すべての事件は裏の家でおきていました。

羽月☆

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29 一総がすごく楽しみにしていた夜に。

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春休み

「宿題がないのにこんなに勉強したのは初めてかも。」

そう言って笑う彼女が可愛いと思うくらい、すごく近くにいた。

ただ、相変わらずおじいちゃんの家だった。

「ねえ、一日くらい勉強サボって思いっきり遊びに行かない?」

おじいちゃんが畑に行ってる間に誘った。
前にも誘ったけど、なかなかその話はお互いしてなかった。

兄に相談していくつか候補を決めた。
中学二年生のお小遣いで楽しめる場所。
ゆっくりできる場所。

週末じゃない日。
僕の塾のない日。

ちょっと笑顔が消えたけど、すぐに赤くなってうんと答えてくれた。

「どこに行く?」

「お姉ちゃんが張り切って一押しの場所を教えてくれたの。」

そういって携帯を見せてくれた。

『一押し』はいくつかあって両手が必要なくらい。

それでも彼女がかおりさんに相談してたんだと思うと嬉しくなる。
でもきっとおじいちゃんは聞いてるんだろうなあとも思った。
この間もいない時に誘ったのに、きっと僕が誘えたことも知ってるんだなあって。


その中から二カ所を選んだ。

丁度イベントをやっていたのでそれを見に行って、終わって時間があったらもうひとつに行くことにして。

後は日にちを決めて。



初めて写真を一緒に撮った。
イベントの可愛くない・・・・キャラクターがいて、係の人が暇そうにしていたから、誘われるままに、でもうれしさを隠せないくらいの笑顔でキャラクターの片側に二人で並んだ。
トリミングすれば二人の写真になる。
さすがにそのままにしているけど、見る時は拡大するから結局邪魔なキャラクターは消える。
中に人が入ってると思わなければツーショットだ。
ぬいぐるみぬいぐるみ、中はスポンジ、そう思ってる。
二年生最後の思い出ができた。


そして三年になって。
沼田とは別のクラスになり、彼女とも違うクラスになった。

何人かの仲の良かった男子が一緒のクラスになった。

『玉木さんと一緒のクラスになったの。三年連続だから、また一緒になったら仲良くしようねって言ってたんだ。』

副委員長のことだ。
うれしそうなメッセージが入ってた。

僕のことは何も言ってくれないけど、少しは残念に思ってくれたんだろうか?
勝手にうれしそうな顔が浮かんで、そんな残念そうな顔はチラリとも見えない。


さすがに塾の日にちも増えた。
受験する高校を決める時まで、出来るだけ高みを目指す。
でも無理してついて行くくらいならランクを落とした方が楽しいとも聞いた。

まだまだ決められない。

週末を使って少しだけおじいちゃんのところで会う。

彼女も夏はまた真剣に塾に通うと言っていた。

「また少しだけ成績が上がったの。一総君のおかげだって家族が喜んでる。」

「そう?春休みの復習が良かったのかな。」

「そうだと思う。」

やっと普通になって会いたいからここに来て、ここにいるからには勉強もしようと誘ったけど。役に立てたならうれしい。


明らかに二年の頃より忙しい日々。

時々すごく焦る自分の気持ちに気がつく。
落ち着かない気持ち。

時々廊下で沼田と話をすると落ち着く。
こっそり近況を報告できるただ一人の相手だった。

そうして、三匹を拾った梅雨が始まり、終わり、また夏が来た。


担任の先生との面接があった。進路相談だ。

「狙えそうな高校はたくさんあるが、どのあたりにする?」

「夏、頑張ります。そしてそこで決めます。ギリギリのところよりは完全に合格圏内のところにしようと思ってます。」

多少後ろ向きな選択だったのに、先生は賛同してくれた。

「そうだな。その方が楽しいぞ。名木の場合はそれでも問題ないだろうから、じゃあ夏は頑張れ。」

「はい。」

あっさり終わった。


それを両親にも伝えた。
無理な期待は掛けられてない。
それでいいと言ってくれた。
付属に行くことについても選択の一つに入れていいと。
兄はそれはしてない、自力で大学受験になる。
そう考えると多少学費がかかっても付属もありだと。
彼女もそう言っていたが、同じところには行くことはないと分かってる。


去年の夏、今年の花火も一緒に、そう誘ったつもりだったけど。
どうだろうか?
また誰かに見られることは覚悟しなくてはいけないけど。

言い出せないまま、夏休みに入る。
適当な会話なら文字で何往復もしてるのに。

塾の宿題も、学校の宿題もすさまじくて、おじいちゃんの家に行くのもなかなかだ。

野菜は今年も元気に育ってるらしい。
おじいちゃんがわざわざ届けてくれる。
彼女とかおりさんの話をしてくれる。
自分の代わりに時々手伝ってくれるらしい。


「麦わら帽子をかぶって、ザルを持って待っててくれるんだ。そのままキッチンで一緒に洗ったりして。人参もナスもキュウリもしおりちゃんが洗ってくれたんだぞ。」

おじいちゃん、なにも母親の前で言わなくていいのに。
何度かお礼を言ってるし。

『おじいちゃんの手伝いありがとう。宿題に追われててなかなか行けないから、おじいちゃんが届けてくれた。可愛いお手伝いがいるって嬉しそうだった。僕が手伝った野菜よりおいしいって言い出しそうだよ。』

『時々だよ。家にもたくさんもらうから、お母さんが料理したのを届けたり、時々早起きした日に収穫を手伝ってる。』

『家族みんなが感謝してます。』

『こちらこそお母さんが感謝してる。新鮮でおいしい。でも、あんはやっぱり食べないな。』


やっぱり花火の話は出なかった。


「麦わら帽子が似合うしおりちゃんと花火見に行くのか?」

「別に・・・・誘ってない。誰に見られるか分からないし。」

「そんな事言ってるとしおりちゃんが他の奴に誘われるぞ。」

「そんなの、行くわけないじゃん。そっちも誰かに見られるよ。」

「へえ、自信はあるわけだ。じゃあ、ちょっと離れたところから見れば?他のところの花火でもいいと思うけど。いっそ花火にこだわらなくても夜の遊園地で浴衣も可愛いじゃん。」

そうだなあって想像してたら、兄がニヤニヤしてた。

わざわざ揶揄いに来たのだろうか?
勉強すればいいのに。そう思った。


でも、半分兄は正しかった。
友達に誘われて花火を見ることになったと言われた。

『花火はクラスの女子数人で見ます。今年は去年の失敗を繰り返さないように早めに集まって食べて飲んで、見ます。その代わり終わったら解散予定です。』

ガッカリはしたけど、やっぱり現実的じゃなかったから。
それより、終わったらまたすぐに帰ると言ってる。
じゃあ、去年と同じパターンでもいいかもと思った。

『そうなんだ。僕もおじいちゃん家に行けるように塾の方の予定を見てみる。』

そう返した。多少無理してでも行くつもりだけどそう言った。
またびっくりさせたい。
そこも去年と同じで。


本当に中学生ってこんなに勉強するんだろうか?
大学を受ける兄よりしてる気がする。
兄はデートを楽しんでるらしい。
ウキウキと準備に少し時間をかけてお小遣いをおねだりして出かける日は、たいていそうだろう。
勉強の後にデートするんだろう。
だいたい今の彼女は同じ塾で見つけたと言ってた。

何しに行ってる?
やっぱり自分の方が真面目に取り組んでる気がするんだけど。

せめて兄が受ける大学よりいいところに行かないと自分が可哀想になる。
まあ、余裕でその自信はあるんだけど。


花火の日。

『たぶん行けるよ。去年みたいに会えるといいな。』

そうメッセージを送った。



「今日は久しぶりにおじいちゃんの所に泊まるから。」

「一総、これあげるから。」

母親にそう言ったら、お金を貰えた。

「楽しんできなさい。」

何も言ってないのに、兄が分かりやすいように自分もウキウキがあふれ出してたんだろうか?

「ありがとう。」

ただ嬉しそうにそれを貰って財布にしまった。
そう使うことはないけど、アイスでも買って行こうかな、そう思った。


塾が終わって、アイス屋さんのアイスを数種類選んで箱に詰めて、おじいちゃんのところに行った。

「しおりちゃんは今年も可愛く浴衣に着替えて、友達と花火を見るって出かけたよ。」

「うん、知ってる。」
冷凍室にアイスをしまいながら答える。

「始まる前に今年は露店を見るんだって言ってたよ。終わったら解散だからここに来ると思う。」

「じゃあ、また迎えに行けばいい。一総も浴衣着ればいいじゃないか。今年も写真撮ってあげるぞ。去年と比べらた少しは2人とも大人っぽくなったんじゃないか?背も伸びたしな。」

そうなのだ。この春からグンと伸びたのだ。

去年の写真をこっそり見る。

どうだろう?あんまりそれ以外は変わってる気はしないけど、二人並んだら、身長の差ができたくらいかも。

おじいちゃんに言われるまま、去年と違う浴衣を着せてもらって出かける。

去年より急がなくていい、のんびりと住宅街の道を歩く。

公園に着いた。
またここで待とう。
そう思ったら、声をかけられた。

「名木君?」

振り向いた。一年の時に同じクラスだった斎藤さんがいた。

「あ、斎藤さん。久しぶりだね。」

「ビックリした。浴衣似合うね。花火見てたんだ。」

「ああ、うん。」

斎藤さんが浴衣じゃなくて助かった。
あんまり褒めるのは得意じゃないし、じろじろ見ないと褒められない。

「斎藤さんは見に行ったの?」

「ううん、行ってない。今年は止めた。」

「そうなんだ。」

「もう帰るの?」

「・・・うん。そうだね。おじいちゃんの家があるんだ。そこで着替えたから。」

「名木君は、どこの高校にいくの?もう決めてる?」

「う~ん、まだなんだ。もっと成績を見てから決めようと思ってるんだ。」

「ね、今気がついたけど、すごく背が伸びた?」

斎藤さんが近づいて頭の方へ手を伸ばしてくるようにする。

近い!

ビックリしたけど後ずさるわけにもいかず、その手を見る。

「なんだか、すごく顔が遠い気がする。」

「そうなんだ。一年のころに比べると伸びたから。」

手はなくなったけど距離は近いまま。

ぼんやりとした明かりの下に二つの影が入ってきた。
声も聞こえてた。
でも彼女なら一人だと思ってたから、違うなって思ってたのに。

チラリと視線を向けたら、彼女だった。
隣にはうっすらと顔だけ知ってる男がいた。同級生なのは確かだ。
同じクラスなんだろうか?
一緒だったんだろうか?
二人だとは思ってない。大勢の中の二人だろう。


いつまでも見てるわけにはいかない。
すぐに視線を剥がして、ほんの少しだけ斎藤さんから距離を取る。

何の話をしてたっけ?

「名木君、あと一回くらい同じクラスになりたかった。一年の頃より、三年だったら良かったのに。」

何で?

「残念だったなあ。」

何でだろう?

「夏休みは塾?」

「うん、さすがにね。学校の宿題と塾の勉強に追われてる感じだよ。頑張るって言ったからしょうがないけど。」

「そうか。あんまり遊びには行かないの?」

「うん、ちょっとおじいちゃんの手伝いとか、他にも合間には忙しいんだ。今日は久しぶりなんだ。」

本当に久しぶりに彼女と会えるんだと、うれしい自分だったけど。


彼女が通り過ぎてから時間も経った。

「ごめん、おじいちゃんが待ってるんだ。そろそろ帰らないと。」

「ああ、ごめんね。」

「ううん。じゃあ、斎藤さんも楽しい夏休みにしてね。じゃあ。」

そういって背中を向けて急ぎ足で帰った。
追いつくかなって思ってたのに、おじいちゃん家に着くまでにその背中を見つけられなかった。

「ただいま~。」

おじいちゃんの家に入ろうとしたのに、玄関に彼女の物らしい下駄がなかった。

おじいちゃんが出てきて自分が一人なのを見てびっくりしてた。

「しおりちゃんと会えなかったのか?」

「先に帰ったし、追いつけなかったんだ。寄らなかった?」

「ああ、なんとも。」

「そう。」

裏の家に言ってみた方がいいのだろうか?
それとも他の道に入ってコンビニにでも寄ってるのかな?

携帯を出してメッセージをいれて待つことにした。

待っても返事が来なくて、ぼんやりとしてたら返事が来た。

『ちょっと行けなくなりました。ごめんなさい。おじいさんにも伝えてください。』

『どうしたの?明日までいるから会えたらうれしいけど、無理だったらまたにするね。』


具合悪いのかな?
ちゃんと浴衣姿を褒めてないのに、脱いじゃったのかな?

自分も立ち上がって着替えを持ってお風呂に行った。

「おじいちゃん、しおりちゃん来れないって。」

「なんで?」

僕もそれを知りたいけど。

「分からない。行けなくなったって連絡あった。」

「そうか。」

おじいちゃんの寂しい背中を見るまでもなく、自分も残念だった。

「お風呂に入るね。」

「一総。せっかく着替えたんだから、写真撮ろう。」

そう言われて去年と同じ和室のふすまの前に立った。一人で。

撮られた写真はぼんやりしてた。

彼女がいないとナオも寄って来なくて、本当に1人の浴衣姿だった。
・・・そんな写真お母さんに見せて終わりだよ。




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