お互いの距離は特殊な事情によりこんな感じなんです。

羽月☆

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12 どうあっても負けてない自信が出てきたころ。

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『久しぶり。そろそろ飲みに行く頃じゃん?』

そんな誘いは大吉さんだった。
金曜日に誘われようか。

『大吉さん、この間の事を直接聞きたいです。いろいろお世話になったみたいだから。』

『ああ・・・どれだろ?いろいろお世話したからなあ。お礼ならいつでも。飲みに行こう!』


そう言われて日程を決めた。

「可愛い彼女と楽しそうにデートしてるらしいじゃないか。いいなあ、あんなかわいい子。思わずテーブルの上でも手を握りたくなるよなあ。」

危なくビールを吹き出すところだった。

見られてたらしい。
せめてあのロマンティックと言われたシーンだけはバレたくない。

「それもおじさんに報告したの?」

「まあまあ。」


睨んでやった。カフェでも近くにいたなんて少しも知らなかったのに。
杏ちゃんは気がついても僕は全く気が付かなかった。

「でもあんなに小さかった風斗が一人前の大人になったんだからなあ。」

確か大吉さんと初めて会ったのは中学三年の夏だと思う。
母さんが入院することになったんだ。
僕のために夏休みに入院予定を入れてくれて、一週間だけど一人で暮らした。
その時におじさんの代わりに入院にまつわる手続きや、一人になった僕の世話や、ついでに話し相手にもなってくれて。
一緒に手術の日もいてくれた。
医師の説明も一緒に聞いて、退院の手続きまで済ませてくれて。

夜にはおじさんが母さんのお見舞いに行ってたらしい。
昼に行くと大きな菓子折りがあったり本があったりした。

もし一人でもずっと病院にいることはなかったと思う。
さすがに顔を出して洗濯ものをもらって。
そんな事を一日二回するかな。

母さんは大吉さんに僕の事を任せて、すっかり安心してた。

「のんびりするから。風斗は大吉さんをお兄さんだと思って言うことを聞くのよ。」

そう言われた。
あの時もしかして・・・・・なんて少しも思わなかったのは何でだろう。
詠一さんはお兄さんかも・・・・って思ったのに、大吉さんの事は全く疑わなかった。
おじさんに子供がいたとしても、こうじゃないなって、あの時にそう思った。

明るく楽しい人だけど、身内にいたら面倒そうなチャラチャラした人。
詠一さんほど信頼感はなかったけど、近くにいてくれて面白かったのは事実だった。
友達にもいないタイプだったし、実際は見た目などの印象よりは大人で頼れたのも事実だった。

しみじみと成長したと言われてるけど、10年くらいだ。
子供の10年は確かに大きいけど。



「僕が10歳大人になった分、大吉さんも10歳おじさんになったんだね。」

大吉さんも30歳を超えたんだよなあ。
全く変わらないけど。

「中学生になったばかりのころから知ってるからなあ、そのくらいは経つよなあ。」

「あの時は中三だったよ。中三の夏に母さんが入院したんだから。」

「あれより少し前に知ってました。風斗が知らなかっただけだよ。」

本当に?

「あの夏より先に会った事あった?」

「会ってはいないけど遠くから見かけたことはある。」

「なんで?」

「なんでかなあ・・・・まああの子か・・・って思っただけなんだけど。」

どんな時だか分からない。

「で、週末を楽しく過ごして月曜日には元気になって仕事に行ってるんだ。彼女は就職決まったの?」

「うん、無事に内定もらえたから、今は卒論をやっつけてるところだよ。」

「大吉さん、彼女は?」

いつもこっちが聞かれてた、逆に聞いてやる!!って気持ちだった。

「いない訳ないだろう・・・と言いたいけどいないんだよなあ。でも、とっくに結婚してます。」

嘘・・・・。

大吉さんの顔を見て何度か瞬きをして、やっぱり嘘だと思った。
こんな旦那さん?
ちゃんと・・・・してる?

「そこは風斗にも感謝と言うかなんというか。」

「なんで?」

なんで僕に感謝?
それより相手は誰?どんな人?
きっと冷静さのない人だろう、同じくらいチャラチャラした人の影が浮かぶ。
どうしよう、子供はやっぱりお揃いだと思う。

「だから中三の夏ね、風斗と一緒に病院に行ってた時に仲良くなったんだなあ、これが。」

あの時は見た目からの想像以上に気を遣ってくれて世話を焼いてくれてた。
他の人にもチャラチャラと声をかけてたのは見た目通りでもあった。
だからと言って他の患者さんたちと知り合いになり、かつ連絡するくらい結びつきを強めることがあった?
だいたい若い患者さんはいなかったと思う。
いても母さんと同じくらい今の大吉さんと同じくらいの年だ。

相手はもしかして年上?それもすごく?

言いたいらしい、にやにやと思い出してるのは出会いの場面だろうか?

「どんな人?どうして知り合ったの?」

言いたいなら聞いてみたい、興味はある、どんな事件めいた事が起きてたのか。

「あの時はさあ、部屋ごとに担当の看護師さんがいたんだよ。1週間の入院中二日くらい同じ担当の看護師さんがいて、話をしたんだよな。」

よくは覚えてない、知らない、皆白衣のスッキリした女の人達だった・・・・・確かに若かったと思う・・・・まさか・・・・。

「まさかその看護師さんと?」

「そうそう、楽しくお話をして、お母さんが退院する時に『ほかの患者さんも寂しくなりますね。』なんて言われて、『いろいろお世話になりました。』みたいな感じで。」

確かに他の同じ部屋の患者さんの御用聞きまでやって動いてた。
楽しく明るく話をするのは上手いから。
退屈な時間を過ごしてる人にはちょうどいい具合に重宝するタイプだ。

それだからって・・・・・。
看護師さんとも?


「いくつの人?」

「俺より二つ下、今30歳。」

「写真はないの?」

「あるよ。」

携帯の写真、二人のラブラブショットがあった。結婚して大分経つのにそんな写真がたくさん携帯にある大吉さん。
そんなタイプだったんだ・・・・・相手も大吉さんの事を・・・・。

「これが子供。」

見せられ写真の可愛さよりも何よりも・・・・子供まで??????

想像したコピーじゃなかった。
しっかりしてる顔だちの普通の男の子だった。
可愛いくらい。


結婚して子供もいてラブラブで、当然家族三人一緒に暮らしてる大吉さん。
仕事に心配するほどの敵はいない・・・・そうなんだろう。
それはすごくうれしいことだった。
それが当たり前なのがすごくうれしい。

「羨ましいだろう。美人の奥さんとかわいい子供。風斗も頑張れ。」

「すごく良かった。大吉さん、普通に暮らせてるんだ。」


「風斗、普通って何だよ。この間も随分なことを言ってくれたらしいじゃないか。俺が社長の役に立ってるって分かってよかったとか何とか。ああっ、俺を誰だと思ってるんだ。」

「大吉さんだと思ってるよ。だってまさか結婚とか・・・・想像もしてなかったのに。」

ほぼ同級生のノリだと思ってた。
大人げないなあって自分が思ったくらいには、子供っぽい感じで。
だから、まさかだよ。

「子供には教えてなかっただけだよ。風斗も大人になったから参考までにいろいろ教えてやっただけだよ。」

「大吉さん、奥さんのご両親とも仲いいの?」

「当たり前だろう。子供の為にも仲良くしてるし。いろいろ世話になってるし。感謝感謝だよ。」

「だっていきなり大吉さんを連れてこられたらびっくりだよ。」

「まあ、印象はそうでも実力とのギャップがあるから絶対気に入られるんだよ。そこは間違いない俺の美点の一つだ。」

確かに。
もう絶対杏ちゃんにも教える。会いたいって言うかもしれない。
その内にそんな機会もあるかもしれない。
きっと喜んで挨拶しそうだし。


「すごいね。」

「だろう?うらやましいだろう?」

「うん、いろいろビックリ。」

ふんっって鼻で笑われた。



次の日に杏ちゃんに報告した。

ご馳走になったお礼をしたら家族の写真が送られてきた。
子供と奥さん。
僕も病院で会ったり話をしたりしたはずなのに、奥さんの顔を改めてよく見ても・・・全く思い出せない。知らないくらいだ。
だいたい担当の看護師さんがいたことも初めて知ったくらい。
病院のシステムも全然知らないから、そんな事も思いもつかなかったから。


「今まで家族の話にはならなかったんですか?」

「だって僕も想像もしてなかったし。出会った頃の印象からあまり変わらないから。」

「そうなんですか。家族がいたのにわざわざ二日間も風斗さんの後をつけたんですね。せっかくの連休だったのに。」

「あっ・・・・・そうだね。」

家族サービスの邪魔をしただろう。
明らかに長い時間。

「まさか家族参加ってことなかったよね。」

「違います、男の友達数人でしたよ。」

「そこもお礼を言うところなのかな?」

そう言ったら杏ちゃんがこっちを見た。

「さあ?」


「だよね。」


頼んだわけじゃないし。
でも頼まれたんだろう。

もう、いい大人なんだから。


杏ちゃんが抱きついてきた。
その体に手を回す。

いい香りがする。
自分と同じもので体を洗ってるのに、すごくいい香りがする。

頭に鼻をくっつけてその香りを楽しむ。

「やっぱりお父さんはいい人なんですよ、だから大吉さんもそんな頼みごとを10年前も、今も頼まれてくれるんですよ。だからお母さんも幸せだったし、一緒に住めなくても大丈夫だったんですよ、きっと。」


「ありがとう、きっとそうだね。」


「ん。」


お礼を言う。
きっといろいろと考えただろうけど、別にいいやって思ってくれたんだろう。
そして自分にも言い聞かせるように明石のおじさんの事もそう評価して僕を安心させて、自分も同時に安心して。

「杏ちゃん。」



「なんですか?」



「大好き。」



「はい。」



重ねた時間は人それぞれ、母さんと明石のおじさん、大吉さんと奥さんと子供、僕と杏ちゃん。
でも単純にそれだけで比べることなんてしなくていい。

みんなすごく深い想いで時間を重ねてきたんだから。
一番少ない自分と杏ちゃんだって、そうだから、だから大吉さんを単純にうらやましいなんて思ってあげない。

逆に負けてないってくらいに自慢できたらいいのに。

「風斗さん、大好き。」




「うん。」



腕に力を込めた。
やっぱり、負けてないから。


さっき見てた家族写真の中の大吉さんを思い出して、重なる二つの心臓のリズムを感じながら、そう思った。



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