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11 分からない事は確認しようとお互いに思った日。

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荷物を手にして、手をつないで元の場所まで戻った。

ソファに座り体を抱き寄せる。

視線を合わせて聞く。


「杏ちゃん、どうする?どうしたい?」

「・・・・風斗さんは?」

「決まってる。もう我慢はなしにして、くっつきたい。邪魔なものを剥いでくっつきたい。本当に今すぐにでも・・・・ベッドに行きたい。」

「・・・私も・・・・案内してください。」

そう全部聞く前に二人とも立ち上がり、手を引いた。

寝室は窓もカーテンも開いていて、明るい外の光がそのまま入ってた。
急いで閉めて暗くした。

自分でシャツを脱ぎ捨てて、下着だけになり、抱き寄せた杏ちゃんの服を脱がしながらキスをした。自分でも焦ってるわりに器用だったと後から思い返してそう思ったくらい。

本当にシュミレーションなんてしてなかった。
だってまだまだ先の事で、今日は話をしてその後の事なんて想像もできなかったのに。

で、あの話の事はどうなったんだろう・・・・・って途中で思ったけど、思っただけで流した。


集中しないとそんなに手慣れた流れなんてないんだから。


体をくっつけて上から抑え込むように体重をかけてキスをしていく。
引き寄せられる力もあるし、体を揺らし合って押し返される力もある。
それでも離れまいと自分の足がしっかりと彼女の足に巻き付いた。


頭の上で小さく聞こえる杏ちゃんの声に下半身がすっかり反応してるし。
それを教えるようにくっついてる。

柔らかいふくらみを手にして口をつけて。
正しいやり方は分からないけど目の前の物にキスをして舌を使って転がした。

本当に本当に我慢の限界だった。
許されたとたんすぐそこにゴールが見えたくらい、スタートから数歩でゴールが迫ってきた。

体を伸ばして彼女と目を合わせた。

「杏ちゃん、もう無理・・・ごめん。」

どうしよう。
そう思う前に彼女からくっついてきた。

足を絡められてぴったりと隙間なく体がくっついた。
乗り上げられるように体の中心も合わせられたら、もう動くしかなかった。
お互いの腰を引き付けたまま、声を出して動いて声をあげ切った。


ゆっくり彼女の体が離れて自分も離れた。


二人で上を向いて呼吸を整える。

未熟者だ。なんだか一番知られたくない大吉さんの顔が浮かんだ。
親指を立てて笑ってる。
『やったな。』そう言われた気がするけど、まだまだだよ・・・・・。

そっと横を向いたら気が付いたみたいで、こっちを見た杏ちゃん。

ゆっくり手が伸びてきた。

「風斗さん、大好きです。本当に大好きです。」

「僕も大好きだよ。ちゃんと今度から声にするから。」

「・・・・・はい。」


見つめ合ったまま、もう少し休憩したい。

「友達が、すごく・・・・。」

「何?」

「すごくロマンティックな彼氏なの?って。」

「なんで?」

思わず赤くなる。手を出さない事をそう言われてた?友達に相談してた?

「だって掌にそんな事を書き合ってる二人を目撃したことないって。」

そっちか・・・・・。

「だって二回だよ、周りに人がいるところだったし、でもどうしても伝えたいって思ったし。」


「花火の夜に、どうしてもキスをしたくて。」


「そんな・・・・・今更だよ・・・・。言ってくれても良かったのに。」

「だって本当にそんな風に思って見上げても視線をそらしてたじゃないですか。すごく傷ついてましたよ。何が足りないんだろうとか、何がいけないんだろうとか。それなのにその後はまた普通に優しいから・・・・。」

「優しいから、何?」

「そんな事は好きじゃない人なのかなって。淡白な人なんだろうかって。」



「誤解は解けたよね、もう我慢はしないよ。」


やっと落ち着いたからゆっくり体も向けてまた重なった。

「杏ちゃん、思ったより色っぽい。もうしっかり大人だよ。」

腰のあたりに触れながらそういう。
視線は合ってる。
邪魔な布を引っ張ったら腰を浮かしてくれた。同じように自分でも脱いだ。

さっきより集中して行動したい。
間違えないように。
優しく、でも男らしく、出来るだけ堂々と。


ゆっくり手を太ももにはわせていく。
杏ちゃんの目が閉じて顎が上がる。
その首元にキスをする。

ゆっくり手を動かして初めて触れるそこに近寄る。

杏ちゃんの声が大きくなる、無事到着。

あとは湿った場所を探るように指を動かした。
応えるように声をあげる彼女の声に自分の下半身がまた力を持つ。
押し付けるようにして逃げる彼女の腰を押さえつけて。

そんなにゆっくりと時間はかけられない。
後で謝るから許してほしい。

狙い定めた場所に指を入れて彼女の声が高まるのを聞いたら本当に無理だった。

「ごめんね、杏ちゃん。僕もやっぱり無理。」

急いで探した。
春を思って準備をしていたものを。
焦る手元を落ち着かせるようにして準備して、またくっついた。


その後は自分との戦いだった。
杏ちゃんの事に気を遣うほどの余裕もないくらいだった。

本当に散々だったかもしれない。

シュミレーションは大切だと思う。
何事も。



脱力した姿勢のまま二人でベッドに横になって。

ゆっくり抱き合って暖め合う。


「風斗さん、すみません。今日は泊るって言ってないから。」


「そうだよね。」

まだ時間は夕方くらいだから大丈夫だと思う。

「シャワー浴びたいよね。」

「はい。」

「でもあと少しだけ、このままでいい?」


「風斗さん、またここに来ていいですか?」

「いいよ、いつでも大歓迎だよ。」

「土曜日、ちゃんと泊まるって言ってきます。」

「ご両親は許してくれるの?」

そう聞いたら顔が上がった。

「それは、友達の家だと言います。」

「そうか・・・・そうだよね。」

バレないだろうか?
バレたら反対されるだろうか?

「でも、お母さんには言います。好きな人がいて一緒に過ごしたいって。」

「うん。」

「そうじゃないとあんまり友達の家に行くって出かけるのも変です。」

「うん。」

「お母さんは風斗さんの事を知ってます。」

「うん・・・ん?なんで?」

驚いた。何で?会った?もしかして後をつけられた?

「写真を見せました。」

嬉しそうに言う杏ちゃん。

ああ、そういうことか。まあ普通あとをつけるなんて発想はない。
そんなに心配し過ぎる親も、大吉さんみたいに好奇心だけで動く部下もいない。

「ねえ、杏ちゃん、僕のお父さんのあの話はどう思ったの?」

「それはそれです。だって風斗さんのお父さんならいい人ですよね。心配性で面白い部下もいる人ですし。」

「いいの?」

「いけませんか?」

「いいと思う。」

やっぱり女の人の方が強いと思う。
だから母さんも普通に生活してたし、お祖母ちゃんも協力くしてくれたし。
守りたいものがあって強くなるのか、守りたいと思って弱くなるのか。

嬉しくてゆっくりキスをした。
それが一度じゃなくて繰り返し、終わりがなくて。
まだそんなに遅くないから。

シャワーは後でいい。
そういうことになったから。


少しの余裕を見せて、杏ちゃんの声を聴いて。
でも表情を見て、声を聴いてたらやっぱりすぐに限界は来る。
準備をしてくっついたらそのまま見つめ合った。

「風斗さん。」

それでも上気したような表情と潤った目が何とも言えない。
最初の頃の照れた顔が思い出せないくらいだ。

「ん?」

腰を引き寄せて一層奥までくっついた。

「大好きです。」

「うん、僕も。」


ゆっくり動き始めた。
目を閉じてのけぞる彼女を見ながら、どんどん自分の欲望が加速して動きが早くなる。

彼女の上げる声が揺れて、自分も声を出してしまう。

「はぁ、きもちいい。」

のけぞって言われた。

「もっともっと・・・・。」

自分がそう思って言う。

「もう・・。」


「だめ、もっと気持ちよく、かんじて。」

歯を食いしばって動きを速めた。
そんな動きは初めてなのに。

体の奥からそんな意味不明のパワーが出る。


シーツを掴む彼女の手を見て、もっと強く自分の腰を押し込んだ。

いろんな声と音がして、最後まで上り詰めた彼女を見てから、自分も終わりにした。



疲れた・・・・・。



交代でシャワーを浴びて、着替えをしてコーヒーをいれた。


「お腹空いた。」

よく考えたらお昼もまだだった。
朝も食欲がなかったし、すごくお腹空いた。

「杏ちゃん、時間が大丈夫だったら食事しない?」

時計を見て、そう決めた。

手をつないで部屋を出た。

「約束なんてなかったって、もっと早くに知りたかった。」

「だったら聞いてくれても良かったです。」

「だって、なんて聞くの?」

そう言ったらすごく恥ずかしい顔をされた。

「・・・・この先はまだダメなんだよねって。そう聞いてくれたら、なんで?って私が聞き返しましたよ。」

「分からない事は聞いた方がいいね。本当に昨日も今日もそう思った。確かにもっと早くに聞けばよかった。すごく我慢してたんだからね。でも僕だけじゃ無かったよね、杏ちゃん。」

つないだ手をふるふるさせてそう言った。

答えてはもらえなかったけど、つないだ手の甲でバンバンと太腿を叩かれた。


食事をして、駅で別れた。


手を振り笑顔で見送り、背中が見えなくなってから引き返した。

部屋は静かで馴染んだ空間に戻ったはずなのに、どこかが違う。
いろんなところに杏ちゃんの残像があって、声が残ってて、吐息すら聞こえそうだった。

また来週。そう言って約束をした。
今度はもっと近い約束で、お互いがちゃんと確かめ合った約束だ。


ふわふわとした気分で洗濯をしたり掃除をしたりして、明日に備えた。




「なんかいい事あった?」

なんで男のくせにそんなに観察してくるんだろう?

横から鮫島の視線を受けてるのは分かった。


「家族の中の心配事が一つ上手くいったら、他の事もスムーズに動き出した。」

「ふ~ん。可愛い杏ちゃんとラブラブな週末を過ごすだけじゃなくて、それなりに悩みもあるわけね。」


「それなりに。」


「もしさあ、仮に自分の彼女が自分より給料がいいって分かったらどう?」

「別に・・・・。職種でも違うじゃない。同じ会社で同じスタートでと言われたらちょっと頑張ろうって思うかもしれないけど。」

なんだろう?
自分にはまったく思い当たらないから鮫島の事なんだろう。

「どうした?」

「別に、どうなんだろうなあって思っただけ。」


「そんな二人組は結構いると思うよ。いいんじゃない?女の人の方が生活する上での必要経費が掛かるよね。そう思えばいいんじゃない?」

「一つ下だと余裕だな。」

そう言う鮫島の彼女は同じ年だ。
社内の子じゃない。
合コンで知り合ったらしい子で守ってあげたくなるほど可愛いって言ってた。

そんな存在の子が自分より・・・・・ってそれはビックリはするけど。
杏ちゃんがものすごくいい会社に入ったら、どうだろう?

春に就職するところは誰もが知る会社って訳じゃない。
それでも第二希望でその職種ではいい所だって教えてくれた。
採用条件なんて当たり前だけど知らないから。

普通に週末が休みで夏冬休みもあって祝日もカレンダー通りだろうって、そんな話はした。
それもこれも春の話だし。


「なんか、本当に楽そうに生きてるよな。こだわりがないっていうか、受け入れる感じで流せるっていうか。」

何が言いたい?そう見えてるならうれしいけど、さっきも悩みが解決したって伝えたばかりなのに。

「鮫島こそ、そう見えるよ。だから他人はそう見えるんだよ。いろいろあるよ。」

本当に自分の人生決して平凡じゃないと思う。
生まれも、育ちも、ちょっと癖がある。
そして父親も知り合いも相当癖がある。
知ったら驚くだろうなあ。


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