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19 たぶん・・・ちょっとした喧嘩です
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部屋で待ってると言われた。
先輩のところに行こうと思ってたのに。
「悪かったな、助かったよ。飯奢るから。」
石作さんにそう言われて誘われた。
そのままついて行くことにして。
ちょっとしたお店だと思ったらホテルの中の高い鉄板焼きのお店に連れていかれた。
この時間からガッツリ食べれるタイプらしい。私も同じくいただきます。
40歳ちょっと。働き盛り。きれいな奥さんとかわいい子供の話は有名だ。
そんなところも女子受けして、人気は高い。
私も最初から憧れていた。
あんな人と結婚出来たらいいなあって。
遠い目標の様に憧れていた。
ただ憧れだけじゃなく、子供までいても割り込もうとする猛者もいるらしい。
二度ほどそんな破壊願望のある人がいたらしい。
とっくに退社してるらしいけど。
肉食女子以上に手ごわい人種。
同じ課でもあんまり話はしたことはなかった。
それでもとてもスマートで別に会話に困ることもなく楽しかったし、美味しかった。
ただ、お酒はやめておいた。
「週末は家族サービスですか?」
「そうなんだよ。子供のサッカークラブとか習い事の送り迎えとか、奥さんの買い物のお供とか。いろいろ。ゴルフに行ったりジムに行ったり、そんな時間はないよなあ。」
「うれしそうな顔ですが。」
「まあな。あと数年だし。」
「そうしたら奥さんと二人でお出かけですね。」
「嫌がられなければね。」
そう言いながらも幸せそうで。
「悪かったな、松田が待ってるんじゃないのか?」
手が止まる。
バレてる・・・・。
顔をあげられません。
「まあ、いい奴だからな。本当に。分かりやすい。」
「あの・・・・私がですか?それとも先輩が?」
「あ?何が?」
「あの・・・分かりやすいのはどっちでしょうか?」
「気になるのはそれか?もちろん両方、でも特に松田。」
「仕事中もよく見てたよ、ずっと前から。」
ずっと前から・・・・・?
「なんとなくそうかなって思ってた。ちょうど俺の席から見やすいんだよ。2人の席が。」
確かに正面です。それでも恥ずかしい。
「仕事は普通にやってるつもりです。」
「それは心配してない。まあ、その辺は会社も寛大だし。俺も社内恋愛の果ての結婚だし。」
「本当ですか?知りませんでした。」
「昔の話だから。」
今羨望のまなざしかもしれません。
「仲良くすればいいさ。」
「あ、ありがとうございます。」
「じゃあ、帰るか。きっと鼻の下伸ばして待ってるだろうから。」
首じゃなくて?
本当にいいお肉をごちそうになってお腹が喜んでしまった。
ああ、お酒も美味しかっただろうなあ。
タクシー代を渡された。
まだまだ電車が動いてるしお酒も飲んでないと断ったのに。
携帯を見る。先輩から連絡が入っていた。
食事に行くというのはタイミングが取れず言ってなかった。
待ちくたびれてしまったらしい。
『じゃあ、もう寝るね。お休み。』
そう言われたら自分の部屋に帰るしかなくて。
ちゃんと電車で帰った。
タクシー代は来週返そう。
寂しい週末の始まりになった。
いつも予定はその日か前の日に一緒に考えてるから、土日の予定も立ててない。
『ごめんなさい。遅くなりました。おやすみなさい。』
そう書いたけど寝てると思って送らなかった。
そのまま部屋でダラダラと時間をやり過ごして寝た。
土曜日、雨が降っていた。洗濯をしても浴室にしか干せなくて。
携帯には何の連絡もなくて。
起きたかな?雨の中走ってないよね?
1人で朝ごはんを食べて掃除をして。
時間が余った。
携帯を何度か手にしたけど静かな携帯には何も打ち込めず。
怒ってる?
遅くなったし、何度か連絡もらっても返さなかったから。
だって先輩と食事してたし。
そう言えばいいのに言えずにいて。
先輩がいないとつまらない、静か。寒い。
雨の中、自分のために出かける気にもならず、本当にじっとしてテレビだけが付いた部屋で一人過ごした。
どうしても寂しくて、夕方、連絡を取った。
『先輩、昨日は遅くなってしまって、ごめんなさい。今日は雨でしたね。明日は晴れるでしょうか?』
『雨みたいだよ。』
そう返信が来た。
部屋においでとも言われず、言えず。会いたいとすら伝えられずに。何で?
こんな短い返信をどういうトーンで読めばいいのか分からない。
先輩の写真を表示させて見る。
スライドしていくと本当にふざけた写真が多い。
でもどれも私は笑顔で楽しそうで。
夜になっても同じように部屋にいた。
1人で2日も過ごすのは久しぶり。
そんな新鮮さなんていらないけど。
翌日、日曜日は晴れていた。朝は曇りだったけど雨は夜中にはやんだみたい。
洗濯ものを外に干して着替えて化粧をして出かけることにした。
部屋にいてもつまらないから。
それでも先輩と自分の中間の駅にいた。携帯はポケットに入れてすぐに連絡が来たら気が付くように。
でも何度取り出してみても何もなく。
食欲もなくパンを買って帰った。
お風呂に入ってくつろいでも寂しいばかりで。
携帯を持って寝た。
食事もしてない。朝食べただけ。
でも金曜日の美味しいお肉が栄養たっぷりだったし。
何も考えないで寝た。
どうして連絡が来ないんだろう・・・・・。
先輩。
月曜日、石作さんにタクシー代を返した。
電車で帰ったからと言うと受け取ってもらえた。
食事のお礼を言った。
ちょっと変な顔をされた。
昨日は寝すぎるくらい寝たのに化粧のノリが悪い。
いつも朝におはようのやり取りをするのにそれもなかった。
怒ってるみたい。決定的に。
無視したわけじゃないのに。そんなことしないのに。
自分の席に着いたら百合先輩がやってきて。
光る指輪を見せてもらえた。
自分の目が大きくなった。笑顔にもなれた・・・つもり。だってうれしいよね。
「ランチの時に。」
「うん。残業ごめんね。」
「大丈夫です。美味しいご飯ごちそうになって良かったです。気にしないでください。」
そう言った。
いつもなら絶対気が付きそうだけど、特に百合先輩が気にしてる気配もなく。
すごく幸せな報告をするだろうから喧嘩の事は教えない。
大丈夫、すぐ仲直りする・・・と思う。
なかなか隣の席に先輩が来ることはなく。
いつもよりずいぶん遅い時間に滑り込んできた。
「おはようございます、先輩。」
「ああ、おはよう。」
そう返されたけど視線が合わなかった。
今までそんなこと一度もなかったのに。
そんなに怒る事だった?
ちょっと大人げない先輩に怒りがわいた。
いい、知らないから。
いつもなら夕方の予定を聞いたりするのにそれもなく。
口も利かず、視線すら合わず。
仕事をしてランチの時間を待った。
約束通り百合先輩と外に行った。
「じゃん、プロポーズされたの。」
「本当ですか。おめでとうございます。即OKですよね。」
「まあね、コレもらったし。」
光る指輪を見せてくれる。
「いいなあ、いいなあ。」
本当にうらやましい。いつもなら単純にそう思うのに、今日は胸が痛い。
「先輩、良かったです。」思わず涙ぐむ。
「そんな、仕事辞めないし。大丈夫だよ。」
涙を勘違いされたらしい。
でもうれしいのは本当。
「コアラさんの写真ないんですか?」
ずっと言ってるのに見せてくれない。
「本当にコアラだよ、笑わないでね。」
それはコアラに失礼です。
ちょっと間抜けな顔ですが・・・本当に似てるの?パーツじゃなくて全体?
やっと見せてもらえた写真。本当に似てた。
「分かりました。似てます。癒し系ですね。のんびりできそう。」
「まあ、コレ渡すのにも時間かかったから。のんびりだね。」
「今から色々決めるんですよね。」
「うん、そう。両方の実家に挨拶にもいかなきゃいけないしね。」
「仕事辞めないんですよね。百合先輩がいなくなったら寂しいです。」
「いいんじゃないの、隣にアレがいれば。」
「・・・・違うじゃないですか、もう。」
ちょっと無理して普通に返せた。
やっぱり先輩は気が付いてない。幸せな証拠。
下を向いて息をつく。
午後も集中して仕事をした。
途中先輩がふらりとどこかに行った。
ゆっくり時間をずらして続こうかと思ったけど・・・・やめた。
まだ連絡もなく。私もしてない。
結局そのまま1日が終わった。残業はない。
それでも帰ろうと誘われるかと思って、ゆっくりしていた。
でも先輩は1人で帰って行った。
挨拶もなかった・・・・。
隣の席の椅子がしまわれて、先輩が歩き去ったよそよそしい音を聞きながら、心が痛くなった。何で?
トイレに行って個室にこもった。
泣かない、泣かない。ちょっとした喧嘩だから。
10分くらいそこにいたかもしれない。
出ようかと思った時にどやどやと人が入ってきて先輩の名前が話に出たのでそのままま動きを止めた。
「何?偶然?」
「うん、そう。昨日一緒にご飯に行ってもらった。」
「そうなの?良かったね。でも溺愛後輩は?」
「聞けないよ。そんな事。」
「そこ大切、ご飯は奢り?」
「そう、お酒飲んでご飯食べて、奢ってもらった。夜に電話して、お礼を言ってまた誘ってもらいたいと言ったら、またねって。」
「え~、どうしたのかな?別れたのかな?」
「そうだと嬉しいけど。楽しかったからまた行きたいなあ。」
「頑張って。奪い取ってもいいよ~。」
「まだ分かんないよ。」
そう言いながら嬉しそうな響きを残して静かになったトイレ。
先輩・・・・誰かとデートしてたの?
偶然だと言っても、また誘われるの?それとも誘うの?
なんで、こっちがちゃんと終わってないのにそんなことするの?
だから友達だよ。同期の人かも。私の事後輩だって言ってたし。
誰なんだろう?
聞きたくなかった事実。
でも本当の事みたい。名前も言ってたし、聞き違いでもない。
他に同じ名前の人いる?
溺愛後輩って聞き覚えのある呼ばれ方だし。
・・・・・考えたくない。
このまま連絡が途絶える?
泣かない、泣かない。
ゆっくり外に出て帰る。
どっちに行こうか迷ったけど、やっぱり自分の部屋に帰った。
先輩、ジムに行ってる?
それとも誰かと食事?私の知らない誰かと一緒?
残業して、一緒にお礼にごちそうになって遅くなっただけ。それだけなのに。
全然分からない。
携帯はやっぱり静かなまま。
ぼんやり歩いた商店街の和菓子屋さんでみたらし団子を見た。
一本だけ残ったみたらし。
美味しそう、でもゴマもしょうゆ海苔もなくて、ポツンと一本だけ。
横目で見ながらそのまま立ち去った。
相変わらず食欲もない。
お昼は何とか食べたからいいか。
『先輩何か怒ってますか?』その一言が聞けない。
さっきのトイレの話を聞いたらもっと聞けなくなった。
お風呂に入ってまた寝た。
つまんない。寂しい。
夜デートもお泊りもない日には、寝る前に必ず電話をしてたのに。
そんな電話もなく。よく眠った。
お腹が空いて目が覚めた。いつもより一時間も早い朝。
布団の中でぼんやりとしながら起きるでもなく、眠るでもなく。
目覚ましのアラームが鳴りいつものように起きだす。
やっぱりお腹が空いてても食欲はなく、牛乳を温めてハチミツを垂らして飲んだ。
温かい。胃の中から暖まる。
化粧は相変わらずで、ため息をついて会社に向かう。
さすがに百合先輩が気が付いたみたい。
先輩にしては遅いです。どんだけ幸せボケですか?
ただ喧嘩してると話をした。
ランチはパスして一人で外に出た。
相変わらず食べたくなくて。
先輩は今日もギリギリに滑り込み出社で、文字でも言葉でも朝の挨拶もなく、ランチタイムもさっさと席を立った。
・・・・どうやら楽しい約束があったらしい。
私の座る窓際の席から見えた。笑いながら二人がランチから戻ってきた。
優しそうな顔。
妖しい笑顔じゃない、それは私だけって言われたけど。
でも人前じゃしないよね。2人きりになったらその人の前でもするの?
あの人がトイレの人だか私にはわからない。
でも見る限りとても仲がよさそう。
変な噂が広まりそうで。
喧嘩には尾ひれが、破局には号外が・・・・。
そう百合先輩が言っていた。
どうでもいいか・・・・・・。
なんだかどうでも良くなってきた。
携帯も電源を落とした。
そしてランチ終わりの時間ギリギリに今度は私が席に着いた。
百合先輩の視線を感じたけど、気が付かないふり。
頑張って仕事に集中。
途中席を立った先輩。
先輩がいないと私はホッと力を抜く。
今の内に首を回して倒して肩を回して。
また仕事に集中する。
週末はまだまだ遠いけど、また私は連絡を待ちそう。
だけど、来なくてもいい、もう来ない、だから待たない。
そう自分に言い聞かせた。
先輩のところに行こうと思ってたのに。
「悪かったな、助かったよ。飯奢るから。」
石作さんにそう言われて誘われた。
そのままついて行くことにして。
ちょっとしたお店だと思ったらホテルの中の高い鉄板焼きのお店に連れていかれた。
この時間からガッツリ食べれるタイプらしい。私も同じくいただきます。
40歳ちょっと。働き盛り。きれいな奥さんとかわいい子供の話は有名だ。
そんなところも女子受けして、人気は高い。
私も最初から憧れていた。
あんな人と結婚出来たらいいなあって。
遠い目標の様に憧れていた。
ただ憧れだけじゃなく、子供までいても割り込もうとする猛者もいるらしい。
二度ほどそんな破壊願望のある人がいたらしい。
とっくに退社してるらしいけど。
肉食女子以上に手ごわい人種。
同じ課でもあんまり話はしたことはなかった。
それでもとてもスマートで別に会話に困ることもなく楽しかったし、美味しかった。
ただ、お酒はやめておいた。
「週末は家族サービスですか?」
「そうなんだよ。子供のサッカークラブとか習い事の送り迎えとか、奥さんの買い物のお供とか。いろいろ。ゴルフに行ったりジムに行ったり、そんな時間はないよなあ。」
「うれしそうな顔ですが。」
「まあな。あと数年だし。」
「そうしたら奥さんと二人でお出かけですね。」
「嫌がられなければね。」
そう言いながらも幸せそうで。
「悪かったな、松田が待ってるんじゃないのか?」
手が止まる。
バレてる・・・・。
顔をあげられません。
「まあ、いい奴だからな。本当に。分かりやすい。」
「あの・・・・私がですか?それとも先輩が?」
「あ?何が?」
「あの・・・分かりやすいのはどっちでしょうか?」
「気になるのはそれか?もちろん両方、でも特に松田。」
「仕事中もよく見てたよ、ずっと前から。」
ずっと前から・・・・・?
「なんとなくそうかなって思ってた。ちょうど俺の席から見やすいんだよ。2人の席が。」
確かに正面です。それでも恥ずかしい。
「仕事は普通にやってるつもりです。」
「それは心配してない。まあ、その辺は会社も寛大だし。俺も社内恋愛の果ての結婚だし。」
「本当ですか?知りませんでした。」
「昔の話だから。」
今羨望のまなざしかもしれません。
「仲良くすればいいさ。」
「あ、ありがとうございます。」
「じゃあ、帰るか。きっと鼻の下伸ばして待ってるだろうから。」
首じゃなくて?
本当にいいお肉をごちそうになってお腹が喜んでしまった。
ああ、お酒も美味しかっただろうなあ。
タクシー代を渡された。
まだまだ電車が動いてるしお酒も飲んでないと断ったのに。
携帯を見る。先輩から連絡が入っていた。
食事に行くというのはタイミングが取れず言ってなかった。
待ちくたびれてしまったらしい。
『じゃあ、もう寝るね。お休み。』
そう言われたら自分の部屋に帰るしかなくて。
ちゃんと電車で帰った。
タクシー代は来週返そう。
寂しい週末の始まりになった。
いつも予定はその日か前の日に一緒に考えてるから、土日の予定も立ててない。
『ごめんなさい。遅くなりました。おやすみなさい。』
そう書いたけど寝てると思って送らなかった。
そのまま部屋でダラダラと時間をやり過ごして寝た。
土曜日、雨が降っていた。洗濯をしても浴室にしか干せなくて。
携帯には何の連絡もなくて。
起きたかな?雨の中走ってないよね?
1人で朝ごはんを食べて掃除をして。
時間が余った。
携帯を何度か手にしたけど静かな携帯には何も打ち込めず。
怒ってる?
遅くなったし、何度か連絡もらっても返さなかったから。
だって先輩と食事してたし。
そう言えばいいのに言えずにいて。
先輩がいないとつまらない、静か。寒い。
雨の中、自分のために出かける気にもならず、本当にじっとしてテレビだけが付いた部屋で一人過ごした。
どうしても寂しくて、夕方、連絡を取った。
『先輩、昨日は遅くなってしまって、ごめんなさい。今日は雨でしたね。明日は晴れるでしょうか?』
『雨みたいだよ。』
そう返信が来た。
部屋においでとも言われず、言えず。会いたいとすら伝えられずに。何で?
こんな短い返信をどういうトーンで読めばいいのか分からない。
先輩の写真を表示させて見る。
スライドしていくと本当にふざけた写真が多い。
でもどれも私は笑顔で楽しそうで。
夜になっても同じように部屋にいた。
1人で2日も過ごすのは久しぶり。
そんな新鮮さなんていらないけど。
翌日、日曜日は晴れていた。朝は曇りだったけど雨は夜中にはやんだみたい。
洗濯ものを外に干して着替えて化粧をして出かけることにした。
部屋にいてもつまらないから。
それでも先輩と自分の中間の駅にいた。携帯はポケットに入れてすぐに連絡が来たら気が付くように。
でも何度取り出してみても何もなく。
食欲もなくパンを買って帰った。
お風呂に入ってくつろいでも寂しいばかりで。
携帯を持って寝た。
食事もしてない。朝食べただけ。
でも金曜日の美味しいお肉が栄養たっぷりだったし。
何も考えないで寝た。
どうして連絡が来ないんだろう・・・・・。
先輩。
月曜日、石作さんにタクシー代を返した。
電車で帰ったからと言うと受け取ってもらえた。
食事のお礼を言った。
ちょっと変な顔をされた。
昨日は寝すぎるくらい寝たのに化粧のノリが悪い。
いつも朝におはようのやり取りをするのにそれもなかった。
怒ってるみたい。決定的に。
無視したわけじゃないのに。そんなことしないのに。
自分の席に着いたら百合先輩がやってきて。
光る指輪を見せてもらえた。
自分の目が大きくなった。笑顔にもなれた・・・つもり。だってうれしいよね。
「ランチの時に。」
「うん。残業ごめんね。」
「大丈夫です。美味しいご飯ごちそうになって良かったです。気にしないでください。」
そう言った。
いつもなら絶対気が付きそうだけど、特に百合先輩が気にしてる気配もなく。
すごく幸せな報告をするだろうから喧嘩の事は教えない。
大丈夫、すぐ仲直りする・・・と思う。
なかなか隣の席に先輩が来ることはなく。
いつもよりずいぶん遅い時間に滑り込んできた。
「おはようございます、先輩。」
「ああ、おはよう。」
そう返されたけど視線が合わなかった。
今までそんなこと一度もなかったのに。
そんなに怒る事だった?
ちょっと大人げない先輩に怒りがわいた。
いい、知らないから。
いつもなら夕方の予定を聞いたりするのにそれもなく。
口も利かず、視線すら合わず。
仕事をしてランチの時間を待った。
約束通り百合先輩と外に行った。
「じゃん、プロポーズされたの。」
「本当ですか。おめでとうございます。即OKですよね。」
「まあね、コレもらったし。」
光る指輪を見せてくれる。
「いいなあ、いいなあ。」
本当にうらやましい。いつもなら単純にそう思うのに、今日は胸が痛い。
「先輩、良かったです。」思わず涙ぐむ。
「そんな、仕事辞めないし。大丈夫だよ。」
涙を勘違いされたらしい。
でもうれしいのは本当。
「コアラさんの写真ないんですか?」
ずっと言ってるのに見せてくれない。
「本当にコアラだよ、笑わないでね。」
それはコアラに失礼です。
ちょっと間抜けな顔ですが・・・本当に似てるの?パーツじゃなくて全体?
やっと見せてもらえた写真。本当に似てた。
「分かりました。似てます。癒し系ですね。のんびりできそう。」
「まあ、コレ渡すのにも時間かかったから。のんびりだね。」
「今から色々決めるんですよね。」
「うん、そう。両方の実家に挨拶にもいかなきゃいけないしね。」
「仕事辞めないんですよね。百合先輩がいなくなったら寂しいです。」
「いいんじゃないの、隣にアレがいれば。」
「・・・・違うじゃないですか、もう。」
ちょっと無理して普通に返せた。
やっぱり先輩は気が付いてない。幸せな証拠。
下を向いて息をつく。
午後も集中して仕事をした。
途中先輩がふらりとどこかに行った。
ゆっくり時間をずらして続こうかと思ったけど・・・・やめた。
まだ連絡もなく。私もしてない。
結局そのまま1日が終わった。残業はない。
それでも帰ろうと誘われるかと思って、ゆっくりしていた。
でも先輩は1人で帰って行った。
挨拶もなかった・・・・。
隣の席の椅子がしまわれて、先輩が歩き去ったよそよそしい音を聞きながら、心が痛くなった。何で?
トイレに行って個室にこもった。
泣かない、泣かない。ちょっとした喧嘩だから。
10分くらいそこにいたかもしれない。
出ようかと思った時にどやどやと人が入ってきて先輩の名前が話に出たのでそのままま動きを止めた。
「何?偶然?」
「うん、そう。昨日一緒にご飯に行ってもらった。」
「そうなの?良かったね。でも溺愛後輩は?」
「聞けないよ。そんな事。」
「そこ大切、ご飯は奢り?」
「そう、お酒飲んでご飯食べて、奢ってもらった。夜に電話して、お礼を言ってまた誘ってもらいたいと言ったら、またねって。」
「え~、どうしたのかな?別れたのかな?」
「そうだと嬉しいけど。楽しかったからまた行きたいなあ。」
「頑張って。奪い取ってもいいよ~。」
「まだ分かんないよ。」
そう言いながら嬉しそうな響きを残して静かになったトイレ。
先輩・・・・誰かとデートしてたの?
偶然だと言っても、また誘われるの?それとも誘うの?
なんで、こっちがちゃんと終わってないのにそんなことするの?
だから友達だよ。同期の人かも。私の事後輩だって言ってたし。
誰なんだろう?
聞きたくなかった事実。
でも本当の事みたい。名前も言ってたし、聞き違いでもない。
他に同じ名前の人いる?
溺愛後輩って聞き覚えのある呼ばれ方だし。
・・・・・考えたくない。
このまま連絡が途絶える?
泣かない、泣かない。
ゆっくり外に出て帰る。
どっちに行こうか迷ったけど、やっぱり自分の部屋に帰った。
先輩、ジムに行ってる?
それとも誰かと食事?私の知らない誰かと一緒?
残業して、一緒にお礼にごちそうになって遅くなっただけ。それだけなのに。
全然分からない。
携帯はやっぱり静かなまま。
ぼんやり歩いた商店街の和菓子屋さんでみたらし団子を見た。
一本だけ残ったみたらし。
美味しそう、でもゴマもしょうゆ海苔もなくて、ポツンと一本だけ。
横目で見ながらそのまま立ち去った。
相変わらず食欲もない。
お昼は何とか食べたからいいか。
『先輩何か怒ってますか?』その一言が聞けない。
さっきのトイレの話を聞いたらもっと聞けなくなった。
お風呂に入ってまた寝た。
つまんない。寂しい。
夜デートもお泊りもない日には、寝る前に必ず電話をしてたのに。
そんな電話もなく。よく眠った。
お腹が空いて目が覚めた。いつもより一時間も早い朝。
布団の中でぼんやりとしながら起きるでもなく、眠るでもなく。
目覚ましのアラームが鳴りいつものように起きだす。
やっぱりお腹が空いてても食欲はなく、牛乳を温めてハチミツを垂らして飲んだ。
温かい。胃の中から暖まる。
化粧は相変わらずで、ため息をついて会社に向かう。
さすがに百合先輩が気が付いたみたい。
先輩にしては遅いです。どんだけ幸せボケですか?
ただ喧嘩してると話をした。
ランチはパスして一人で外に出た。
相変わらず食べたくなくて。
先輩は今日もギリギリに滑り込み出社で、文字でも言葉でも朝の挨拶もなく、ランチタイムもさっさと席を立った。
・・・・どうやら楽しい約束があったらしい。
私の座る窓際の席から見えた。笑いながら二人がランチから戻ってきた。
優しそうな顔。
妖しい笑顔じゃない、それは私だけって言われたけど。
でも人前じゃしないよね。2人きりになったらその人の前でもするの?
あの人がトイレの人だか私にはわからない。
でも見る限りとても仲がよさそう。
変な噂が広まりそうで。
喧嘩には尾ひれが、破局には号外が・・・・。
そう百合先輩が言っていた。
どうでもいいか・・・・・・。
なんだかどうでも良くなってきた。
携帯も電源を落とした。
そしてランチ終わりの時間ギリギリに今度は私が席に着いた。
百合先輩の視線を感じたけど、気が付かないふり。
頑張って仕事に集中。
途中席を立った先輩。
先輩がいないと私はホッと力を抜く。
今の内に首を回して倒して肩を回して。
また仕事に集中する。
週末はまだまだ遠いけど、また私は連絡を待ちそう。
だけど、来なくてもいい、もう来ない、だから待たない。
そう自分に言い聞かせた。
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