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12 冬休みが終わり

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祥子

結局こうなる。明君が強かったのか、自分が弱かったのか。
腕の中で眠る後輩を抱きしめて髪の毛を撫でるように触る。
昨日の夜寝てしまった彼とは違う男らしい表情が疲れた顔でも見られるような気がする。

どちらが好みなんだろう。

あどけなく眠る彼と、たくましさをもった男らしい彼と。
昨日よりずっと触り放題で今は何をしてもいい感じ。
可愛い大切な後輩。
こうして手の中にいても信じられない。
自分のものにしたい気持ちと、やっぱり立場を考えてどこか後ろ向きになる気持ち。
ぼんやりと見つめながら明君の髪をいじって遊ぶ。
そのうち眠くなって寝てしまった。

目が覚めたのは次の日の朝。
一瞬ここがどこだか分からなくて隣に感じた気配にびっくりして思い出した。
そういえば、そうなったんだって。
最後に見たのと同じ格好で明君が眠っていた。
髪の毛が顔にかかるのを触り、見慣れた顔があどけない表情を見せているのをながめる。
起きるのを待つか着替えて部屋を出て行くか。

今ならまだ引き返せるんじゃないかと。
冬休みをおいてしばらく会わなければ。
そっと体を起こし抜けようとしたその時に手をつかまれた。

驚いて振り向く。

「明君、起きてたの?」

「祥子さん、今、勝手に帰ろうとしましたか?」

「そんな、シャワーを浴びようと思っただけよ。」・・・・・鋭い。

今私は帰ることを選んでいた。
着替えて帰るまで明君が寝ていたら終わり。
明君に決定権を渡すようにしながらも独りで決めていた。
信じていないような顔をしている。

「本当ですか?」

「本当よ。」

独りで決めた賭けに負けた。
起きたら、引き止められたら・・・・。
望んだ結果になったのに認めたくない自分がいる。
どこまでも扱いにくい、強情な自分が。

「じゃあ、・・・・・。帰らないでください。」

体ごと当たるように起きてきて押し倒される。

結局負けたのは自分。負けたかったのも自分。





冬休みが終わり最初の仕事始めの日。
ナベさんにお昼を誘われた。皆忘年会のことはすっかり忘れていた。
それでも当然ナベさんは成り行きを聞きたいはずで。
案の定定食屋に座るとすぐに聞かれた。
言いたい気持ちもあるけど、祥子さんに怒られるのは絶対で、内緒にしたい。
でも無理。宣言もした自分がその通りになったとほぼ白状した形。

祥子さんは本社に行っていて今日はいない。
もちろんナベさんには内緒にしてもらった。

こうして仕事をしながらも新年初日から新規の予約もなく、フォロー中の会員さんへ挨拶のメールをしたり、その後のフォローをしたり。
のんびりと冬休みモードのまま仕事をする。
祥子さんはランチの時間が終わっても帰ってこなかった。
きっと外で済ませてから帰ってくるんだろう。

年末年始、祥子さんにお願いして部屋に来てもらった。
想定外に料理が上手という女子力を発見。
美味しい食事で食育されてすっかり太ってしまった。
それなりに運動らしきものを毎晩していたのに、それでも食事が美味しくなるだけだからしょうがない。
昨日の部屋の広かったこと、静かだったこと。
今日も広い部屋に一人帰るんだなあ。
会社では今までどおりに。
もちろん知られたくない祥子さんの気持ちも分かるから。できるだけ普通にと。

午後ずいぶん遅くに祥子さんは帰ってきた。
皆で中央に集まり新年の挨拶と本社会議の報告など。

終わると自分のデスクに戻り仕事の続きをする。
ちらりと見ると祥子さんがぼんやりとしてるのに気がつく。
お疲れ様ですと思いながら残りの時間をすごした。


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