がさつと言われた私の言い分は。

羽月☆

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8 憧れの人に真実を伝えた竜。

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絶対皐月先輩の努力を無駄にしない。
部屋に行ってやる。

「思ったより綺麗です。『真正のズボラ』ってどんな感じだろうと興味があったんです。」

そう言ってやりたい。
電車の中で想像が膨らんで表情が緩んだ。

そう、一人でならそう思うんだけど。



木曜日まで特に何もなし。
金曜日。朝から自分がソワソワしてるのが分かった。
こんな調子で仕事を失敗しようものなら高田さんに呆れられる。
それに残業が増えたら・・・・。

慎重に、いつもに増して集中して仕事をした。
午後、もうあとは机で書類まとめる段階。
その時間になっても何もお知らせもなく。
だいたい高田さんの姿さえ見てない。

とうとう仕事が終わった。

携帯を見て悩む。

誘っていいんだろうか?
常識的に前日までに誘ったほうがいいだろう。
別に自分を相手にそんな張り切っておしゃれするとは思わないけど、そこはいろいろと。

しばらく見つめる。

高田さんは相変わらずいない。



やっと連絡が来た。

「まだ会社にいるよな。先にあいつと店に行っててくれ。」

どこ?何でいきなり?
『あいつ』は皐月先輩でいいんだよな?
ドキドキしながら皐月先輩に連絡をした。
正直にどうなってるのかと聞いた。

返事を待って携帯を握り締めた。
読んでくれてると分かってるのに返事が来ない。どうして?
そう思ったら上のほうから声がした。

「竜君。お待たせ。」

皐月先輩がすっかり準備OKみたいな感じでやってきた。

「あっ。」

突然で声も出ず。

「お、お疲れ様です。」

「うん、帰れる?」

そう聞かれて慌てた。
パタパタと音がするようにパソコンを閉じ、ロッカーに走り荷物を持って、椅子の白衣をしまって上着を着て、やっと帰れる。

「そんなに急がなくても高田は遅くなるらしいよ。」

「はい。」

二人並んで会社を出る。
でもどこのお店だか知らず。

「あの、皐月先輩、お店の名前聞いてますか?」

「うん、聞いてるよ。もしかして聞いてない?」

「・・・・・はい。」

もうどう思われるんだ。
なんだか同情するような表情で。
背中を二回ほど叩かれて、行こうと言われた。

もちろんどこまでもついて行きます!


おしゃれなビストロに着いた。
上着を脱いで楽にした。

「高田さん、どのくらい遅くなるんでしょうか?今日はずっと実験室に入ってて姿をまったく見てないです。」

「分からない。連絡するとは言ってたけど。ごめんね。寂しい?」

隠す気がないらしい。ストレートに聞いてくる。
いきなりすぎて赤くなる。
そう意味じゃないです・・・・誤解が深まる予感。

「あの・・・そんなんじゃないです。」

自分なりに必死に抵抗して否定したつもり。

「いいよ。別に変には思わないよ。安心して。」

優しい・・・・素敵だ・・・・というか完全に自分は圏外だと思った瞬間だった。
思わずがっかりする。
顔がゆっくり下を向く。
うつむいて考える。
これで否定してどうなる?
もっとこのまま気楽に付き合っていけたら・・・・。
でも・・・・もちろんそんなのは自分の望む関係じゃない。

頭を撫でられた。

「難しいよね。」

心地よくて目を閉じる。
涙が出そうになるのを必死に止める。
さすがにそれはやばい。


もしかしたら高田さんが来ないのが、わざとだったりするだろうか?
どうだろうか?

やっぱりもし駄目でも、考えてもらえるだけの余地があるなら。
誰か次を見つけられて、手遅れになって後悔するよりは、いいじゃないか。

頭を撫でてくれた手が背中に行ってポンポンと弾んでる。

「あの、もうやめてください。本当に。」

「・・・・ごめんなさい。無神経だった。もう言わない。」

「違います。皐月先輩は全然わかってないんです。何で、高田さんなんですか?
何で、普通に女の人って思わないんですか?」

「皐月先輩、勝手に難しくしすぎです。・・・・ずっと好きだったんです。」

そこまで言って周りを見る。
音楽もあるし、隣のテーブルも空いてる。

気にせずに言いたい。

「よく高田さんのところに来てましたよね。最初からすごく綺麗な人だと思ってて。覚えた声がすると顔を上げて見てました。二人がやり取りするのも楽しそうで。同期だとわかって。名前もすぐに分かって。あんまり反応してたらしく、高田さんにはバレてて。この間お蕎麦屋さんにいたのは僕です。後ろからいきなり大好きな人の声がして、話が聞こえてきて。」

「びっくりしました。ずっと聞いてました。お蕎麦を食べずにザルを見つめたまま。いなくなって顔をあげたら高田さんに言われました。協力すると。だから誘ってもらって皐月先輩の前の席にいました。」

「誤解してますよね。僕は高田さんはいい先輩だと思ってますし、憧れもしますが、普通です。何でそう思われたのか二人で疑問でした。僕は皐月先輩に会いにあの飲み会に行きました。」

最後まで何も言われず止められず。

さすがにびっくりしたのだろう。
目を開けて綺麗な顔のまま固まってる。
その顔をずっと見ていたい、できたらもっと近くで二人きりの空間で。
表情が動かないうちは何も言ってくれないだろう。

固まった表情がゆっくり戻る。

いつもの綺麗な顔なのに、真っ赤になってる。

それはとんだ誤解をしたことが恥ずかしいのだろう。
多分そうだろう。

「皐月先輩、初めての年下ですけど、考えてもらえませんか?」

うなずいてくれたみたいな気もする。

願望か?

「ちょっと、一人でいろいろと、整理してきていい?」

「はい。皐月先輩を、ここで待ってます。」

そう言った。


立ち上がり、歩いて行ったその後姿を見ながら携帯を取り出す。

まだ心臓がバクバクです。

高田さんにメッセージを送ろうと思ったら着信があった。

『俺は遅くなる。言えるか?一時間くらい遅れるようにする。もし言えてたら『早かったですね。』と言え。頑張れ。」

やっぱりわざとだったらしい。

正直に書く。

『今、誤解ですと伝えました。整理してくると言ってトイレに行きました。返事を待ちます。」

『おおおお~、やったな、というか知ってる。横にいるやつに連絡が来た。相談してる。『行け!』と言うからそっちの会計は任せる。二人で楽しめ。玉砕したら合流しよう。今度も奢ってやる。でも来るな!』

なんと、別の飲み会に出てるということか。
そしてきっとあの時隣にいた『はるかさん』がいるんだろう。
そして先輩はすぐお断りではないらしい。
とりあえず、考えてくれるらしい。

待ちますと言ったけど、悲しい返事ならいらない。
もっと知って欲しいと思う。
だって本当に会ったのは・・・3回目。

飲み友達からでもいいから。

携帯をポケットにしまいこんで待つ。
長いよ・・・・不安になる。
でも皐月先輩が帰ってきても自分は不安と期待の顔で迎えてしまいそうで。
返事を聞きたいと言う顔で迎えそうで。

携帯をもう一度取り出し文字を打つ。

『皐月先輩、いきなりですみませんでした。もっと僕を知ってもらいたいです。
返事はゆっくりでもいいです。ひとりは寂しいですし、ここに帰ってきてもらえませんか?」

そう送った。顔を上げたら先輩がいて。

「あっ。」

先輩の携帯が時差で着信を知らせる。

「すみません。あのあんまり困られてたらどうしようかと思って。」

「うん、わかった。一つ確認したいんだけど。」

「はい。」背筋を伸ばす。

「高田はここに来るの?」

「あの、先輩がいない間に聞いてみました。1時間遅れるからそれまでに言ってみろと言われました。うまくいったら二人で楽しめと、駄目だったらこっちに来いと、奢ると。知らなかったんです。本当に金曜日残業するなと言われただけで。本当に今日は全然何も言われてなくて、先に行っててくれって言われただけで。」

「そう。」

「あの、誰かに相談しましたよね。その人の隣に多分高田さんがいます。」

「うん、みたいね。」

知ってたみたいだ。

「電話で話した。馬鹿な誤解をしてどんだけアホだと言われた。今度直接言うって言われた。」

「すみません。この間あまりにもすごい誤解をしてるから、でも一緒に飲みに行ってくれるって言われたからうれしくて。そのまま否定せずに、そのまま高田さんに相談しました。」

確かに全力でアホだと言ってたけど、それは言わないでおいた。

「さっきの言葉の通りでいいです。今無理して返事を貰わなくても、友達からでもお願いします。それまで皐月先輩って呼びます。」

もしOK貰ったら絶対『皐月さん』って呼びたい。

「うん、ちょっと今日はいきなりで。今晩だけ時間をくれる?」

「はい。待ちます。ずっと遠くから見てました。目の前にいてもらえるし、二人なのもすごくラッキーです。」

「まあ、邪魔者がいないからね。」

「高田さんですか?」

「それ以外いる?」

「初めてです。二人なのは。」

そうねといって視線をそらされた。
うれしそうな僕だけど、皐月先輩の表情はいま一つ分からなかった。

なんとなく気まずい気がしないでもない。

「あの、やっぱり、変ですか?普通にはいかないですか?」

「ううん、ごめんね。大丈夫。」

そう言って顔を上げてくれた。

「食事しましょう。温かいものまだで良かったです。追加しますか。」

じっと見られてるのも恥ずかしくて。

「いい子よね。」

「それは・・・・後輩としてですか?」

「うん、そうね。ほら、最初に聞いたじゃない。綺麗好きなんでしょう?本当にちょっとは努力して物を減らしたんだけど。」

「知ってます。むしろどんなだろうって楽しみにしてるって言ったら怒られそうですが。」

「トラウマになってて。さすがにそんな優しい子がびっくりして表情抜けたりするところ見たくないの。」

「じゃあ、部屋を見せてください。」

いきなりの申し出。どうしよう、本当にびっくりしたら。でも多分大丈夫。

「最初に覚悟して、もう一度申し込みます。」

そういったのに首を振られた。

「分かりました。」

しばらく無言で。早速お互いに後悔してる気がする。
でもそんなことないって思いたい。

「食事しましょう。飲み友達です。」

「ありがとう。」

それからは何とか話をし始めて。
昔の話を少しづつ披露してお互いを知り。
お酒も進み。

すっかり忘れてたけど一時間たっても高田さんが来なかった。
楽しんでると思ってくれただろうか?
合流しますと連絡してないから。

まあいいや。





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