内緒にしていた視線の先にいる人。

羽月☆

文字の大きさ
1 / 11

1 特別に作りたい『最後の思い出』があった友達。

しおりを挟む
困ってる顔を見た。

困らせてるのは私じゃない。
私はまったく無関係で、そこに居るだけ。
それなのに、ちらりとその顔を見たときに、申し訳ない気持ちにもなった。
だから、つながれてた手はそのままに、向こうを向いていた。

「付き合ってください。」

そう言ったのに、答えがないまま。

握られた手に力がこもる、痛いくらいに。

ここから早く立ち去りたい。
だって私はいなくていい、むしろいないほうがいい。
それなのに動けないまま。
返事を待ってる状態なのは、私も同じみたい。

だって、それを聞かないと動けないのは私もだし。

それがどうなるか、とりあえず返事を聞いたら、私は帰れるだろう。
その返事があったら、ここからいなくなってもいい存在だろう。

そんな私の立場。

・・・・・なんて答えるの?



「ごめん。好きな人がいる。」


やっと聞こえてきた返事はそれだった。
握られた手の力が抜けて少しだけ自由になりそうになる。
でもまだ動けないまま。



「わかった。ありがとう。」

そうつぶやいた声でやり取りは終わったと分かった。

すごく可哀想になるような寂しい声だった。


向きを変えたゆめちゃんに引っ張られるように、私もその場を立ち去ることが出来た。


その答えは私にも理解できた。

それ以上詳しくは分からないけど、その事実だけ分かった。

そうなんだ・・・・・・好きな人がいるんだ。

向きを変える最後の瞬間、顔を上げたら目が合った。



やっぱり困った顔をしていた。
だから・・・・私が困らせたんじゃない。
私はただの付き添いだから。

それでも、ごめん、と口が動いた。
声には出なかったけど、伝わったと思う。

少しびっくりした顔をされたかもしれない。

よく分からない。
そのまま向きを変えたまま歩き出したゆめちゃんに引かれて、その場を離れたから。




一言も話もしないまま、校門を出た。

あと少しでこの学校に来ることはなくなる、この制服も、この景色も、全部自分からは遠くなる。

そして友達も遠からず懐かしい存在になるんだろう。




「ねえ、どうしても、最後の思い出に気持ちを伝えたいの。お願い、一緒にいて。」

そうゆめちゃんに頼まれたのは1週間くらい前だった。

登校してきていた友達と話をして、春休みに皆で思い出作りに遊びに行こうと話をして、いない子にも都合を聞いて予定を立てていた。

大学受験も終わり、あとは残りの日々を楽しく過ごせばいいだけの日々だった。


大学はそれぞれバラバラになるから。
中には一人暮らしをする子もいるし、遠くの大学に決まって、しばらく会えないだろうと思える子もいる。

大人になるまでの後数年間。
環境も変わって、自分もちょっとづつ変わっていくだろう。
誰もが今のままじゃいられないと分かって、心で焦りながらも明るい予感を感じつつ、楽しもうと前を向いている。

『最後の思い出。』

そう言いながらも、その後のことを思っていたと思う。
そこから始まる続きの物語を。
好きだと告げて満足するんじゃない。
この後も会いたい、少し離れても努力して会いたいと伝えたいよね。


「・・・いいよ。誘うのはちゃんと自分で誘ってね。」

私はそう答えた。断れない。断ったら変だよね?何でって思うよね?
別にいいと思った。別に・・・・・・って。

「うん。誰にも内緒でお願い。」

「もちろん。」



そして今日になった。
昨日の夜に連絡があった。

『授業が終った後、待ち合わせをしてるから、そこに一緒に行ってほしいの。』


楽しみにしてるんだろうか?それとも不安なんだろうか?
ずっと好きだったのはなんとなく気がついていた。
私だけじゃなくて他にも気がついてる子がいるだろうか?

仲のいい男の子のグループの中の一人で、塊として近くにいることも多かった。
その中でも本当に近くにいたと思うし、私もよく近くにいて、だからすぐに気がついた。

なんで私だったんだろう?
考えてもしょうがない、たまたまかもしれないし、近くにいて話をした方だから選ばれたのかもしれない。



上の空で授業を受ける。
だってもうテストもないし、おまけの授業みたいなものだから。
先生たちもすっかり気を抜いて色んな話をしてくれる。

おじさん達の過去の栄光と思い出と少しだけのありがたい教訓。

今日の授業はどれでもなかった。
古文の授業で大好きな源氏物語について楽しく話をしてくれている。

授業より生き生きと話をしてるから本当に好きなんだろう。
大学の卒論テーマもそうだったと言っていた。

かなり昔の恋愛ドラマは今でも参考になるんだろうか?

『通い婚』といわれる当時の恋愛ドラマ。
でももともと設定が貴族とか皇族とか、そんな雲の上の世界の人々の話だし。

もっともっと庶民は普通に恋愛していたんだと思う。
それともいきなりの見合い婚はその当時の下々の人も同じだったんだろうか?


すっかり物語の話の筋からはそれたけど、物語から学び得たらしい『恋愛観』なるものをとうとうと語ってる。
あんまり参考にならないと思う。
だってそんなドキドキがこの先生にあったなんて思えない・・・残念ですが。


興味をなくしたまま窓のほうを向いた。

廊下側に近い席から窓を向く、その視線の方向には彼がいる。


真面目に聞いてるみたいだ。
今日の約束をどう思ってるんだろう?
なんて答えるんだろう?


その横顔を少し斜め後ろから見ていたら急に振り返られて目が合った。

びっくりした。
ぼんやりしてたつもりだったけど、じっと見てたのかもしれない。

それでもゆっくり逸らされたから気がついてないかも。
やっぱりぼんやりとしてたんだろう。


外はすっかり春の気配を漂わせて、季節が動いて暖かくなり、誰の心も落ち着かない。

土の中の虫たちもやっと待ちわびていた春が来ると顔を出す季節。


私にも何かいいことないかなあ。
最後の思い出、これからに続く物語の始まりが。


チャイムが鳴って授業は終った。
結局誰も教科書を捲ることなく終った時間だった。
今日の授業は終わり、あとはいよいよ放課後という時間になる。

そして約束通り、静かに誘われたのだ。

 

そろそろ校門が見える。
今日の昼の時間も窓から見えていた場所。


「ありがとう。」

ゆめちゃんがちょっと前を歩きながら言った。
いつの間にか私の手は自由になっていた。

「うん。何もしてないけど。」

「そんなことないよ。」



「どこかに寄る?」

「うん・・・・・、いいや、このまま、帰る。」


「そうだね。」


ちょっとした会話だけ。それでも泣いてる感じはない。
私もただ誘ってみただけで、断ってもらってホッとしてる。
慰めたりする役目は苦手かもしれない。
何をどう言っていいのか分からない。


「でも何だかスッキリした。こうなったら次の同窓会までに絶対好きな人を作る。かっこいい彼氏を作る。」

「同窓会・・・・・っていつだろう?」

「多分・・・・・成人式じゃないの?」

「そうか。」




二年後、どうなってるんだろう?

私は、ゆめちゃんは、他の子は、そして彼は。



「じゃあ、本当にありがとう。また、来週。」

元気よく手を振って駅の中で別れた。



満足してるみたい。
たとえそれが望んだ答えじゃなかったとしても。
それが最後の思い出作りの結果だろうから。



ぼんやりと背中を見送って歩き出した。


乗りなれた自分の電車に乗ってドアにもたれる。


『好きな人がいる。』

じゃあ、そう答えた彼も最後の思い出を作るんじゃない?


彼女がいるとは言わなかったし、そう聞いた事はない。
片思いか、そうじゃないか。

色んな話はしたほうだと思うのに、そんな話には一度もなってない。
私もした覚えはない、聞いた覚えもない。
私は女子友にだっていないと決め付けられてるんだと思う。
特に聞かれたことはない。
いつもそんな話には参加していても一歩ひいた感じだった。




「ねえ、すごく大人の彼氏がいるような感じもするんだけど、どうなの?」

クラス替えあと、まだ慣れない最初の頃に聞かれた。

「私のこと?」

びっくりして聞き返した。

「うん、もちろん。同級生とかじゃなくてもっと大人の彼氏がいそう。」

首を振る。ぶんぶんと。

「いない、全然。びっくりした。」

「そうなの?」

ちょっとだけの意外そうな顔はすぐに普通に戻って、すぐに聞かれた。

「じゃあ、好きなタイプは?誰がいい?」

そういいながらクラスの中をグルリと手で指さして回した。

まだまだ最初の頃でほとんど名前も分からない人が多い中。
思わずその指を追ってクラスを見回した。
すぐ後ろで話を聞いていたらしい何人かがちらりとこっちを見たのが分かった。

恥ずかしい。


「・・・・何でこのクラス限定なの?」

「他のクラスでもいいよ。でも、できたら知ってる子のほうが想像しやすい。あくまでもタイプね。」

「分からない。そんな、決まったタイプはないよ。」


誰も思い浮かばなくて正直にそう言った。


「じゃあ、委員長はどう?」

聞こえてたらしい皆の視線が一斉に動く。
窓のほうにいたらしい委員長に。

委員長は知っている。
『委員長』じゃなくても、その人は有名だった。頭がいい人だから。

「きちんとしてて信頼できる。」

そう言った。
みんなの視線がその先を促すけど、だからといってそれ以上の個人的感想はない。

「・・・分からないって。」

もう顔が赤くなるのが分かる。
さっきから熱い。

「委員長いいよね。確かに信頼できる。頭もいいから、一緒に勉強したら成績上がりそう。」

「その前に馬鹿にされないか、ちょっと心配、呆れられたら悲しい。」


確かに頭がいい人は何で理解できないのか、何で覚えないのか、そんな事をぼんやり思うのだろうか。

それでも性格もいいらしく、分からないことがあるといろんな人が教えてもらいにいく、男女とも。
今のところ優しく教えてくれるらしくて『いい人』と言われてる。

もう一度委員長を見た。

確かに優しそう、だから呆れられたら悲しいかもしれない。

図書室で一緒に勉強する姿は想像できるけど、二人の姿じゃない。
他にも数人いる中の一人。


視線を戻したときにすぐ近くの集団が動いた。
その中の数人と目が合った。


聞こえてたんだろうか?
変なことは言ってないと思う。

別に気にするようなことは・・・・・。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

恋人の気持ちを試す方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ 死んだふりをしたら、即恋人に逃げられました。 ベルタは恋人の素性をほとんど知らぬまま二年の月日を過ごしていた。自分の事が本当に好きなのか不安を抱えていたある日、友人の助言により恋人の気持ちを試す事を決意する。しかしそれは最愛の恋人との別れへと続いていた。 登場人物 ベルタ 宿屋で働く平民 ニルス・パイン・ヘイデンスタム 城勤めの貴族 カミラ オーア歌劇団の団員 クヌート オーア歌劇団の団長でカミラの夫

異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない

降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。 しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。 粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。 危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。 すれ違う2人の想いは?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

処理中です...