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28 一総が『委員長』と呼ばれるのも、もうおしまい。
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三匹の猫が一同へ。
そして久しぶりに三人も集まった。
ただ、それは姉かおりさんで、誘っていた、待っていた、彼女じゃなかった。
かおりさんはあんを二匹に挨拶させて、その後リードをつけたあんを僕に預けた。
外に出ること自体珍しいと言う。
怖がるでもなく本当に大人しい。
これだったらお正月のあの被り物も大人しくつけてくれるんじゃないかな?
ちょっとだけ被ったあんの顔を想像する。
可愛いと言いながら写真を撮る彼女の姿まで。
あんを撫でながらそんな事を考えてたら、いつの間にか二人がいなくなってた。
キッチンに行ったようだ。
一路もグリグリと容赦なくかおりさんに撫でられていた。
今は毛繕いして、乱れた毛並みを整えてる。
すっかり大きくなった三匹は昔のように絡まって追いかけ合うことはない。
ナオは自分の縄張りに入ってきた一路と距離を取り、あんは自分の腕の中でひたすら大人しくしてる。
やっぱり来てくれないのだろうか?
かおりさんがいるということは、そういうことだろう。
沼田が言った『二人のこと』もさっぱり分からないまま。
彼女は図書館に出かけたんだろうか?
なかなかおじいちゃんも戻ってこない。気がついたらキッチンも静かで。
あんを抱いたまま、覗きに行くとどこにもいなかった。
?
「あん、みんなどこに行ったんだろう?」
もしかしてサプライズがあるのかなあ?
「すごく美味しいご飯が出てきたらうれしいけどね。」
あんを撫でながら小声でそんな話をしてた。
「本当はあんも寂しいよね?誕生日なのにね。僕は寂しいなあ。」
たまらなくてちょっとだけ聞いて、ついでに本心を呟いて。
全然大人しく撫でられてるだけで何の反応もないけど。
しばらくそうしてたのに誰も戻ってこない。
静かすぎた、手の中の温かさと心地よい手触りに、つい目を閉じたくなるくらいのころ。
いきなり悲鳴のような声が聞こえて、ビックリして目が開いた。
「あん・・・あん・・・・どこにいるの?」
もしやかおりさんが勝手に連れてきたのかと、心配して来たのかと思った。
またナオや、一路にいじめられてるんじゃないか、とか。
大丈夫だ。自分がちゃんと抱いているし。
「ここにいるよ。どうしたの?」
声を出した。
安心して欲しいし。
すぐに姿が見えた。
自分に抱かれてるあんを見てホッとしてるのが分かった。
リードを手放して、あんを渡す。
「大丈夫だよ。かおりさんに渡されて、僕がずっと抱いてたから。だからいじめられたりはしてないよ。安心して。」
安心してもらう様に言う。
でも少し困った顔をしてる。
「あんが逃げ出したって聞いて、急いで探しに来たんだけど・・・・。」
?
首を倒す。
大きく開いた口が閉じて、悔しそうな目になった。
「おじいさんは?」
「それがいないんだ。庭かな?」
「多分お姉ちゃんと一緒にいるんだと思う。騙された。」
最後の声は小さかった。
あんを抱いたまま座り込んだ。
「大丈夫?」
昨日もそう聞いた。
「昨日もそう聞かれた。」
「うん、なんだか元気がないような気がして。いつものグループにもいなかったし。帰りも別々だったね。」
「沼田がなんだか言ってたけどさっぱり分からなかった。」
あ、二人って、まさか・・・おじいちゃんとかおりさん?
まさかな・・・・・。
まあ、いいや。
「でも来てくれて嬉しい。一路も久しぶりでしょう?」
明るく言ってみる。
多分、安心してぼんやりしてる。
「ごめんなさい。」
「大丈夫だよ。三人主役が集合したんだし。良かった。かおりさんが連れてきたから、てっきり出かけてるのかと思ってた。」
「家にいたの?」
うなずかれた。
そうだったんだ。
「本当にごめんなさい。約束破って。勝手に無視したり、避けたりして。」
「いつのこと?結局約束は守ってもらってる気がする。なんだかんだと周りに巻き込まれてる気がするけど。それでも大切な約束は守ってもらえてたよ。」
「ねえ、もしかしてあん達を見つける前から、クラスが一緒になった時から私があの時のお兄さんの喧嘩相手の妹だって知ってたの?」
「うん。知ってたよ。名前は入学した時からおじいちゃんに聞いて知ってたし、同じクラスになったってすぐわかったし。それまではかおりさんが話す妹のエピソードをおじいちゃんから聞いていただけだったけど、すっかり知りあい気分だったかも。」
「紅美ちゃんが・・・・・。」
あの子の名前が出た。
その続きがない。
「何か聞いた?」
うなずいた。
「そう。」
なんだろう。ずっと見てた事、告白みたいなことされた事?最近でも時々見てた事?
「さっき紅美ちゃんと仲直りした。」
喧嘩してたの?なんて聞けない。
やっぱり話をしてるところは見てなかったから、数人の友達に紛れてたけど、そんな感じなんだろうって思ってたし。
「良かったね。」
「うん。」
嬉しそうに顔をあげてくれた。
泣いてるけど。
ティッシュを持って箱ごと渡す。
「じゃあ、元気になった?」
「うん。」
「じゃあ、・・・・・春休み、どこかに遊びに行かない?」
同じ調子で誘ってみた。
結構軽く誘った風を装ったけど、勇気をふりしぼったんだ。
おじいちゃんやかおりさんばかりに任せてるんじゃなくて自分で誘いたくて。
「・・・・うん。」
「本当?」
思わず前のめりになった。
ビックリしたあんが目を開けたし、彼女もビックリしたみたいで、ちょっと引かれた。
「あ、ごめん。」
「考えとく。」
そう続いた言葉にがっかりした。
え、OKって事じゃなかったの?
表情がそう言ったんだろう。
「あ、行きたいところ、考えておくって事。」
ホッとした。
「僕も考える。」
それより兄に聞いてみようか。
きっと彼女もかおりさんに聞くだろう。
彼女が手にしていた携帯はテーブルに置かれてる。
さっきから気がついてた。
それにはちょっと薄汚れた黄色いキーホルダーがついている。
立ち上がってバッグを持ってくる。
「これ、沼田が修学旅行の大阪の時に買ってくれたんだ。宿題のお礼だって言って。お揃いだから学校には持ってくるなって。」
自分のはそんなに汚れてない。
週末に持ち歩くバッグにつけたままだから。
夏の水族館でのペンギンもついている。そっちはちょっと汚れてるけど。
彼女が気がついた。
「沼田君、妹にお土産を買うって言ってた。」
「そうなの?それは聞いてなかったけど。」
「修学旅行、一緒にまわれたら良かったのになあ。」
そう言って黄色いキャラクターを撫でる。
「それは無理だと思う。」
「そうかな?じゃあ、沼田も入れていいよ。」
「付き合ってくれるかな?」
「うん、沼田に手伝いが必要なら僕が手伝うことになってる。」
「仲がいいよね。時々話しかけられた。わざわざ図書室に来て、隣で少しだけ話をしたら帰って行ってたよ。」
「一緒に勉強しようって誘ったら、少しはやる気が出たかもよ。」
「・・・集中できなそう。」
「かもね。三年になっても誰かの宿題写す気満々だよ。僕は同じクラスにならない方が沼田の為かもしれない。」
「そうだね、でもあと一年だから。高校は同じところは無理だよって言ってた。」
「沼田が心を入れ替えて頑張ってくれればいいけど、今のままじゃ無理だ。」
「私は頑張っても、無理みたい。」
それは、もしかして・・・・。
同じ高校を目指してくれてたとか?
「ねえ、時々でいいから一緒に勉強しようよ。」
「私はいいけど、私のレベルに付き合ったら委員長がダメじゃん。」
「大丈夫だよ。やる気は倍増だし、何を聞かれても答えられるようになりたいって思って頑張るから。」
「委員長の邪魔はしないよ。」
「邪魔じゃないよ。」
下を向いた彼女の代わりにあんがこっちを向いた。
鼻の頭をそっと撫でる。
「ねえ、二年生が終わったし、もう委員長じゃないけど。」
そう言ったら顔が上がった。
「ずっとそう呼んでたから、慣れてる。」
「じゃあ、これからは名前を呼ぶのに慣れてよ。外でも委員長って呼ばれると変だよね。」
「あ、でもおじいちゃんも名木君だから。」
「・・・だから下の名前で。かおりさんも下の名前で呼んでくれるし。」
「さすがに、おじいさんを『名木君』とは呼ばないよ。」
「そう?でも、『名木』歴はおじいちゃんの方が長いから、そう呼ばれたらおじいちゃんが返事しそうだから。」
そんなはずはないけど。
僕だって下の名前で呼んでるし。
「おじいちゃんは一清で父は一義で兄は一真で僕は一総。」
「じゃあ、『イチロ』はちょっと違ったの?」
そこに反応した?
確かに一路と言い出したのは彼女だった。
「ああ、でもかっこいいからいい。似合ってるし。」
「うん。」
二人で一路を見る。
「さっきかおりさんにグリグリと撫でられた後必死に毛繕いをしてたよ。結構おしゃれなんだ。兄に似てちょっと自意識過剰かも。」
そう言ったら自分の顔を見られた。
なんだろう?
もしかして僕に似て自意識過剰?
そう思った?
ふわりと笑う顔に安心した。
まあ、どうでもいいや。
「一総君に似たところは?」
いきなり名前?
でもさらっと流すようにする。
「マイペースなところ。」
「そうなんだ。」
「うん、誕生日を決めてから絶対この日は一緒に過ごしたいって思ってたから。会えてよかった。話もできて、・・・デートの約束も出来て。」
さり気なく言ったつもりでも自分の手の平が赤いのが分かる。
きっと顔も。
「それマイペースって言うのかな?」
そう言われた。
色んな事がどうでもいいかも。
誕生日は皆がそろって祝う日だから。
来年も、その次も、そのまた次の時も。
「ねえ、後で春休みの予定を決めようね。」
「うん。」
「じゃあ、もう戻って来てくれてもいいよね。どこに行ったんだろう?」
これでこっそり聞き耳を立てて聞かれてたりしたら恥ずかしいけど、そんな気配すらない。
彼女が携帯を取り出してかおりさんに連絡している。
「帰ってくるって。おじいさんも一緒だと思う。」
しばらくしたらかおりさんが賑やかに帰って来た。
その後ろからはニコニコ顔のおじいちゃんが。
「あん、どこにいたの?探したのよ~。」
そのままのテンションであんに駆け寄る。
ええっ、・・・・まだ続ける気ですか?
「もうそのお芝居はいい。ずっとリードついてたんでしょう?」
体の向きを変えてあんを隠す彼女。
バラしたのは自分だ。
まさか裏切り者とは言われまい。
知らなったんだし。
懲りずにあんに話かけてるかおりさん。
「良かったね、あん。美人の飼い主のウジウジの妹が暗い顔のままだと嫌だよね。元気になったかな?」
そう言って自分の方を見る。
まあまあ、バレてる。
しかも飼い主がかおりさんになってるらしい。
『美人』はまあ、その通りなのでいいです。
一路におめでとうを言い、再びグリグリと撫でまわして、立ち上がるかおりさん。
一路はまた毛繕いをしなくては・・・・・。
「じゃあ、私はもう一つの記念日を楽しみます。じゃあね。しおり、お母さんも心配してるんだから、謝りなさい。」
「・・・・はい。」
「じゃあ、後はよろしく。」
お願いされた僕とおじいちゃん。
当初の予定通りの三人と三匹。
お昼は過ぎた。
お腹空いたのは三人の方。
おじいちゃんを手伝ってお昼にする。
ほんとにいつもと変わりはないけど。
野菜がいっぱいの食卓になった。
最初彼女が僕のことを名前で呼んだ時、おじいちゃんがゆっくり僕を見た。
照れない照れない、慣れるんだ。
『名木君』じゃあ、おじいちゃんも返事するからさっ。
その後はみんながゆっくり慣れて行った。
「お姉ちゃん、用事があったんだ。何も言ってなかったのに。」
「リョウ君との大切な用事らしい。ご両親も出かけてたんだね。」
「はい。私のお昼のことも何も言わずにいなくなりました。」
「かおりさんが一緒に食べるとか何とか言ったんだろうね。」
「・・・・そうでしょうか?」
「多分ね。」
六歳の年の差は大きい。
本当に素晴らしいシナリオ運び。
おじいちゃんを連れて裏の家にいたんだろう。
本当にお世話になってしまってる気がする。
家でも元気がなかったらしい。
お母さんが心配するくらいに。
今は前みたいに明るく元気でおじいちゃんと話をしてるし、食事もぱくぱくと食べていて、見てるだけでも美味しそうなくらいだ。
元気になれたんだったら良かった。
かおりさんが安心して帰って行ったくらいだからそうなんだろう。
今日の被害は一路の毛並みだけだ。
一生懸命に体をなめながら整えた一路の体を見る。
本当によかった。
そして久しぶりに三人も集まった。
ただ、それは姉かおりさんで、誘っていた、待っていた、彼女じゃなかった。
かおりさんはあんを二匹に挨拶させて、その後リードをつけたあんを僕に預けた。
外に出ること自体珍しいと言う。
怖がるでもなく本当に大人しい。
これだったらお正月のあの被り物も大人しくつけてくれるんじゃないかな?
ちょっとだけ被ったあんの顔を想像する。
可愛いと言いながら写真を撮る彼女の姿まで。
あんを撫でながらそんな事を考えてたら、いつの間にか二人がいなくなってた。
キッチンに行ったようだ。
一路もグリグリと容赦なくかおりさんに撫でられていた。
今は毛繕いして、乱れた毛並みを整えてる。
すっかり大きくなった三匹は昔のように絡まって追いかけ合うことはない。
ナオは自分の縄張りに入ってきた一路と距離を取り、あんは自分の腕の中でひたすら大人しくしてる。
やっぱり来てくれないのだろうか?
かおりさんがいるということは、そういうことだろう。
沼田が言った『二人のこと』もさっぱり分からないまま。
彼女は図書館に出かけたんだろうか?
なかなかおじいちゃんも戻ってこない。気がついたらキッチンも静かで。
あんを抱いたまま、覗きに行くとどこにもいなかった。
?
「あん、みんなどこに行ったんだろう?」
もしかしてサプライズがあるのかなあ?
「すごく美味しいご飯が出てきたらうれしいけどね。」
あんを撫でながら小声でそんな話をしてた。
「本当はあんも寂しいよね?誕生日なのにね。僕は寂しいなあ。」
たまらなくてちょっとだけ聞いて、ついでに本心を呟いて。
全然大人しく撫でられてるだけで何の反応もないけど。
しばらくそうしてたのに誰も戻ってこない。
静かすぎた、手の中の温かさと心地よい手触りに、つい目を閉じたくなるくらいのころ。
いきなり悲鳴のような声が聞こえて、ビックリして目が開いた。
「あん・・・あん・・・・どこにいるの?」
もしやかおりさんが勝手に連れてきたのかと、心配して来たのかと思った。
またナオや、一路にいじめられてるんじゃないか、とか。
大丈夫だ。自分がちゃんと抱いているし。
「ここにいるよ。どうしたの?」
声を出した。
安心して欲しいし。
すぐに姿が見えた。
自分に抱かれてるあんを見てホッとしてるのが分かった。
リードを手放して、あんを渡す。
「大丈夫だよ。かおりさんに渡されて、僕がずっと抱いてたから。だからいじめられたりはしてないよ。安心して。」
安心してもらう様に言う。
でも少し困った顔をしてる。
「あんが逃げ出したって聞いて、急いで探しに来たんだけど・・・・。」
?
首を倒す。
大きく開いた口が閉じて、悔しそうな目になった。
「おじいさんは?」
「それがいないんだ。庭かな?」
「多分お姉ちゃんと一緒にいるんだと思う。騙された。」
最後の声は小さかった。
あんを抱いたまま座り込んだ。
「大丈夫?」
昨日もそう聞いた。
「昨日もそう聞かれた。」
「うん、なんだか元気がないような気がして。いつものグループにもいなかったし。帰りも別々だったね。」
「沼田がなんだか言ってたけどさっぱり分からなかった。」
あ、二人って、まさか・・・おじいちゃんとかおりさん?
まさかな・・・・・。
まあ、いいや。
「でも来てくれて嬉しい。一路も久しぶりでしょう?」
明るく言ってみる。
多分、安心してぼんやりしてる。
「ごめんなさい。」
「大丈夫だよ。三人主役が集合したんだし。良かった。かおりさんが連れてきたから、てっきり出かけてるのかと思ってた。」
「家にいたの?」
うなずかれた。
そうだったんだ。
「本当にごめんなさい。約束破って。勝手に無視したり、避けたりして。」
「いつのこと?結局約束は守ってもらってる気がする。なんだかんだと周りに巻き込まれてる気がするけど。それでも大切な約束は守ってもらえてたよ。」
「ねえ、もしかしてあん達を見つける前から、クラスが一緒になった時から私があの時のお兄さんの喧嘩相手の妹だって知ってたの?」
「うん。知ってたよ。名前は入学した時からおじいちゃんに聞いて知ってたし、同じクラスになったってすぐわかったし。それまではかおりさんが話す妹のエピソードをおじいちゃんから聞いていただけだったけど、すっかり知りあい気分だったかも。」
「紅美ちゃんが・・・・・。」
あの子の名前が出た。
その続きがない。
「何か聞いた?」
うなずいた。
「そう。」
なんだろう。ずっと見てた事、告白みたいなことされた事?最近でも時々見てた事?
「さっき紅美ちゃんと仲直りした。」
喧嘩してたの?なんて聞けない。
やっぱり話をしてるところは見てなかったから、数人の友達に紛れてたけど、そんな感じなんだろうって思ってたし。
「良かったね。」
「うん。」
嬉しそうに顔をあげてくれた。
泣いてるけど。
ティッシュを持って箱ごと渡す。
「じゃあ、元気になった?」
「うん。」
「じゃあ、・・・・・春休み、どこかに遊びに行かない?」
同じ調子で誘ってみた。
結構軽く誘った風を装ったけど、勇気をふりしぼったんだ。
おじいちゃんやかおりさんばかりに任せてるんじゃなくて自分で誘いたくて。
「・・・・うん。」
「本当?」
思わず前のめりになった。
ビックリしたあんが目を開けたし、彼女もビックリしたみたいで、ちょっと引かれた。
「あ、ごめん。」
「考えとく。」
そう続いた言葉にがっかりした。
え、OKって事じゃなかったの?
表情がそう言ったんだろう。
「あ、行きたいところ、考えておくって事。」
ホッとした。
「僕も考える。」
それより兄に聞いてみようか。
きっと彼女もかおりさんに聞くだろう。
彼女が手にしていた携帯はテーブルに置かれてる。
さっきから気がついてた。
それにはちょっと薄汚れた黄色いキーホルダーがついている。
立ち上がってバッグを持ってくる。
「これ、沼田が修学旅行の大阪の時に買ってくれたんだ。宿題のお礼だって言って。お揃いだから学校には持ってくるなって。」
自分のはそんなに汚れてない。
週末に持ち歩くバッグにつけたままだから。
夏の水族館でのペンギンもついている。そっちはちょっと汚れてるけど。
彼女が気がついた。
「沼田君、妹にお土産を買うって言ってた。」
「そうなの?それは聞いてなかったけど。」
「修学旅行、一緒にまわれたら良かったのになあ。」
そう言って黄色いキャラクターを撫でる。
「それは無理だと思う。」
「そうかな?じゃあ、沼田も入れていいよ。」
「付き合ってくれるかな?」
「うん、沼田に手伝いが必要なら僕が手伝うことになってる。」
「仲がいいよね。時々話しかけられた。わざわざ図書室に来て、隣で少しだけ話をしたら帰って行ってたよ。」
「一緒に勉強しようって誘ったら、少しはやる気が出たかもよ。」
「・・・集中できなそう。」
「かもね。三年になっても誰かの宿題写す気満々だよ。僕は同じクラスにならない方が沼田の為かもしれない。」
「そうだね、でもあと一年だから。高校は同じところは無理だよって言ってた。」
「沼田が心を入れ替えて頑張ってくれればいいけど、今のままじゃ無理だ。」
「私は頑張っても、無理みたい。」
それは、もしかして・・・・。
同じ高校を目指してくれてたとか?
「ねえ、時々でいいから一緒に勉強しようよ。」
「私はいいけど、私のレベルに付き合ったら委員長がダメじゃん。」
「大丈夫だよ。やる気は倍増だし、何を聞かれても答えられるようになりたいって思って頑張るから。」
「委員長の邪魔はしないよ。」
「邪魔じゃないよ。」
下を向いた彼女の代わりにあんがこっちを向いた。
鼻の頭をそっと撫でる。
「ねえ、二年生が終わったし、もう委員長じゃないけど。」
そう言ったら顔が上がった。
「ずっとそう呼んでたから、慣れてる。」
「じゃあ、これからは名前を呼ぶのに慣れてよ。外でも委員長って呼ばれると変だよね。」
「あ、でもおじいちゃんも名木君だから。」
「・・・だから下の名前で。かおりさんも下の名前で呼んでくれるし。」
「さすがに、おじいさんを『名木君』とは呼ばないよ。」
「そう?でも、『名木』歴はおじいちゃんの方が長いから、そう呼ばれたらおじいちゃんが返事しそうだから。」
そんなはずはないけど。
僕だって下の名前で呼んでるし。
「おじいちゃんは一清で父は一義で兄は一真で僕は一総。」
「じゃあ、『イチロ』はちょっと違ったの?」
そこに反応した?
確かに一路と言い出したのは彼女だった。
「ああ、でもかっこいいからいい。似合ってるし。」
「うん。」
二人で一路を見る。
「さっきかおりさんにグリグリと撫でられた後必死に毛繕いをしてたよ。結構おしゃれなんだ。兄に似てちょっと自意識過剰かも。」
そう言ったら自分の顔を見られた。
なんだろう?
もしかして僕に似て自意識過剰?
そう思った?
ふわりと笑う顔に安心した。
まあ、どうでもいいや。
「一総君に似たところは?」
いきなり名前?
でもさらっと流すようにする。
「マイペースなところ。」
「そうなんだ。」
「うん、誕生日を決めてから絶対この日は一緒に過ごしたいって思ってたから。会えてよかった。話もできて、・・・デートの約束も出来て。」
さり気なく言ったつもりでも自分の手の平が赤いのが分かる。
きっと顔も。
「それマイペースって言うのかな?」
そう言われた。
色んな事がどうでもいいかも。
誕生日は皆がそろって祝う日だから。
来年も、その次も、そのまた次の時も。
「ねえ、後で春休みの予定を決めようね。」
「うん。」
「じゃあ、もう戻って来てくれてもいいよね。どこに行ったんだろう?」
これでこっそり聞き耳を立てて聞かれてたりしたら恥ずかしいけど、そんな気配すらない。
彼女が携帯を取り出してかおりさんに連絡している。
「帰ってくるって。おじいさんも一緒だと思う。」
しばらくしたらかおりさんが賑やかに帰って来た。
その後ろからはニコニコ顔のおじいちゃんが。
「あん、どこにいたの?探したのよ~。」
そのままのテンションであんに駆け寄る。
ええっ、・・・・まだ続ける気ですか?
「もうそのお芝居はいい。ずっとリードついてたんでしょう?」
体の向きを変えてあんを隠す彼女。
バラしたのは自分だ。
まさか裏切り者とは言われまい。
知らなったんだし。
懲りずにあんに話かけてるかおりさん。
「良かったね、あん。美人の飼い主のウジウジの妹が暗い顔のままだと嫌だよね。元気になったかな?」
そう言って自分の方を見る。
まあまあ、バレてる。
しかも飼い主がかおりさんになってるらしい。
『美人』はまあ、その通りなのでいいです。
一路におめでとうを言い、再びグリグリと撫でまわして、立ち上がるかおりさん。
一路はまた毛繕いをしなくては・・・・・。
「じゃあ、私はもう一つの記念日を楽しみます。じゃあね。しおり、お母さんも心配してるんだから、謝りなさい。」
「・・・・はい。」
「じゃあ、後はよろしく。」
お願いされた僕とおじいちゃん。
当初の予定通りの三人と三匹。
お昼は過ぎた。
お腹空いたのは三人の方。
おじいちゃんを手伝ってお昼にする。
ほんとにいつもと変わりはないけど。
野菜がいっぱいの食卓になった。
最初彼女が僕のことを名前で呼んだ時、おじいちゃんがゆっくり僕を見た。
照れない照れない、慣れるんだ。
『名木君』じゃあ、おじいちゃんも返事するからさっ。
その後はみんながゆっくり慣れて行った。
「お姉ちゃん、用事があったんだ。何も言ってなかったのに。」
「リョウ君との大切な用事らしい。ご両親も出かけてたんだね。」
「はい。私のお昼のことも何も言わずにいなくなりました。」
「かおりさんが一緒に食べるとか何とか言ったんだろうね。」
「・・・・そうでしょうか?」
「多分ね。」
六歳の年の差は大きい。
本当に素晴らしいシナリオ運び。
おじいちゃんを連れて裏の家にいたんだろう。
本当にお世話になってしまってる気がする。
家でも元気がなかったらしい。
お母さんが心配するくらいに。
今は前みたいに明るく元気でおじいちゃんと話をしてるし、食事もぱくぱくと食べていて、見てるだけでも美味しそうなくらいだ。
元気になれたんだったら良かった。
かおりさんが安心して帰って行ったくらいだからそうなんだろう。
今日の被害は一路の毛並みだけだ。
一生懸命に体をなめながら整えた一路の体を見る。
本当によかった。
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