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7 初めまして、三代目草次郎にご挨拶
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春休みは長い。
自宅から通うから、準備も少ない私。
引越ししたりする人もいるし、そんな人にとっては慌しいのだろう。
ちょっとだけ洋服を買ったり、文房具を見たりって、それくらいのことは考えていた。
だけどひょっこりと思わぬ楽しい予定が出来た。
「お母さん、明日ね、友達の犬の散歩に付き合うの。二時間くらい歩くんだって。犬の休憩と人間の休憩で途中ご飯を食べることになったから。おじいちゃんから貰ったお金を使っていい?」
「お昼代ならちゃんとあげるわよ。おじいちゃんからのお金は洋服を買ったりしたら?」
「うん。ありがとう。」
「その子のお母さんがずっと飼っていた盲導犬と同じ犬で、今の犬が三代目だって。名前も同じで『三代目草次郎』って名前だって。渋いよね。」
「もしかして欲しいとか言い出すの?お父さんに金魚以外のお世話を押し付ける?お母さんを頼りにするつもり?」
「違うよ。なんだかすごくうれしそうな顔をして草次郎の話をするから、散歩も楽しそうだなあって思っただけ。」
「そうよ。美波が大学生を終った後は毎日お母さんがお世話係になるから。どうせなら猫のほうがうれしい。世話なら猫のほうがいい。でもお父さんの金魚をもっと可愛がってね。」
「リリーはお父さんが愛情たっぷりで餌もたっぷりで、ぶくぶくしてて幸せそうだよ。十分だよ。」
「もう、あんなに欲しい欲しいって騒いだのは美波なのにね。」
「金魚すくいは楽しそうだけど、本当にその後のことは考えてなかった。」
「全然上手に獲れなかったから金魚屋のおじさんが元気そうなのを一匹くれたのよ。喜んで水の中の金魚を見つめて連れて帰ってきたのに。嬉しそうに名前を呼んでたのに、たったの一晩で飽きちゃうんだから。」
金魚は四角い大きい水槽の中でのんびりと泳いでる。
赤い色もきれいだし、ヒレや尻尾もきれいだった。
ゆらゆらゆれてるのはきれいだけど、やっぱり触れない。
温かくもない。
犬猫のほうが可愛いよね。
「明日楽しみ。」
「今まで犬の話はしてなかったの?」
「うん。連絡先を交換して初めて知ったの。」
「仲良しの友達じゃないの?」
「・・・うん、時々図書室で数学を一緒にやってたクラスの子。皆が一緒の時には話はしてたけど、二人だけで話をすることがなかったから。」
そういったらお母さんも不思議な顔をした。
男の子だと今更言いにくい感じになった。
気がついてるだろうか?
別に・・・友達だけど。
約束の日、天気が良くて散歩日和だった。
昨日の夕方、委員長から連絡が来て謝られた。
『ごめんね。言い出したのに。遅くなったけど妹は薬を飲んで一日寝てればよくなりそうです。』
『慎之介がすごく楽しかったって言ってたから、とりあえず良かったよ。』
『妹さん、良かったね。お大事に。』
『レストランすごく美味しかった。またね。』
そうお礼もしたけど、犬の散歩の約束をした事は私は言わなかった。
森友君に聞いただろうか?
委員長も一緒に歩いただろうか?
電車に乗って少しだけ。
『もうすぐ駅に着きます。』
そう送ったら返事がすぐに来た。
『駅の改札が見えるところで一人と一匹で待ってます。』
もう来てくれてるのかもしれない。
草次郎がソワソワしてないだろうか?
散歩に行かないの?って、歩きたそうにしてないだろうか?
今まで犬を飼ったことはない。
吠えられたりしたら悲しい。
大丈夫だよね、撫でたりしても怒らないよね。
駅の改札を出る前に気がついた。
だって本当に一人と一匹。
草次郎も大人しく座って待ってくれてるみたい。
改札を出て、一人と一匹のところに走っていった。
「お待たせ。草次郎、初めまして。撫でてもいいかな?」
「うん、大丈夫だよ。」
そう言われたから屈みこんで、あごの下と首とおでこをゆっくり撫でた。
全然嫌がらないで大人しくしてくれてるし、口を開けて表情はうれしそうだった、気のせいかもしれないけど。
「可愛い。男の子なのに、優しそうな顔をしてるね。賢い犬種だよね。」
「種類はそうだけど、やっぱりその辺はお母さんが甘いから、ダラダラしたヤツだよ。」
「そうなの?」
褒められてもいないのにうれしそうな草次郎。
笑顔に見えるのはやっぱり気のせいかもしれない。
「じゃあ、今日は一緒に散歩よろしくね。」
草次郎にそう言って立ち上がったら、一緒に立ち上がった。
向きを変えて歩き出す二人と一匹。
二人の真ん中に草次郎のリードが伸びる。
車のあんまり来なそうな住宅の間の道を行く。
ぐいぐいと張り切るようにリードを引っ張って歩く草次郎。
「まだ若いの?」
「うん5歳だから、まだまだ若い方かな?」
「そうなんだ。」
草次郎の後姿を見ながらで、会話がなくても平気なくらいだった。
後ろから見ながら時々褒めたりしながら歩いた。
「お母さんに友達の犬の散歩に付き合うって言ったの。」
「うん。」
「犬が欲しいって言い出さないでって言われた。小さい頃の金魚もまったくお世話してないから。」
「そう言えば金魚だったもんね。お父さんが可愛がってるリリーちゃん。」
「そう。一匹も捕まえられなかったからおじさんが元気なのをくれたみたい。喜んでつれて帰ったのに次の日にはまったく興味をなくしてたってお母さんに言われた。まだヒヨコや亀じゃなかっただけでもいいよね。鶏になったらお父さんも可愛がらないと思う。近所迷惑だし。」
あっという間に広いグラウンドに出た。
顔なじみがいるのか、何人かの犬と飼い主さんと挨拶をしてる森友君。
皆自分たちより大人だった。
たまに小学生が小さい犬をつれてるのを見るけど、あんまり大きさが違うと近寄ってくる犬と飼い主もいない。
草次郎は吠えたりもしないでお互い挨拶をして、匂いを嗅ぎ合うだけだった。
「誰もいなかったらちょっとだけでもリードを外してあげたりするんだけど、やっぱり天気がいいし人が多いと駄目だな。」
「残念だね、草次郎。」
それでもぐいぐいと歩きたいほうに歩いて、森友君を引っ張ってる。
「ここから10分くらい歩いたところで休憩しようか?ほとんどのところに犬用のテラスがあるんだ。ここに散歩して食事をする人が多いかもしれないから、結構混んでるかもしれない。」
「うん。待つのは大丈夫だよ。」
「テイクアウトして近くのベンチで食べたりもできるから、あんまり混んでたらそうしよう。」
「それでもいいよ。」
残念だったのは行きたかったオープンハンバーガーのお店が一杯だったこと。
すごくおいしそうなボリュームだった。
薄いパテなんかじゃない、すごい分厚いハンバーグが挟まれていた。
半分づつ、二種類食べれるね、なんて言ってたのに、他のお店を見てる間に家族が数組入って、ランチタイムは終るかもしれないと言われた。
「残念だったね。」
ランチタイムじゃないととてもいいお値段になる。
せっかくならお得なランチタイムがいい。
「おいしそうだったのにね。」
二番目に気に入ったお店に急ぎながらも、そう言いあっていた。
二番目のお店は数組待つばかりで、余裕で入れそうだった。
予約表に名前を書いて庭を散歩しながら写真を撮る。
「草次郎!」
まるで自分の犬みたいに名前を呼んで、賢い顔が笑顔になる顔をたくさん撮った。
「一緒に写る?僕が撮ろうか?」
そう言われた。
「じゃあ、お願い。草次郎いい?」
顔を上げて笑ってる。
リードを預かって、草次郎をお座りさせて隣に座る。
体の高さはあんまり変わらない。
森友君に声をかけられて、そっちを見る。
「草次郎も可愛い笑顔で、3、2、1。」
「どう?」
携帯の画面をそのまま見せられた。
だけど見るのも恥ずかしくて、さらりと見てお礼を言った。
「森友君は?」
リードを渡しながらそう言った。
そのとき、後ろから女の人に声をかけられた。
「二人とワンちゃんで撮りましょうか?」
二匹の犬を連れた女の人だった。
「お願いします。」
森友君がそう言ったので、もう一度草次郎の隣に並んだ。
私の携帯がそのまま女の人に渡された。
お礼を言って、携帯を受け取った。
草次郎を真ん中に並んだ二人の写真が撮れた。
お店を見ると大分お客さんが増えてるみたいで、予約の紙への書き込みを待つ列が出来ていた。
お店の前に戻り、少ししたら呼ばれた。
テラス席希望にしてそのまま外から回ってテラスに入った。
「ねえ、後で写真貰ってもいい?」
「もちろん。送るね。」
「僕、毎日散歩係だから、もっと早い時間にスタートしたら、さっきのお店も行けるよ。」
森友君にそう言われた。
「うん・・・・・じゃあ、明後日、天気良かったら、一緒に散歩してもいい?」
「うん、朝に連絡取り合おうか?」
「うん、分かった。」
二人でサラダとピザ二種類を分け合って、冷たい飲み物を飲んで。
草次郎もおやつとお水を貰っていた。
「一人だと、どうしてるの?」
「その辺のもっと安いお店だったり、ちょっとだけ自分もおやつを持ってきたり、飲み物だけだったりだよ。」
「大学生になったらバイトするの?」
「多分、ある程度慣れてきたらするかもしれない。社会勉強だって言われてるし、お小遣いも欲しいし。汐さんは?」
「私もすると思う。でも夜遅いのは駄目だから地元でするかもしれない。」
「どこか決めてるの?」
「パン屋さんとか、カフェがいいなあって思ってる。」
「似合いそうだね。僕買いに行くし、食べに行く。」
「全然、まだ決まってもないのに。森友君は?」
「まだ全然決めてない。時間とかシフトに融通が利くところがいいしね。」
「そうだね。」
「お腹いっぱいになった。美味しかったね。」
「うん、ゆっくり帰る?」
「うん。」
同じ道を二人と一匹で歩く。
「皆、色んな犬を飼ってるんだね。」
「そうだね。でも大きい犬よりは中型犬が多いよね。」
「さすがに家の中が広くないと草次郎の大きさは大変だよね。」
「うちはそんなに広くないけど、リビングからウッドデッキを広く作って、そこから芝生の庭にいけるようにしてるんだ。だから割と動ける範囲は広いかも。お母さんがいる時は自由に外に出れるようにしてるし。」
「いいね、草次郎。」
駅まで歩いてきて、朝待ち合わせた場所で別れた。
草次郎は一度も吠えなかった。ずっと笑ってたと思う。
家に帰って手を洗って、早速部屋で携帯を取り出して写真を見た。
草次郎だけの写真の後。
一枚目は笑顔の草次郎の横でちょっと緊張した顔の私、二枚目は二人が草次郎と写った写真。
約束だったから・・・・森友君に送った。
『今日はありがとう。楽しかった。今のところ明後日も天気いいみたい。楽しみにしてます。』
リビングに行ってお母さんに報告した。
一枚目の写真だけは見せた。
私と草次郎の写真。
「可愛いわね。犬の笑顔も癒されるのね。」
「うん、ずっと笑顔だった。」
「おいしそうなお店を見つけたのに一杯で入れなかったから、明後日もう一回散歩ついでに行くことにしたの。」
「そう。」
「うん。」
携帯はポケットにしまいこんだ。
森友君から返事が来た気がしたけど、しばらくそのまま見ないままで、お母さんとテレビを見て過ごした。
『今日はありがとう。僕もすごく楽しかった。草次郎も。予定は明後日だね。また連絡します。』
『写真ありがとう。』
そんな感じだった。
自宅から通うから、準備も少ない私。
引越ししたりする人もいるし、そんな人にとっては慌しいのだろう。
ちょっとだけ洋服を買ったり、文房具を見たりって、それくらいのことは考えていた。
だけどひょっこりと思わぬ楽しい予定が出来た。
「お母さん、明日ね、友達の犬の散歩に付き合うの。二時間くらい歩くんだって。犬の休憩と人間の休憩で途中ご飯を食べることになったから。おじいちゃんから貰ったお金を使っていい?」
「お昼代ならちゃんとあげるわよ。おじいちゃんからのお金は洋服を買ったりしたら?」
「うん。ありがとう。」
「その子のお母さんがずっと飼っていた盲導犬と同じ犬で、今の犬が三代目だって。名前も同じで『三代目草次郎』って名前だって。渋いよね。」
「もしかして欲しいとか言い出すの?お父さんに金魚以外のお世話を押し付ける?お母さんを頼りにするつもり?」
「違うよ。なんだかすごくうれしそうな顔をして草次郎の話をするから、散歩も楽しそうだなあって思っただけ。」
「そうよ。美波が大学生を終った後は毎日お母さんがお世話係になるから。どうせなら猫のほうがうれしい。世話なら猫のほうがいい。でもお父さんの金魚をもっと可愛がってね。」
「リリーはお父さんが愛情たっぷりで餌もたっぷりで、ぶくぶくしてて幸せそうだよ。十分だよ。」
「もう、あんなに欲しい欲しいって騒いだのは美波なのにね。」
「金魚すくいは楽しそうだけど、本当にその後のことは考えてなかった。」
「全然上手に獲れなかったから金魚屋のおじさんが元気そうなのを一匹くれたのよ。喜んで水の中の金魚を見つめて連れて帰ってきたのに。嬉しそうに名前を呼んでたのに、たったの一晩で飽きちゃうんだから。」
金魚は四角い大きい水槽の中でのんびりと泳いでる。
赤い色もきれいだし、ヒレや尻尾もきれいだった。
ゆらゆらゆれてるのはきれいだけど、やっぱり触れない。
温かくもない。
犬猫のほうが可愛いよね。
「明日楽しみ。」
「今まで犬の話はしてなかったの?」
「うん。連絡先を交換して初めて知ったの。」
「仲良しの友達じゃないの?」
「・・・うん、時々図書室で数学を一緒にやってたクラスの子。皆が一緒の時には話はしてたけど、二人だけで話をすることがなかったから。」
そういったらお母さんも不思議な顔をした。
男の子だと今更言いにくい感じになった。
気がついてるだろうか?
別に・・・友達だけど。
約束の日、天気が良くて散歩日和だった。
昨日の夕方、委員長から連絡が来て謝られた。
『ごめんね。言い出したのに。遅くなったけど妹は薬を飲んで一日寝てればよくなりそうです。』
『慎之介がすごく楽しかったって言ってたから、とりあえず良かったよ。』
『妹さん、良かったね。お大事に。』
『レストランすごく美味しかった。またね。』
そうお礼もしたけど、犬の散歩の約束をした事は私は言わなかった。
森友君に聞いただろうか?
委員長も一緒に歩いただろうか?
電車に乗って少しだけ。
『もうすぐ駅に着きます。』
そう送ったら返事がすぐに来た。
『駅の改札が見えるところで一人と一匹で待ってます。』
もう来てくれてるのかもしれない。
草次郎がソワソワしてないだろうか?
散歩に行かないの?って、歩きたそうにしてないだろうか?
今まで犬を飼ったことはない。
吠えられたりしたら悲しい。
大丈夫だよね、撫でたりしても怒らないよね。
駅の改札を出る前に気がついた。
だって本当に一人と一匹。
草次郎も大人しく座って待ってくれてるみたい。
改札を出て、一人と一匹のところに走っていった。
「お待たせ。草次郎、初めまして。撫でてもいいかな?」
「うん、大丈夫だよ。」
そう言われたから屈みこんで、あごの下と首とおでこをゆっくり撫でた。
全然嫌がらないで大人しくしてくれてるし、口を開けて表情はうれしそうだった、気のせいかもしれないけど。
「可愛い。男の子なのに、優しそうな顔をしてるね。賢い犬種だよね。」
「種類はそうだけど、やっぱりその辺はお母さんが甘いから、ダラダラしたヤツだよ。」
「そうなの?」
褒められてもいないのにうれしそうな草次郎。
笑顔に見えるのはやっぱり気のせいかもしれない。
「じゃあ、今日は一緒に散歩よろしくね。」
草次郎にそう言って立ち上がったら、一緒に立ち上がった。
向きを変えて歩き出す二人と一匹。
二人の真ん中に草次郎のリードが伸びる。
車のあんまり来なそうな住宅の間の道を行く。
ぐいぐいと張り切るようにリードを引っ張って歩く草次郎。
「まだ若いの?」
「うん5歳だから、まだまだ若い方かな?」
「そうなんだ。」
草次郎の後姿を見ながらで、会話がなくても平気なくらいだった。
後ろから見ながら時々褒めたりしながら歩いた。
「お母さんに友達の犬の散歩に付き合うって言ったの。」
「うん。」
「犬が欲しいって言い出さないでって言われた。小さい頃の金魚もまったくお世話してないから。」
「そう言えば金魚だったもんね。お父さんが可愛がってるリリーちゃん。」
「そう。一匹も捕まえられなかったからおじさんが元気なのをくれたみたい。喜んでつれて帰ったのに次の日にはまったく興味をなくしてたってお母さんに言われた。まだヒヨコや亀じゃなかっただけでもいいよね。鶏になったらお父さんも可愛がらないと思う。近所迷惑だし。」
あっという間に広いグラウンドに出た。
顔なじみがいるのか、何人かの犬と飼い主さんと挨拶をしてる森友君。
皆自分たちより大人だった。
たまに小学生が小さい犬をつれてるのを見るけど、あんまり大きさが違うと近寄ってくる犬と飼い主もいない。
草次郎は吠えたりもしないでお互い挨拶をして、匂いを嗅ぎ合うだけだった。
「誰もいなかったらちょっとだけでもリードを外してあげたりするんだけど、やっぱり天気がいいし人が多いと駄目だな。」
「残念だね、草次郎。」
それでもぐいぐいと歩きたいほうに歩いて、森友君を引っ張ってる。
「ここから10分くらい歩いたところで休憩しようか?ほとんどのところに犬用のテラスがあるんだ。ここに散歩して食事をする人が多いかもしれないから、結構混んでるかもしれない。」
「うん。待つのは大丈夫だよ。」
「テイクアウトして近くのベンチで食べたりもできるから、あんまり混んでたらそうしよう。」
「それでもいいよ。」
残念だったのは行きたかったオープンハンバーガーのお店が一杯だったこと。
すごくおいしそうなボリュームだった。
薄いパテなんかじゃない、すごい分厚いハンバーグが挟まれていた。
半分づつ、二種類食べれるね、なんて言ってたのに、他のお店を見てる間に家族が数組入って、ランチタイムは終るかもしれないと言われた。
「残念だったね。」
ランチタイムじゃないととてもいいお値段になる。
せっかくならお得なランチタイムがいい。
「おいしそうだったのにね。」
二番目に気に入ったお店に急ぎながらも、そう言いあっていた。
二番目のお店は数組待つばかりで、余裕で入れそうだった。
予約表に名前を書いて庭を散歩しながら写真を撮る。
「草次郎!」
まるで自分の犬みたいに名前を呼んで、賢い顔が笑顔になる顔をたくさん撮った。
「一緒に写る?僕が撮ろうか?」
そう言われた。
「じゃあ、お願い。草次郎いい?」
顔を上げて笑ってる。
リードを預かって、草次郎をお座りさせて隣に座る。
体の高さはあんまり変わらない。
森友君に声をかけられて、そっちを見る。
「草次郎も可愛い笑顔で、3、2、1。」
「どう?」
携帯の画面をそのまま見せられた。
だけど見るのも恥ずかしくて、さらりと見てお礼を言った。
「森友君は?」
リードを渡しながらそう言った。
そのとき、後ろから女の人に声をかけられた。
「二人とワンちゃんで撮りましょうか?」
二匹の犬を連れた女の人だった。
「お願いします。」
森友君がそう言ったので、もう一度草次郎の隣に並んだ。
私の携帯がそのまま女の人に渡された。
お礼を言って、携帯を受け取った。
草次郎を真ん中に並んだ二人の写真が撮れた。
お店を見ると大分お客さんが増えてるみたいで、予約の紙への書き込みを待つ列が出来ていた。
お店の前に戻り、少ししたら呼ばれた。
テラス席希望にしてそのまま外から回ってテラスに入った。
「ねえ、後で写真貰ってもいい?」
「もちろん。送るね。」
「僕、毎日散歩係だから、もっと早い時間にスタートしたら、さっきのお店も行けるよ。」
森友君にそう言われた。
「うん・・・・・じゃあ、明後日、天気良かったら、一緒に散歩してもいい?」
「うん、朝に連絡取り合おうか?」
「うん、分かった。」
二人でサラダとピザ二種類を分け合って、冷たい飲み物を飲んで。
草次郎もおやつとお水を貰っていた。
「一人だと、どうしてるの?」
「その辺のもっと安いお店だったり、ちょっとだけ自分もおやつを持ってきたり、飲み物だけだったりだよ。」
「大学生になったらバイトするの?」
「多分、ある程度慣れてきたらするかもしれない。社会勉強だって言われてるし、お小遣いも欲しいし。汐さんは?」
「私もすると思う。でも夜遅いのは駄目だから地元でするかもしれない。」
「どこか決めてるの?」
「パン屋さんとか、カフェがいいなあって思ってる。」
「似合いそうだね。僕買いに行くし、食べに行く。」
「全然、まだ決まってもないのに。森友君は?」
「まだ全然決めてない。時間とかシフトに融通が利くところがいいしね。」
「そうだね。」
「お腹いっぱいになった。美味しかったね。」
「うん、ゆっくり帰る?」
「うん。」
同じ道を二人と一匹で歩く。
「皆、色んな犬を飼ってるんだね。」
「そうだね。でも大きい犬よりは中型犬が多いよね。」
「さすがに家の中が広くないと草次郎の大きさは大変だよね。」
「うちはそんなに広くないけど、リビングからウッドデッキを広く作って、そこから芝生の庭にいけるようにしてるんだ。だから割と動ける範囲は広いかも。お母さんがいる時は自由に外に出れるようにしてるし。」
「いいね、草次郎。」
駅まで歩いてきて、朝待ち合わせた場所で別れた。
草次郎は一度も吠えなかった。ずっと笑ってたと思う。
家に帰って手を洗って、早速部屋で携帯を取り出して写真を見た。
草次郎だけの写真の後。
一枚目は笑顔の草次郎の横でちょっと緊張した顔の私、二枚目は二人が草次郎と写った写真。
約束だったから・・・・森友君に送った。
『今日はありがとう。楽しかった。今のところ明後日も天気いいみたい。楽しみにしてます。』
リビングに行ってお母さんに報告した。
一枚目の写真だけは見せた。
私と草次郎の写真。
「可愛いわね。犬の笑顔も癒されるのね。」
「うん、ずっと笑顔だった。」
「おいしそうなお店を見つけたのに一杯で入れなかったから、明後日もう一回散歩ついでに行くことにしたの。」
「そう。」
「うん。」
携帯はポケットにしまいこんだ。
森友君から返事が来た気がしたけど、しばらくそのまま見ないままで、お母さんとテレビを見て過ごした。
『今日はありがとう。僕もすごく楽しかった。草次郎も。予定は明後日だね。また連絡します。』
『写真ありがとう。』
そんな感じだった。
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