苦手なものを克服する一番いい方法は?

羽月☆

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16 友達とそれ以上の境目で思いっきり喧嘩した日。

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お兄ちゃんの心ここにあらずの仕打ちにも限界まで耐え忍び、一転緩んだ顔で延々と惚気るような報告を聞かされても『そうなんですかぁ?』と笑うように答え、羨ましがるような笑顔を向け、最近はそんな散歩の時間を過ごしていただろう、太郎。

久しぶりに爽やかでフレッシュな組み合わせの二人に、テンションも上がっただろう。
新顔の連れにも礼儀正しく、挨拶していた太郎。

今日は潤君と一緒に太郎の散歩をしたのだ。
何時も会う顔馴染みの人と会うのを避けるために、時間もお昼近くに、コースも全く知らない所を、遠くまで歩く。
犬が一緒でも入れるテラスのあるカフェを偶然見つけていた。
潤君とランチのサンドイッチを半分交換しながら、足元にいる太郎にも持って来たおやつをあげて、完璧。

「太郎君、大人しいね。吠えたりしない?」

「うん、返事はするけど、吠えない。」

「ねえ、遅い時間に散歩したりしてないよね?」

「うん、それはお兄ちゃんにもやめろって言われてる。」

「良かった。安心。太郎君が一緒でも、やっぱり心配だから。」

なんてうれしいことを言ってくれるんだろう。

「ねえ、私以外にも誰かにラブレターを渡したことあるの?」

「ないよ。」

真っ赤になった。

「初めてだよ。だって全然知ってもらえてないだろうから。守屋君が凄く椎名ちゃんと仲が良かったら紹介してもらえたんだけど。それは無理かもって言われてたし。」

「じゃあ、ラブレターなしで、直接告白とかだったの?」

「ないって。そんな経験あったら、もっと最初の時話が出来たと思うよ。」

信じてもいいかも。
最初に守屋君がシャイって言ってた。

「じゃあ、椎名ちゃんは?今までもあったでしょう?」

ここは・・・・ちょっとだけ匂わすように・・・見栄を張りたい。

「好きな人からはない。」

張れた?
ちょっとくらいああっ、やっぱりって思ってくれた?

「でもあるんだ。」

「あるようなないような、直接はない。」

「直接じゃないとあるんだ。」

ああ・・・今嫌な事を思い出してしまった。
お終いにしよう。

「ゴメンね、いい話じゃなかった。」

席を立ち、伏せの姿勢の太郎の顔をグリグリする。

本当に一番の仲良しの友達にはなれるのに、彼女になったことはない。
何でだろう、そう思ってた。

誰よりも遠慮なくふざけ合い、一番仲が良くて、いつも隣にいてくれて、大切な友達と誰にでも言ってくれて、いつも楽しかったのに、ある日、照れながら恋愛相談をされた。

大嫌い、振られてしまえ、いっそ二人で地獄に落ちろ・・・・・。

一人で恨み言を言いながら、こっそりお母さんのジュースのようなお酒を飲んだ。

文化祭の振り替え休日で家には誰もいない昼の間の出来事だった。
文化祭の打ち上げで食事はいらなくて、特別の日は寝坊が出来て、夕方まで誰にも気がつかれなかった。顔を合わせてなくてもいいタイミングだったから。
太郎だけが散歩に連れて行ってくれない私にどうしたのという目を向けていた。
首に抱きついて涙を流して声まで出てる私をそのままに、ジッとそこにいて最後に顔を舐めてくれた。


お酒は怖い。

酔っぱらって太郎の隣に寝ていたらしくて、凄い顔で起きたらお兄ちゃんがそこにいた。

自分の周りにテイッシュの塊がたくさん、鼻水と涙。

お母さんたちが帰ってくるまでに顔を洗って、シャワーを浴びて、その辺の物をチンして食べて。

その間、お酒はお兄ちゃんが同じものを買いに行ってくれた。
ついでにシュークリームを買って来てくれた。

恨み言を言いながらスッキリして、頭を撫でられて、他にもいるだろうと言われた。

ああ・・・・・、結局思い出した一部始終。

友達どまりの私だった。

見栄を張ってはみても、本当にペラペラだから。
指でツンとしたらぽそって小さい穴が開くくらい、頼りないくらいのもの。
気まぐれに何となく言われたことが一度だけあるくらい。
全然興味のないその他大勢の中の一人に。

「太郎、あの時はごめんね。」

頭を撫でながら謝った。
あの後結局振られたらしい。
その後隣に行くようなこともなかった。
出来るだけ他の女の子と一緒に離れた場所にいた。

気がついてた人はいたかもしれない。
本人も、もしかしたら。

「あ~あ。嫌になる。大嫌い。友達なんて馬鹿にしてる。」

太郎がちょっとだけ顔をあげてくれた。

「椎名ちゃん。」

名前を呼ばれてびっくりした。
驚いたことに、ビックリされたかも。
申し訳ないくらい、忘れてた。
それがバレたかも・・・・。
すっかり思い出に浸ってしまって、いつでもどこでも変わらない太郎に、ついつい『今』を忘れてた。


「ゴメン。ちょっと頭がトリップしてた。」

「うん。」

何だか無理に笑ってくれたような潤君。

「あ~あ、美味しいデザート食べたいな。潤君お腹いっぱい?」

「さすがに今は。でももう少ししたら付き合うよ。ここずっと空いてるからもう少しいてもいいんじゃない?」

「そうだね。でもうちに来ない?ケーキ買って帰って食べよう。」

「いいのかな」

「いいよ。今日はみんな出かけてるし、夕方までお留守番しよう。」


「うん。」


さっきは駅で会って、そのまま一緒に散歩に出かけた。
だから家には来てない。

お兄ちゃんは夜遅いだろうし、お父さんも。お母さんは夕方には帰ってくる予定の今日。
やっぱり家でゴロゴロするのもいいな。
テラスの席は椅子が硬いから、もっとふかふかの椅子でゴロゴロとしたい。
ああ、潤君がいるとそんなにいつものようにはいかないけど、せめて柔らかいソファで。

太郎はテラスにつないだままケーキを選んで買う。
箱に入れてもらって持ってもらい、私はリードと太郎のお散歩セットを持って、家に帰る。

「今日はすごくたくさん歩いたから、夕方の散歩はいいね、太郎。」

名前を呼ばれると振り向く。
もともと笑い顔だから『了解』って言ってるみたいに見える。

「ねえ、『桃太郎君』も可愛いと思うのに、本当に『太郎君』なんだね。」

「だって本人が覚えないんだもん。『桃太郎。』」

そう呼んだのに振り返らない。

「太郎。」

そう呼んだらまた了解の顔で振り向いた。

「本当だね。気に入らないのかな?そんな訳ないよね。」

「うん、どうしてだか知らない。」


帰りは早かった。
あっという間に家について、太郎の足を洗って、体の毛をブラシで整えて、放してやった。

「潤君、上がって。」

そう言ったのに太郎が先導するように、潤君を案内してくれてリビングに行った。

「おじゃまします。」

リビングに入る時もそう声をかけて。
誰もいないのに・・・・。

さっきのお店で写真を撮ってお兄ちゃんに送った。
太郎も入った二人のデート(・・・・みたいな)写真。
デート(みたいなの)の邪魔になるか、それとも安心してデート(みたいなの)に集中するか、それとも羨ましがられるか。
少しして送られてきた写真で初めて阿里さんを見た。
やっぱり大人だった。可愛い感じだけど大人だった。
そしてあり得ない距離と笑顔・・・・・。

『報告したい!』

そう書いてあったから、多分(みたい)が取れて本当にデート中なんだろう。
よかった。
邪魔をしないと宣言して連絡を終わりにした。

「お兄ちゃんと多分今日出来立ての彼女。」

そう言って写真を見せた。

「あれ?お兄さんだよね、お姉さんの方と言われても不思議じゃないくらい。お兄さんは違うタイプなんだね、男らしい、強そう。」

「まあ、見た目はね。大きいし。」

「・・・・・すごい仲良さそうだね。」

「うん、多分、告白の返事をもらったばかりだと思う。しばらく保留になってたから。」

「そうなの?」

いろいろ話してあげたいけど、また今度。

「しばらくご機嫌だろうなあ。何買ってもらおうかなあ、楽しみ!」

「よく存在は出てたけど、仲いいんだね。」

「うん。大好きだよ。本当に妹にも甘いからね。彼女にも甘いんだろうなあ。」

「本当に嬉しそう。」

そう言われた。
何だか過剰に喜んでるみたいに思われる。

しょうがないので今までのいきさつを全部話して聞かせた。

「なるほど。」

「もう、すごく気を遣ったんだから。もううれしいし、こんなこと内緒にしておけないから、きっとお母さんに喋っちゃうと思う。全部教えちゃおうかなあ。」

「あ、ケーキケーキ。」

お湯を沸かして紅茶をいれた。
ケーキを皿に出して、運ぶ。

「いただきます。」

お礼だと言われてケーキ代は払ってくれた。
味わって食べたい。


「ねえ、元気になった?」

「うん、元気だよ。なんで?」

まさか兄ロスとか思われてないよね?

「さっきカフェで・・・・。」

小さい声で言われた。
聞こえないフリをしてケーキに集中した。

だって潤君の手紙も『友達になって欲しい』だった。
仲良くなりたいと書いてあった。
違う高校だけど知り合いの友達。
だから同級生みたいに名前でも呼び合うし、散歩にも付き合ってくれて。

普通に油断してぼんやりしたり、お兄ちゃんと連絡とって放っといたり。
ああ、遠慮がないとも言うかな?

この間はもっと距離をつめたいようなメッセージに喜んだけど、そうしないと違う高校だと会えないってことなのかも。
その後はまた普通だった。
デートみたいな約束はいくつかした、多分時間を合わせて行くだろう。
でも、よく考えたら決定的な言葉なんて何もないから。

普通過ぎる、普通の二人。

太郎も疲れたらしく目を閉じて前足に顎を乗せて休んでる。

そうなると太郎と遊ぶことはない。

ケーキを食べ終えて、美味しいねと感想を言い合い、また行きたい、じゃあ行こうねと話をして。
片づけをして、部屋に誘った。

別に見られて困るものはない。

割りとシンプルな部屋なのだ。
アニメやアイドルの写真などもない。
太郎の写真はあるけど、あと友達と撮った写真。

二階の部屋に入る時もおじゃましますと繰り返された。

小さいテーブルを出した。

「何か飲み物を持って来た方が良かった?お菓子もあるけど、どう?」

「ううん、さすがにもうお腹一杯、大丈夫だよ。」

「そうだよね。」

テーブルには何もない。
その小さなテーブルをはさんで二人で向かい合う。
テーブルが狭くて、さっきより距離が近いんだろうか?
ちょっとドキドキしてきた気もする。

「ねえ、・・・・椎名ちゃんは、好きな人はいないの?」

「・・・・潤君はいるの?」

「いる・・・・よ。」

「・・・・そう。」

それは誰?
これで本当に違う子の名前を言われたら、またお酒を飲んじゃうかも。
あの頃よりは強くなった。
お父さんと一緒に付き合って、お母さんの買い置きの甘いのを飲んでる。

視線はテーブルの一点を言つめたまま。

「ねえ、・・・・僕は椎名ちゃんが好きだけど。そこは分かってくれてるよね?」

「・・・・知らない。そんな事何も言われてない。だって友達になりたいとしか書いてなかった。」

「だってあの手紙のこともラブレターって言ってくれたじゃない、告白って言ってたじゃない。」




「分かってるくせに、そんな風に言われるとすごく残念だよ。ダメなのかなって。仲良しだけど、ただの友達だよって言われてるみたいで。」

「そんなのはきちんと言われないと分からない。」

「あんなに毎日でも会いたいし、少しの時間でもいいから会いたいって言ったのに?友達にそんな事言う?」

「だから、そんな・・・・・・人もいるかもしれないから。知らないもん、潤君のことはよく知らないから。」 

「あの手紙、もう捨てた?一目で惹かれたって書いたと思うけど。」

「実際に会ってみたら違うなって思うこともあるし、異性の友達でもかっこいいと思ったり、可愛いと思うことはあるし。絶対にそこから恋愛になるわけじゃないよ。」

「ねえ、そんなにややこしくしてまで、僕は今、断られてるの?椎名ちゃんからはハッキリ言い出せないから、僕が諦めるように仕向けてるみたい。傷つけたら可哀想とか、今まで通りただの友達なら大丈夫だよとか。そう言ってるの?」

「だってさっき言ったのに、全然言ってくれないじゃない。そっちこそ、すごく様子を見てるみたいじゃない。全然友達で満足だよみたいな雰囲気出してる。」

「出してないよ。こんな誰もいない家に連れてきて、椎名ちゃんは全く考えてない。」

「だって外だと太郎も疲れるし、あそこの椅子は硬いから、長く座ってる感じじゃなかったもん。」

「太郎の散歩に付き合うって言ったから?だったら太郎を家に連れて帰って、それから二人で外に出てもいいじゃない。」


「何でそこまで責めれるのか全然分からない。」

「嘘だよ、分かってるよね。絶対分かってる。」

「潤君も分かってて、あえて言わないじゃない。まだ、言えないんじゃないの。」

「だって椎名ちゃんがちゃんと答えてくれる気がしない。自信がない。だったら友達でもいいかもって、ゼロになるくらいならこのままでもいいやって、そう思うから。」

「男の子の友達なんていらない。」

「じゃあ、今日までは何だったの?友達でもなかったの?」

そんなはずはない。
友達から始まった。
先週初めて一緒にいて、お互いにそんなペースで会えると思って、もう一歩進んでると思って。じゃあ、何でこうなったんだろう?
すごくうれしくてお兄ちゃんに報告した。
お兄ちゃんより先に進んだと思ってたのに。
私が悪い?


「ごめん。」

謝るべきは私だったかも。


「そう。分かった。・・・・ありがとう。」

そう言って立ち上がって、部屋から出て行った潤君。
なんで?

「待って。」

立ち止まってくれた。階段の手前。

「何?」

ただ、冷たい声でそう聞かれた。

何で?

「何で勝手に帰るの?」

「そんなの散々喧嘩して、いつまでも友達のフリして知り合いの女の子の部屋にいる方がおかしいよ。」

「だから謝ったのに。」

やっぱり怒ってる自分の声。
潤君の腕に手をかけて、半分以上強引に部屋に戻した。

ビックリしたと思う、かなり乱暴だった。
ドアが閉まって、そのドアにぶつかるようにして抱きついた。

「ちゃんと答えるから、ちゃんと言ってよ。」

そう言ったらやっと背中に手を回された。

「椎名ちゃん、こっち向いて、ちゃんと顔を見て言いたい。」

「自分は最初に顔も見せないで、いなくなったくせに・・・・・・あ、ごめんなさい。」

すぐに謝って、顔をあげた。

「あの時よりずっと好きになりました。僕の彼女になってください。」

「何でさっき帰ろうとしたの?」

「椎名ちゃん、ちゃんと答えるって言ったじゃない。」

ガッカリしたような声と悲しい目になった。

「あ・・・・、ごめん。潤くんの彼女にして。大好き、優しいし、一緒にいて落ち着くの。」

「僕はずっとドキドキしてるのに。」

「今はドキドキしてる。」


しばらくして、多分私から。

だってこんなに引っ付いてるし、離れるタイミングも分からない。
だから、なんとなくの流れで、そうなった。

「ただいま~、椎名、いるの?」

お母さんが帰って来た。

『ワン。』

顎の下をつつかなくても太郎が返事してくれた。
でも私だとは誰も思わないよ、太郎。
ちょっと残念。
太郎の気遣いも、今の・・・・・・このタイミングも。

急いで潤君から離れて、「いるよ~、友達が来てるの。」そう言いながら階段を降りた。

「ああ、そうだったわね。一緒に散歩してたんでしょう?」

「うん、太郎も入れるいい感じのカフェを見つけてたから、そこでご飯食べて、さっきまでここでケーキ食べてたの。」

「今、太郎の写真をパソコンで見せてたの。まだお腹空かないから夕飯は遅くてもいいけど。あとで手伝うから、もう少し上で続きを見てていい?」

「いいわよ。」

お母さんが冷蔵庫に物をしまいながら、ちらりとこっちを見ただけで会話した。
私もちょっとだけ荷物を所定の場所に仕舞い込みながらだった。

「じゃあ、あと少しだから。」

靴を見たら男の子だと分かったかも。
そこは友達としか言ってなかった。
お兄ちゃんがバラしてなければ、女の子と思ってるかも?


部屋に戻った。
ぺたりと座り込んでぼんやりしてた潤君。

「ごめんね。お待たせ。」

「ううん。」

「帰った方がいいよね。すっかり夕方になっちゃった。」

「うん、夜に連絡するね。」

立ち上がった潤君に抱きついた。
一度だけギュッと力を入れて、抱きしめられた。
潤君の腕の力は緩んだけど、私が離れないからそのままで。

顔をあげて、もう一度軽くキスをして、手をつないで階段を降りた。
途中手を離した。
やっぱり握ってたのは私だったと分かった。

「じゃあ、駅まで送ってくるね。」

「気を付けて。」

「は~い。」

「お邪魔しました。」

入る時は結構な小声だったのに、今のは奥まで届くくらいの声で潤君が言った。

ああ、完全に男の子だとバレただろう・・・・・。
お兄ちゃんもお父さんも遅いから、お兄ちゃんの話をしようと思ってたのに、無理かも・・・・・。

隠さない方がいいかな。

どうせすぐバレるだろうから。
仲良くなった男の子。少しだけ特別な男の子。

駅まで二人で歩いた。

「良かったら、嫌じゃなかったら今度お母さんにも会ってね。もしいたらお兄ちゃんにも。」

「うん。」

「でも友達って言うからね。」

「うん。」

「でもこっそり好きだと言うから。多分バレるし。」

「うん。」

「変かな?」

「分からない。」


駅に着いて手を振って別れた。
どうせまた夜に電話すればいい。
へへっ・・・・、ちょっとだけ思い出してにやけてしまう。

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