街中で偶然出会えたら、それは運命だと思います!

羽月☆

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12 何度も思ったこと、今の気持ち ~友田が言葉で伝えたいと思ったこと

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さすがにいつまでも自分の服を着せた彼女と話をするのも変だろう。
アイロンをかけてきれいになった服に着替えた彼女と外に出た。

マンションを振り返った彼女を見る。
さすがに昨日は夢の中だったから。

「あの・・・聞きたいわけではないのですが、私は自分で歩いたのでしょうか?」

自分で聞いておきながら耳に手を当ててる。
自覚はあるらしい。
返事をしないでいるとこっちを見あげて来た。
その顔が『そんな訳ないですよね。』と言っている。

面白い。

さて何と答えるべきか。

「覚えてはいないよね?」

「はい。まったく記憶が途切れてます。寝たふりなんて器用な真似もしてません。」

「まさか、そこは疑ってないよ。男二人に連れ込まれて寝たふりって、むしろ危
機感覚えるし。」

「連れ込まれるって・・・・。」

「ああ、客観的な見方だから。ごめん。ちゃんと大切に運んだから。」

「運ぶ・・・・・。」

「え、それもダメ?ちゃんと抱きかかえてしっかり捕まってもらってたんだけど。」

「抱きかかえる・・・・・?」

何だか復唱しながらいろんなパターンでマンションに入る自分を想像しているんだろうか。
それ以上は言えない。自分も恥ずかしい。

「今度は自分で歩いてどうぞ。」

そう言うと赤くなってちらりと見られた。


・・・・・何でそんな事を言ったんだ自分。


危ない。金子の仕掛けた罠が・・・・。




「さて行こうか。」

背中を押して歩き出す。

隣を歩く小さな女の子。
随分小さい気がするが。
ものすごい俯いているんだろうか?

「大丈夫?どうかした?」

そう声をかけると背筋が伸びてちょっと大きくなった。
それでも視線はまだまだ下になる。

小さい。
妹がいたらこんな感じだろうか?

そう思った途端、明日誘ったことを後悔してしまった。


妹・・・。


どうしたらいいんだろうか?
無言で駅まで歩く。

駅が見えるころに聞いた。


「何食べたい?」

「さっぱりしたものはどうでしょうか?うどんセットとか普通に白いご飯とおかずとか。」

「じゃあ、和食で探そうか。」

「はい。」


返事がいい。ちょっと見ると笑顔で。
やはり可愛いとは思う。
部下としてなら喜んで可愛がる。


じゃあ・・・・。


考えても今は決められない。
彼女もそう急いで返事が欲しいだろうか?
だいたい、そんな話、どこで出来るというのだろうか?

チェーンらしいが美味しそうなうどん屋さんを見つけた。
数人並んでいて、その後ろに並んで椅子に座って待つ。


「美味しかったらいいね。」

「初めてですか?」

「うん、つくしちゃんは?他の店舗に行ったことあるの?」

「いえ、私も初めてです。楽しみです。」


大きな器に太いうどんが入ってるらしい。

回転は速いようで少しづつ椅子がズレて10分くらいでお店の中に入れた。

テーブルは2人の器でいっぱいになった。
ズルズルと根性を出してすする。

何度かやって諦めて、大人しく蓮華の上で丸めて食べた。
侮れない太さだった。


「美味しいです。」

満足そうに笑って言われると嬉しくなる。

また何度目かの可愛いを思う。
刷り込みじゃなくても本当にかわいいと思う。素直なところも。
表情が豊かだ。
つられてこっちも笑顔になるくらいだから。

さて、妹をこんなに可愛いと思うだろうか?
実際妹がいないのでわからないが。
かなりの仲の良さなら思うかも。
つまり色気を感じるか、どうか・・・・。

残念。

寝顔も幼くて。色気はないか。



やはり判断保留。


うどんを食べ終わり外に出た。

泊めてもらったからと言う彼女に遠慮なく奢られた。

「つくしちゃん、ごちそう様。」

「いえいえ、宿代にしては安かったです。デザートつけましょうか?」

それはもう少しという意味だろうか?
ちょっと空いた間に彼女がハッとしたらしい。

「あの、お土産に買って帰りますか?ということです。」

「なんだ、デザート付き合ってくれないの?」



どの口が言うんだ、自分・・・・・。本当に。


彼女が大丈夫です、お付き合いします。という。
また一つ深い穴を掘った気がする、後悔の穴。


並んで歩き、ちょっと離れたケーキ屋へ入る。
駅に着くまでに目にとまったらしい。
二階が食べられるようになっていたと地元の自分より情報収集能力があった。
一度通り過ぎただけなのに、さすが女子。

誘われてそこに入る。
女性だけじゃないかと思ったけどちらほらと付き合わされている男性の姿もある。


選んだケーキと紅茶が運ばれてくる。

自分のプリンを見つめられ、彼女のフォンダンショコラを見つめてしまう。

「ちょっと食べてみますか?」

「どうやらプリンも食べたいらしいね。」

「バレました?でも友田さんの視線も感じてましたよ。」

フォークでフォンダンショコラを指された。

「まあ、お互いにちょっとづつ味見ということで。」

最初に相手のを食べる。
決して嫌いではない、甘い物。
それでも外の生地はビターで中から甘いチョコソースが出てくる。
一口がいいと思う。

プリンは美味しいの一言。

音楽がかかっていて、隣のテーブルも空いていて。

「明日、どこか行きたいところある?」

「ランチですよね。」

「うん、他にも何かあれば。」



それはデートと言うのでは?
話がしたいと誘ったが、どうだろう。


考え込む彼女。


「明日までに考えててもらえばいいよ。あ、そういえば直接は連絡してないよね。」

携帯を振る。

「はい。教えてもらってもいいんですか?」

「もちろん、明日待ち合わせが出来ない。」


それでもうかがうような視線で見られてるのに気が付く。
どうなんだろう。
はっきりさせた方がいいのだろうか?
自分の為にも。

なかなかできる話じゃなくて。

結局お願いして、もう少し時間をもらい、部屋に来てもらった。


明らかに緊張した彼女。
どっちの緊張だろうか。
がっかりするだろうか。


もうお腹いっぱいで飲み物もいらないだろう。


「ちょっと座って話そうか。」

彼女が朝まで寝ていた広いソファに座ってもらう。



「ねえ、聞きにくいんだけど、返事をした方がいいんだよね?」

「出来たら、お願いしたいと思ってましたが。」

「が?」

何だろう?

「いいよ、遠慮しないで。気持ちが冷めたでも、変わったでも、もっと様子を見たいでも。本当の気持ちを教えてもらった方が僕も・・・・いいかな。」


「そんな・・・・・変わりません。全然。やっぱり優しくて、イメージより優しいくらいです。だから冷めたりなんてするはずありません。」


そう言い切ってくれたのはうれしいが。
どうしようと悩むのは一緒だ。


「でも、無理にはいいです。自然に。諦めるのも自然にできるかもしれないです。あの、無理ならいいんです。無理には・・・・・。ご迷惑かけました。すみませんでした。少しの間でしたが、楽しかったです。」


そっちの緊張だったのか・・・・。

立ち上がろうとするのをつい引き留めた・・・・・・。


「ちょっと、待ってくれる。もうちょっと待って。」


彼女がもう一度沈むように座り込む。

掴んだ手をゆっくり離す。

正直に。ごまかしもなく。今の気持ちを正直に。


「本当に可愛いと思うよ。つい頭を撫でたくなるくらいに、つられて笑顔になるくらいに。でもさっき妹がいたらこういう感じかなって思ったことがあって。妹がいないから分からないけど、ごめんね、失礼だよね。金子の様に部下だったら本当に可愛がりたいとも思う。じゃあ、・・・・抱きたいかと言ったら・・・・今はまだそうは思わないんだ。ここに二人でいても。そしてこの先も、まだ何も言えない。それはつくしちゃんだからじゃなくて、もしかしたら自分の問題かもしれない。」


「すごく勝手なことを言ってるって分かってるけど、少しだけこっちにもたれてくれるかな?」


悲しい顔のまま意味が分からないという顔になる。


「少しだけ、ごめんね。」


近づいて、抱きしめてみる。

ビックリして固くなったのは分かる。


「何もしないから、ちょっとだけこのままでいてくれる。」


力を抜いた彼女。でももたれるようなことはない。まっすぐに座ったまま。
強く抱きしめて見るけど、そのままで。


「本当に可愛いと思う。もっと一緒にいたいとも思う。だからついつい誘ったりしてしまうんだ。・・・・思ったより・・・そうだね。」


軽く腕を緩める。


「今はそれくらいまでしか自分では言えないんだ。これじゃあ、ダメかな?」


さすがに泣きそうな顔をしている。
頑張って目を開けて堪えてるのもわかる。


「ごめんね。酷い・・・よね。でも中途半端なことは言えなくて。言ったことには責任は持ちたいんだ。だからもう少し時間が欲しい。返事を待ってもらえるなら、それまでは普通の先輩と後輩で。」


ゆっくり頷いてくれた。
だけど、顔をあげることはなくて。



「本当にお世話になりました。これで帰ります。ごちそうさま様でした。駅までは1人で帰れますから。」


下を見たままゆっくりと部屋から出て行く。


ぼんやりとそれを見ているしかなくて。
暗がりの閉じた扉を見つめたまま過ごした。


そして気が付いた。

明日の約束、連絡先の交換。どっちもまだだった。

気が付いたけど追いかけることは出来なくて。
やっぱり中途半端なまま。

仲良くなれそうでなれない、微妙な距離のまま。

先輩後輩と言った自分、ただの同じ会社の人。
それじゃあ、ほぼ他人だろう。


何なんだ、自分。
本当にまた、傷つけたんだろう・・・・。
傷つけたくないと思ったから、待ってほしいと言ったのに。
それでも、そうなった。


そういうふうにしか言えない自分に呆れて、腹が立って、嫌になる。

そして、きっと罵倒されるんだろう・・・・。
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