お互いの距離は特殊な事情によりこんな感じなんです。

羽月☆

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7 ちょっとだけ早く教えてもらった事実について。

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電車に乗って実家に帰った。

詠一さんからは連絡はなかったけど、明石のおじさんからあった。

『実家に帰ってこれるかな?』

いつとも何とも書かれてなった。

『今から行きます。彼女の最寄り駅からだから1時間くらいかかります。』

そう返事した。

『分かった。じゃあ、気を付けて。』

そう返された。
素っ気ない返事にちょっと怒りをのせたのに、それを感じても心配する一言をのせて返してくれる。
いつだって冷静なくらいに落ち着いていて、そこが頼もしいとも思ってた。

今日母さんと一緒にいたんだろうか?
それとも詠一さんから連絡が来て急いで母さんと相談したんだろうか?


一時間もかからずに実家にたどり着いた。

玄関で声をかけた。

「お帰り。」

母さんが迎えてくれた。
おじさんから当然聞いてるんだろう、そしてもう来てるんだろう。


一緒にリビングに行った。


「お帰り風斗君、お邪魔してます。」

「こんにちは。」


いつもの席に座る。
テーブルにはしっかりとペアのビアマグがあった。
ただいれられてるのはビールじゃないみたいだ。

意味がないよ・・・・・。


それでも炭酸みたいだから少しは美味しく感じられるだろうか?


そのマグに手をかけたおじさんに視線を向けた。

僕にコーヒーをいれた母さんがどこかへ行った。


「迷惑をかけて悪かったね。」

さらりと言うおじさん。
それだけじゃあ納得がいかない、そう自分の顔が言ってるんだろう。


「風斗君、来月誕生日だよね。お母さんの年は知ってる?」

は?

確かに梅雨の季節の風の強い日に生まれたらしい。
6月生まれで『潤』をつけようと思ってたと聞いたことがある。
その時に誰が考えたんだろうって思った、そんなことまで思い出した。


「そろそろ全部伝えたいって思ってたんだけど。」

「何をですか?」

思わず自分の体温が上がる。
大吉さんの行動を説明してもらおうと思ってたのに、それよりも自分と母さんにまつわるおじさんの『事情』を聞きたいと思った。


母さんが僕を生んだのは25歳だ。
母さんの年は自分の年を足せばいい。すぐわかる。


「お母さんと出会ったのは本当に偶然だったんだ。」

そんな話を僕のプレゼントしたマグを揺らしながら始めたおじさん。
母さんはどこかに行ったまま。


喫茶店で出会い、何度も同じ店に通ってた二人、お店の人が気を利かせていろいろ教えてくれて出会う確率をあげてくれたらしい。
おじさんは仕事の合間にちょっと息抜きに。
母さんも仕事に疲れてゆったりとするために。
そして一人でゆったりと過ごしてた二人は隣同士のカウンターの席から一つのテーブルになり、一緒に来るようになるまで時間はかからなかった。
ただおじさんの仕事は敵が多かった。
一緒にいたいと思う頃には内緒にした方がいいと思うようになったと。


なぜ?敵が多くても、なぜ?


そう思ってみたけど、そこは説明はなかった。

部屋で会うようになった、僕が出来た。

母さんは産みたいと思い、おじさんは産んで欲しいと思った。
母さんが仕事を辞めるころに引っ越して会う場所は変わった。
それは母さんの実家に近い所だった。
僕のおばあさんが子育てに協力してくれたらしい。


おじさんは・・・・・?

「もちろん一緒にできるだけ手伝った・・・というか邪魔だったみたいだけどね。
僕は手土産で一人息子の関心を引き付けるだけ。そうしないとなかなか笑顔も見せてもらえなくて、毎回知らないオジサンになるからね。」

そう言った顔が本当に困ってる顔で、思わずごめんなさいと言いそうになった。

「それでもさすがに覚えてもらえるようになったら懐いてくれたし、甘えてくれたし、笑顔満点で。帰る時は泣いて寂しがってくれるし、うれしかったなあ。」


「その頃は子育ても手伝えると言うか、相手も出来たからね。お母さんも少しは楽になってたかもね。」

ただ、お祖母ちゃんが急に亡くなったらしい。
最後まで心配をかけたんだと思うとすまなそうに言う・・・・おじさん。

「何て言うと今でも心配してるって声が聞こえそうだけど、本当にいい人だったよ。
半端な自分の事も含んでくれて。」

しみじみと言われた。


今までのところで驚くところはたくさんあったのに、なんとなく良かったと落ち着いた気持だった。
むしろ誰かの幸せな家庭を傷つけたんじゃなかったとホッとして、詠一さんがお兄さんだと思ったのは違ったのかと残念に思ったり。


「そんな事を探られる視線は全くなかったけど、どう思ってたのかな?図々しいおじさんだって思ってなかったのかな?」

そう嬉しそうに聞いてくるおじさん。


「母さんと僕が『黒羽』のままなのはおじさんに別の家庭があって、そんな事情だからだと思ってました。もしかしたら詠一さんがお兄さんだったりして・・・・とも。」

「ああ・・・・それはないよ。そんなにモテないよ、うれしいような・・・複雑だなあ。本当にそんな事情じゃなくてね。籍はあと少しはこのままだと思うけど、そのうちにちゃんとするから。仕事の区切りがついて、いいなと思った時に。大分遅くなったけどね。」


その仕事が何か教えてはくれない。
でも・・・・。


「詠一さんは仕事の部下ですよね?」

「そうだね、下で働いてくれてる中でも信頼できるいい奴だし、写真は上手いから紹介したんだよ。残念だけど自分の息子じゃないから義理にもお兄さんじゃないよ。でも本人は喜ぶんじゃないかな?」


「本当にお兄さんだと思ってます。だから今回の事も聞かれるままに教えたんです。口止めはしなかったけど、まさかおじさんに報告されてるとは思わなかったから。」


やっと話が彼女の事に戻った。
とりあえずそっちも言いたい。今なら怒った気持ちもちょっとくらい出してもいいだろう。

離れて暮らす父親として心配したんだと言われたら納得しようとも思った。
息子の成長を見たかったでもいい。


「そうだね。うっすらとそんな事を聞いて、お願いしたんだ。そんな仕事はあいつには向いてなかったのかな、もっといい人選もなかったのかと悔やまれるよ。」

「どうしてですか?彼女は最初の日から、ここに来た次の日もって言ってました。家まで付いてこられたらさすがに不気味です。二日だとしても結構な時間です。」

大吉さんは暇なの?

「それは一応・・・本当に偶然出会った普通の子だと確かめられれば良かったんだ。ほんとに気の回しすぎかもしれない、堂々と守れない分、余計な邪魔がないようにって、そう思ってたんだ。」


「何でそう思うのかが分からないです。これが結婚相手とかならまだわかるけど、初めてちゃんと会うくらいの相手だったのに。それとも今までもどこかで・・・見守ってくれてたんですか?」

「時々だよ。あくまでも遠くから、ちょっとだけ。」


何かあるとすぐ相談に乗ってくれた、助けてくれた。
そんなに誰かを、何かを邪魔だとか思ったこともない。

そう思ったら一度だけあったあのカメラのトラブルを思い出した。

あの後本当に近寄ってくることがなかったあいつは逆に自分を避けていたようにも感じた。
もしかしてカメラの事を問いただして、大人が介入したんだろうか?

分からない、今更の昔の事でもある。
結果あの時はすごく助かった。
カメラの事だけじゃなくて普段の学校の生活でも安心できた。
それに自分だけじゃなくて他の子もちょっかいを出されなくなった気がした。
そうちょっと大人しくなった感じだった。

何かがあったなんて思ってもなかった。

ただ安心してた、そしてそれが普通だと思ってたから忘れてた。


だから忘れよう。昔のことはいい。


「大吉さんに実家まで後をつけて報告するようにお願いしたんですか?」


「さすがにそんなつもりはないよ。ちゃんと送って無事に帰れるようにって。あいつなりにナイト気どりで張り切って可愛い子を送ったらしいけど。」


まさか本当に送ったの?僕の代わりに?大吉さん、喜んで言われたとおりに?
大人がすることだろうか?
心配し、お願いし、お願いされ。呆れるしかないと思う。

彼女にもいつか紹介する機会があったら教えたい。



「ストーカーとか、そんな感じじゃなくて楽しそうに数人で後をつけてくれたらしいです。だから変な視線じゃなかったって、でもさすがに繰り返し三回も同じところにいて、家まで付いてこられて怖かったらしいです。謝って許してもらいました。」


「知り合いが揶揄いたくてふざけたんだって説明しました。僕も途中一度だけ似てる人だなあっって思いましたが、まさかですよ。」

「申し訳なかった、謝ってほしいし、もうしない。約束する。その代わり今まで通り困ったら相談してほしい。」


「当たり前です。何でも報告します。今までより直接報告します。回りくどい事をされるくらいなら・・・いいですよね。」お父さん、とは続けられなかった。

「待ってる。」


「そんなに困ったことなんてないです。」

「そうだよね。もう小さい子供じゃないしね。」


「おじさん・・・・・・いっしょに住めなくても『お父さん』と呼んでも良かったんじゃないですか?」


「それは、そうだね。小さい頃はたまにそう呼んでくれてたけどね。」


それは記憶にない。
どんな気持ちだったんだろう、母さんも、おじさんも、お祖母ちゃんも。

「母さんが幸せそうだったから、辛そうな顔を見たことはないです。離れててもいろいろと相談にのってもらいながら子育てをしてきたんだろうって思ってたし、この家もおじさんの家ですよね。」

やっぱりまだ『おじさん』だった。
そうすぐには直らない。

「それはほとんどお祖母ちゃんのお金だよ。養育費みたいなものは渡してたけど、お祖母ちゃんが考えて残してくれたみたいだね。」


そうだったんだ。記憶にないのが申し訳ない。


母さんが部屋に戻ってきた。おじさんが頷いた。
話はだいたい終わったよという感じだろうか?


「母さん、昔夜に見ていた写真が見たい。もしかしてお祖母ちゃんとか、若いころの二人が写ってるんじゃなかった?」


そう言ったらまたどこかに行った。

手に持って来たアルバム。
多分こんな感じだったと思う。

開いてみた。

そうだった。

懐かしい写真はやっぱり記憶にないころのものだった。


若いじゃないか、おじさん、母さんも。
当然だろう、少なくとも母さんの年は今の自分よりちょっとだけ上なだけだ。

本当にお父さんと呼んでたんだろうか?
安心しきった笑顔の小さい自分が膝に乗ったり抱っこされてる。
母さんも写ってるってことはお祖母ちゃんが撮ってくれた写真だろう。

お祖母ちゃんとも会えた。

今のおじさんくらいの年だろうか?

笑顔になる、子供の自分の笑顔を見て笑顔にしかならない、それなのに二人が明らかにウルウルとし始めて。それを見たらつられて・・・。


息を大きく吐いてこらえた。
携帯を出して数枚写真を撮った。写真の写真。一部が光ってしまうのはしょうがない。
大切な笑顔は写ってる。

「大吉さんは顔バレしてるのに、他にいなかったの?」

「さすがに働き方改革なんてものがあってね。そういう無理を喜んで聞いてくれる人もいないから。」

確かに大吉さんなら面白がりそう。
願わくばあのテーブルの手文字の事は見えてませんように。

「風斗、可愛い子に好きになってもらえたのね。いい子みたいじゃない。」

母さんから来たパンチ。

「・・・何で知ってるの?」

「にわかスパイが写真付きで報告してくれるから。これも一緒に選んでくれたのね。」

テーブルのマグを指す。
全部知ってたんだ。

「そうだよ、いい子だよ。名前とかは?報告きた?」


「うん、バッチリ。会話を聞いてたらしいからね。」

「じゃあ、そう言うことです。」

「仲良くね。」


そう言われた。質問もないらしい、年も大学もきっかけも今後の計画すらばれてるんじゃないだろうか?もう・・・・。


それに引き換え母さんの秘密主義は凄い。
20年以上黙ってるなんて。
ありえない。

でもあえて聞かなかった自分もすごい。
勝手に想像して納得したんだから。



夜遅く実家を出て自分の部屋に帰った。


早速杏ちゃんには報告した。

「なんだか変に伝わったみたいで、過保護な親の意見をいたずら好きの知り合いが真に受けて、本人は杏ちゃんを家まで僕の代わりに送り届けたつもりらしい。本当に悪気はなかったから、皆に謝られた。ごめんね。本当に迷惑かけました。」


そう言った。


「大丈夫です。」



詠一さんからも人材不足を嘆く謝罪が来た。
教育しておくとあったからよろしくお願いしますと言った。


少しだけ早く父親が判明した。
来月言われる予定だったらしい。
父親がはっきりして、疑惑のお義兄さんが消えた。

まあ、いいいや。


連休最後の日はもちろんまた二人で会って食事をして写真を撮り合って。
カメラを持って一番有名な動物園に行った。
タダだった。

あのアルバムには三人家族がいるのに、こんな所に連れてきてもらった写真はなかった。
自分の持っていたアルバムには何枚かあるのに。
母さんとお祖母ちゃんが連れてきてくれたんだろうか?
他にも幼稚園の遠足で行った写真もある。
でも、その中にはおじさんと一緒の写真はまったくない。
完全に自分と時々母さん。お祖母ちゃんもいない。

だから最初から二人家族だと思ってた。



動物の写真よりも笑顔の二人の写真をおじさんの携帯に送った。
さすがに母さんには送らない。
見たかったらおじさんに頼めばいい。


毎日いい天気だった連休は終わった。


いろんなことが起きて面白い連休だったと思う。

明日からは仕事だ~、そこは残念!


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