がさつと言われた私の言い分は。

羽月☆

文字の大きさ
15 / 23

15 黙秘権はないのだから。

しおりを挟む
昼休み。
予想してたように、遥に連れ出された。

高田と遥、避けては通れないのだ。
それはしょうがないので大人しく向かい合う。

急いでメニューを決めて注文する。

何も言わずに目を大きくしてこっちから白状するのを待っている。

「はい、楽しくランチデートをした週末でした。」

満足してくれただろうか?
ちょっと嫌な顔をした遥。
喜んでくれない?

「高田の報告によりますと・・・・。」
携帯を見ながら読み上げる。

「一人実験室こもって無心を貫いてるけど、背中が一つ逞しい男になったことを語っている。週末の二日でこれだけ成長させてあげるとは、さすがに短期間で渡り歩いてるだけのことはある。過去の経験の蓄積という実績と能力が見えた。」

大きくはない声だが恥ずかしいので携帯を取り上げた。

画面上に続いた言葉。

『真っ赤になった態度で大体予想通りの首尾だろう。』

『部下が少年から文字通り大人になった。喜ばしい。はあ、お互いお役目御苦労。刺激を与えつつ見守るとしよう。』

時間を見ると午前中の仕事時間真っ最中。

ここに来てから震えていた携帯を見てみる。
リュウから謝罪の言葉があった。
やはり完落ちらしい。
無理もない、もとより隠せるとも思っていない。

『大丈夫だよ。あいつは誤魔化せないだろうから。しつこかったら殴っていいからね。もしくは私が殴るから言ってね。』

そう返信しておいた。

「ねえ、・・・・・初だったの?」

好奇心だろう、すごくひっそりとした声で顔を寄せて聞いてくる。

「そんなの聞いてないし、聞けない。別にそうは思わなかった。違うんじゃない?」

恥ずかしい。本当にこっちも完落ちです。
リュウより酷いかも。
ごめん、でも本当に疑ってないから否定しておきます。

「そう?でもじゃあ満足のいく結果で良かったんでしょう?」

「知らない・・・・・。」

思わず顔をそむけた。
答えるもんか。

「だって可愛いじゃない。本当に目がラブラブに見上げてて、丸わかりで。良かったね。」

そういうことか。そっちの大きな結果ね。
はい満足です。楽しいです。良かったです。

「ありがとう。」

素直にそう言った。

食事が運ばれてきてランチを楽しみつつも、・・・・続く。

「高田が新しいおもちゃを手に入れたみたいに喜んでた。いいなあ、ありだね、年下。」

だから年上彼氏を捕まえてる女の余裕発言でしょう?
でもちょっと自慢したくなって。

「可愛いのよ。とにかく可愛い。高田に遊ばせるのがもったいないくらい。」

「ふ~ん。」

つい力を入れてしまったかもしれない。
そんな話をしてたら笑顔が次々に浮かんで。時々大人の目をした顔も浮かんで。
そんな時は急いで下を向いて料理を見る。

週末、またデートに誘おう。
そう思った。


午後の仕事の前にリュウに伝えた。

『ごめんね、こっちもほぼ白状させられた。高田と通じてるから隠すのは無理だった。』

『土曜日、空いてる?』

自分で書いてなんですが、随分控えめな誘い方。
もっと・・・・・。
まあいいか。
送信して携帯はデスクの脇へ。

仕事仕事。

ひとしきり仕事に集中して凝った首肩を回す。
携帯を引き寄せてみるとリュウから返事が来ていた。

『うれしいです。もちろん全力で空いてます。』

『でもちょっとでいいので普通の日でもお食事できませんか?疲れてたらお茶だけでもいいです。』

可愛いじゃない。
笑顔になったのを急いで戻す。

『仕事の具合でね。早く終わりそうな日は終業時間あたりに連絡するから、忙しかったら断ってね。』

『はい。でも、頑張ります。』

たまらなく可愛い。
そう思って顔を伏せて読んでたら眉間にしわが寄った。

『二人とも仕事しろ、ぼけっ。お目付け役高田。』

携帯を奪われたらしい。
マジかよ、あいつは。
他のログ読んでないだろうなあ。

ちょっと前のやり取りを見返す。
まあ、セーフだ。

危険。デリカシーのない奴だから。
今頃リュウはウルウルとして抗議してるだろう。
やっぱり私がひっぱたいてやろう。
パワハラ野郎め。

「樋渡さん、書類頼める?」

いきなり声を掛けられてびっくりした。
ちょっと怪しい表情してなかった?

視線をあげると呆れたような顔があった。
まずい。

「すみません。はい、大丈夫です。」

内容も見ずに受け取ったのは仕方ない。
だってどうせ断れなかったし。

当たり前だ・・・直の上司です。
憧れの上司の鏑木さんです。
それなのに変顔七変化を見られてたかもと思うと悲しい。

本当に気をつけたい。

終業時間。
後、2時間はかからないとは思うけど。
とりあえず残業決定。

連絡する。

『ごめん、終わらない。残業です。またね。』

『分かりました。お疲れ様です。』

がっかりしてるだろうか。
まだ月曜日だし。昨日まで一緒にいたし。

さてと張り切りましょう。

それでも何とか1時間半まで行かずに終わった。

鏑木さんに書類を渡してチェックしてもらう。

「悪かったね。遅くなって。ありがとう、助かったよ。」

「いえ、大丈夫です。お疲れさまでした、お先に失礼します。」

ありがとうと言われてたら頑張った甲斐がありました。
トイレに寄ってから帰る。

エレベーターにはいろんなフロアのサラリーマンがいた。

皆さんお疲れ様ですと目礼して一階へ降りる。

会社を出る前に気が付いた。
携帯を忘れた。

ため息をついてまたエレベーターに乗る。
デスクの上に置いていたんだった。

回収してまたエレベーターへ。
鏑木さんと一緒になったのでそのまま駅に向かう。

「なんか、楽しいことあったの?」

「え、何でですか?」

「随分機嫌よく仕事してたなあって思って。」

何ですと?

「月曜日はいいんです。まだ体が楽ですから。週末美味しいものを食べて過ごせたし。」

フッと笑われた気がした。

バレてませんよね。
まさか可愛い男の子を手なずけたなんて言えません。

駅でお辞儀して別れた。

やっぱり素敵なんだなあ。
後姿を見送る。


さてと・・・・。
ぼんやりとして電車に乗って、面倒で駅で食事をして帰った。
たまに食べるとファーストフードもいいかもしれない。

お風呂に入りゆっくりとする。
それでもお風呂はきれいに流したし、洗面台もチェックしてた。
使ったもの、化粧品もきちんとして、洗濯物もまとめた。
来てたスーツはハンガーにかかっている。
アクセサリーコーナーに収まった時計と外したアクセサリー。

やればできる。

ビールを飲みながら部屋を見回してなんとなく満足する。
この短い期間ででかなりきれいになったから。

だからといってリュウを招待することは当分ないだろう。
携帯を取りアプリを開く。

『お疲れ様。何してる?話せる?』

そう送ったらすぐに電話がかかってきた。
かわいい笑顔を思い浮かべてしまい自分も笑顔ででる。

「皐月さん、お疲れ様です。今帰りですか?」

耳元に聞こえる声は嬉しそうだった。

「ううん、もうすっかりくつろいだ状態。リュウは?」

「僕もアイロンかけが終わって後はゴロゴロです。」

「そう。じゃあ良かった。ねえ、今日高田に揶揄われたでしょう?」

少しの沈黙の後・・・。

「は・・・・い・・・。まあ。すみません、結果的に皐月さんのこと全員にバレてしまいました。みんなうっすら気が付いてたみたいで。すみません。」

全員・・・・・・。

「分かった、しばらくそっちには行かないから。」

「そうですよね。残念です。」

「携帯も取り上げられたの?」

「すみません、ちょっとうれしくてじっと見てたら急に取り上げられて。でも前後少ししか見えてないと思いますから。」

「うん、わかった。どうせ隠すのは無理だしね。連絡はランチの時と終業の時くらいにするから。」

「はい。ちゃんと仕事はしてます。」

「分かってるって。」


「今日は急に残業頼まれたから。また明日以降ね。土曜日楽しみにしてる。」

「はい。行きたいところあるんですか?」

「考えとくから。リュウも考えといて。」

「はい。」

「じゃあ、おやすみ。また明日ね。」

「おやすみなさい、皐月さん。」

画面を見つめてタップして通話を終えた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

先輩、お久しぶりです

吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社 秘書課 × 藤井昂良 大手不動産会社 経営企画本部 『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。 もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』 大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。 誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。 もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。 ――それも同じ会社で働いていた!? 音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。 打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

処理中です...