公園のベンチで出会ったのはかこちゃんと・・・・。(仮)

羽月☆

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31 自分の進む道は見渡せないほど先まで続くのだから。

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決定的な場面


今日は機嫌が良かった。


昼、この間仕上げたレポートを持って社長が依頼人に説明したらしい。

妊娠中、旦那の不貞を疑う妻。

誰も喜ばない調査、そう思ってた。

調査報告を聞いた依頼人は静かにお礼を言って帰っていったらしい。

その時点で追加の調査はなかった。
そんな話をすることもなかったらしい。
ただ、静かに説明された内容を聞いて、書類を手にしてお辞儀をして出て行ったと。


そして、調査会社に依頼したことは内緒のまま、疑惑の旦那と話をしたらしい。
うまく話を運んだんだろう。
結果、やっぱり誤解は解けたらしい。

感謝の電話があったと教えてもらった。


珍しく自分のレポートが役に立ったと思った、いい方向に。
一人で悩んでてもお母さんの体にも心にも良くなかっただろう。
ずっと悩むよりお金はかかったけどスッキリしたのなら良かったと思う。
ほんの数時間、後ろをついて歩いただけだけど、あの男性に感謝したいくらい。

裏切ったなんて事じゃない。仕事があってなかなか奥さんに付き合えないからと、休日を利用して奥さんのためになるように行動していたんだから。ちょっと内緒にしてたから不審だっただけ。疑われたと知ったらビックリするだろうけど、知らないままでいて欲しい。
ずっとずっと子供が大きくなったころに、ちょっとだけそんな事があったんだと二人で話をしたりして、そんな思い出にして欲しい、そう思った。

すっきりした気分で帰ってきて、夕方二人の子供の塾の送迎をした。


明日は休み。

スーパーで待ち合わせをして買い物をすることにした。
不器用というか、ほんとに食事をどうしてたんだろうと思うほど自炊をしてなかったらしい。並んで作ることが増えて、それなりにはなってきた。


自分の方が先についたらしく、中の涼しいガラス越しに外を見ていた。目の前を通って行ったのに全く気が付かない彼女、どこに向かうのかと思ったら隅の柱に繋がれた犬のところへ行って、多分話しかけてるんだろう。

外に出て名前を呼んで、振り向いたのはそんな顔だった。

見たこともない犬種だし、軽く挨拶しただけで満足したらしい。買い物をして彼女の自転車置き場に向かおうと思った時。

今日も休日出勤だったらしい夏目さんと会った、会ってしまった。
隣の彼女と話をしていたし、一つづつ買い物の荷物を持って手を繋いでもいた。
お互い立ち止まり、挨拶をするまで少し無言の時間があった。

挨拶だけしてすれ違って、何もない振りで家に帰る。        
横で料理を作りながら、ちらりと表情をのぞく。
普通にも見える。
あえて言う話でもないと思う。

日報をつけたあと、パソコンで経済ニュースを見たりしていた。
いつもなら聞こえるご機嫌な歌がなく、ふと横を見るとぼんやりとしたまま鉛筆を握ってる。

「真奈、どうしたの?今日はかこちゃん達は?」

「うん?疲れたのかも。先に寝ていい?」

「いいよ。お休み。」

「おやすみなさい。」

スケッチブックを閉じて、部屋の棚にしまい込みながら歩いて行った。
明日の予定はまだ決まってないけど。

気にならないわけじゃない。
元気ないかもしれない。
でも、ただ疲れてるのかもしれない、そうじゃないかもしれないけど、そうかもしれないから。


今日はメガネをかけてても少しも見てもらえた気がしなかった。

イベントが始まり一週間。
日曜日だしいつもよりは人も多かっただろう。

だから疲れてるだろう。
半分の心ではそう思ってた。

画面に見えるニュースは自分とはずっとずっと遠い所の出来事で、見える数字も何の意味も見いだせない。
パソコンを閉じて眼鏡をはずす。
ため息をついてリビングの明かりを消して寝室に入った。

小さく着いたフットライトの中では何も動くものはない。
ベッドの上に小さな塊があるのが分かるだけ。
静かに近寄って隣にもぐりこんだ。
寝返りを打ったんだろうか、珍しく背中を向けられている。それも限りなく端の方に行って小さくなってる気がする。
布団の上から手を回して背中から抱きしめるようにする。
目が覚めた気配はない、身じろぎもしないけど、体に力が入ってるのが分かる。

「真奈、眠ってる?」

小さい声で聞いてみるが返事はない。

「真奈、愛してる。」

後頭部に向かって囁いてキスをして目を閉じた。

このまま眠れるほど疲れてはいなかった。
今日はいい日だと思ってた。
ご機嫌で帰って来て、明日は休みで。

犬に向けてただろう笑顔を見ただけでも疲れは吹き飛んだし。

眠れるわけもなく、ただ目を閉じて、ゆっくり横になっただけだった。

腕の中でもぞもぞと動いた。
ゆっくり抜け出そうとしたようだけど、あまりにも壁際により過ぎていて、うまく抜けれるスペースもなかったんだろう。
目を開けて見上げると壁に貼りつくように背中をつけて足元から逃げようとしてる姿を見た。

「真奈。」

名前を呼んだのに返事はなく、その怪しい動きだけが止まった。

起き上がって手首を掴んだ。
そのまま追い込むように壁際に座る。

広いベッドの本当に足元の端の方。

さすがにここまでいつもと違う行動をされると疲れてるんだろうなんて呑気には思えない。


「真奈、聞きたいなら、聞いて。嘘はつかない、傷つけるつもりもない。」

「どう見ても、普通じゃなかったです。光司さんも、あの人も。」


「そうだね。『ときそば』の夏目さんだよ、知ってるよね。」

うなずいた彼女。

「前にちょっとだけ告白みたいなことがあったんだ。それらしいことを言われて。好きな人がいるって言ったよ。もちろん真奈のことを思い浮かべてた。ちゃんと、はっきり断った。」

何の反応もないけど。

「誰かとは聞かれなかった。ただ忘れて欲しいと言われただけで。今日、その相手が真奈だって分かっと思う。噂もその内に届くだろうし。」

「そんなの、今まで全然気がついてなかったんですか?私に会うよりずっと前にから知り合いのはずです。」

「そうだね。最初の頃は今よりも商店街に顔を出して、いろんな人のお世話にもなったし。蕎麦屋の出前とか、掃除とかをついでに手伝ったたりもしたよ。でも夏目さんは大学生だったし、彼女がお店を手伝う週末は、僕は行くこともなかったから、そんなに会ってるわけじゃない。だから全然知らなかった、気がつかなかった、本当に突然言われたと思ったくらい。」

「きっとあの人にはそんなに突然じゃなかったんだと思います。お仕事をして疲れて家に帰ってくると、時々思い出して、それでもなかなか会えなくて、会いたいなあって思ってて。仕事も一生懸命してて、自分もやっと一人前になったと思えたから、一人の大人として見てもらえると思って、だからやっと言ったのかもしれないのに。」

「真奈、僕を責めてるの?そんな夏目さんの気持ちに寄り添って、僕にどうすればよかったと言うの?」

つい自分こそ彼女を責めるような言い方になったかもしれない。
暗いし、ずっと俯いて表情も分からないのに。

「この間言ったよね。もし誰かを傷つけてたとしても、それが真奈じゃなきゃいいって思っうって。真奈を守るために誰かを傷つけることになっても、後悔はしない、反省はしても後悔はしないって。覚えてない?」

答えはない。

「夏目さんもしばらくしたら忘れるよ。もっと自分にふさわしい人と出会えるから。僕だって何年もかかったけど見つけたんだから、時間かかった分そう簡単には手放せないし、ねえ、もう今更だよ。」

「だから、もう忘れて。夏目さんの為にも真奈は忘れて。」

相変わらず体から力が抜けることはない。

「真奈、どうしたいの?もっと謝る?忘れる時間が必要?こっちを見てくれないの?」

ゆっくり手を離した、でも少しだけ力を抜いた手の平を取って、手をつないだだけ。
完全に離れることはしない。簡単に誤解されそうだから。

「ごめんなさい。」

「別に何も悪くないから。気になったからちょっと確認したかっただけでしょう?」

体はこっちを向いてくれたけど、顔はまだ伏せられたまま。

「僕はそうだよ。日曜日の仕事で疲れたのか、それとも気にして考えて元気がないのか、気になったから聞いただけ。分かって欲しかったから説明しただけ。」


「分かってます。そんな光司さんさんだから、あの人も、きっと・・・・・。」

「彼氏の自慢?なかなかいないでしょう?手放したら惜しいからね。」

暗がりでも分かるほどムッとした顔をした。

「分かってます。」

「そう?良かった。」

「光司さんが鈍いってことは分かりました。」

「そんな事言うの?僕の気持ちをすぐ忘れる僕の彼女も相当なもんだよ。お似合いだといいね。」

喧嘩にもならないようなものだけど、ちょっとした気持ちのすれ違いはすぐに引き寄せて寄り添おう。冗談に紛れ込ませて、気持ちも伝えて。そのあとちゃんとストレートに伝えるから。

もったいないからね。
せっかく広いベッドにいるのに端っこしか使わないのは。
堂々と真ん中で、でも寄り添い過ぎて真ん中で重なるから、やっぱりちょっとしか使ってないかも。



月曜日は雨で、食料はあるし、外にも出ないで大人しくリビングで過ごす。

「真奈、カエルのキャンぺーンが終わった後は?何かまた企画してるの?」

「子供たちが夏休みになるのでサンドイッチを作れるようなパンを売り出す予定です。生地もそうだし、外で食べれるようにサンドイッチなどの総菜パンの種類を増やすって言ってました。」

カレンダーのアプリをパソコン上で開いて見せる。

「キャンペーンが終わって、梅雨も明けたころに千葉に行きたいんだけど。」

「夏休みで、さやかちゃんもまた張り切って手伝ってくれるかもしれません。」

「そうだと嬉しいけど。最終週あたりに計画していい?真奈の予定は?」

「・・・・何もないです」

「じゃあ、予約していい?」

「予約?」

「挨拶したら海辺に泊まろうって言ったじゃない。あのワンピースで裸足になって海岸を歩こう。絶対映えるよ。」

「・・・お願いします。初めてです、旅行。」

「この間の師匠のところは?」

「あ、あれは・・・里帰りみたいなものでしたよね。」

「まあね。酒宴に参加したって感じだったね。」

「そう言えば、そろそろ赤ちゃん生まれるんじゃないですか?」

「まだ連絡はないなあ。忘れてなければいいけど。もともと連絡はとってなかったから、簡単に忘れられそうだな。」

「それどころじゃないかもしれませんしね。」

「そうだね、写真を撮りまくって、その内思い出したら送られてくるかもね。」


しばらく千葉の海沿いのホテルを探す。
ビーチに出られて、夕日がきれいに見れるところ。

「真奈は?」

「・・・何ですか?」

さっきの話からは時間が経った。
鼻歌が復活してご機嫌に鉛筆が画用紙をこする音がしていた。

「真奈は子供は欲しい?」

鉛筆のたてるリズミカルな音が止まり、当然動きも止まった。
こっちを見て自分を見つめてくる。
今はお気に入りの眼鏡の顔だけど。

「まだ・・・・・。」

欲しくないだか、いらないだか、分からないだか。
結婚もしてないし、そこをフライングするつもりはない。


「じゃあ、しばらくは僕が一番かな。女の人は子供が出来た瞬間から子供が一番になるって、良平さんが言ってたよ。良平さんのところは三人いるから、10年もしない内に優先順位が四番目になったって。その後どんなに努力しても下剋上は果たせなかったらしい。残念だよね。」

その内に孫にも抜かされるからな、と続けた。
一体どこまで自分の順位が落ちるのか。

「自分の子供だからそうなのか、好きな人の子供だからそうなのか、それとも単に小さい頼りない存在に庇護欲と母性本能が目覚めてそうなるのか。まだ、分からないです。」

どうなんだろ?
そんな事で悩める日も楽しみだったりするだろうに。
しみじみとつぶやいてた良平さんを思い出す。


ちょっとくらいの不信感なんて、なんて事ない。すぐに覆せる。

でも、もっともっとお互いの立場が変われば、守りたいものが増えれば、人に依頼してでも確認したくなるのかもしれない。自分では確認できない事、したくない事、相手の言葉だけじゃ足りなくて証が欲しいこと。

彼女に話をした。
浮気調査なんて聞きたくないだろうし、ペラペラとしゃべるわけにはいかない。
だけど、嬉しいことだったし。
あとは、言えないことがすべて後ろめたいことじゃないって事、それをわかって欲しかったのか、言い訳じみた感じがしないでもないけど。

「良かったですね!すごく。」

素行調査をしているときは本当に嫌で、帰って来てからの反動がひどかったから。
さすがにうんざり・・・・とまではいかないけど心配してくれたんだろう・・・・。

だから、そんな調査の中でも珍しく皆が幸せになる調査結果だった。
彼女もそう言って喜んでくれた。

近くにいたらきっと解る。

どちらかが不自然に外を向いてるのは。

手伸ばせば、どこかに触れるような距離でいればいい。

雨に降り込まれた部屋で、話をしながら休日を過ごすのも悪くないし。


携帯がそんな休日を邪魔した。

見ると所長からだった。

出ながらパソコンのカレンダーを開いてバッグから手帳を取り出す。

「なぁ、若手が来週中には復帰するんだけど、それまでいい頃の歳のやつがいなくてなぁ。好みじゃないだろうが頼まれて欲しいんだけど。」

そう切り出されたのは、個人的な代役だった。まぁ、恋人役ということで。

携帯の声はきっと静かな部屋に響いてるだろう。
ちらりと見るとこっちを見ていた。
流石に仕事だから、嫌な顔はしてない。

詳しくは明日と言われて、電話を切った。

手帳に仮予定で書きこむ。
週末、日曜日の昼の時間のデート相手らしい。
問題なく受けられた仕事だった。

「ごめんね。来週にはサーファー君が復帰するから。ベテランが多いから彼がいないと僕になるんだよね。」

「はい。大丈夫です。私もバンバンとパンを売って仕事をしてます。」

「そうだね。」


翌日所長に聞いた話では出来立ての恋人だから初々しいくらいの距離感でいて、一緒に笑顔でテーブルについてくれればいいという事前学習のいらない案件だと言うことだった。
すごく楽だ。

やはり深い関係に見せるにはそれなりの情報を予習したうえで、親密に見えるような距離で、それらしい雰囲気を出さないといけない。
それにくらべたらいい!

あっさりと二人でいるところを知り合いに見せて、終了。
呆気ないくらい。

今ので良かったんでしょうか?と聞きたいくらい。

今のところ、この手の依頼は女性からしかない。
男性からあった場合は女性スタッフが女性をだますことになる。
なかなか手ごわそうだし、あっという間に修羅場へと展開していきそうな気がする。
そうじゃなくても罵倒されたり、ヒステリーをおこされたり、違う意味で神経を使いそうだ。
公衆の面前で暴言を吐かれるくらいは覚悟した方がいいだろう。

それから考えると何ともあっさりと終わってる。

慰めが必要な気さえ起きないくらい。

「今の感じで大丈夫でしたか?」

小声にしながらも笑顔で聞く。

「はい、ありがとうございました。」

ちょっと寂しそうな表情にも見える。
女性がだます相手も女性だったりする。
たいていの場合見栄を張ると言ったタイプのケースが多い。
それでもなんとなくそんな感じでもなかった気がするのだけど・・・・。
あっさりと役目が終わり所長に連絡して直帰する。
明日は休み。
そして事務所には骨折明けのサーファー君が復帰して、自分のサラリーマン生活も終了となる。
部屋で報告書を仕上げ、経費の明細書を作る。
メールに添付して仕事は以上。

メールが来た。
良平さんからだった。
写真が添付されていて、その背景がどう見ても彼女の仕事場のカフェに見える。
文章は次のメールで来た。

「ただいま真奈ちゃんに会いに家族でお店にいます。真奈ちゃんお手製のカエルもゲット!」

良平さんの携帯だけど、もしかしたら違う誰かが打ちこんで勝手に送って来たのかもしれない。
パソコンを閉じて自転車を走らせてパン屋へ向かった。

まだ居てくれた。

「あ、来た~。佐野君。」

他のお客さんはカフェにはいなくて迷惑ではなかったと思いたい。
本当に家族みんなで来たらしい。
二つのテーブルをくっつけて座りながら食べている三世代家族。
手の空いていた彼女もレジの前に戻らないで話し込んでる。

「佐野さん、お仕事は?」

「あっという間に終わったから帰って来たんだ。部屋でレポートを作ってたら連絡が来たから。」

「配達の約束よりも来てもらってよかったです。たくさん買っていただきました。」
そういってレジの後ろの袋を指さす。
確かに。

「しばらく子供とおじいちゃんのおやつに困らないわ。」

「どうもありがとうございます。」

自分が言うのも変だけど、わざわざ来てもらえたんならうれしい。
その大きな理由が単純に興味からだとしても。
さすがにコーヒーを飲んで休憩をしたら帰って行った。
サンドイッチを並べに来た今日子さんに挨拶されて。さらにサンドイッチも買ってもらえて、サービスされて、見送られて帰って行った。
夕方のサンドイッチがちょっとだけ寂しくなった。

「真奈、今日は何食べたい?先に帰って作っとくから。」

「なんだか親子丼ぶりを食べたくなりました。」

「了解。じゃあ、邪魔しないから、あと少し頑張って。」

「はい。気を付けて帰ってください。」

「真奈もね。」

そう言ってお店を後にしてスーパーに向かう。
あの場所に犬はいなかった。
夏目さんとも遭遇しないで、さっさと夕飯の材料を買って帰った。

戻ってのんびりしてたら携帯に写真が届いた。

お店の中で彼女が描いたキャンペーン告知の絵の前で撮ってもらった。
その他にも数枚。

早速明日プリントアウトしよう。
早速食べたパンのお礼もあった。お礼のメールを送って感謝を伝えた。

すっかり彼女が自分の部屋に帰ることもなく、お試し期間が一体何なのか。挨拶してから一緒に暮らそうと思ったけどどうだろう? 
家賃の無駄とさえ思えてくる。 
また早いだろうか?

ぼんやりし過ぎたのか、気がついたら彼女が帰って来て、先にゆっくりお風呂に入ってもらい急いで夕飯の支度をすることになった。

食事が終わって良平さんにお礼が言いたいと言うのでメールアドレスを教えた。
長々とお礼の文章を打ち込んでるらしく、時間をかけて仕上げた後に送信していた。

『また遊びに来てね。一人でも、二人でも、三人でも。』
しばらくしてそう返信が来たらしい。

しばらく元気でいてくれるだろう。まだまだ大丈夫だ、そう思った。



生きて行くのにたくさんの人にかかわって、お世話になって、頼り頼られて、まったく知り合いのいなかった街にたくさんの大切な人を見つけることが出来て、自分は幸せだと思う。
この場所で何度も季節が繰り返されるんだろう。

良平さんの庭を毎年仕上げて、いつか、それが自分の仕事じゃなくなるかもしれない。
訪ねる家さえ、余所行きの家になって違う人が住む可能性だってあるから。

それでもそんな誰かがいた場所は自分の心と記憶の中にもずっと残る。

例え直樹が偉い学者になったとしても、やっぱり自分との思い出は可愛い子供の頃のままだ。
そんな思いはずっとずっとここで増えていくだろう。
そして同じように他の人の心の中でも自分と真奈がいつも仲良く笑っている笑顔を覚えていて欲しいと思う。

ずっとずっと長い間、まだまだ、二人で歩く人生は始まったばかり。

あの時消えそうだった人生がこんな道に戻ってこれたのも師匠のお陰だ。

大きな喪失感で空っぽになった心には、あの時とは比べられないくらいの大切な物がたくさん詰まって重たいくらいだ。

自分の人生に感謝しよう。
全ての出会った人に感謝したい。
そんな楽しいこれからの自分の人生に感謝しよう。

そして隣にいてくれる彼女にも。



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