すべての事件は裏の家でおきていました。

羽月☆

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14 夏休み、姉のお供に付き合ったのは二人

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知らない、全くそんなつもりじゃなかったのに。




珍しくお姉ちゃんに言われた。

「一緒に遊んでやる。金曜日空けときなさい!」

そう言われて、もちろん従った。
命令以外のなにものでもなかったから。

「どこに行くの?」

「まだ未定。」

そう言われても、どうせランチ付きの荷物持ちだと思ってたし。

珍しく私の服をコーティネートして、アクセサリーやバックまでまとめて貸してくれた。

「まぁ、いいじゃん!それ全部あげる。」

ゾゾッ。
何何?なんでいきなり優しい姉ぶるの?

着せ替えされた私は拉致されるような気分になった。
・・・・どこに行くの?どこに連れて行かれるの?


お母さんから昨日お小遣いをもらった。
何か欲しいものあったら買いなさい。
そう言われてもらって、喜んだ。
だって荷物持ちしながらもお姉ちゃんを褒め称え、機嫌よく買い物をしてもらうことになる。妹なりに気を遣うのだ。遣わせる姉なのだ。
でも、少しは自分も楽しみたい!

「ありがとう。」

そう思ってたのに出来上がった私は便利な荷物持ち風じゃなかった。

『仲良しのお姉ちゃんと買物中。』 まあ、そんな感じ。

時間を先に言われてて、私はもちろんお姉ちゃんも余裕で準備して出かけた。

いつもこのくらい余裕を持って出かければいいのに。
何故かいつもバタバタしてるお姉ちゃん。
本当は出来る?
外では出来てるって事?

たた、でかけた先は裏の家。
おじいさんに挨拶だとは思ったからついていく。

「こんにちわ。」

出てきたのは委員長だった。
その後ろにニコニコのおじいさん。

おじいさんに挨拶をしているお姉ちゃんの脇で靴を履いて会話の終わりを待つような委員長。

「夏休みも明日までだね。今日もこっちに遊びにきてたの?」

「・・・・・うん。」

連絡がなかったから知らなかった。
そう、いつものお知らせはなかったから。


「じゃあかおりちゃん、しおりちゃん、可愛い孫をよろしく。」

「どんと、まかせて。」

ん、何?

「じゃあ行こう!」

声高にそう言って、先導するように駅まで歩くお姉ちゃん。
そのまま電車に乗った三人。

「お姉ちゃん、委員長も一緒?」

今更だけど聞いてみた。

さすがにおかしい。

「そうよ、聞いてなかったの?」

誰にですか?

委員長を見るとお姉ちゃんを見てる顔が驚いてる。

知らなかったんじゃないだろうか、そう思えた。

でもさっきはびっくりもせず合流してたし・・・・・。

「ねえ、一緒にどこ行くの?」

「遊園地!」

「三人で?」

「四人!」

「あと一人は、誰?」

おじいさんじゃないなら誰が加わるの?

「もちろん私のカレシ!ダブルデート!」

こっちを見た顔がニヤリと笑う。

「邪魔しないでね、しおり。」

・・・・・はぁ?です。

邪魔ならなんで連れてきた?
未成年が一緒だと特典あり、とか?
カレシさんに妹をかわいがる姉力アピールとか?

「委員長、ごめんね、身勝手な姉が変なことに巻き込んで。」

「ううん。」

かなり言葉少ない委員長。
さすがにお姉ちゃんに飲まれてる。
それが普通の反応です。
むしろ勝負を挑んだ、挑まれて受けて立ったお兄さんがすごい!!

「嫌ね、せっかく連れてってあげるのに、感謝よ感謝。そんなこと忘れたら嫌われるから。」

ほんとにそうならこの世の中、お姉ちゃんに味方はいないはず。

知らない駅で降りて、ロータリーに止まった車に近寄って歩くお姉ちゃんについて行った。

コンコンと窓ガラスをノックして開ける。


「おまたせ、リョウくん。」

「乗って。」

後ろを振り向き私達に言う。
少し声が変わってる気がしない?

後ろのドアを開けて乗り込む。

「おじゃまします。」
「こんにちわ。」

初めてお姉ちゃんの彼氏に会う。
たまに惚気を聞かされたり、文句を一方的に聞かされたり、でもご本人登場は初めてだった。

大人の人だった、優しそうな笑顔。

横にいるお姉ちゃんも同じような笑顔をしてるのにもびっくり。

私の知らない顔だった。ちょっと違和感が…。



「妹のしおりちゃんと委員長君だよね。」

「はい。」二人の声が重なる。

「委員長君の名前は?」

「名木 一総です。」

「『かずさくん』か。しおりが名前教えてくれないからずっと委員長だった。ごめんね。」


「紹介します、私のカレシのリョウ君です。今日はわざわざ有給をとって妹とかずさ君を遊びに連れていくことにしました!はい、感謝!」

「ありがとうございます。」
「姉がいつもご迷惑をかけてます。」


 「しおり、決めつけないで。」

「迷惑なんてことないよ、今日も楽しみにしてたし。じゃあ、動かすね。」


ゆっくりと車が動く。
優しい運転。
姉を受け入れるくらいだから、そうなんだろう。


どこで出会ったんだろう?
有休って言ってたし、社会人だとおじいさんが言ってた。


遊園地としか聞いてないけど、どこに行くの?


「あ、かおりちゃん、遊園地の予定だったけど、今すごいみたい。夏休み中だし、数時間待ちだよ。水族館の方がゆっくり出来て涼しくないかな?」

「やっぱりそうだよね。パスの回収率悪いよね。水族館は涼しそうだね。お任せでいいよ。」

私と委員長の意見は初めから無視?

二人のデートについて行く子供みたいな後ろの二人。
別にいいです。
感謝を忘れたら嫌われる・・・・。
ありがたいです。
感謝です、本当です。


「二人はどうかな?この暑い中並ぶよりはと思ったんだけど、すごく楽しみにしてたんなら別にいいよ。」

「どこに行くか全く聞いてなくて・・・・・、委員長聞いてたの?」

「う、・・・・うん。」

何で私だけ知らないの?

「しおり、酔っぱらってたの?教えたのに。もうぼんやりね。ミッキーに会う?それともペンギンに会う?」


絶対言ってない!!
酔っぱらうとか、まだ未成年だし、お姉ちゃんじゃないから。


そこは言うまい、グッと飲み込む。

「委員長はどう?」

「僕、水族館でもうれしい。動物大好きだから。」

「私も涼しい方がいいです。ペンギンとクラゲとラッコと・・・・絶対生きてるほうがいいです。」

「しおり、ミッキー殺さないでね。あそこもみんな動物達だけどね。」

「じゃあ、予定変更でいいかな?」

「お願いします。」
二人で答える。


ドライブはまあまあ順調で、楽々に目的地に着いた。


途中もにぎやかにお姉ちゃんが話をしていた。
かけていた音楽も聞こえず、さり気なく途中止められた。

ご迷惑さまです。

「かずさ君の家とは家族ぐるみの付き合いが長いの。本当に小さいころから、あと一人かずさ君のお兄ちゃんも入れて。」

今日初めて委員長の名前を知ったと言うのに、家族ぐるみ・・・・・・。
素晴らしい曲解だ。
恥ずかしくて委員長を見れない。


「おばあちゃんもすごく優しくてね。いなくなった時はおじいちゃんが本当に落ち込んでて、もう毎日せっせと通って一緒に思い出話して、時々お酒に付き合って、時々一緒に料理を作っておばあちゃんの味を一緒に食べたりして。かずさ君、優しいおばあちゃんだったよね。」

まるで本当の孫のように語る姉をどうしよう。
しかも本当の孫の前で。

「ありがとうございます。本当におじいちゃんが元気になったのはお姉さんのお陰です。」

素晴らしい・・・・チームワーク?
まさにお姉ちゃんが望む対応をしてくれた空気を読める委員長。
お姉ちゃんの評価が上がってます。
彼氏さんは絶対信じてます。

「今はナオがいるからね。私もそうそう行けないから、後はしおりにバトンタッチ。しおり、おじいちゃんとナオをよろしくね。」

だから、私は勿論、お姉ちゃんもただの裏の家の子ですから。

「はい。」

そうは思っても返事はする。
妹らしい返事。

時々委員長の表情を盗み見る。
委員長も心が広いのか、あんまり違和感を覚えてない?
そんな訳ないから、後でまとめて謝ろう。

なんでお姉ちゃんのことではこんなに謝ることがあるんだろう。
世の中の妹は誰もがこんな感じなのだろうか?
委員長がお兄さんの事で愚痴を言ってるのを聞いたことがあるだろうか?


水族館に到着。
昔遠足できたことがあった気がする。

涼しいはずの館内までは遠かった。
広いからしょうがない。

それでも入ったらヒンヤリと気持ち良くて。
入場料は安くて、ミッキーよりぐっと安くて、お姉ちゃんが四人分買ってくれた。

彼氏さんは車代があるし。


入り口でホッとしたのもつかの間。

「じゃあ、解散~。のんびり見て・・・・、お昼は外がいいから、適当に先についたら出口で待ってて。」

「じゃあ、かずさ君、しおりはよく迷子になるらしいから、よろしくね。」

・・・・おじいさん、喋ったな・・・・・。

手を振って先に歩き出して、自然に手をつないだ二人の後姿を見ていたけど、恥ずかしくなってすぐに視線を外した。

「面白いね。」

「もう、色々ゴメンね。なんだか虚言癖があるみたい。本当に恥ずかしい。きっと彼氏さんにいい所を見せたいみたい。付き合って話も合わせてくれてありがとう。」

「何?」

「ほら、家族ぐるみとか、おじいちゃんを慰めた話とか。」

「ああ、でもずっと昔からお姉さんはおじいちゃんのところに行ってたみたいだし、家の親も知ってるよ。そう言う意味ではまあ合ってる。おばあちゃんの事も、おじいちゃんの事も本当だよ。それも聞いてたから、本当に感謝してるんだ。」

まじまじの話ですか?

昔から、本当に遊んでたの?
全然知らない。
家族も知らない話、おじいさんは知ってるみたいだった。
カレシの話とか・・・・。
昔から、本当に孫より入りびたってるの?


「行こうか。」

「うん。」

約束はぼんやりとしかしてなかったのに、お姉ちゃんとおじいさんが計画したのか、こうなった。
二人ではなかなか来れないちょっと遠い所。
お姉ちゃんのお陰だと思おう。
もちろんカレシさんもありがとう。


涼しい館内で、ゆっくり魚を見ていく。

分厚いガラスにはりつくように横移動。

普通の魚はそんなに興味はないけど、時々きれいな魚やへんてこな魚がいる。
一緒に案内板を読んだりして、指さして、可愛いと言い合って。
時々真剣に探して。

ペンギンとラッコはやっぱり抜群に可愛かった。
もうずっと見てられるくらい。

「ペンギンってほとんど脂肪なのかな?」

毛は濡れてはりついてるけど、大きさは変わらない。
じゃあ、もともとあんなずん胴なの?
脚が短い、歩きにくいのに。
バランス悪い、横揺れしてるじゃない。

「どう見ても敵に簡単に襲われそうな鈍い動きなんだけど、ずっしり重たそうだから陸にいれば安全なのかな?」

「寒い所なら陸は安全なのかもね。」

「人間も焼き鳥にしようとは思わなかったのかな?」

「しおりちゃん、さすがに幼稚園児が聞いたら泣くよ。ペンギンの焼き鳥って・・・・・。」

「なんとなく思っただけ、食べたいとかおいしそうとかは思ってないよ。」

「お腹空いてるとか?」

「違うって。」

初めて・・・・しおりちゃんと呼ばれた。
おじいちゃんもお姉ちゃんも彼氏さんもそう呼んでるから。

でも学校で呼ばれたらいろんな人が凍り付きそうだから気を付けて欲しい。
私は委員長としか呼ばないようにしてる。
萌ちゃんまで委員長だから。

ゆっくり回っても二時間くらいで出口に近づいた。


携帯を見て連絡してみようかと思ったら、丁度お姉ちゃんが見えた。
やっぱり楽しそうで、優しそうな顔をしていた。
いつもより綺麗だと思った。

腰に手をやる彼氏さんと、太ももに手を乗せるお姉ちゃん。

大人なんだと思った。

「ちょっとトイレに行ってきていい?」

「うん。僕も行く。ここで待ってる。」

「うん。じゃあ。」

急にいろいろ分からなくなった。

いつもとは違うお姉ちゃんを見せられて。
大人になることが、どんどん違う人になっていくことみたいで。
自分はまだ一年後の事さえあやふやなのに。
どうなるんだろう、私は、委員長は・・・・、おじいさんは・・・あ、おじいさんは変わらないか。
なんだかちょっと安心した。


トイレを済ませて、また委員長と一緒に歩き出して。

トイレから連絡はしていた。
トイレに行って出口に着くから待っててと。


「お待たせしました。」

「しおり、かずさ君、楽しかった?」

「うん。」
「はい。久しぶりだったし、とても楽しかったです。」

「じゃあ、お昼にしようか。」

「外に出てレストランに行こう!!」

車に乗って近くのレストランに入る。
予約をしてあったらしくて、すぐに席に通された。

「お酒が美味しそうなのに、飲めない。」

「今夜どんだけ飲んでもいいから、今は我慢でお願いします。おじいちゃんのかわいい孫をお願いされてるし。」

「もちろん分かってるよ。」

食事をしてお支払いはまたお姉ちゃんがしてくれた。

トイレに寄ると言うお姉ちゃんにくっついてお金のことを聞いた。

「お母さんからお金貰ってきてるよ。出すよ。」

「いいよ。本当に今日だけよ。」

「ありがとう。」

本当に心からそう言った。

「しおり、かずさ君は優しくていい子だから、仲良くしなさいね。」

「はい。」

素直にそう返事もできた。

トイレに入って、先に出た。
お姉ちゃんは化粧直しをしている。
見てるのも恥ずかしい気がして先に出てきた。

二人のところに行って、まだ早いからと、これからリョウさんの行きつけに付き合うことになったと。
地元らしい。

「あ、かずさ君には謝ったんだけど、送るのは迎えに行った駅でもいいかな?電車で二人で帰れる?」

二人?そう言えば・・・・夜に・・・・って言ってたから。

「もちろんです。大丈夫です。」

「ごめんね。」

「いいえ、こちらこそ。貴重な休みなのに。」

「大丈夫、かおりちゃんのお姉ちゃんぶりも可愛く見れたし、楽しかった。」

そう言うリョウさんにこっちが照れる。
可愛い・・・・確かに今日はそうかも。
願わくばいつもそうであって欲しいくらいです。
でも、そんなのはやっぱりお姉ちゃんらしくないかな。

リョウさんの行きつけは『バッティングセンター』だった。
昔ながらの・・・・。
そうなんだ。ドラマで見たことある気もする。
私はもちろん初めてで。
委員長は何度かあるみたい。
でも、お姉ちゃんも何度か付き合ったらしく、堂々と構えながらベースについた。

それなりに当たってる。
かなり地金を出して、可愛い姿とは言えない気がする。
いいのだろうか?

リョウさんもすごかった。
上司のアホと言いながらいい音を響かせていた。
スッキリとして、うっすらと汗をかいたようになって出てきた。

大人はやはり何かと大変らしい。

「上司のアホって言うとすごくよく打てんるんだ。」
言い訳のように笑いながら言う。
大人だけど可愛い人だと思った。
お姉ちゃんも年上だけど可愛い・・・・・時があると分かった。




二人と別れて委員長と電車に乗った。

「疲れたね。」

「委員長も先生のアホとか言って打ってみれば良かったのに。」

「言わなくても普通に当たってたよ。」

「そうだったね。やるね。」

「もしかして運動はダメと思ってたでしょう?」

「うん・・・・そうかな?」
あんまり考えたことなかった。

「普通だよ。それなりに普通。」

「時々普通が難しい。」



膝の上には袋に入ったペンギンがいる。
大きいのは高かったので中くらいのを買って来た。
抱きしめながら電車に乗っていた。

デート帰りに見えるかも・・・・。

ペンギンをポンポンと叩きながらそう思ったりして。

委員長もペンギンのキーホルダーを買ってバッグにつけている。

何となく思い出が共通するって感じで、うれしい。


駅からも一緒に歩いて帰った。それは当たり前だ。
委員長は一度おじいさんのところに行くと言っていたから。



二人でおじいさんにもお土産を買った。
タコの形のせんべい。何故か明太子味。

二人でお金を出し合った。

私は家にももちろん買っている。

楽しい夏休みも終わる。

最後の追い込みとばかりに宿題に追われることもなかった夏休み。
マイペースで頑張ったから。
だから楽しい夏休みになったんだと思う。
頑張ったご褒美だと。



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