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12 返事をしようと思った日。
しおりを挟む動物を見つめてる竜君。
その竜君を見つめる私。
「可愛くて仕方ないんだけど。」
「そうですね、触りたいですね。」
「・・・・・そうね。」
手を伸ばす。
頭に。
ちょうど腰を曲げて低い目線で子犬を眺めてたから。
あの時の高田のように、後ろに立って真っ赤になるのをぐしゃぐしゃと撫で回したい。
さすがに耳には触れられない。
後ろから見たら男女逆転!
「可愛いね。」
手を離した。
ゆっくり立ち上がる。
手を繋いで歩く。
特に目的もなく。
どこまで行くんだろう?
商店街が終わった。
「終わったね。帰ろうか。」
今来た道を引き返す。ゆっくりとした歩きの二人。
駅の方へ。
駅の少し手前で止まる。
振り返った顔は少し困ってるような顔で。
「ごめんね。またね。」
昨日と同じように手は離れずに。
それでもゆっくり離した。
「皐月先輩。明日は?予定がありますか?」
「ないよ。」 どうせ掃除の続き。
「じゃあ、また誘っていいですか?会ってもらえませんか?ご飯を一緒に。」
「うん、いいよ。あとで連絡するね。」
「ごめんね、ちょっと先に帰らせて。」
先に改札に走った。
何をやってるんだか。
もう自分の気持ちがボロボロとこぼれてる音がする。
逃げるように会話を終わらせて電車に乗った。
駅から離れて、やっと息が付けたような。
携帯が震える。
すぐに来たメッセージ。
『美味しかったですね。気をつけて帰ってください。連絡待ってます。』
本当に楽しみに待ってるような顔が思い浮かぶ。
大丈夫だっただろうか?
変に思ってないの?
『ありがとう、楽しかった。夜に連絡するから。』
すぐに読んでくれたのは分かった。
電車が自分の駅に着いた。
ゴミ袋とクリアな小物ケースを買って帰る。
入り口には二つのごみ袋。
何でこんなにいらないものがあるんだろう。
クローゼットを全開にしていらない服を放り出す。
それだけでもすぐに一袋がパンパンになった。
続いて本をまとめて縛る。
紙類も雑多に入れてあった引き出し2個分を全部出して、いるいらないを分けていく。
めったに使わないものはクリアケースに入れてクローゼットに積んでいく。
それだけで満足。
洗濯ものを取り込んで畳んできちんとしまう。
やれば出来るって・・・・。
夕方になった。早めにお風呂に入ってテレビを見ながらのんびりする。
さっきから片手は携帯をくるくる回す。
落ち着かない時の癖だ。
何度か落としてそのたびに画面を見る。何も映してない黒い画面。
コーヒーを入れて飲みながら携帯を手にして画面を開く。
竜君との明日の約束。
きっと連絡が来るのを待っててくれてると思う。
『明日、お昼に待ち合わせしようか?竜君の駅の周辺を案内してくれる?』
すぐに返信が来た。
『はい。すごく楽しみです。12時くらいにどうですか?今日の駅で電車に乗りかえた時に連絡もらえますか?』
『分かった。明日12時頃ね。じゃあね。』
『はい。待ってます。』
携帯を離した。
ベッドに行って目を閉じる。寝るにはすごく早いけど、心が疲れて。
本当に夢も見ずによく寝たみたい。
朝だった。
軽く掃除して、朝ごはんを食べた。
昨日の夜食べてなくてお腹空いていた。
クローゼットはだいぶん隙間が出来た。
服の前に立ち悩む。何を着て行こうか?
昨日こざっぱりした格好で行ったら、私らしいと言われた。
ちょっと雰囲気を変えて、女性らしいラインのスカートとシンプルな綿ニットを選んだ。
どうして竜君の最寄り駅を選んだか。
どうして昨日と違う雰囲気にしたかったか。
・・・・・それが自分が出した答えだ。
竜君が伝えてくれたことへの返事だ。
着替えをしてまた早めに家を出た。
駅の近くの本屋に入り犬の写真集を見る。
何犬に似てるんだろう。
なんとなくビーグルが近いだろうか?
可愛い。
思わず笑顔になる写真。
でももその写真の奥に明らかに違う顔を見てる自分。
かなり恥ずかしい気がして写真集を閉じた。
いつもの改札を入る。
ゆっくり電車を待つほどもなく来た電車に乗って、昨日の駅で降りてすぐに連絡を入れた。
『ちょっと早そう。今から乗りかえます。ゆっくりでいいよ。改札のところで待ってます。』
『問題ないです。僕が待ってます。』
駅に着いたのは15分くらい早い時間だったけど、本当に改札にいてくれた。
「竜君、ありがとう、急がせなかった?」
「大丈夫です。皐月先輩、すごく今日も素敵です。」
顔を赤くして褒めてくれる。
照れるのは私の方ですが・・・。
「ありがとう。」
手をつないで歩き出す。
「どこに行く?おすすめのお店ある?」
「すみません、あんまり地元で食べることなくて。」
「そう?じゃあまた適当でいいかな。昨日も美味しかったしね。」
「はい。どこでも美味しいです。」
「ん?そうなの?」
「あっ、先輩と一緒ならどこでも美味しいです。」
小声で言われた。
今日も本当に可愛い事。
やっぱりビーグルだよなあ。
ちょっと珍しくベトナムの料理を食べた。
あっさりとしていて、朝ごはんを食べていたのにすんなりとお腹に収まった。
「あんまり食べたことなかったけど、美味しいね。すごくシンプルな味。」
野菜が多めでヘルシーだ。
「近くに美味しいケーキ屋さんがあるんです。カフェにはなってないと思いますが。」
「そうなの?ちょっと寄ってみていい?」
「はい、あの・・・・・僕の部屋で良かったら、お茶をいれますが。そこから五分くらい歩きますが。」
「うん、じゃあ、買って帰ろう。」
おずおずと言われたけど、あっさりと答えて誘いに乗った。
言ってくれてむしろありがたかった。
返事は部屋でしよう。
お会計をして少し歩く。
たどり着いた可愛いケーキ屋さんでケーキを選んで持ち帰る。
「竜君、甘いもの好きなの?」
「普通です。1人じゃ食べようとは思わないですが、一緒なら食べたいです。先輩半分づつにしたくないですか?」
「うん、私は少なくてもいいからいっぱいの種類食べたい方。半分交換しようね。」
「はい。」
小さなマンションの二階に上がる。
鍵を開けて通されたのは、・・・・・さすがにきれいな部屋で。
今私の部屋の廊下にはごみ袋と古本が通路を塞いでいるのに。
「やっぱりきれいね。」
テーブルにケーキを置いてぐるりと部屋を見渡す。
「朝、掃除しました。」
「私もずっとしてるけど、やっぱりきれい。」
紅茶を運んできてくれた。
ティーポットにお揃いのカップ。女子力も高い?
注がれるのを見る。
「いつもこうして飲んでるの?」
「そう思いますか?」
「うん、似合うかも。」
「いつもはティーパックで、普通のマグです。」
「そう、ちょっと安心した。」
「ちょっとおもてなし感を演出です。」
笑顔を向けられて思わずその頭を撫でてしまう。
だってソファに座ってる私に、低い位置で膝立ちして注いでくれた。
ちょうど頭が下にあって。
「昨日も撫でられました。犬を撫でたいなんて言いながら。」
「昨日も、竜君をグリグリと撫でたいと思ってたわよ。犬も可愛いけど、それを見てる竜君も可愛くて。子供みたいに嬉しそうに笑ってたし。」
「そんな・・・・・。」
トレーを奥に置いて先にケーキを半分にする。
竜君を見ると同じように分けてくれた。
確かに美味しくて。
食べ終わって満足してソファにもたれてる間に片づけが終わっていた。
ああ、本当にそれが普通と言われたら私には無理かも。
隣に座る竜君を見て思う。
「皐月先輩、満足してもらえましたか?」
「・・・・・ねえ、『先輩』はもういいよ。」
こっちを見る。
「名前で呼んでもらってもいいよ。」
「それは・・・・『返事』と思ってもいいんですか?」
「うん、そう思って。じゃなきゃ部屋には来ないから。」
「本当に、僕の思ってる答えでいいんですか?」
「うん。こっちに来て。」
撫で慣れた頭を引き寄せて抱きしめる。
「ちょっとだけ遅くなってごめんね。ちゃんと考えて、そう思ったから。昨日からずっと、そう思ってたから。」
頭を撫でる。可愛い竜君。
両腕を伸ばされて首に回された。
「うれしいです。皐月さんがすごく好きです。ずっと見てて、近くに行きたくて。だから僕の近くにいてください。」
首元でそう言う竜君の息がかかりくすぐったい。
「うん、近くにいるから。」
髪を撫でる指が耳に触れて。
そのまま耳の丸みに添うようになぞる。
「最初の時、高田にこんな風にされて真っ赤になって俯いて固まってるんだもん。私じゃなくても勘違いするわよ。」
「あ、あの時は高田さんがチラチラと僕の事をバラすようなことを言うから、恥ずかしくて目を見れなくて。」
「そうだった?嬉しそうにしてるか、恥ずかしくて俯いてると思ってた。」
「違いますよ、今の方がずっと気持ちいいです。」
そう言って吐息の熱さに紛らせて首にキスをされた。
お返しにすぐそこにある耳に唇を当ててキスをした。
離れた頭。
浮いた手を頬に当てた。
もう真っ赤なのがかわいい。
『おいで。』『ワン。』みたいな期待する目。
なかなか見つめ合たままで近寄ってくれない。
口元に指を当てる。
少し開かれた唇に指を入れそうになる。
やっぱり逆転してる。
ねえ、これ普通、逆だって。
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