すべての事件は裏の家でおきていました。

羽月☆

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15 楽しい思い出がクローゼットに隠された

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夏休みは終わった。

「おはよう。」

朝学校に行き懐かしい顔に近寄る。
少しみんなの視線が私に集中した。

紅美ちゃんはあいさつするといなくなった。

その背中を皆が見る。

なんだろう・・・・・・。

何となく・・・・違う。

「後でね。」
綾ちゃんがそう言って、皆も解散した。

先生が来るまでまだ少し時間があった。

自分の席に座ったまま先生を待つ。

夏休み初日なんて授業はない。
みんなが元気だったことを確認して、宿題を提出して、校内放送を聞いて。
明日から普通の授業に戻るから気を引き締めるように言われて。
以上。

そのあとは友達と夏の思い出話をして・・・・・。

綾ちゃん一人が目の前に来た。
他の友達は前の方へ行った。

やっぱり何だか違う。

「ちょっとだけ、廊下に行こう。」

綾ちゃんがちらりと視線を合わせてくる。
本当にちょっとだけ。

先に歩く綾ちゃんについて行く。

廊下はあちこちで立ち話をしてる子もいるけど、教室よりは少ない。

窓ガラスを開けて、空を見て顔を出しながら話が始まった。

「聞いたよね?花火の日に他の誰かと約束があったの?って。」

「うん。別に何もなかったよ。午前中は塾で、昼は家にいてお姉ちゃんとお母さんとお父さんとご飯食べてたよ。」

「うん、そうじゃなくて、誰かと花火を見る約束してた?」

「皆と・・・・、ごめんね、足を止めて女の人見てたら、はぐれちゃって。とりあえず人混みの外に出てどこにいるか聞こうと思って。でも誰も気がついてくれなくて。」

「それで?」

「フェンスで携帯を見てたの。暗い中で明るい画面を見てたら、委員長が気がついてくれて、どうしたのって。」

多分・・・・委員長が誰かに話をしたのを聞いたの?また沼田君とか?
言わないで欲しいとは言ってないけど、内緒にしてくれると思ってた。

「おじいさんにイカ焼きを頼まれたって。迷子になったって話してるうちに花火が始まって、もう動けないねって。じゃあ、一緒にいるよってことになったの。」

「終わってから連絡来たから、すぐに別れて皆と合流したよ。」

「そう。」

「ねえ、もしかして、私がわざと迷子になったって思ってるの?そう思われてるの?委員長と約束してるって思ってるの?」

「そんな子じゃないって分かってる。でも・・・・・、ちょっと、納得できない子が一人、それにつられる子もいる。」

「分かってる。だから、おじいさんと友達だって事も内緒にしてたし、猫の事も・・・・。全部偶然。お姉ちゃんが仲がいいから、裏の家だし・・・・・。」

「分かってる。一緒に行こう。」

そう言って手を取ってくれたけど、目は合わなかった。だって私がうつむいたまま。

トボトボと皆のところに行く。

どのくらいの子が知ってるんだろう?
でもクラスの子が全員知ってると思ってもいいくらい?

友達なのに。
猫の兄弟のいるおじいさんの家が裏なだけの友達なのに。
でもそうじゃない部分もある・・・・・、分かってる。
一緒に水族館に行ったし、ペンギンのぬいぐるみを見るたびに思い出すし。

浴衣の写真もすごくうれしそうだし。

友達でも、ただの友達じゃないくらいには仲がいい。

でも、それだけなのに。


皆のところに行って、綾ちゃんが説明してくれる。

「やっぱり偶然会ったんだって。ねえ、ちょっとそんな、ギスギスした感じが嫌なの。謝って欲しいの?何して欲しいの?今後、喋るなって言いたいの?それを誰が言えるの?」

綾ちゃんは綾ちゃんなりの正論だと思う。
ありがたいと思う。
でも、そんな事じゃないのかもしれない。

紅美ちゃんにとっては二度目の裏切りみたいに見られるかもしれない。

水族館の事を知られたら、三度目とか、ほらやっぱりとか。

だからいい。私がいなければ普通なのかもしれないから。

「ごめんなさい。絶対わざとじゃないし、もともと約束してたとかは違うの。みんなと見るのを楽しみにしてた、そこは本当に。でも、・・・・・しょうがないと思ってるから、ごめんなさい。」

お辞儀をして机の上の荷物を取り上げて教室を出た。
楽しかった夏休み、いつもより勉強して、違う学校に友達もできて、楽しい思い出も出来て・・・・。
本当に楽しかったから、いい。
寂しいけど、しばらくは一人でもいい。
勉強するしかないのもいい。

学校を離れて急いで帰った。

まだ誰もいない家に戻って部屋に帰って思いっきり泣いた。

怒ってくれた綾ちゃん。
私のせいで綾ちゃんまで恨まれたら、申し訳ない。
信じてくれたんなら、それだけでうれしい。


最悪の夏休み明けだけど、楽しかった夏休みは忘れられないから。


ただ、もう学校以外で話しかけることも出来ない。
やっぱり二人で会うことも、もうない。
おじいさんの家にも上がらない。
お姉ちゃんとの約束があるから、挨拶はして、庭先でちょっとだけ話をして、ナオにも手を振って、それだけにしよう。

何で、何で、誰かに教えたの?
委員長まで恨んじゃう、これからずっと1人だったら、きっと悲しくて文句を言いたくなると思う。


ペンギンを抱きしめて、でも手放した。

クローゼットの中にしまった。
ごめんね。

クローゼットを閉めたら暗い影がペンギンに覆いかぶさって見えなくなった。




小さなグループでのちょっとしたすれ違い。
でもさすがに隠せない。

次の日にはこっそりどうしたのって聞いてくる子もいる。

だってずっと一人でいる私。

ひたすら休み時間も教科書を広げて勉強してる。
昼休みも放課後も図書館へ行って勉強してる。
一人ぼっち。


そのおかげで随分歴史上の人達に詳しくなれた。
大嫌いだったただの暗記だけど、一人ひとり友達のように呼び掛けて、何をしたか話を聞くように教科書を読んだ。
もう新しい友達って思えるくらい。
沢山の友達が一気に出来過ぎて、混乱してゴチャゴチャになりそうだけど。


委員長に借りなくても図書館に分かりやすい本はあった。

それを見ながら覚えるようにした。


「しおりちゃん、最近はどう?」

おじいさんに声をかけたら聞かれた。

可愛いお孫さんに何か聞いてるんですか?
ちょっとおじいさんの表情が困ってるから、聞いてるんだと思う。

「すごく勉強してます。なんだかやる気満々です。一人で勉強するコツもつかめそうです。」

笑顔になる。
すっかり一人も慣れてきたから。

ただ、修学旅行とか文化祭はどうしよう。
行きたくない。
休みたい。
盲腸になってもいいから、休みたい。

積み立てたお金は帰ってこないかもしれないけど・・・・・・。

京都も大阪も、知らない土地だから。
一人じゃ寂しい。


週末が来ると少し心が緩む。
学校は勉強する場所でしかなくなった。

さすがに綾ちゃんが時々声をかけてくれる。
おいでって誘ってくれるけど、多分無理だと思う。
こっちを見てる皆の中で一人だけそっぽを向いてる人がいる限り。


ある時、トイレで紅美ちゃんと一緒になった。顔をあげるまで気がつかなかった。
気がついたらお互いにハッとした。

「私がいじめてるみたいに思われるから、元のようにしてもらえると嬉しいんだけど。」

そう言う表情はこわばってる。
本当はまだ全然信じられないって、そう言ってると思う。

学校では相変わらず委員長と話をすることはない。

他の人たちも忘れていったみたい。
ただ私の身近の友達が忘れてないだけ。

「そうしてくれる?」

固い声のまま言われる。

「うん、わかった。」

答えた私の声も固い。

来月から修学旅行。
そろそろいろんなことを計画する時期だった。

自由行動の班を決めた時に綾ちゃんに誘われて、私はグループに戻った。
紅美ちゃん以外はホッとしてるような顔。
本人には期待してない。

本当にいじめてるって思われてるんだろうなあって思った。
その時点で紅美ちゃんが委員長を好きなのは皆知ってるって事にもなる。
委員長は?どう思ってるの?
全く変わらない風だけど。
時々話しかけてる紅美ちゃんと普通に答えてる委員長。

そんな事気がつきたくなくても、狭い教室だと聞こえるから。

何事もなかったように修学旅行の計画を立てる。
自由行動の時に行きたいところを決めてから、行動予定表を作る。

大阪に何度か行ってる梛良ちゃんがいろいろとアドバイスをしてくれて、スムーズだった。
京都も知ってるみたいだったけど、さすがに複雑なバス路線と単純すぎる電車の路線に、頭が痛い・・・というのを聞いている。

眼は地図をみてるのに、頭の中は全然空っぽで、何も考えてない。

ただ明るいふりはする。
つまんないふりは出来ない。
参加するふりをする。
何も考えてもいないし、楽しみにもしてないことがバレるわけにはいかない。




週末、図書館に行って勉強したり、家に閉じこもってあんを見てぼんやりしたり。

「しおり、元気ないね。どうしたの?成績良かったのに。嬉しそうでもないね。」

「そんなことないよ、うれしいよ。塾の効果が出てよかった。これからも頑張ります。」

「そう?何か相談ある?悩んでる?」

「ううん、大丈夫だよ。勉強し過ぎで頭がパニック。来年はどうなってるんだろう?」

「無理はしないでね。」

「大丈夫、そんな無理なんて元々できないから。」

冗談のように笑う。

表面上は元の通り。


時々委員長が話しかけようとしてくるのを感じる。私が一人の時に。
廊下で、帰りの途中でも。

その気配を敏感に察知できるようにはなった。
もう野良猫並みの危機回避能力。

ぼんやりしてても、目が合った委員長の口が開きそうになるより先にダッシュする。
その場から逃走。

私が避けているのも気がついてると思う。
そしてその理由も。

女子グループの変化は男子も察知するだろうし、あれはあからさまだったし。
その理由は思い当たるだろう。
謝られるかと思ったのに、何の連絡も来ない。
きっと直接聞きたいと思う。
そして謝りたいだろう。

そんな必要はないと分かっても、大丈夫だよと言えない私。
委員長は何も悪くないのに。
ただちょっと話をしただけ。
あの日一緒にいてくれたことに、感謝はしても、ごめんと謝られることはひとつもない。
それなのに・・・・・・。

小さい子供社会でもそんな事はよくおこる。
いっそ大人になったらもっとすべて自己責任で、はっきり言えるのだろうか?

『別に偶然一緒にいてくれただけだけど、それが何?』

水族館の事もそう言えるかは微妙だ。

私のペンギンは闇に閉じ込められたままたけど、委員長のキーホルダーはあのままバッグについてるんだろうか。
まさかそれはバラしてないよね。

あれだって私は当日その時まで知らなかった。
ただの荷物持ちだと思ってた。

くだらない・・・・なんてくだらない。
本当にそう思った。

あんなに紅美ちゃんに気を遣って、学校では決して話しかけることもなかったのに。
そもそも自分の事は自分でしてよ。
告白でもデートの誘いでも、何でもすればいいのに。
周りの友達だっていい加減飽きて来てたから、集団で私をいじめてるみたいに見えて嫌だったと思う。
そんな視線を感じるだけでも嫌だっただろう。

あ~あ。
とうとう嫌な自分になってきた。



私は友達を選んだ。
猫友と休日を楽しむより、学校の女友達との平和な付き合いを選んだ。
あの時はそうだった。
今回は・・・・・・?
今回もそう。


本当に開き直れればいいのに。

これからも私は気を遣って、委員長とは何もない風にさりげなく避けながら、おじいさんの家にもあまり深入りしない日々を重ねるんだろう。

それをいつか後悔するだろうか?



ピンポーン。

誰かが来た。
お母さんが出て行く。

玄関で話す声がする。

挨拶とお礼、私の名前も出て。

ひょこっと顔を出すと委員長が玄関にいた。

何で・・・・?

当然呼ばれる。

「しおり、裏のかずさ君よ。」

出て行く。
その前にササっと髪を整えた。
自分の恰好も見た。

「お休みの日にごめんね。約束の本を持ってきたんだ。」

前に話をしていた歴史漫画だ。
受け取ったら、借りたらまた返さなくてはいけない、当然だ。
どうしよう。

「あ、ごめんなさい。どうしても苦手で、自分で似たようなの買ったの。だから・・・・ごめんね、言えばよかった。重かったのに・・・・ごめんなさい。」

「あ、そうなんだ。ならいいよ。自分で好きなのを買えたんなら。」

「しおり、玄関先で失礼だから上がってもらったら?お母さん買い物に行くけど留守番しててくれる。かずさ君、上がって。どうぞどうぞ。いつもごちそうになってばかりでごめんなさいね。」

そう言って奥に引っ込んだお母さん。

私を見上げる委員長。

ちゃんと話さないと、私の態度も失礼だから。
一度は話なさないと。
どこまでも優しいこの猫友に。


「委員長、上がって。どうぞ。」

ゆっくり委員長が動いた。

「お邪魔します。」
その声を聞きながらリビングに戻る。

さっきまで座っていたところに麦茶が置かれてる。
お母さんがお菓子を出してくれる。

「じゃあ、お留守番お願いね。」

お母さんが出て行き、玄関が閉まると、家の中がシーンとした。

「座って。」

「うん。」

そう言ったけどあんのところに行って撫でている。
あんが懐かしいのか顔をあげて撫でられている。

自慢の靴下足を延ばして伸びをすると、起き上がって委員長にくっつく。

「あん、久しぶりだね。随分美人になったんだね。一路もびっくりだよ。」

「ねえ、写真撮ってもいいかな?」

「どうぞ。」

友達には誰にも見せて欲しくはないです。
絶対学校では見ないでください。

写真を撮られたあん。
そのまま委員長に抱えられた。

大人しく腕の中にいる。

お父さん以外で一番あんを抱っこしてる男の人は、委員長なんだ……そう思った。

「ずっと話がしたくて。なんだか学校で辛そうで。どうしたのかなって。」

もしかして理由に思い当たらないパターン?
そのパターンは想定外。

「本当にわからないの?」

「知らない・・・・。喧嘩したの?」

「委員長、私と花火を見たこと誰かに教えたの?」

「え、・・・まさか、誰にも言ってないよ。」

「沼田君とかには?」

「ううん。」

「じゃあ何で皆が知ってるの?誰かに聞かれなかった?」

「ああ、確かに。一緒に見てたねって言われて、迷子の話もしたよ。偶然だって教えたし、花火が終わったら僕はすぐに帰ったって言ったし。」


本当に?
偶然誰かが目撃してたと言うこと?
暗かったのに?


「別の話題になったから、ただ見られてたんだってちょっとだけ恥ずかしくなったけど、それがどうしたの?まさか・・・・・・何か言われた?」

「最初はわざと迷子になって、本当は約束してたんじゃないかって思われたみたい。悲しいけど、友達に私ってそんな子だと思われてる。綾ちゃんが違うって信じてくれて、皆にそう伝えてくれたけど、変な空気になったから、離れた。」

「・・ごめん・・・・・。」

「別にいい。しょうがないよ。委員長が誰かにバラしたんだったら、ちょっと嫌だと思ったけど、目撃されてたんならしょうがない。それにまた元通りになったから。」

表面上はなってる。

「そんなの、・・・・あんまり笑ってないじゃない。無理してるし、気にしてるよね。」

「まあ、まだ少しは。でも徐々に普通に戻れるよ。気を遣わないで。」

委員長はうつむいてただあんをゆっくり撫でている。
その指がごめんと言ってる気がする。

よく考えたら自分たちの学校が会場なんだから、たくさんの中学生が来るのは当たり前だった。
だから、あちこちで知り合いの顔を見つけるのも、そうそう珍しい事じゃないはずだった。

「だから、そう言うことだから。学校では、今まで通り話しかけてこないで。」

「うん。ごめん。」

「あと、もう、おじいちゃんの家にも上がり込んだりしないようにするね。気を付ける。」

「うん。」

委員長はまだあんを撫でているまま。

私も、もう言うことはない。

麦茶のグラスの水滴は大きくなってテーブルに落ちる。
いろいろと残念に思う気持ちを綺麗に洗い流してくれてるのかも、それとも・・・・・。
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