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27 一総にとってクラスメートでなくなる日。
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秋
変わらなかった。
特別に何も変わらず。
そうだよなってどこかで思いながらも、やっぱり少しは良くなるんじゃないかって思ってのたに。
良くも悪くもならない。
ただ、気のせいじゃなく、もうずっと、あの子と彼女は話すらしてないと思う。
同じグループで、他の子はどう思うんだろう?
そのまま修学旅行になった。
むしろ自分が気にしてしまうせいで余計に彼女の近くにすら寄れない。
大阪、楽しみだったテーマパークも、混雑する場所にしか思えないくらい。
効率よく回るのは無理そうだった。
兄に頼まれていたお土産を買い沼田の待つ場所へ行く。
沼田も妹にお土産を買うといって隣の店に入っていた。
沼田には文化祭の後の出来事を隠さずに伝えた。
内緒にしてくれるだろう。
大体自分より先に知っていたことなんだから。
待つほどなく戻ってきたその手には袋が握られていて無事に買えたらしい。
「これあげる。おそろいだよ、元気になる黄色にひかれて自分用に買うって言ってたから。ついでに同じものを買っといてやったぞ。学校にはつけてくるなよ。」
渡された小さな紙袋を開けると黄色いキャラクターのキーホルダーだった。
「ありがとう。」
「別に。いいよ、いつも宿題見せてもらってるし。」
「だね。」
「俺来年どうしよう。同じような優しいヤツいればいいけど。」
「がんばって探せよ。」
「また同じクラスになれることを祈ろう。」
「俺はそれでもいいけど。」
「なあ、沼田は誰かいないの?」
「おお、協力してくれるか?」
「もちろん。」
「う~ん、残念だが今はいない。」
去年の今頃、沼田とこんな会話になるとは思ってなかった。
だから来年も思ってない展開になって、沼田のために陰に日向に活躍してるかもしれない。
それはそれで少し楽しみだったりする。
秋は過ぎ冬になり。
本当に時々連絡したくて携帯の画面まで開くのに、なかなか文字を打ち込めず。
それでもやっと、新年の挨拶をした。
一路に干支の被り物を一瞬だけ着けてもらって、写真を撮った。
兄が買って来たそれを、本気で嫌がった一路。
兄が頭にのせたの瞬間に自分がシャッターを押して、一路の反射との戦いだった。
三回目でようやく取れた一枚だった。
被ってる物に似合わない鋭い目。
次のチャレンジでは流血を覚悟した方がいいと思うくらいだったのだが。
何とかなってうれしかった。
一路にこっそり謝った、そして感謝した。
その貴重な写真を彼女とおじいちゃんに送った。
『あけましておめでとう。今年もよろしく。三度目で撮れた一枚。このあと速攻で頭を振られて落とされました。かなり嫌がったから貴重な一枚です。」
ちなみに兄は一路からしばらく嫌われて見向きもされないくらいだった。
しばらく返事は来なかった。
さすがに新年から返事を待って携帯を握り締めるのも寂しいと思いあきらめた。
しばらくしてきた返事。
その後についてた写真は和柄の布で作られたリボンを頭にのせて、靴下を履いてない後ろ足にも小さいリボンを巻きつけられた写真だった。
『あけましておめでとうございます。あんは大人しくしてました。』
返事が空いた時間にリボンを作ってくれたんだろうか?
自分に送るために撮ってくれた写真なんだろうか?
もらえた返事に浮かれて、そんな都合のいいことまで考えてた。
『やっぱりあんは可愛いね。』
そう返事をした。
午後に家族と一緒におじいちゃんのところにも行った。
おじいちゃんが台所に立った時についていって、あんの写真のことを聞いた。
「あんのリボンの写真送られてきた?」
「ああ、昼過ぎに届いたよ。」
やっぱりおじいちゃんにも送られていた。
「しおりちゃんとかおりちゃんが年末の夜に来てくれて、一緒にお蕎麦を食べたんだよ。その後ご両親と食べるからって、量は少しだけだったけどね。三人で薬味を刻んだり、そばを茹でたりして。一年の締めくくりも楽しかったなあ。
今日は家族で初詣に出かけてるって言ってたからいないと思うけど。」
「そうなんだ。」
羨ましいと本当に思った。誘ってよ・・・・、そう思うくらいには。
今はいないと知って、ちょっとがっかりだった。
直接挨拶が出来るかもと少しは思ってのに。
やっぱりあの返事に浮かれ過ぎてたらしい。
いきなりナオがキッチンに走ってきた。
後から追いかけてきたのは、一路に被せた干支の帽子を手にした兄で。
既にその手にはくっきりと爪痕があった。
「兄ちゃん、ナオも嫌なんだって。」
「せっかく買ったから被らせたいんだよ。」
「耳が聞こえなくなるのは本能的に嫌がるんじゃないの?」
「そうか・・・・。次はもっと違う形にする。」
まだ次の干支もやる気らしい。
ナオにもすっかり嫌われてる。
部屋の隅から警戒した視線をよこされてる。
「ごめんね、ナオ。」
あの写真を有効活用した自分をすっぽりと隠してナオに謝る。
持ってきた重箱はすっかり軽くなった。
世の中のお母さんたちはお正月もまったく楽できないらしい。
スーパーだって明日から営業してるのに。
コンビニは年末年始もやってるのに。
それでもやっぱりお母さんは、年末には食材を買い込んで料理を作る。
うちは男の子二人でまったく料理は役に立たない。
ひたすらできたよと言われるのを待つのみ。
運んだりはするけど、洗い物さえしていない。
それでもすっかり慣れてる風景だから、これがなくなると寂しくなると思う。
掃除は自分の部屋と、後は分担を決めてキッチン以外は男でやった。
それはここ最近毎年のことだ。
短い冬休みはあっという間に終る。
そして、寒い寒いと毎日言い合ってるうちに、春が来る。
三匹の誕生日。
三匹が揃わないと意味がないよ・・・・・。
流行したインフルエンザにも乗らずに過ごせた冬。
相変わらずあの連絡からはお互いに何もない。
ちょっとしたことを送りあうのはどうなんだろう。
迷惑なんだろうか?
それほど自分も送り合う方じゃないから、よく分からない。
「ねえ、委員長。終業式の日にさ、クラスでお別れ会やれないかなあ。」
弓削君がやって来て提案してきた。
僕の肩書の委員長もあと少し。
「お別れ会?」
何だろう?
「何するの?」
「別にジュース飲んで、お菓子食べて、話しして、一芸披露したい奴はするとか?」
弓削君の鼻が広がる。
「したいんだね。」
分かりやすい。
「バレた?今練習してるんだ。」
うれしそうに笑う弓削君。
なんとなく前から音楽の話を良くしていたのを知っていた。
「音はうるさくないくらいだよね。」
「うん、そこまではない。」
「じゃあ先生ににお願いしてみる。」
「よろしく委員長。」
弓削君も直接先生にお願いしてもいいのに。
すっかり安心して去って行った弓削君の背中を見てそう思った。
男子が委員長と呼ぶのは頼みごとをするとき。
それ以外は名前で呼ばれる。
来年はもう委員長とは呼ばれないだろう。
じゃあ、彼女は?
今まで一度も名前で呼ばれたことはない。ずっと委員長だった。
あと少しだけど、もう委員長でもなくなるから。
掃除もきちんとするならと二時間の時間で許可をもらった。
最後の日だから。
そう弓削君に伝えた。
ありがとうとお礼を言われた。
だけどそれだけでは済まなくて、副委員長と話し合って、皆に色々決めてもらうことにした。
二期続投。
副委員長とのコンビも丸一年。
本当に頼もしい人だった。
真面目なだけじゃなくて、公平だったし、気配りもできる人だと思う。
今も着々と会を仕切り、決め事を埋めていく。
考えてなかったけど、担任の先生へのお礼もしようと言うことになっていて女子がすっかり動いていた。見事な事後報告。委員長の僕までも。
プレゼントを買い渡して、それぞれが手紙を書いてくること。
それを最後の日に渡すことになっていたらしい。
終業式の後、予定のある子が数人いた。
残念だけど仕方ない。
飲んで食べて弓削君たちの『一芸』を鑑賞すること。
必要ならその『一芸』くらい、動画で友達に撮ってもらえばいい。
参加予定者から会費を集めて、先生にもポケットマネーをいくらかもらえたから足して。
後は前日、前々日などにそれぞれの係が担当の準備をすればいい。
当日。
立ちながら話をする。
あちこちのお菓子をつまみ、自分のコップには好きなジュースをいれる。
中学生のやる事なんてそんな可愛いものだ。
ざわざわと楽しそうでもある。
しばらくしたら弓削君たちが正面にセッティングを始めた。
自分達で自己紹介して、司会進行しながら、渾身の『一芸』を披露する。
ちょっとした感動だった。
音があまりはっきりしてないし、聞き取りづらくて、技術とかそのあたりは分からないけど、三人のクラスメートで作ったバンド?で目線で合図を送り、聞き覚えのある曲が始まり、ノリノリで演奏してる顔は楽しそうで。
最後にやり切った時の表情は最高にかっこよかった気がする。
拍手が起こり、にわか舞台から引き揚げた。
しばらくしてから弓削君に近寄って褒めたたえた。
「すごいね、楽しそうだったし、見ててこっちも元気になる感じだったよ。」
「ありがとう。勝手に楽しんで悪かった?」
「ううん、絶対皆楽しかったよ。」
「ありがとう、本当に。」
そんな話をしてる時に、沼田が彼女と話をしてるのが視界に入っていた。
最後まで追いつけなかった。
ただのクラスメイトの沼田に追いつけない自分。
裏の家のおじいちゃんの孫でただのクラスメートの一人の自分。
一緒に過ごした時間と距離は誰よりも近いはずなのに。
彼女を見ていたら、あの子とも目が合った。
さすがに恥ずかしくてゆっくり逸らす。
でもそれももう最後か。
結局話しかけることは出来なかった。
先生との約束の時間が来て副委員長がしめてくれた。
一斉に皆で片づけを始めた。
大きなゴミ袋を持って机の上のゴミを回収した。
後ろの方で動かずに俯いてる彼女に気がついて近寄る。
手にはゴミが握られてるのに。
顔をあげずにいる。
自分だと気がついてるだろうか?
「大丈夫?」
そう声をかけていた。
でも顔は上がらず、うなずかれただけだった。
ゆっくりそばを離れた。
沼田が見ていたらしい。
残念な顔をされた。
自分も同じ顔をしてるだろう。
いっぱいにたまったゴミ袋の口を縛り、ゴミ捨て係に渡す頃には掃除も終わっていて、彼女が後ろのドアから帰って行くのが見えた。一人だった。
ため息をついて、沼田を探す。
あの子と喋ってる。
2人とも視線も合わず、あの子は俯いてる状態で。
廊下に出て窓を開けて外を見る。
三年になったら一つ上の階になる。
もう少し地上が遠くなる。
クラスが離れても、廊下に出れば会うこともあるだろう。
あと一年は毎日顔を見ようと思えば見れる。
この間、沼田が図書室で話をしたらしい。
「彼女がお前はどこの高校に行くんだろうって聞いてきた。」
「最初俺に聞いてくれたけど、その後、聞いてきたよ。直接聞いてって言ったから、教えてあげれば。」
そのためだけに図書室に行くなんて、少しは彼女を見習って勉強してもいいのに。
それに知らない奴が見たら誤解されるよな?
それでもありがとうと素直にお礼を言った。
さすがに彼女は沼田の気持ちを誤解しないだろう。
自分の事をさりげなく話してるらしいし、彼女も報告されてると分かってるだろう。
それでも、そう聞いてくれたんだったら、ちょっとうれしくて。
兄の一真はのんびりとした高校に通ってた。
勉強よりはほどほどの文武両道を目指すと言って部活を頑張っていた。
ほどほど以外の余白で恋愛も頑張っていた。
自分は大学を視野に入れて勉強の方を頑張るつもりだ。
一緒の高校に行くことはないかもしれない。
いつまでも怯えて泣いてる小さい子じゃないし、慰めが必要な年じゃない。
自分が近くにいる理由はどんどんなくなり、自分である必要なんてすぐになくなる。今だってないのかもしれない。
あの昔の兄姉同士の事件の時だけだったのかもしれない。
でも、それはお互いなんだろう。
自分だって新しいクラスにもしかしたら・・・・・なんて、ないな。
さっきのお別れ会、副委員長と話をしてるのは見た。
いつものグループともいたけど、ほとんど後ろの方に一人でいた。
最後は手にゴミを持ちながら、酷く落ち込んで見えたけど。
声も聞けなかったし顔も見れなかったから分からない。
一人で帰ったんだろうか?
最後の日なのに。
にぎやかな声がして、後ろを見るとあのグループは集団で帰って行った。
どうして一緒じゃなかったんだろう?
本当に最後なのに・・・・・。
集団の最後にいたあの子と目が合って、すぐに逸らされた。
しばらくしたら違うドアから出てきた沼田に肩を叩かれてびっくりした。
「委員長、ご苦労。帰ろう。」
「ああ。」
「気になるだろう?」
そう言われて沼田の顔を見る。
「大丈夫だよ。ちょっと、最後の・・・・悪あがき。誕生祭は誘えばいいよ、きっと来てくれるから。」
いつものように一人で納得してる。
こんな沼田の方が、社会人になって先輩上司の間をスイスイと泳いでいけるんじゃないか?
自分を不器用だなんて思ったことはないのに。
運動だって普通にできるし。
だけど、ここ数ヶ月、敵わないと思ったことが多かった。
全然周りの人の気持ちが見えてなかったり、空気が読めてなかったり。
そんな自分に何度かがっかりした。
「来てくれるかな。」
「二人の事を信じる。」
「二人って、誰?」
「気がついてないなら、内緒。」
また、なにか見えてないらしい。
一人は分かる、もう一人は・・・・?
おじいちゃん・・・な訳ない。
変わらなかった。
特別に何も変わらず。
そうだよなってどこかで思いながらも、やっぱり少しは良くなるんじゃないかって思ってのたに。
良くも悪くもならない。
ただ、気のせいじゃなく、もうずっと、あの子と彼女は話すらしてないと思う。
同じグループで、他の子はどう思うんだろう?
そのまま修学旅行になった。
むしろ自分が気にしてしまうせいで余計に彼女の近くにすら寄れない。
大阪、楽しみだったテーマパークも、混雑する場所にしか思えないくらい。
効率よく回るのは無理そうだった。
兄に頼まれていたお土産を買い沼田の待つ場所へ行く。
沼田も妹にお土産を買うといって隣の店に入っていた。
沼田には文化祭の後の出来事を隠さずに伝えた。
内緒にしてくれるだろう。
大体自分より先に知っていたことなんだから。
待つほどなく戻ってきたその手には袋が握られていて無事に買えたらしい。
「これあげる。おそろいだよ、元気になる黄色にひかれて自分用に買うって言ってたから。ついでに同じものを買っといてやったぞ。学校にはつけてくるなよ。」
渡された小さな紙袋を開けると黄色いキャラクターのキーホルダーだった。
「ありがとう。」
「別に。いいよ、いつも宿題見せてもらってるし。」
「だね。」
「俺来年どうしよう。同じような優しいヤツいればいいけど。」
「がんばって探せよ。」
「また同じクラスになれることを祈ろう。」
「俺はそれでもいいけど。」
「なあ、沼田は誰かいないの?」
「おお、協力してくれるか?」
「もちろん。」
「う~ん、残念だが今はいない。」
去年の今頃、沼田とこんな会話になるとは思ってなかった。
だから来年も思ってない展開になって、沼田のために陰に日向に活躍してるかもしれない。
それはそれで少し楽しみだったりする。
秋は過ぎ冬になり。
本当に時々連絡したくて携帯の画面まで開くのに、なかなか文字を打ち込めず。
それでもやっと、新年の挨拶をした。
一路に干支の被り物を一瞬だけ着けてもらって、写真を撮った。
兄が買って来たそれを、本気で嫌がった一路。
兄が頭にのせたの瞬間に自分がシャッターを押して、一路の反射との戦いだった。
三回目でようやく取れた一枚だった。
被ってる物に似合わない鋭い目。
次のチャレンジでは流血を覚悟した方がいいと思うくらいだったのだが。
何とかなってうれしかった。
一路にこっそり謝った、そして感謝した。
その貴重な写真を彼女とおじいちゃんに送った。
『あけましておめでとう。今年もよろしく。三度目で撮れた一枚。このあと速攻で頭を振られて落とされました。かなり嫌がったから貴重な一枚です。」
ちなみに兄は一路からしばらく嫌われて見向きもされないくらいだった。
しばらく返事は来なかった。
さすがに新年から返事を待って携帯を握り締めるのも寂しいと思いあきらめた。
しばらくしてきた返事。
その後についてた写真は和柄の布で作られたリボンを頭にのせて、靴下を履いてない後ろ足にも小さいリボンを巻きつけられた写真だった。
『あけましておめでとうございます。あんは大人しくしてました。』
返事が空いた時間にリボンを作ってくれたんだろうか?
自分に送るために撮ってくれた写真なんだろうか?
もらえた返事に浮かれて、そんな都合のいいことまで考えてた。
『やっぱりあんは可愛いね。』
そう返事をした。
午後に家族と一緒におじいちゃんのところにも行った。
おじいちゃんが台所に立った時についていって、あんの写真のことを聞いた。
「あんのリボンの写真送られてきた?」
「ああ、昼過ぎに届いたよ。」
やっぱりおじいちゃんにも送られていた。
「しおりちゃんとかおりちゃんが年末の夜に来てくれて、一緒にお蕎麦を食べたんだよ。その後ご両親と食べるからって、量は少しだけだったけどね。三人で薬味を刻んだり、そばを茹でたりして。一年の締めくくりも楽しかったなあ。
今日は家族で初詣に出かけてるって言ってたからいないと思うけど。」
「そうなんだ。」
羨ましいと本当に思った。誘ってよ・・・・、そう思うくらいには。
今はいないと知って、ちょっとがっかりだった。
直接挨拶が出来るかもと少しは思ってのに。
やっぱりあの返事に浮かれ過ぎてたらしい。
いきなりナオがキッチンに走ってきた。
後から追いかけてきたのは、一路に被せた干支の帽子を手にした兄で。
既にその手にはくっきりと爪痕があった。
「兄ちゃん、ナオも嫌なんだって。」
「せっかく買ったから被らせたいんだよ。」
「耳が聞こえなくなるのは本能的に嫌がるんじゃないの?」
「そうか・・・・。次はもっと違う形にする。」
まだ次の干支もやる気らしい。
ナオにもすっかり嫌われてる。
部屋の隅から警戒した視線をよこされてる。
「ごめんね、ナオ。」
あの写真を有効活用した自分をすっぽりと隠してナオに謝る。
持ってきた重箱はすっかり軽くなった。
世の中のお母さんたちはお正月もまったく楽できないらしい。
スーパーだって明日から営業してるのに。
コンビニは年末年始もやってるのに。
それでもやっぱりお母さんは、年末には食材を買い込んで料理を作る。
うちは男の子二人でまったく料理は役に立たない。
ひたすらできたよと言われるのを待つのみ。
運んだりはするけど、洗い物さえしていない。
それでもすっかり慣れてる風景だから、これがなくなると寂しくなると思う。
掃除は自分の部屋と、後は分担を決めてキッチン以外は男でやった。
それはここ最近毎年のことだ。
短い冬休みはあっという間に終る。
そして、寒い寒いと毎日言い合ってるうちに、春が来る。
三匹の誕生日。
三匹が揃わないと意味がないよ・・・・・。
流行したインフルエンザにも乗らずに過ごせた冬。
相変わらずあの連絡からはお互いに何もない。
ちょっとしたことを送りあうのはどうなんだろう。
迷惑なんだろうか?
それほど自分も送り合う方じゃないから、よく分からない。
「ねえ、委員長。終業式の日にさ、クラスでお別れ会やれないかなあ。」
弓削君がやって来て提案してきた。
僕の肩書の委員長もあと少し。
「お別れ会?」
何だろう?
「何するの?」
「別にジュース飲んで、お菓子食べて、話しして、一芸披露したい奴はするとか?」
弓削君の鼻が広がる。
「したいんだね。」
分かりやすい。
「バレた?今練習してるんだ。」
うれしそうに笑う弓削君。
なんとなく前から音楽の話を良くしていたのを知っていた。
「音はうるさくないくらいだよね。」
「うん、そこまではない。」
「じゃあ先生ににお願いしてみる。」
「よろしく委員長。」
弓削君も直接先生にお願いしてもいいのに。
すっかり安心して去って行った弓削君の背中を見てそう思った。
男子が委員長と呼ぶのは頼みごとをするとき。
それ以外は名前で呼ばれる。
来年はもう委員長とは呼ばれないだろう。
じゃあ、彼女は?
今まで一度も名前で呼ばれたことはない。ずっと委員長だった。
あと少しだけど、もう委員長でもなくなるから。
掃除もきちんとするならと二時間の時間で許可をもらった。
最後の日だから。
そう弓削君に伝えた。
ありがとうとお礼を言われた。
だけどそれだけでは済まなくて、副委員長と話し合って、皆に色々決めてもらうことにした。
二期続投。
副委員長とのコンビも丸一年。
本当に頼もしい人だった。
真面目なだけじゃなくて、公平だったし、気配りもできる人だと思う。
今も着々と会を仕切り、決め事を埋めていく。
考えてなかったけど、担任の先生へのお礼もしようと言うことになっていて女子がすっかり動いていた。見事な事後報告。委員長の僕までも。
プレゼントを買い渡して、それぞれが手紙を書いてくること。
それを最後の日に渡すことになっていたらしい。
終業式の後、予定のある子が数人いた。
残念だけど仕方ない。
飲んで食べて弓削君たちの『一芸』を鑑賞すること。
必要ならその『一芸』くらい、動画で友達に撮ってもらえばいい。
参加予定者から会費を集めて、先生にもポケットマネーをいくらかもらえたから足して。
後は前日、前々日などにそれぞれの係が担当の準備をすればいい。
当日。
立ちながら話をする。
あちこちのお菓子をつまみ、自分のコップには好きなジュースをいれる。
中学生のやる事なんてそんな可愛いものだ。
ざわざわと楽しそうでもある。
しばらくしたら弓削君たちが正面にセッティングを始めた。
自分達で自己紹介して、司会進行しながら、渾身の『一芸』を披露する。
ちょっとした感動だった。
音があまりはっきりしてないし、聞き取りづらくて、技術とかそのあたりは分からないけど、三人のクラスメートで作ったバンド?で目線で合図を送り、聞き覚えのある曲が始まり、ノリノリで演奏してる顔は楽しそうで。
最後にやり切った時の表情は最高にかっこよかった気がする。
拍手が起こり、にわか舞台から引き揚げた。
しばらくしてから弓削君に近寄って褒めたたえた。
「すごいね、楽しそうだったし、見ててこっちも元気になる感じだったよ。」
「ありがとう。勝手に楽しんで悪かった?」
「ううん、絶対皆楽しかったよ。」
「ありがとう、本当に。」
そんな話をしてる時に、沼田が彼女と話をしてるのが視界に入っていた。
最後まで追いつけなかった。
ただのクラスメイトの沼田に追いつけない自分。
裏の家のおじいちゃんの孫でただのクラスメートの一人の自分。
一緒に過ごした時間と距離は誰よりも近いはずなのに。
彼女を見ていたら、あの子とも目が合った。
さすがに恥ずかしくてゆっくり逸らす。
でもそれももう最後か。
結局話しかけることは出来なかった。
先生との約束の時間が来て副委員長がしめてくれた。
一斉に皆で片づけを始めた。
大きなゴミ袋を持って机の上のゴミを回収した。
後ろの方で動かずに俯いてる彼女に気がついて近寄る。
手にはゴミが握られてるのに。
顔をあげずにいる。
自分だと気がついてるだろうか?
「大丈夫?」
そう声をかけていた。
でも顔は上がらず、うなずかれただけだった。
ゆっくりそばを離れた。
沼田が見ていたらしい。
残念な顔をされた。
自分も同じ顔をしてるだろう。
いっぱいにたまったゴミ袋の口を縛り、ゴミ捨て係に渡す頃には掃除も終わっていて、彼女が後ろのドアから帰って行くのが見えた。一人だった。
ため息をついて、沼田を探す。
あの子と喋ってる。
2人とも視線も合わず、あの子は俯いてる状態で。
廊下に出て窓を開けて外を見る。
三年になったら一つ上の階になる。
もう少し地上が遠くなる。
クラスが離れても、廊下に出れば会うこともあるだろう。
あと一年は毎日顔を見ようと思えば見れる。
この間、沼田が図書室で話をしたらしい。
「彼女がお前はどこの高校に行くんだろうって聞いてきた。」
「最初俺に聞いてくれたけど、その後、聞いてきたよ。直接聞いてって言ったから、教えてあげれば。」
そのためだけに図書室に行くなんて、少しは彼女を見習って勉強してもいいのに。
それに知らない奴が見たら誤解されるよな?
それでもありがとうと素直にお礼を言った。
さすがに彼女は沼田の気持ちを誤解しないだろう。
自分の事をさりげなく話してるらしいし、彼女も報告されてると分かってるだろう。
それでも、そう聞いてくれたんだったら、ちょっとうれしくて。
兄の一真はのんびりとした高校に通ってた。
勉強よりはほどほどの文武両道を目指すと言って部活を頑張っていた。
ほどほど以外の余白で恋愛も頑張っていた。
自分は大学を視野に入れて勉強の方を頑張るつもりだ。
一緒の高校に行くことはないかもしれない。
いつまでも怯えて泣いてる小さい子じゃないし、慰めが必要な年じゃない。
自分が近くにいる理由はどんどんなくなり、自分である必要なんてすぐになくなる。今だってないのかもしれない。
あの昔の兄姉同士の事件の時だけだったのかもしれない。
でも、それはお互いなんだろう。
自分だって新しいクラスにもしかしたら・・・・・なんて、ないな。
さっきのお別れ会、副委員長と話をしてるのは見た。
いつものグループともいたけど、ほとんど後ろの方に一人でいた。
最後は手にゴミを持ちながら、酷く落ち込んで見えたけど。
声も聞けなかったし顔も見れなかったから分からない。
一人で帰ったんだろうか?
最後の日なのに。
にぎやかな声がして、後ろを見るとあのグループは集団で帰って行った。
どうして一緒じゃなかったんだろう?
本当に最後なのに・・・・・。
集団の最後にいたあの子と目が合って、すぐに逸らされた。
しばらくしたら違うドアから出てきた沼田に肩を叩かれてびっくりした。
「委員長、ご苦労。帰ろう。」
「ああ。」
「気になるだろう?」
そう言われて沼田の顔を見る。
「大丈夫だよ。ちょっと、最後の・・・・悪あがき。誕生祭は誘えばいいよ、きっと来てくれるから。」
いつものように一人で納得してる。
こんな沼田の方が、社会人になって先輩上司の間をスイスイと泳いでいけるんじゃないか?
自分を不器用だなんて思ったことはないのに。
運動だって普通にできるし。
だけど、ここ数ヶ月、敵わないと思ったことが多かった。
全然周りの人の気持ちが見えてなかったり、空気が読めてなかったり。
そんな自分に何度かがっかりした。
「来てくれるかな。」
「二人の事を信じる。」
「二人って、誰?」
「気がついてないなら、内緒。」
また、なにか見えてないらしい。
一人は分かる、もう一人は・・・・?
おじいちゃん・・・な訳ない。
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