脱いだらしくて今はない。
新しく段ボール箱を持ってこられた。
古いタオルも入ってる。
さっきから私の手の中で眠ってる子猫。
ああ、預けるのさえ・・・難しい。
連れて帰りたい。
おじいさんの家の息子・・・・孫?・・・・になったキジトラは今は委員長の手の中にいる。
男の子たちはすっかり目が覚めていて歩き出しそうだった。
トポトポと歩く姿も可愛い。
携帯を出して写真を撮る。
可愛いを連発して委員長と写真を取り合う。
寝ている子猫を抱いていては思いっきり動けない。
でも手放したくはなくて。
委員長が写真を見せてくれた。
「ねえ、後で写真もらっていい?」
「いいよ。その子の寝顔とってもいい?」
「うん。」
顔が見えるように体を向ける。
写真を送ってもらった。
一気に委員長との距離も近くなった。
こんな事を知ったら二人くらい羨ましいっていう子がいると思う。
内緒にしたい。
ちょっとした猫友達とそのおじいさん。
委員長にもらった寝てる女の子の写真を家族に送った。
『この子を貰うことにしました。女の子です。日曜日に連れて帰ります。』
お姉ちゃんから返信が来た。
『その服あげたんだっけ?指輪とバッグはあげてないよね。』
猫を見て欲しいのに、目ざとく写真の中の自分の持ち物に気がついたらしい。
しまった・・・・・。
服は誤魔化そう。
『指輪とバッグは掃除した時に転がって可哀想だったから、ちょっとだけ借りました。部屋は綺麗になりました。お礼だと思ってください。』
『まあ、いい。』
偉そうな返事が来た。
良かった。
許された。
おじいさんが大きなお皿と小さなお皿をお盆に乗せて運んできてくれた。
普通に丸ごとトマト、ぶつ切りのキュウリ、茹でたソラマメ。ベーコンと葉物の炒め物。
豪快だ。
「かおりちゃんはかなりお酒が飲めるらしいけど、しおりちゃんも楽しみだなあ。」
「私は飲んだことないですから。姉はちょっとだけ早めに修行をしてました。」
「おじいちゃん、20歳になるのは随分先だよ。」
「だから楽しみなんじゃないか。三人で飲めたら楽しいなあ、かおりちゃんも面白いからなあ。」
三人はこの三人だろうか?それとも委員長抜きの姉参加の三人だろうか?
私に面白さを求めてもらっても困る。
多分、あんまり飲めない気がする。
性格も大人しいままだと思う。
お姉ちゃん程には光る地金は私にはないから。
勧められるままに野菜を食べる。
ちょうどお昼時間。
お腹が空いていた。
「しおりさん、服に随分猫の毛がついてる。」
「あ・・・・ああ・・・・、そうだよね。まあいいや。後でコロコロブラシかける。」
「そういえばさあ、休みなのに宿題出るって、なんだか酷いよね。絶対先生が楽したいんだよね。」
委員長にそう言われて考えた。
宿題???
「委員長、宿題ってなんだっけ?」
「数学、凄い量出たよね。やってないの?知らなかった?」
「・・・・知らない・・・・・・どうしよう、全然知らない。」
「一聡、しおりちゃんはやっぱり同じクラスなのか?数学なら一総が得意だし、教えてやればいい。ご飯食べたらここに教科書持ってきたらいい。」
そう言われて委員長を見る。
お願いと言ってる目だと思う。
「いいよ。教科書とノート持ってくれば?」
「ありがとう。委員長。感謝です。苦手なの、数学。」
数学だけじゃないけど。
「僕大好き。面白いし、すごくかっこいいよね、数字って。国語とかより楽しい。」
かっこいい?数字が?
ひらがなの『な』とか『ね』とか『ぬ』は可愛いと思うけど。
数字がかっこいい???
首を倒した。
「きっと好きになるよ。分からない時は僕が教えるから、きっと好きになれるよ。」
そう言われた。
何の予言・・・・と約束?
「暇なときは勉強道具持ってここに集合していいぞ。ナオも寂しくないよな。」
おじいさんが近くに座り込んでるキジトラを見て言う。
「ナオっておばあちゃんの名前つけたの?」
「いいじゃろう。ばあさんと思って仲良くするから。」
「喜んでるかな?」
「喜んでます。絶対喜んでます。」
私が言った。
確か優しそうなおばあさんだったと思う。
何度か見かけたことはある、あの事件前に。
「ほら、しおりちゃんは女の子だから、ばあさんの気持ちが分かるんだろう。」
「あ、でも、その子男の子です。」
「いいよ、男の子の名前でもいいくらいだから。」
「僕、何にしようかなあ。」
私も日曜日までには考えたい。
『小坂』に合う名前。
ひらがなにしよう。
片足だけ靴下を履き忘れたあわてんぼうの猫。
白と黒の猫。
あんこの「あん」
いいじゃない?
「いい名前浮かんだの?」
委員長にそう聞かれた。
何でバレた?
「すごくうれしそうな顔してたけど。」
「『小坂 あん』にしました。」
「あんちゃん。かわいいね。もしかして・・・『あんこ』から?」
何でそれもバレた。
「違います、ひらがなが好きだから、私もひらがなだから、はじまりの『あ』と終わりの『ん』です。」
「ああ、ごめん。そうだよね。そんなに食い意地はってないよね。」
『あんこ』の『あん』も可愛い・・・食い意地とか・・・・関係なく可愛いけど。
今更言えない。
「僕は何がいいかな?」
「『ポー』とか。」
セサミとかゴマとかくろみつとかもかわいいけど、別に食い意地はってなくても可愛いけど。
「僕もそれは考えた。でも『名木ポー』ってちょっとおかしいかなって。」
「二人とも『一』がついてるから『一』をつけてやればいい。」
「じゃあ『一路』真実一路の『イチロ』とか、数学好きなら『一計』『一角』」
「『一路』はかっこいいね。どうかな?」
委員長が子猫を抱き上げて聞いている。
つい「にゃん。」と言ってしまった。
私が答えてどうする・・・・。
二人に笑われた。
「じゃあ、『名木 一路』にする。」
皆名前が決まった。
『ナオ』『あん』『一路』
かわいい。
その後、現実の中学生に戻って家から教科書とノートを持ってきた。
まったく知らなかった数学の宿題を教わった。
自分で考えるより早い。
考え方を教えてもらって、答にたどり着いて。
「分かりやすい。委員長教えるの上手、凄い、よくわかった。ありがとう。」
「良かった。いつでも聞いて。」
「委員長、頭いいから。」
「そんなことないよ。でも嫌いじゃないんだ。」
「そんな事一度も言ったことない。平仮名は好きだけど、国語が好きとは違うし。」
「考えることも覚えることも楽しいよ。」
「簡単には出来ないから、無理。」
「もうすぐテストだよ。分からない所は教えるよ。」
「多分全部、ほとんど全部。」
「じゃあ、夏休みとか、一緒に勉強すれば得意になるかも。とりあえずここにいる時は教えられるし。教室でもいいけど。」
「それは無理っ!!」
すぐに言った。
「・・・・・・なんで?」
ちょっとびっくりした委員長。
「無理っ。」
理由は私は言えない。
恨まれそう、変な事言われる。
勝手に誤解される。
だから無理。
なのにまったく気にしてない感じ。
鈍すぎる。
気がついてないんだろう。
考えもつかないなんて。
結構見つめられてるよ・・・・。
「ダメだな、こりゃ。」
おじいさんが遠くで小さく言った。
私には聞こえたけど、それも聞こえなかった?
教室では話しかけないし、目も合わないようにしよう。
お願いだから話しかけないで欲しい。
何と言ったらいいんだろう。
「あの、猫の事は内緒にして欲しい。前に友達からもらってって頼まれて・・・・断ったから・・・・悪いし、だから委員長と一緒に見つけて飼ってるって・・・・知られたくないし。」
何とか言い訳みたいなものをくっつけた。
分かってくれただろうか?
「うん、わかった。学校では猫の事は話さないようにする。」
「ありがとう。」
安心した。
携帯に連絡があったらしい。
お父さんとお母さんも楽しみにしてるって言ってる。
名前を『あん』にしたと教えた。
『あんこ』か・・・・・・お姉ちゃんがつぶやいた。
違う!それは今は違う!!
絶対『あんこ』って呼ばせない。
『あん』だから。
「こんにちわ。」
「ああ、裏のしおりちゃんだね。今日はとびきり可愛くてびっくりだ。お姉さんは元気になったようだね。今日は早速初デートって気合入って出かけたからね。」
あの暴君の姉の事を・・・・覚えて・・・って今日初デートって。
なんでそんなことまで知ってるの?
「この間の男は酷かったから、今度は手堅く大人男子にしたって言ってたけど、どうなるやら。」
おじいさんが愉快そうに笑う。
過去の因縁とも言うべきあの事件の影はどこにもない。
それに、なんで私も、もしかしたら家族も知らない『元カレ』のことまで知ってる風なの?
そっと隣を見た。普通に猫を撫でている。
あの事件はすでに関係者の中では風化してるのだろうか?
「おじいちゃん、ねぇ、可愛いでしょう。」
「ああ、かわいいなあ。三つ子の子猫か。猫の話はお姉さんからも出たことなかったけど、母猫が産んだのかな?」
「いえ、家では飼ってないです。公園で捨てられてるのを見つけたんです。うちでもなんとか一匹なら飼ってもらえるみたいなんてすけど、全員はダメって言う感じで。」
思いっきり媚びた視線になってそうだ。
「うちも一匹ならいいって、ねぇ、おじいちゃん、ここで、一匹面倒見てもらえないかなぁ?」
「・・・まぁ、いいぞ。」
ポツリと言ってくれたおじいさん。
「本当ですか?」
思わず大股で一歩前に出て目の前に立って見上げた。
うおっと言った感じで後ろに下がられた。
「おじいちゃんありがとう!」
「ありがとうございます!良かったね、委員長。」
「うん。」
「良かった、皆、ちゃんとお家ができて、家族が出来て。」
委員長の腕の中の二匹の子猫に顔を寄せて撫でる。
良かった。寂しい時はここに連れてくれば兄弟もいるし・・・・・、あ・・・もし許されるなら。
「ねぇ、委員長、女の子と男の子わかるかな?」
委員長がおじいさんを見る。
お尻を見せるように三匹が並んで、二人でおじいさんの前に立つ。
女の子は私の抱いてる猫だけ。あとは男の子だと言われた。
さっきからなんとなくこの子を抱いてて、この子がいいと思ってる。
「委員長はどの子がいい?」
「うん、どんな基準で選ぶんだろう。直感でこの黒猫かな。」
「しおりさんは?」
「私、この子がすっかり手の中に落ち着いてて、女の子をもらっていいならこの子がいいと思ってる。」
白黒の猫で白い靴下を履いてるように見える。三本の足がそうなのだ。
「おじいちゃんは?」
「残りの子でもいいさ。どの子も可愛いし。」
そう言ってキジトラの子猫に手を伸ばす。
決まったらしい。
自分の手の中の子猫に頬ずりをする。
「よろしくね。後で名前つけてあげるね。」
とは言っても、用意するものがある。
ゲージと保温器。
後はいらないタオルや服を集めて、小皿はあるだろう。
子猫用の餌も買ってこないといけない。
昔あったものは捨ててしまった。
何があったか思い出す。
でも私のお小遣いから出すのなら、必要最低の物からでもいい。
ペットショップは遠い。
猫砂なんて車を出してもらわないと持って帰ってこれない。
とりあえずは段ボールとタオルでいいだろうか?
「日曜日にみんなの分いろいろと買いに行くか?もう少し兄弟の夜を過ごさせてあげてもいいし。連れて帰ってもいいけど。」
三匹まだまだ小さい子猫。
いきなり母親に離されて、その上兄弟からも・・・・・・、それは寂しい。
「おじいさん、お願いしてもいいですか?日曜日にお金をもってここに迎えに来ます。」
「僕も来れるよ。写真だけとって、報告だけはして。おじいちゃん、買い物にも連れてって。」
「じゃあ、決まりだな。日曜日、お昼ご飯はここで食べてもいいよ。」
「しおりさん、一緒に猫を見ながら食べる?」
そんなに甘えてもいいのだろうか?
本当に気がついてない?
忘れてる?
「あの、私の家は裏なんです。お忘れでしょうか?昔に姉がひどく迷惑をかけてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。あの時の事は許してもらえるんでしょうか?」
「そりゃあ、あんな昔の子供の喧嘩をいつまでも根に持ってはいないよ。お姉さんのかおりちゃんとは今ではすっかり飲み友達だし。気にしてたのかな?お姉さんは何も言ってない?」
何もとは何を?
「知らないなら、別にいい。若くて可愛い友達が増えてうれしいくらいだから。猫を連れて遊びに来ればいい。この子も寂しくないだろうし。」
本当にすべてを水に流して綺麗に忘れて許してくれて、その上で家に誘ってくれてるらしい。
「ありがとうございます。身勝手でわがままで乱暴者の姉が迷惑をかけてない事を祈ります。」
「まあ、可愛いレベルだから。あんまり変わってはないらしいようだけど。」
委員長は全く事情が分からないらしい。
良かった、変なトラウマになってなければいい。
私も乱暴者一族と思われたくはない。
あくまでも姉がはみ出し者なだけだし。
「じゃあ、日曜日のお昼の時間にしよう。」
「ああ、それより、一総、着替えたらどうだ?」
「ああ・・・・ああ、そうだった。」
「せっかくしおりちゃんは可愛い恰好なのに、残念な奴だなあ。ねえ。」
おじいさんにそう言われた、微笑まれた。
「はい・・・・・。」
確かに・・・・と思った。
「じゃあ、さっきの野菜で早速おかずを作ったから一緒に食べよう。」
私の方を向いて言われた。誘われた。
お昼ご飯をここで?いいの?
「委員長、いいのかな?おばあちゃんは?」
「ああ、おばあちゃんはいないんだ。おじいちゃん一人だから、お姉さんと時々飲んでるって聞いてたんだ。いくつなの?」
それはそう思うだろう。中学生の姉が未成年では・・・・とか。
「大学生だよ。20歳になったばっかり。」
「そうなんだ。仲がいいらしいよ。楽しそうにいろいろ聞いてる。随分・・・・・・ユニークらしいね。」
それは『変わってる』というのを言い替えてくれたのかもしれない。
それとも『変』の一言だろうか?
裏のおじいさんの家で酒盛り?
失恋したことも知ってたし。
まさかここで失態をさらしてないだろうなあ。頼むよ・・・・・。
部屋は綺麗だった。
綺麗好きなおじいさんらしい。
お姉ちゃんも見習うべきだ。
先達から学ぶことは多いだろう、忍耐、礼儀、感謝・・・・整理整頓。
着替えをした委員長はやっぱり普通の恰好だった。
それにあの帽子だったんだろうか・・・・・。
さすがに脱いだらしくて今はない。
新しく段ボール箱を持ってこられた。
古いタオルも入ってる。
さっきから私の手の中で眠ってる子猫。
ああ、預けるのさえ・・・難しい。
連れて帰りたい。
おじいさんの家の息子・・・・孫?・・・・になったキジトラは今は委員長の手の中にいる。
男の子たちはすっかり目が覚めていて歩き出しそうだった。
トポトポと歩く姿も可愛い。
携帯を出して写真を撮る。
可愛いを連発して委員長と写真を取り合う。
寝ている子猫を抱いていては思いっきり動けない。
でも手放したくはなくて。
委員長が写真を見せてくれた。
「ねえ、後で写真もらっていい?」
「いいよ。その子の寝顔とってもいい?」
「うん。」
顔が見えるように体を向ける。
写真を送ってもらった。
一気に委員長との距離も近くなった。
こんな事を知ったら二人くらい羨ましいっていう子がいると思う。
内緒にしたい。
ちょっとした猫友達とそのおじいさん。
委員長にもらった寝てる女の子の写真を家族に送った。
『この子を貰うことにしました。女の子です。日曜日に連れて帰ります。』
お姉ちゃんから返信が来た。
『その服あげたんだっけ?指輪とバッグはあげてないよね。』
猫を見て欲しいのに、目ざとく写真の中の自分の持ち物に気がついたらしい。
しまった・・・・・。
服は誤魔化そう。
『指輪とバッグは掃除した時に転がって可哀想だったから、ちょっとだけ借りました。部屋は綺麗になりました。お礼だと思ってください。』
『まあ、いい。』
偉そうな返事が来た。
良かった。
許された。
おじいさんが大きなお皿と小さなお皿をお盆に乗せて運んできてくれた。
普通に丸ごとトマト、ぶつ切りのキュウリ、茹でたソラマメ。ベーコンと葉物の炒め物。
豪快だ。
「かおりちゃんはかなりお酒が飲めるらしいけど、しおりちゃんも楽しみだなあ。」
「私は飲んだことないですから。姉はちょっとだけ早めに修行をしてました。」
「おじいちゃん、20歳になるのは随分先だよ。」
「だから楽しみなんじゃないか。三人で飲めたら楽しいなあ、かおりちゃんも面白いからなあ。」
三人はこの三人だろうか?それとも委員長抜きの姉参加の三人だろうか?
私に面白さを求めてもらっても困る。
多分、あんまり飲めない気がする。
性格も大人しいままだと思う。
お姉ちゃん程には光る地金は私にはないから。
勧められるままに野菜を食べる。
ちょうどお昼時間。
お腹が空いていた。
「しおりさん、服に随分猫の毛がついてる。」
「あ・・・・ああ・・・・、そうだよね。まあいいや。後でコロコロブラシかける。」
「そういえばさあ、休みなのに宿題出るって、なんだか酷いよね。絶対先生が楽したいんだよね。」
委員長にそう言われて考えた。
宿題???
「委員長、宿題ってなんだっけ?」
「数学、凄い量出たよね。やってないの?知らなかった?」
「・・・・知らない・・・・・・どうしよう、全然知らない。」
「一聡、しおりちゃんはやっぱり同じクラスなのか?数学なら一総が得意だし、教えてやればいい。ご飯食べたらここに教科書持ってきたらいい。」
そう言われて委員長を見る。
お願いと言ってる目だと思う。
「いいよ。教科書とノート持ってくれば?」
「ありがとう。委員長。感謝です。苦手なの、数学。」
数学だけじゃないけど。
「僕大好き。面白いし、すごくかっこいいよね、数字って。国語とかより楽しい。」
かっこいい?数字が?
ひらがなの『な』とか『ね』とか『ぬ』は可愛いと思うけど。
数字がかっこいい???
首を倒した。
「きっと好きになるよ。分からない時は僕が教えるから、きっと好きになれるよ。」
そう言われた。
何の予言・・・・と約束?
「暇なときは勉強道具持ってここに集合していいぞ。ナオも寂しくないよな。」
おじいさんが近くに座り込んでるキジトラを見て言う。
「ナオっておばあちゃんの名前つけたの?」
「いいじゃろう。ばあさんと思って仲良くするから。」
「喜んでるかな?」
「喜んでます。絶対喜んでます。」
私が言った。
確か優しそうなおばあさんだったと思う。
何度か見かけたことはある、あの事件前に。
「ほら、しおりちゃんは女の子だから、ばあさんの気持ちが分かるんだろう。」
「あ、でも、その子男の子です。」
「いいよ、男の子の名前でもいいくらいだから。」
「僕、何にしようかなあ。」
私も日曜日までには考えたい。
『小坂』に合う名前。
ひらがなにしよう。
片足だけ靴下を履き忘れたあわてんぼうの猫。
白と黒の猫。
あんこの「あん」
いいじゃない?
「いい名前浮かんだの?」
委員長にそう聞かれた。
何でバレた?
「すごくうれしそうな顔してたけど。」
「『小坂 あん』にしました。」
「あんちゃん。かわいいね。もしかして・・・『あんこ』から?」
何でそれもバレた。
「違います、ひらがなが好きだから、私もひらがなだから、はじまりの『あ』と終わりの『ん』です。」
「ああ、ごめん。そうだよね。そんなに食い意地はってないよね。」
『あんこ』の『あん』も可愛い・・・食い意地とか・・・・関係なく可愛いけど。
今更言えない。
「僕は何がいいかな?」
「『ポー』とか。」
セサミとかゴマとかくろみつとかもかわいいけど、別に食い意地はってなくても可愛いけど。
「僕もそれは考えた。でも『名木ポー』ってちょっとおかしいかなって。」
「二人とも『一』がついてるから『一』をつけてやればいい。」
「じゃあ『一路』真実一路の『イチロ』とか、数学好きなら『一計』『一角』」
「『一路』はかっこいいね。どうかな?」
委員長が子猫を抱き上げて聞いている。
つい「にゃん。」と言ってしまった。
私が答えてどうする・・・・。
二人に笑われた。
「じゃあ、『名木 一路』にする。」
皆名前が決まった。
『ナオ』『あん』『一路』
かわいい。
その後、現実の中学生に戻って家から教科書とノートを持ってきた。
まったく知らなかった数学の宿題を教わった。
自分で考えるより早い。
考え方を教えてもらって、答にたどり着いて。
「分かりやすい。委員長教えるの上手、凄い、よくわかった。ありがとう。」
「良かった。いつでも聞いて。」
「委員長、頭いいから。」
「そんなことないよ。でも嫌いじゃないんだ。」
「そんな事一度も言ったことない。平仮名は好きだけど、国語が好きとは違うし。」
「考えることも覚えることも楽しいよ。」
「簡単には出来ないから、無理。」
「もうすぐテストだよ。分からない所は教えるよ。」
「多分全部、ほとんど全部。」
「じゃあ、夏休みとか、一緒に勉強すれば得意になるかも。とりあえずここにいる時は教えられるし。教室でもいいけど。」
「それは無理っ!!」
すぐに言った。
「・・・・・・なんで?」
ちょっとびっくりした委員長。
「無理っ。」
理由は私は言えない。
恨まれそう、変な事言われる。
勝手に誤解される。
だから無理。
なのにまったく気にしてない感じ。
鈍すぎる。
気がついてないんだろう。
考えもつかないなんて。
結構見つめられてるよ・・・・。
「ダメだな、こりゃ。」
おじいさんが遠くで小さく言った。
私には聞こえたけど、それも聞こえなかった?
教室では話しかけないし、目も合わないようにしよう。
お願いだから話しかけないで欲しい。
何と言ったらいいんだろう。
「あの、猫の事は内緒にして欲しい。前に友達からもらってって頼まれて・・・・断ったから・・・・悪いし、だから委員長と一緒に見つけて飼ってるって・・・・知られたくないし。」
何とか言い訳みたいなものをくっつけた。
分かってくれただろうか?
「うん、わかった。学校では猫の事は話さないようにする。」
「ありがとう。」
安心した。
携帯に連絡があったらしい。
お父さんとお母さんも楽しみにしてるって言ってる。
名前を『あん』にしたと教えた。
『あんこ』か・・・・・・お姉ちゃんがつぶやいた。
違う!それは今は違う!!
絶対『あんこ』って呼ばせない。
『あん』だから。
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蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
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