お互いの距離は特殊な事情によりこんな感じなんです。

羽月☆

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2 新しくつながる頼れる大人の人。

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後ろから声をかけられた。

同じクラスの子がいた。
決して仲良くはなかった。
でもカメラを褒められて、嬉しくて。

壊された。

まるでそれが当たり前のように貸してと言われ取り上げられて、落とされた。
引力以外、重力以外何かが働いた。


それは単純な悪意にしか見えなかった。

もともと持ってるのものや着てるもの、いろいろと目をつけられていたのに。

なんで渡したんだろう。


レンズが壊れ、傷やへこみがあちこちにあった。
割れて飛び跳ねた欠片も全部大切に拾った。

唇を噛んで、堪えた。

「生意気なんだよな。」

悪意の理由をそう言われた。
話したことなんてないじゃないか、近くにもいないのに。
むしろ離れていたいのは僕の方だ。

絶対に負けない、そう思った。


でも、母さんには言えなかった。


写真を撮りにも行かず、取り込みもお願いせず、勉強をしてる自分に数日しておかしいと思ったらしい。壊れたカメラは丁寧に紙でくるんで引き出しの一番奥にしまって隠していた。


「今日も宿題?」

「うん。」

「写真は?」


「今度にする。」


「あんなに欲しがったのにもう飽きたんじゃないわよね。」

さすがにおじさんに悪いと母さんも思ったんだろう。
きっと次に来る時には上達したかなって聞かれるし。
写真も見せるからって、そう言ったし。
カメラが郵便で届いて、ちゃんと電話でお礼の連絡をした。
その時に楽しみにしててねって自分で言ったのだ。

壊したといったほうがいいのか、壊されたといったほうがいいのか。
迷った、いつまでも隠してはおけない。


「カメラ、落としてしまったら、壊れた。」

まるで誰のせいでもないように言った。

「修理できるかもしれないから見てもらいましょう。」

普通に落としたとは思えない壊れ方だから、見せたくはない。

「どうしたの?」

ゆっくり立ち上がり、包み紙のまま持ってきた。

丁寧に開いた母さんが黙った。

ゆっくり包み直された。

「おじさんに直接謝りなさい。」

「はい、ごめんなさい。」


自分の部屋に持っていった。
大切に使ってた、言われたことも守っていた、なのに。


その日のうちにおじさんが来た。

いつもは月に一回くらいなのに。それは週末が多いのに。
家にいなさいと言われ、母さんも楽しみにしてるのがわかるくらいなのに。
その日は全くの突然で、そんな気配はなかった。
きっと連絡したんだろう。
怒られるか、悲しまれるか。


「こんにちわ。」

顔は見れないから、小さい声で答えた。

「カメラを落としたんだって?修理してみようか?」

そう言われたから部屋から持ってきた。

母さんはなんと言ったのだろう。

本当に不注意だったのは自分だから、謝るつもりだ。

手にしたものをおじさんの目の前に置いた。

「大切に使ってたし、注意もちゃんと守ってたのに・・・ごめんなさい。」

ゆっくり確認するように開かれた包み紙。
自分ではそれを見ることは出来なかった。

「高いところから落とした?」

「はい、ごめんなさい。」

「そうか。もうだめかな?どうかな?まだ写真を撮りたいなら違うのをもってくるけど。」


もしまた壊されたら。
せっかく優しく言ってくれたのに、また目をつけられて壊されて。
そうなったらわざと壊してるんじゃないかと思われるかもしれない。

「誰かに壊されたんだよね。これは落としただけじゃこんな壊れ方はしないし。」

「僕の不注意です。」

「カメラのことはしょうがないよ。でもお母さんが心配するから。困ってる?」


「大丈夫です。自分がしっかりしてれば大丈夫です。でも、カメラはごめんなさい。」

「いいよ。新しいのを持ってくるから。」

顔をあげた。
僕がわざと壊したなんて少しも疑ってないし、大切にしてたって信じてくれてるおじさん。


「そうだ、カメラの先生もいるから時々一緒に撮りに行けばいいよ。今度紹介するから。」

「ありがとうございます。今度はちゃんと・・・・大切にします。」


「隠し事は辛いでしょう?困ったら誰かに相談したらいいよ。大人が必要なら、少しは役に立てるように努力するから。」

「ありがとう。」

母さんがほっと息をついてるのが分かった。
おじさんが大丈夫だよって言ってくれてる気がする。
そんな目で母さんを見てる気がする。

「じゃあ、また連絡するから。」

母さんが玄関まで見送ってお礼を言ってるのをその後ろで聞いていた。
笑顔で手を振られて。

息子・・・がいじめられてても全く動じないでしっかり話をしてくれるおじさん。
本当に息子だったらもっと心配する?
相手は誰かって聞いてこない?

どうかな?

もちろんおじさんに厳しくされた記憶なんて一度もない。
小さい頃は普通の父さんと変わりないくらい、そのくらい甘えてたみたいだ。
膝に乗ったり、抱っこされたこともあると思う。
そんな頃の記憶はあまりないけど、一度だけ母さんが夜中に見ていた写真があった。
全部は見てないけど急いで隠された写真にあれって違和感の残るものもあったと思う。
あれ以来どこかに仕舞われたんだと思う。自分が見ることは無かった。

だから本当に父さんだと思ってる。

友達は仲のいい親子もいるし、そうじゃないと言う子もいる。

僕みたいにたまにしか会えないと喧嘩なんてしてられないんだよ。
時間がもったいないじゃないか。


それからすぐだったと思う。紹介されたのは知り合いの写真が得意なお兄さん・・・より少し上、28歳だと言っていた。
城島(きじま)詠一さん。
黒ずくめの服とキャップ、背が高く痩せて見えるけど筋肉トレーニングを欠かさないゴツゴツした体らしいと、本人談。

一緒に写真を撮ってコツを教えてあげると言われた。

新しくもらったカメラは前のカメラに比べるとそれなりのものだった。
厚みも重さも大きさもぐんと大きくなったし、いろんな調整もできるようになってると言われた。

困った顔をしたら城島さんが一緒に教えるからと言ってくれた。

城島さんがおじさんに話しかけるのを聞いてるとはっきり敬語でかしこまった感じもあった。一緒に働いてるのかもしれない。
はっきり聞いたことはないけどおじさんは社長だと思う。
僕と母さんのぶんの面倒も見れてるし、お金持ちだと思う。
僕の家だと思ってたこの家も、きっとおじさんの家だと思う。

母さんは綺麗に掃除をして、大切に暮らしてる。
まるでいつおじさんが来てもいいように、おじさんが居心地がいいように。

詠一さんと二人で外に出た。

「どんな写真を撮ってたの?」

「動物と植物が多いです。知らない人をいきなり撮らないように言われてたから。」

「そうだね、じゃあまず植物にしようか?結構いろんな機能を使えるからいじり甲斐もあるよ。」

「はい、よろしくお願いします。」


この間とは違う公園に来ていた。
週末の午後、家族で遊びに来たり、友達と来てたり、人がちらほらといる。

「誰か友達で一緒に写真を見せ合う子はいるの?」

首を振る。

「まだ、誰にも言ってなかったんです。もっといい写真が撮れるようになったらって思ってたから。」


「そう。仲間ができると一緒に行けるし、感想を言い合えるし、比べられるし、いいよ。」


詠一さんの持ってるカメラは自分のよりもっと高そうだったし、重そうだった。

「詠一さんは何を撮るんですか?」

「車で出かけて朝の景色とか夕方の景色とか。いつも一人で行くけど、だいたい同じとこにはカメラを抱えた人か、近くを散歩する人がいるよ。そんな人にもっといい場所を聞いたりするんだ。」

「カメラの先生って言われたんですけど、プロなんですか?」

「まさか、趣味だよ。一人でふらりと行くのが向いてるんだ。仕事にしたらいろいろ条件がつくでしょう?面倒だよね。写真はあんまりお金にはならないよ。今の時代は特にね。」

そう言った後、ハタと思ったのかもしれない。

「あ、でも、わからないか、仕事にしてる人もいるしね。」

気を遣って言われたのだろう。
子供の夢をつぶしたらって。
もちろん仕事にしたいとかは全然思ってない。写真の学校に行きたいなんて思ってない。
一人で感動することの他に母さんやおじさんとか、一緒に見て楽しめたらって思っただけだ。

「大丈夫です、僕も趣味にしたいと思ったんです。おじさんの写真がかっこよくて、うらやましくて。」


カメラを両手で抱えた。

「よし、趣味にするにも上手いに越したことはないからね。」


それからきれいに咲いたカラフルな花壇に二人で向かって座り込んだ。
でもすぐにカメラを構えるんじゃなかった、難しい言葉でいろいろと説明された。
覚えられるとは思えない、難しい理論だろう。
実際に画面で写真を見ても小さすぎて・・・・。

「何度か繰り返したら覚えるし、そうしたら自分でも分かるようになるよ。」

「ありがとうございます。」

そう言われて、いろんな方向角度からカメラの調整をいじりながら写真を撮った。


近くで撮る花、離れて撮る花と緑。
今日はその2つにチャレンジだと言われた。

ぶつぶつとつぶやきながら撮る。


二時間くらいで戻った。
おじさんと母さんは二人で話をしてたらしい。僕の撮った写真を見ていたみたいだ。


詠一さんにも見てもらった。

早速さっきの写真を取り込んでもらって説明を受けた。大きな画面で見るとよくわかる。
ちゃんと見せたいものが浮き上がる感じだった。

「風斗くん、楽しかった?」

「はい、丁寧に教えてもらいました。」

「よかった。城島の時間のある時にまた教えてもらえばいいよ。」

「来週末にまた約束する?」

「いいんですか?」

「天気がよかったらここに迎えに来るから。前の日に連絡するよ。」

「はい、よろしくお願いします。」



それからも週末を使ってレッスンしてもらった。最初のとき以外は部屋に入ってくることもなく、携帯で呼び出されて一人でマンションの玄関にカメラを持って降りいく。

母さんにお金をもらって時々お茶やジュースを飲みながらベンチに座って話をしたり。


あのときの公園は避けていた。

一番広くて、花壇も木もたくさんあって、噴水もあって。気に入ってるけど詠一さんと一緒でも近寄らなかった。

それなのに、ベンチで撮った写真を見ながら教えてもらったことを復習してたとき、離れたところからこっちを見てる視線に気がついた。

思わずカメラを掴んだ手に力が入った。

そっちを見たのに気がついた詠一さんに聞かれた。

「友達?」


「クラスの、人です。」

あのときは悔しくて悲しくて、憎らしいくらいで、負けないって思ったけど、詠一さんが横にいる今は少しだけ体を寄せてしまった。
心が怯えて一番近くにいた大人にすり寄った。
それでもあいつに気がつかれないくらいさり気なく。

あの時に向けられた悪意はカメラを通して自分にも真っ直ぐに来た。捨てぜりふもまったく理解できない、反省点のわからない悪意はどうにも出来ない。

詠一さんがポケットから携帯を出して操作する。

「ごめんね、仕事の連絡がきたから、ちょっとだけ。」

二メートルくらい離れて背を向けられた。すぐそこにいるのに途端に心もとなくなる。
カメラの画面を見るふりでうつむいて、でも視界に入ってくる子供の足がないかしっかり見ていた。

「ごめんね、終わったから。」

そう言われて、視線を上げたけど詠一さんしか見ないようにした。


誰も僕に声をかけてくることもなく、いつものように家まで送ってもらって別れた。

新しいカメラを見られてしまって、少し大人に寄っていった自分まで気が付かれたかもしれなくて。
今度あんなことされたら、きっと歯向かってしまいそうだ。
でもすぐに後悔する自分も想像できる。
きっと敵わない。
体格差とかそういうのじゃない、悪意の強さだ。
あんなことをされても、じゃあ同じ目にっていうほど自分は憎しみを持てない。
だからきっとすぐに負けると思う。

でも、あれからカメラ以外の事でも絡まれたりすることはなくなった。
視線すら合わなくなったのだ。
それはあの時一緒にいてくれた詠一さんのおかげだと思う。
お父さんがいないはずの自分に立派な大人がついてると思ったからだろう。


上達してくると電車に乗って一人で出かけて行くようになった。二回くらい詠一さんの車に乗ったこともある。かっこいい車だった。ビュンビュン走れそうだけど子供が横にいるから安全運転で行くよ、そう言われた。

海で遠くの船や灯台を撮ったり、夕日を撮ったり。
ご飯も一緒に食べて。
母さんにもらったお金で払おうとしたけど止められた。


もし、おじさんに他に子供がいたとしたら、仲良くなれるんだろうか?
反対に憎まれてるかもしれない。
おじさんを介してつながる誰か。
勝手にお兄さんだと思ったり、それが詠一さんだったらいいのにと思ったり。



そして今もカメラが大好きだった。
あれからもっと高いカメラをもらった。
大学の入学祝いでもらったのは新品のカメラだった。

大学のサークルでカメラ好きの仲間もできて、一人で撮りに行くより誰かと行くことが増えた。
時々は違う大学のグループと混じり合ったり。


僕が大学生になって母さんが仕事を始めた。
一人暮らしを勧められて、母さんも一人になったから。

もしかして・・・・。

僕のいなくなった場所におじさんがいたりするかもしれない。
そんなことを思った。

なかなか帰ることはなかったけど、こまめに連絡はしていた。電話もあれば文字だけでも。


母さんも楽しく働いてると言っていた。


時々はおじさんや詠一さんや、他にも二人くらい紹介してもらった大人の人と連絡はとってる。困った事があったらって言われたけど、そんな相談じゃなくて、ちょっとした報告。母さんが入院するときにいろいろお世話になった大吉さん。
大学入試の前に苦手な数学を見てもらった武田さん。

就職のときは皆に相談した。
他人なのに親身に相談に乗ってくれた頼りになる大人達。
専業主婦の母さんより、先輩より、もっと大人にと思って。



母息子の二人家族の形は変わってない。
僕だけじゃなくて、母さんもやっぱり『黒羽』のままだった。
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