やられたらやり返す…主義でしたが、笑顔でお礼を言えそうです。

羽月☆

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17 初めてスタート地点に向かった気分の征四郎。

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結局自分の方が腕が長いからとか何とか、誤魔化すように言って自分のカメラで数枚写真を撮った。
暗いお店の前で顔を寄せ合って写真を見る二人。
真剣に選んだ一枚を送って欲しいと言われて送った。

「弟に見せていいですか?」

「どうぞ。」

もちろんそのために撮ったつもりだろうから。
自分の手元にもしっかり記念の写真が残る。
すっかりそっちの方は興味を無くしてるようで、さっさと大切に保存した自分。

駅で別れて、部屋に入って見直した、明るい蛍光灯の下で。

肩を組んだり、頬を寄せたり、肩に顎を乗せたり、まったくそんな接触はないけど、さすがに近寄って撮った。
前後してるけどパッと見ると、近い。

そこに写った彼女の笑顔がうれしい。
自分もこの短時間でここまでこれたかというような達成感を味わうことが出来る。
満足して携帯を閉じた。

そして明日もある。

天気もいい、気分もいい、待ち合わせの時間に遅れないように行く、もちろんだ。
人の痛みが分かる大人を目指してる。
『人にされて嫌なことを人にすることなかれ。』
そんな標語も守れる。
標語だったか英語の時間に覚えた言葉だったか、どっちでもいいが、守る。

待ち合わせ場所に彼女を見つけた。

「恩田さん、こんにちは。昨日はごちそうさまでした。」

最初から昨日の続きの様な笑顔で言われた。

「醍醐さん、お待たせ。」

さっき駅に着いたとき見た時間を考えても早いくらいだと思う。
ちょっとだけトイレの鏡の前で立ち止まって全身をチェックしたのたが、ほんの一分くらいだ。
遅刻はしてない。

思ったより彼女も早く着いたのだろう。
新しく出来たスポットのほとぼりが冷めただろうとここに来た。
それでもそれなりの人が見える。
オープン当日はテレビ中継をされていた、それに比べたら人が引くのも早いらしい。

「恩田さんがこんな場所を選ぶのも少し意外でした。人がたくさんいるところは苦手そうですが。」

「ここは新しいから、他の人の思い出に重ならないんじゃないかと思って。もしかして、もう誰かと来てた?」

「初めてです。確かにかぶりません。」

「それが狙いだから、良かった。」

自分との思い出だと残るだろう。
次に他の誰かと来るまでは。
もっと楽しい時間を過ごす思い出に上書きされるまでは。

ゆっくり下のお店から見て回る。
人が多い所と少ない所、はっきり分かれてる。
ホッとするようなどこでもあるコーヒー屋があったり、コンビニがあったり。
でもさすがに一つ上にのぼると全く知らないお店が並んでる。
それらをゆっくり回る。

お昼までには時間がある。
何か買いたいものがあったら見てもいい、食べたいものがあったら並んでもいい。

距離を詰め過ぎないように後ろからついて行く。
あんまり距離をとり過ぎたさっき、思いっきり全身を見てしまった。
いつものパンツスーツじゃない、シンプルだけど、細身のスカートに薄い色ながら大きめの植物のプリントがあるブラウスを合わせている。
さすがにそんな恰好をされると気がつくだろう。
やはりスタイルがいい。
顔が小さくて、首も長めで身長が高い分手足も長い。
それにやっぱり思った以上に色気もあった。
むしろ誰にも内緒にしたいくらいだ。

余りに見つめてしまいそうで急いで距離を詰めた。

褒めたいけど、変じゃないだろうか?
本当に褒めたい、愛想がないなんて言葉も半分くらいはどこかへ行った今は、後ろ姿ですら魅力的でしかない。

「恩田さん、弟がありがとうございましたと、安心しましたと言ってました。そう、伝えて欲しいと。」

「昨日さっそく写真見せたんだ。」

「はい。」

「もしかして、今日会ってることも知ってるの?」

「聞かれて、そう答えました。」

「何か言ってた?」

「楽しんできてと。」

「そうなんだ。」

本当に仲がいい。とりあえずは合格らしいし。
今まで女の子っぽさを前面に出して、分かりやすい女子と並んでても、自分から触れようなんて思わなかったのに。
その小さい頭にすら色気を感じる。
耳元もうなじも顎先も、その線には迷いがないくらい綺麗なラインだ。
本当に触れたいと思う。
少しだけヒールのある靴を履いていて、少し低いだけの身長。
肩に手をやって一緒にショーウィンドウをのぞくのにちょうどいいくらいなのに。
許されない状態のまま。

せっかく弟は許してくれたのに?

ふらりとお店の中に入って商品を手に取ることもある。
鏡を見て数秒、意見を求められることもなく、そのまま返す。
そしてふらりとお店を出る。

今までなら商品を体に当てて振りかえられるのは、恐怖か退屈でしかなかったのに、物足りなさを感じる今。
少し歩いてから声をかけてみた。

「さっきのバッグ、すごく似合ってたけど。」

「綺麗な色に惹かれましたが、あの大きさは実用的じゃないですよね。」

「買い物は直感タイプ?」

「どうでしょうか?割と同じ店で買うことが多いです。時々衝動的に色やデザインや形が気に入って買うことがあるんですが、結局なかなか活躍する機会がない気がします。」

「恩田さんも、何か見たいものがあったら教えてください。でも、さっきから女性用の物だけですよね。」

「まあ、そんな感じだね。僕も冒険はしないタイプだから。」

「そうですね、なんとなくイメージ通りの感じです。」

そう言って全身をちらりと見られた。
今だろう!

「醍醐さんは、すごく似合ってる。会社でのイメージよりはすごく女っぽくて、大人っぽいね。」

「まさかデートにもパンツスタイルで来ると思ってましたか?」

デート、そう思ってくれてたんだとしたらうれしいけど。
特にその単語に意味はないかのようにさらりと言う。

「半分はそうかな。パンツでも本当にかっこいいよ。前に一度見かけたのもすごくいいと思ったけど。」

「さすがに弟と一緒の時とは違いますよ。少しはおしゃれします。」

そう言う。

「あ、でも友達と会うのもこんな感じです。違いを出せるほど服を持ってません。」

「そう、きれいだと思う、すごく魅力的だと思う。」

笑いながら、照れながら、そういう彼女がすごく可愛く見える。
今日は本当に随分と分かりやすい。
満面のカラッとした笑顔ではなくても、リラックスして表情が豊かだと言えるくらいにはわかる。
おい、直也知ってるか?
近くにいて気がつかないなんて。
お前も見る目がないな。だからすぐにキャストが入れ替わるんだぞ。
今、自分に向いてるその笑顔を永久保存したいくらいだ。
自分でも驚くほど素直に褒め言葉が出てる。
さすがにこんなところで、そんな会話もないだろう。
ポップなインテリアのお店の前で、はた目には見つめ合って立ち止まったままの二人だった。

「ありがとうございます。なかなか言われないので照れます。」

冗談のように言って視線を外された。
もう今更だけど。

せっかくだからと少し彼女が買い物をして、食事をして。

向き合うとまた違う角度から彼女の笑顔を見ることになる。


「ねえ、千歳さん、弟君と一緒の写真はないの?」

名前を呼んでみた。
醍醐さんってすごく仰々しいしって感じで、こっちの方がらしくていいよって感じで。

ちょっとびっくりはしたみたいだけど、すぐに俯いて顔は見えなくなった。
そのままバッグから携帯を出して写真を見てるみたいで。

かなり何枚も画面を睨みつけるように吟味したらしい一枚。
そんなに弟の写真があるんだろうか?
それはそれで安心なようで、不安なようで。

「これなら、見せれます。他は見ないでくださいね。」

弟君のワンショットだった。
上半身の可愛い男の子だけど・・・・多分試着室。
視線をわざと外してるらしい。

「似合うと思うんです、小さい花柄のシャツですが、どうですか?」

「うん、似合うと思うよ。」

今そんな意見を求められるところなんだろうか?

「ですよね。良かった。強引に買って押し付けたんです。」

確かにあの時見た男の子だった。やっぱりこの子だった。
自慢の弟君、確かに可愛い、姉の『彼女』に間違われる弟君。

「タイプが違うんだね。」

「弟は母親に似てます。私は父親に似てます。」

「そうなんだ。」

「恩田さんは?お姉さんと似てますか?」

「似てないと思う。言われたことはないなあ。」

間違っても携帯の中に写真はない。
ダメと言われたのを忘れて、つい携帯の画面をタップしたら違う写真が出て来た。
笑顔で弟と写ってる一枚。
この間見た最高の笑顔の写真だった。
やっぱり、敵わない。

知らないふりで画面を消して携帯を戻した。
弟がライバル、みたいな気分だ。
あんな笑顔いつ見れるんだろうか?
さっきまで自慢したいなんて思ってたのに、まだ全然だなあ。


「会社では全然偶然もないね。休憩室で一緒になる事なんて今までなかったしね。」

「そうですね。」

「この間は、偶然は装わないって言ったけど、少しぐらいは装っていいかな?」

意味は分かっただろう。


「はい。」

「良かった。楽しみが増える。」



「さっき名前も呼んでみたんだけど、良かった?」

結局自分から言った。ダメだとは言わないだろうと、さすがにそう思って、でも許可をもらいたい。馴れ馴れしくはしないと言ったから。

「・・・・はい。」



「あの・・・・・。」

嫌だとは言えない流れだとは思った。
眉間の表情も今日はずっと緩んでる。

いま、彼女が何を言うのかは分からない。

ただ待つ。



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