お互いの距離は特殊な事情によりこんな感じなんです。

羽月☆

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6 知り合いがそこにいた事実とそれにまつわること。

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駅で温かいコーヒーを飲みながら話をする。

まだまだ連休はある。
あと三日ある。

どうせお酒は飲めないし、許された範囲の健全なデートだから最後の日にランチを一緒にとることにした。

決まった予定は一つ。
明日と明後日は何をしようか。

テーブルに乗せた指がふれた。
軽く、本当に少しだけ。

それだけなのにびっくりするほど敏感に感じて、視線を落とした。

手は動かさないまま指だけ軽くグーになった二人。
パーにしたらまたふれるだろう。
でもそのままの距離のまま。
指も伸ばされないまま。


「杏ちゃん、連休明けは早速忙しくなるの?」

「はい、いろんなセミナーに出て、エントリーもどんどんするようです。なんだか疲れそうです。毎日スーツに黒い靴かもしれません。」


「週末もセミナーあるんだよね。」


「そうですね。決まらないと週末もあちこち行くようなんですよね。」


「じゃあ、貴重なお休みだね。」

「はい。」


彼女が違うテーブル見ていた。
その視線をここに戻したくて、指を伸ばして少しだけ手の甲をノックした。

彼女が急いで視線を戻してくれた。

その手を軽く開くようにして人差し指で掌に文字を書いた。

『か・わ・い・い・だ・い・す・き』

目を見て一文字づつ伝えた。
伝わったと思う。

照れながら同じように掌を開かれて、お返しをされた。

『だ・い・す・き・で・す』

最後の文字を書き終わる前にゆっくりその指を包んだ。
よく見ると手をくっつけた二人。
でも指一本だから、あんまりバレない。

そんな甘い時間を過ごしてコーヒー屋を出た。

「明日は何してるの?」

「特には、家にいると思います。」


「電話するかもしれない。」

「はい、いつでも。」


「風斗さんは何をする予定ですか?」 

「僕も特には・・・。」


改札で手を振って別れた。

手を振る笑顔を見て、手を振り返し、お互い自分の路線に向かった。
約束は最後の日。
明日電話はするだろう。
それは自分の部屋からじゃないかもしれないと思った。

帰りのコンビニで早速写真をプリントした。
ちゃんとデート場所の写真もした。
その二枚をソファの後ろの壁に貼り付けた。
友達に見られたらなんと言われるか。
『にやけすぎだよ。』
『やられてるな。』
そんな康介たちの声が聞こえる。

いいじゃないか、初めての彼女なんだから。



そういえば、大吉さん・・・でもあの場所に大吉さんがいるなんて、似合わないかな?
やっぱり人違いだろう。
大吉さんには知られたくない、何言って揶揄ってくるか、本当に中途半端な大人の視線で遠慮なく揶揄ってきそうだし。



初めてのデートは大成功だったと思う。
ちゃんと気持ちを伝え合ったから、もう誤解も勘違いもない。
杏ちゃんがずっと話しかけたかったと思っていてくれたのがうれしい。

そして、一年。何かの縛りがあるらしい一年、それはしょうがない。
まだ大学生でご両親と一緒に住んでるし、そこは女の子だから厳しいんだろう。



ふわふわの気分のまま眠れて、そのまま目が覚めた朝。

いつものようにコーヒーを飲みながら洗濯をしたり掃除をしたり。
このまま休みが永遠に続けばいいのに。
すっかり体が休みモードだ。
五月病と言うらしいが連休明けに仕事にいくのが嫌になるらしい。

わかるわかる。実に分かる。

そうは言っても去年頑張って就活した結果だし、仕事自体も周りの環境も特に問題ないと思う。だから早起きと通勤電車が面倒なだけだ。

いつものやる事を終わるとやっぱり暇になる。
テレビは通常モードと変わらず、いつも見る朝の番組がついている。
特別な連休でも働いてる人はいるんだから。

朝ご飯を食べながらぼんやりとニュースを見てる。
そこにある携帯をちらりちらりと見る。

電話するかも・・・そう言ったけどまさか午前中だとは思ってないだろう。
そこは我慢をした。
朝ごはんも終わり、特別に目新しいニュースもない平和な日。
今日もデート日和だと思う、もったいない気がするし、着替えをして出かけた。


それでも少しふらふらとして服を見たり本屋に行ってイベントの本を見たり。
就活中も気分転換は必要だから。
確か自分だって写真を撮りに出かけたりはしていた。
一人で夢中になって写真を撮っていた。
目の前の景色を自分だけが切り取る権利があるように、そんな気持ちでシャッターを切っていた。
別に一人じゃなくてもいい、写真は特別じゃなくても二人で一緒に行ったという思い出になるくらいのものでもいい。
ちょっとふさぎ込んだ心を明るくしてあげて、自信がなくなった杏ちゃんを元気づけて。
そんな役割なら喜んで。


手に取ったイベントの本には先の予定までびっしり書いてあった。
梅雨に入り、梅雨が明け、暑い夏の頃まで。
2、3ヶ月先の事だ。


『ハッピーな週末を過ごしてるとすぐ来るよ。』 
そうつぶやいた郁弥のセリフを思い出した。
・・・やっぱりまだまだ先の事にしか思えないよ。


結局ぼんやりしてる風で、でもしっかりと彼女の最寄り駅に向かい乗ってる電車が動いてる事実。
ランチは無理でもコーヒーを飲んだりとか・・・・。


『杏ちゃん、何してる?』

すぐに返事は来た。

『やっぱり特に何も、一人で家にいてテレビを見てダラダラしてます。』

『お昼は?少しだけ駅までこれそう?』

少し返事がくるのに時間がかかった。

やっぱり何もしてなくても家族と過ごす時間が優先だったり、行き先と誰に会うかをきちんと言わないといけないんだろうか?
大学生だとはいっても一人娘だから。


『朝が遅かったのでお昼はまだです。ダラダラがバレてしまいますね。どこの駅ですか?』


『杏ちゃんの最寄り駅にもうすぐ電車が着きそうです。駅でコーヒー飲んでるから会える?急がなくても全然いいよ。本を読んで待ってるから。』


『あと20分くらいかかります。落ち着いたら場所を連絡してください。』

そう返事が来た。

『友達と駅でお茶してくる。夕飯までには帰るから。』そう言ったのかもしれない。



駅について降りてキョロキョロする。

連休で家の外には出ても遠出する人ばかりじゃないから。
駅前のコーヒー屋さんは普通に混んでいた。
それでも端っこに空いてる席を見つけて座った。

連絡して待つ。

夏に向けた楽しそうな予定をこれでもかと乗せている雑誌を手にして、見たままレジに行き買ってしまっていたのだ。
そんなのは買うまでもなく調べられると思うのに、そんな判断もせずにレジに向かったらしい。

落ち着け落ち着け。


都内近辺のお出かけ予定の本で、決して夏休み旅行の提案はなかった。
そうじゃなくても無理だとは思うけど。
一週間の夏休み、あの四人でも出かけようなんて言ってたし。

そのころ就活はどうなってるだろう?

自分はそのころには決められた。
男子と女子、どっちが有利なのかも分からない。
同じ会社は無理でも同じ駅を使うくらいだったらいいのになあ、そんな事も思ったり。

そんな事で選べるなんて甘い物じゃないけど。



雑誌をテーブルに置いて、開いたページよりもはるかに先の事に思いを馳せてたら声をかけられてビックリした。

「風斗さん、お待たせしました。」

びっくりして急いで見上げた。

「ごめんね、急に。なんだか何もすることが思いつかなくて。」

「いいえ。」

彼女がさり気なく周りを見て正面の席に座る。

ああ、ここは彼女の地元だから、知ってる人もいるのかもしれない。
大きな駅でもない。そんなことはあり得る。


「場所を移動する?」

「いいえ、コーヒーは買って来たのでまだ大丈夫です。お昼はどうしたんですか?」


「朝軽く食べて、お昼はまだ食べてない。少し時間をずらしてどこかでお昼にする?」

「はい。」

「ご両親に許可をもらってきたの?」

「何がですか?」


「誰とどこで会うとか、ちゃんと伝える家族なのかなって思って。」

「いいえ、そんな過保護じゃないです。無断外泊もないし遅くなることも滅多にないです。その辺は信じてもらってます。それに両親とも出かけてます。起きたら二人ともいなかったんです。」


そうなんだ。じゃあ時間がかかったと思ったのは気のせいだったのか。


雑誌を一緒に見て行きたいページの角を折る。

時々彼女の視線が店内を巡るのに気が付いた。
さり気なく周りを探ってる雰囲気もある。
偶然に背中のバッグを見る振りで後ろを向いたり、携帯を見る振りで左右を見たり。
気になるとすごく不自然に見えてしまう。


「どうかした?誰か知ってる人がいる?」

 小声で聞いた。

まさか元カレ、なんて言いださないよね。
最寄り駅まで来たのは間違いだったかもしれない。
少し動いて大きめの駅に行った方がいいかもしれない。

こっちに視線は戻ったけど、小さく上がってた肩が落ちた。
がっかりしてるような顔だった。何に?

手はさっき折ったページの角を触ってる。


「気のせいかもしれないんです、本当に。」

何が?

続きを待った。

「昨日、お花見をしてたところで見覚えのある人を見た気がして、そのあと行ったコーヒー屋さんにもいました。その二か所だったらまあまあ偶然もあると思います。」


「うん・・・・まあ、あるかもしれないね。誰?他の場所でも見かけたの?」


「それが最初に会ったあの遠出の日です。」


「ええっ、どこ?まさか現地で?」

小さく頷いた、揺れる頭。
いつ気が付いたんだろう、そんな感じはなかったと思う。
でもあの遠出の日は気にしないとして、昨日のコーヒー屋???
全然そんないぶかしがる感じもなかった気がする。
テーブルの上で文字を書いてじゃれてたのに。
少なくとも自分は目の前にしか集中してなかった。
それなのに気が付かなかったなんて。


「ごめんね、全然気が付かなかった。誰?どんな知り合い?」

ストーカー?そんな存在がいるの?それは怖いとしか思えないだろう。


「昨日別れて一人でここまで帰ってきて。その間は怖くて振り向かなくて急ぎ足で帰ってきたんです。まだそんなに遅くなかったから大丈夫だろうって思ってたし。」

「家について、部屋から外を見た時に後姿を見た気がしたんです。でもそんなに特徴的な姿でもなくて、なんとなく雰囲気が似てるなあって。あれから写真を探したんですけどどれにも映ってはなくて。」


「多分気のせいです。」


そう言い切った、そう思いたいだろう。


「ここにはいないんだよね。」

「はい、今日は全然です。」

「どんな感じの人?男の人でしょう?同級生?」

「知らない男の人です、若い感じですが、20代後半くらいです。ちょっとだけ不良っぽい感じで二人か三人くらいの仲間と一緒にいるんです。キャップをかぶって金髪が見えてました。」


「昨日の広場ではどの辺にいた?」


「風斗さんは背中を向けてる感じで、間に三グループくらい入ってました。だから話は聞こえてないと思います。かすかに見えるかどうかです。どこでもそうです。遠目に見るくらいのギリギリの場所にいて向こうも話をして楽しそうだったり。」


そう聞いて・・・・もしかして・・・・確かに・・・・・・。

上を向いて唸りながら考える自分に申し訳ないと思ったのかもしれない。


「今日はいないし、気のせいです。本当に全然・・・・・、大丈夫です。」

そんな訳はないのに。
その不安が取れるのなら・・・・・。
どんな反応をされるのか、心配ではあったけど。


携帯を出した。

半年くらい昔の写真だけど、あったと思う。


アルバムをスクロールして探し出して、やっぱりそうかもしれないと自分でも思って。
そうだったら彼女は安心するだろう。
その目的は自分だろう。
そして何でそうなったのか、考えるまでもない気がしてきた。


「もしかしてこの人?」


まさか自分が心当たりがあるなんて思いもしなかっただろう。
そして見せられた写真が偶然映り込んだ写真でもなく・・・・。


そこには仲良くお酒を飲んだ夜、いろいろと無駄だとも思える人生訓を披露された日の二人の写真があった。
自分の経験を基本に教えられても全く参考にならなそうな話ばかりだった。
相手はもちろん大吉さんだった。
勝手に真っ赤になって嬉しそうに肩を組まれて携帯を取り上げられたんだ。

彼女がじっくり見て、驚いた顔をした。

そうだったらしい・・・・・大吉さん・・・・・。

「そうなんだ。この人?確かに僕も似てる人をあの広場で見た気がして。でもそんな場所が似合う感じじゃないし違う人だと思ったんだけど。」

「似てる気はします。キャップが、同じ気もするんです。」


写真の大吉さんはシンプルな黒に何かの文字が書いてあるキャップをかぶってた。
どこかのブランドのロゴかもしれない。
お気に入りかもしれない。

たいていキャプをかぶってた。違うのも見た気がするけど、あんまり思い出せない。


写真を撮るのが趣味と言いながら全然観察眼が身についてないと分かった。
ガッカリだなあ。


でもそんな反省をしてる場合じゃない。
もっと彼女のためにできることが、しなくてはいけない事がいろいろある。

「ごめんね・・・ちょっと確かめる。」

彼女にそう断って携帯を操作する。

『大吉さん、最近変な行動してませんか?バレてます、不安がってます、ちゃんと答えてください。心当たりがないなら連絡ください。』

『こんにちは、詠一さん、急いで用件だけ失礼します。この間教えた数日前の予定の事、誰かに、特に明石のおじさんに伝えましたか?それは別にいいです。でもそれ以外に誰かに何かをお願いしましたか?昨日も。相手が怖がってるんです。心当たりがあったら教えてください。』


さすがに詠一さんへの文章は長くなる。
大人としての礼儀が見える。
大吉さんにはいいだろう、向こうもそんなものには無縁なんだから。

そしてそれは明石のおじさんがいて初めてそうなるんだろう。
まさか大吉さんの暇つぶしなんてことないよね?

大吉さんからはすぐに返事が来た。

『楽しそうにデートしてたね。偶然ってすごいね、邪魔はしなかったんだよ。』

どこまでバレてるのか、これじゃあ分からない。
あえてそんな返事にしたんだろうか?

詠一さんの返事を待った。


正面を見た。
少しは不安は消えただろうか、でも微妙な表情をしてる。
当たり前だろう、何で?って思われるだろう。


「ごめん、この人は知り合い。何でそんなことになったか、今問いただすから。不愉快な思いをさせてごめんね。すごく揶揄ってくる大人げない人だから・・・・・・。」

それは本当の事だ。

少しして待っていた返事も来た。
仕事中だったかもしれない。


「こんにちは。こちらも返事だけ。心当たりはあるから、相手のお嬢さんの不安を取りのぞいてもらいたい。それ以上の謝罪はもう少し待ってほしい。申し訳ない。」


やっぱり、一人で全部僕に教えるわけにはいかないらしい。
そうなるとやっぱりおじさん、まさか母さんが頼んだんじゃないだろう。

ため息が出た。何でだろう?分からない。
そんなに心配だろうか?信じてもらえないだろうか?
他に何だろう?


「・・・風斗さん。」



「ごめんね。本当にごめん。全部僕の知り合いのせいだと思う・・・じゃなくて全部僕のせいです。仕事中で詳しくは教えてもらえなかったけど同じ人だと言うならさっきの写真の人の・・・・悪戯みたいなものだと思う。本当にごめんなさい。」

さっきまで楽しく先の事を思ってたのに。
なんで?なんでこうなるんだよ。

でも今日会わなかったら彼女がずっと不安に思ってたかもしれない。
その内忘れるとしても、何かあるたびに思い出して不安に思ってただろう。
彼女の分の不安が一日でも早く消えたなら、いいや。
そう思おう。


「よく分かりませんが、私はホッとしました。正体が分かればいいです。いたずらだと分かればいいです。それに変な目つきだったりはしてなかったです。だってすごく楽しそうな笑顔で同じ空間や場所にいたくらいですから。だから大丈夫です。」


不安は消えたと思ってもいいだろうか?

「うん。ありがとう。」

答える自分の声は弱い。

テーブルの上の浮かれた雑誌が痛い。
ゆっくり閉じた。

途中だった。まだ本格的な夏のイベントのページまではいってなかった。
一人でめくるよりずっとずっと見るスピードは遅かったから。

閉じられた雑誌の表紙を見てたら、彼女が開いた続きのページ。


「本当にいろいろあり過ぎて、迷いますね。これ全部楽しんだらお小遣いはなくなるし、太りそうだし。それに本当に楽しめるのかなあ、もう採用見送りの通知だけがたまって人間不信になってたらどうしよう。」


そう言う彼女を見ていた。

「そんなときも強引に連れ出して気分転換させてください。お酒も入ってないのに青空の下で泣き出したら慰めてくださいね。」

笑顔で言われた。

いいの?普通に話しを続けていいの?

「逆に風斗さんが愚痴がたまってるかもしれません。そうしたら私が聞きますよ。」


「ありがとう。」

うれしい、失礼な観察を無かったことにしてくれたらしい。

雑誌の端を持つ彼女の手をのツンツンとつついた。
途中分かったみたいだ。掌を開いてもらった。


「大・す・き」

昨日と同じように書いた。短くまっすぐ伝わるように。

うなずかれた。

彼女には許されたみたいだ。
他に自分はまだ、はっきりさせたいことはある。

だって実家までついて行く必要があった?・・・まさか勝手に家まで送ったつもりとか・・・いやないよね?


「じゃあ、二人で青空の下愚痴を言ってスッキリしよう。でもありがとうって言えるくらいの気分だといいよね。」


「はい。」



結局昨日より遅くまでそこで話をした。
さすがに掌の・・・・は一度しかなかったけど、文字にも声にもしなくても何度も可愛いと思った。
大好きと伝えたかった、きっと隠せてないから伝わったと思う。

あとは・・・・。



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