すべての事件は裏の家でおきていました。

羽月☆

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25 一総が願う、夏休みの最後の最後に思い出を。

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夏休みの残りなんてあと少しかもしれない。
でも、やっと話もできたし、もっと思い出が欲しいと思ったりもして。

一人で勉強して宿題なんてすっかり終わってる。

彼女はおじいちゃんのところに、いろんな時間にふらりと遊びにきてくれてるらしい。
楽しそうな報告が来る。

携帯にはあの日に撮った写真がある。
ちゃんと明るいとこで可愛いと褒めた浴衣姿。照れた顔で僕のことも渋いと言ってくれた。

来年は誰と見るんだろう?
駅での男の人のことは聞けないままだった。


おじいちゃんから金曜日の予定を聞かれた。


『一総、その日は何してる?来れるか?』

『何も予定はないよ。宿題も終わってるし。行けるよ。』

『ちょっと朝早めだけど。』

そう言われた約束の時間。いつもよりは早かったけど。

早起きして自転車を飛ばした。

そろそろ起きる時間も新学期に向けて元の時間には戻してた。
じいちゃんこそ野菜と一緒で早起きなはずだけど。
あそこでのんびりしてるのはナオだけだ。
朝採りたての野菜を洗って一口大にして、テーブルに用意する頃に起きてくるらしい。多分起きてはいるだろうが起きだしては来ない。

ある意味、おじいちゃんと食卓を囲むつもりだとも言えるのか。

やっぱりナオを引き取ってもらってよかったと思う。寂しくはない。
愛想がないツンデレぶりだとしても話しかけたり触ったり、体温があるものが自分のそばにいてくれたらいい。

一番に名前をつけたのがおじいちゃんだった。
もうそれ以外にないっていう感じだった。
おばあちゃんの名前だ、オス猫なのに。
おばあちゃんが百合さんとか、とも子さんとかだったらどうしたんだろう?


一路の写真に交じるナオや初めの頃のあんを見る。
彼女はあんが一番可愛いという。
女の子だから。
一路はほとんど黒一色だ。
胸やお腹や背中に少しだけ白い毛が交じる。
おやつのやり過ぎを禁止してからは、少しはスラリとした体になった。
つやつやした黒毛も綺麗でかっこいいと思ってる。

たまに鋭い目をして窓の外の雀を狙ってる時なんて、野性味溢れて最高にかっこいい。見に来てくれたら、きっとそう言ってくれるだろう。

僕があんに会うのと、彼女が僕の家に来るのと、どちらが簡単なんだろう?
とても言い出せない。自宅になんて簡単には誘えないし。


おじいちゃんはあんに会いに行ってるのだろうか?

写真を見ながら、昨日はそんな事を思っていた。



『畑の手伝いじゃないから。余所行きの恰好で来るんだぞ。』

そうとも言われてた。
何となく、期待してしまう。
三人で、もちろんおじいちゃんと僕と彼女だけど、その三人で出かける予定を立ててくれたんだろうか?
詳しく教えてくれない所に、期待が膨らむ。
どうだろう?


汗をかかない程度に風を感じてペダルを漕ぐ足も軽く自転車を走らせた。


たどり着いておじいちゃんを見ると普通の恰好だった。
着替えてから出かけるのだろうか?


急いでる様子もない。

違っただろうか?



「おう、早かったな。今日はかおりさんが遊びに連れてってくれるって事だから、しおりちゃんと楽しんできたらいい。」
嬉しそうにそう言ったおじいちゃん。

もちろんうれしくて。
でもそんなあからさまに嬉しそうにできないから・・・・・。

「迷惑じゃないかな?かおりさん・・・・。」

どこに行くんだろう?

「張りきってたし、彼氏が有休をわざわざとってくれたらしいよ。車を出してくれるらしいから。」

車?本当に?どこに?


おじいちゃんがお金をくれた。
いろいろと買いたいものがあるかもしれないからと。

ありがたく財布に入れた。
だって特にそんなにお金を持ってきてるわけじゃない。
初めに言ってもらえれば・・・。

でも嬉しさは変わらず、増していく。
興奮に緊張も加わりドキドキする。

聞き覚えのある元気な声がして、普通の表情で玄関に出て靴を履く。
おじいさんが僕のことをお姉さんに頼んでくれてる。

その後ろで彼女がぼんやりしてる。
挨拶をするけど、なんだか話がかみ合わない気がする。

『しおりちゃんもすごく楽しみにしてるらしいから。』

おじいちゃんはさっきそう言っていたのに。
一緒に歩き出して電車に乗って、そのタイミングでお姉さんに確かめてる。
自分がここに一緒にいる訳を。

初めて聞いたらしい彼女。

驚きの表情がそう言ってる。

ごにょごにょと謝られた。

全然嬉しいのに。


少し混んだ電車で地元を離れて、知らない駅で号令をかけるように『降りるよ。』と言われた。

完全に引率感がでてる。かおりさんは張り切ってるらしい。


かおりさんの彼氏も入れて四人。
社会人らしく、本当に有休をとってくれたらしい。
何ていい人だ!

彼女からはお姉さんの唯我独尊の面を聞かされてて、あんまりいい意味での姉っぽい所は聞いてなかったけど、妹のために計画してくれたんだろう。
さっき『邪魔しないでね。』そう言ってたとしても、・・・・そうだろう。

カレシは年上の優しそうな人で、水族館に行くことになった。

入り口でさっさと別れて二人と二人。

ああ~。
これは・・・・・。

残されたままぼんやりとしてるのももったいない。
声をかけて歩き出した。

車内で繰り広げられた会話に謝る彼女。
お姉さんはハッキリしてる。
堂々としてる。
彼女も少しあれくらい・・・・・堂々と図々しくしていられればいいのに。
そこはきちんと姉妹で役割分担が出来てるらしい。

お姉さんがおじいちゃんには妹のことを褒めていい子だと言ってる事を、彼女は知らないのだろう。
もしやそこも姉ぶってるだけの口だけだとは・・・・思えない・・・かな?

いつか気がつくだろうか?


兄にこんな風に誘われたことはない。
年の差の違いか、性別の違いか、キャラクターの違いか。
だから本当に仲がいいのだと思う。

二人でゆっくり涼しい館内をめぐる。

動物園も、水族館も半日もあれば十分なんだ。
スケッチをしたり、自由研究に取り組む子供もいるみたいだが、デート・・・・で笑い合いながら楽しんで見る分には、二時間あれば出口に着いてしまう。
お店に寄ってぬいぐるみを見る。

焼き鳥には向かないペンギン。

足はどうなってるのか。

ぬいぐるみを見ながらちょっと探ったりして。

「抱き心地もいいし買おうかなあ。」

「車だし、荷物にはならないよね、かわいいね。」

気に入ったのか離さずに抱きしめたまま。
そうやってあんのことも最初からずっと抱いてなあって、思い出したりして。

「委員長は?何か買う?」

「せっかくだからおじいちゃんにお土産でも買おうかな。せんべいとか。」

食べ物コーナーを見て、個包装になってるせんべいを手にする。
既に体に馴染んでるペンギン。

「連れて帰る?」

「うん。」

「あんが焼きもち焼くかな?」

「大丈夫、自分の部屋に置いておくから。あんは二階には来ないの。多分登ったことないかも。」

「そうなの?実は誰もいない時に散歩とか探検とかしてないかな?」

「う~ん、多分ないと思う。」

「じゃあ、大丈夫だね。」

「なんだかそんな風に持ってる姿はとっても可愛いいね。僕もペンギンのキーホルダー買おうかな。」

彼女が真っ赤になって腕をゆるめた。
最初は分からなかったけど、ちょっと言葉が間違って伝わったみたいだ。
決して間違ってるわけではないから否定はしないし、気がつかないふりで、キーホルダーを見る。

ペンギンの種類の分、4種類いた。
もちろん同じ種類のペンギンを選んで手にして。せんべいと一緒に会計してもらった。

「ねえ、私もおじいさんのお土産にお金出していい?いつものお礼したいし。」

「本当?喜ぶと思う。じゃあ、少しお願いします。」

そう言ったら半額出された。

「半分づつでお願いします。」

そのままお礼を言って受け取った。

ペンギンは袋に入れずにそのまま抱えて帰ることにしたらしい。
足裏にお店のシールを貼られただけだった。

出口の手前でトイレに行って、当然ペンギンもそのままトイレに連れていかれた。

その後は年上二人に合流して食事して、車に乗って、バッティングセンターに行って、降ろされた元の駅で電車に乗って帰って来た。

「いい人だね、リョウさん。」

「うん、大人だね。一緒にいるとお姉ちゃんまで大人に見えてくるから不思議。」

「そういえば、年が離れてるよね。」

「そうだね。小さいころから私の面倒を見てたって言うけど、今ではすっかり私がお世話してると思う。本当にわがままだからお願いが命令にしか聞こえない。」

「兄弟でも姉妹でも、やっぱり違うよね、いろいろと。」

「うん、私も同じ感じだったらお母さんが慢性頭痛になってたと思う。」

「じゃあ、逆にしおりちゃん二人バージョンだったら?」

「のんびり過ぎてイライラしてたかな?」

「そんなにのんびりしてる感じもないけど。」

「そうなのかな?自分じゃわからない。」

「二人がそれぞれ迷子になって困ってたかもね。」

「それは、あの時だけです。他には、多分ない。お姉ちゃんのほうがどっかに行ってしまうことはあったかも。私はずっとお母さんの近くにいるタイプだから。」

「じゃあ、あんと似てるのかな?」

「・・・・そうかも。」

時々ペンギンをずり上げながら、それでもずっと抱えて帰って来た。
持ってあげたいけど、ちょっと・・・・勇気が出ない。
それは分かってくれたらしい。
袋に入ってたんなら、なんとかなったけど。

時々子供が指を指したり、手を振ったり。
座ってる時はいつの間にかペンギンの顔が前向きにされていた。

おじいちゃんの家でお茶を飲んで、少し休憩して解散になった。

あ、写真撮ってもらえばよかったな。
そう言えば一枚も撮ってない。
一人の写真だけが増えた。
泳ぐペンギンのスピードについて行けずに足と尾っぽだけ画面に入った写真が何枚かあった。
なかなか泳ぐペンギンは難しい。
ラッコが斜め上にいる写真は上手に撮ってもらえた。
そんな事を交互に繰り返してはいた。

水族館には行ったと分かる写真。
誰と行ったかは分からない写真。
でもよく見ると分厚い水槽に映り込んでる。
携帯を手にしてる彼女の姿がぼんやりと。
それだけだった。


おじいちゃんにかおりさんのお礼を託して自分の家に帰った。


やっぱり楽しい夏休みだったと思う。


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