内緒にしていた視線の先にいる人。

羽月☆

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11 大学生になったらって、約束していたこと。

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すっかり大学生という自分に慣れた。
4月から近くにいた女の子とたくさん話をして、友達を作って増やしていった。

どこに住んでるの?実家?一人暮らし?どの教科をとる?サークルはどうする?

一通り自己紹介をして、仲良くなって。
それでも授業が重ならないと会うことが少なくなる。
逆に授業が重なると顔見知りが増えて、男女ともに知り合いが増えていった。

サークルについてはゆるい物でいいと思ってる。
高校でも何もやってなかったから、今更運動部もないし、真剣に取り組みたい趣味もない。

そんな子は多い。

ただ何もないと寂しいって子は多いので手探り状態だった。

携帯の連絡先はあっという間に高校三年間の友達の数を超えて増えて行った。
相変わらず金魚印の私。
時々可愛がってるリリーだけどアイコンにしてると本当に可愛がってるみたいに思われる。
草次郎にすると話が長くなるから、リリーのままだった。

週末に遊びに行くほどはまだ仲良くなくて、森友君に連絡を取って一緒に散歩に行ったり、デートしたりしてる。
大学生になったらやりたいこと、そう言ってた通り。

さすがに私の家の中で会うってことはない。逆もない。

外で春休みには出来なかったデートをする。

遠くまで遊びに行って、手をつないで、腕を組んで、笑い合って。
ずっと近くにいることにも慣れた。
そこに草次郎がいない事にも。

あの頃に比べるとずっとずっと広い空間を生きてる気がする。
大げさかもしれないけど、たくさんの中の二人になれる場所。

高校の時はそうは思えなかった。
図書室の小さなスペースだけで一緒にいるだけ、そんな風に思ってた。
ゆめちゃんが近くにいないその時だけ、そうも思ってた。


すごく楽になった、自由になった。


「ねえ、今日、家に来ない?」

「今から?」

「うん。」

「何かあるの?」

お母さんに紹介されるんだろうか?
すっかり了解してもらえてると思ってたけど、改めて、紹介されるんだろうか?
それともお父さんも?

「さっき連絡があって、二人が出かけてるんだ。明日の夕方まで帰れないから、一人でご飯を食べて、明日の散歩をお願いって言われた。」



「多分昔お世話になった人の不幸があったんだと思う。最近そんな話をしてたから。」

「そうなんだ。」

だから?

さっきから立ち止まって、手をつないで向き合い、話をしてる。
紹介されるわけではないらしい。
そう分かった途端、森友君が言いにくそうにしていたわけも思い当たった。

少しだけ近寄る。

「泊まるのはダメだと思う。お母さんにちゃんと言ってないと・・・・・。」

「分かってる。いつもよりちょっとだけ遅いのはダメ?」

「・・・・・いいよ。」

「じゃあ、帰りたい。家へ。すぐにでも。」

さっきランチを食べて、せっかくここまで来たけど、それもいい。
後は買いたいものもないし、ふらふらしようと言ってただけだった。

「じゃあ、帰ろう。」

一緒に。

向きを変えて二人で歩く。

森友君の駅が近づいてきて、緊張してくる。
何度も降りてる。
いつもロータリーのところで一人と一匹が待ってくれてたから。
今日はまっすぐに家を目指して帰った森友君について行くだけ。

手はつないだまま、玄関から入り、ドアを開けたら、すぐそこに草次郎が走ってきて尻尾を振って待っててくれた。

「草次郎、ただいま。」

そう言ったけど、変かも。

手を離されたけど、そのままお邪魔しますと言って上がり込んだ。

「草次郎、ご飯もらった?」

テーブルの上に手紙が置いてあった。


「ご飯は終わったんだね。じゃあ、明日の散歩だね。」

草次郎が森友君の後をついて行く。
何かをねだるように見上げてるのに、さっさと頭を撫でたら、こっちを見て、手をひかれた。


二階に上る。

下を見たら草次郎が寂しそうに見上げていた。

「待って。」

そう言ったら止まってくれた。

「ねえ、草次郎が、寂しそう。」

「僕だって寂しかったよ。楽しそうに友達の話をするのを大人しく聞いてたんだから。」

それはお互い大学生活について教え合うでしょう?

「何で女の子の友達の話の中に、普通に男の子の名前も入るの?わざと?」

「そんなんじゃないよ。普通の友達だから。だって森友君も女の子の名前出してるし友達でしょう?」

「・・・・・。」

ほら黙った。別に普通に話してるんだから、変な隠し方するよりいいじゃない。

また階段を上がる。
最後まで上がって下を見たら草次郎はいなくなっていた。

そのまま森友君の部屋まで連れて行かれた。

部屋のドアは私の背中の後ろで閉まった、すぐ後ろで。
だって部屋に入ったまま抱きしめられて、そのままちょっとだけ下がったら、そこにドアがあった。

背中に手を回したら顔を離してくれた。

あんまり見たことない顔をしていた。
ちょっと怖いくらい、男らしいような、大人びた顔で。

「美波ちゃん、大好き。」

目の前で言われた、息がかかるくらい近いから、囁くような小さな声だった。

「私も・・・・好きだよ。」

背中の手に力をこめて囁いた。

何度か繰り返してる優しいキス。
映画館で、夜景を見てる時に、誰もいない砂浜で、夜遅くなって別れる時。
短いキスはすぐに長くなり、背中はドアに押し付けられるように森友君の力を感じた。

「美波ちゃん、ダメ?」


ドアにはりつけられるように体がくっついてる。
この状態で断るわけないのに。

「分かってるから、それでも、ここに来たのに。」

そう言ったら体が離れてベッドに連れて行かれた。

カーテンを閉めて、暗くなっても、それほどでもない時間。
乱暴に服を脱いでいく森友君を見ていた。

下着だけになって、やっと私がそのままぼんやりしてるのに気がついたみたいで。

「・・・・ごめん。何でだろう。すごく焦ってる。美波ちゃん、綺麗になったよ。お化粧もして、おしゃれな服を着て、一人で大人になってる。」

「だって今日はデートだから。いつもはもっと楽な恰好だよ。今日は森友君のために前の日から考えて、お母さんにも見せて、それで来たんだから。」

「それでも・・・・。」

「森友君だって、さっき全然知らない顔をしてた。大人っぽくて、知らない人みたいだった。」

そう言ったら顔に手をやった森友くん。

さっきの『ごめん。』からすっかり懐かしい顔に戻ってる。

自分で一枚づつ服を脱いで、下着とキャミソールはそのままにして抱きついた。

「ドキドキしてる。どうしよう。変だったらどうする?」

「誰とも比べられないから、それが普通だって思えるよ。」

「初めてだよ。」

「僕もそうだから。」



「キスして。」

首に縋りついたまま顔だけ離して見つめた。

「飽きるほどキスしたい。」

「飽きたら・・・・どうするの?」

「時間が経てば、またしたくなるからいい。」


一緒に森友君の匂いのするベッドにもぐりこんだ。

ごそごそと邪魔な布を取り合い、お互いに肌を触れ合わせて、何かを確認する。
狭い中でやるにはお互いに不器用で。

「最初から脱いでもらった方が良かった。次からそうして欲しい。」

「嫌だ。恥ずかしい。」

「だって一緒だよ。見えるもん。」

上から見下ろされて言われた。
腕を立てて二人の間には隙間があり、明らかに胸を見られた。

悔しいから私はもっと下まで見てやった。
ただ、そこまでは暗くて良くは見えなかった。

その後、変か変じゃないかで言ったら、明らかに変だったと思う。
自分達が想像していた以上に『変』になったと思う。

汗をかいて、体が冷える。
体をくっつけて、目を閉じた。

少し眠りたい、やっぱり疲れた。


目が覚めた時にいろんなことにびっくりしたけど、とりあえず時間を確認した。
バタバタと動いて携帯を見つけた。

夜の10時になりそう。


お母さんに連絡しないと心配してる。


ベッドに戻ってお母さんに連絡した。
開いてどう言おうか考えたけど、嘘をつくのは無理だと思ったから、正直に言った。

『連絡が遅くなってごめんなさい。森友君と一緒にいるから心配しないで。言い訳はしません。もう少ししたら帰ります。』

お母さんは分かってくれると思う。
お父さんには内緒にしてほしい。
友達と遊んでるって思って欲しい。
でも、出かける時にもデートだって言ってたから知ってるよね、無理かもしれない。

携帯を持ったまま考えていたら、お母さんから返事が来た。

『もう遅いから。帰ってくるようだったら気をつけて。一緒にいるなら心配はしてないから。』

携帯にお辞儀をする。
お母さんだって何度も会ってるし、それは良かった。
全く知らない相手じゃないし。

「ごめんね、遅くなった?家に連絡したの?」

「うん、森友君と一緒だって言ったら心配はしてないって。」

「泊まったらダメかな?でも、帰るならちゃんと送るよ。」

暗い中でも心配してくれてるのも分かる。

「聞いてみる。」




『お母さん、このまま一緒にいてもいい?』

『しょうがないわね。もう遅いし、いいわよ。今度からちゃんと行く前に言うこと。』

ちゃんと言ったじゃない。毎回言ってたじゃない。
変だよ・・・・。

『ありがとう。明日謝る。おやすみなさい。』

返事は待たずに携帯を閉じて、抱きついた。

「泊まってもいいって。今度から事前に言いなさいって。」

「良かった。明日まで、よろしく。」

「うん。」

そうは言ってもそんなにないと思う。
だって二人とも実家だし。
後は・・・・外でお泊り。ちょっとお金がかかる。そうだよね。


次の日の朝、シャワーを借りた。
明らかに二人分のバスタオル。
そのまま洗濯してもらうことになったけど、いいのだろうか?

その辺全然気にしてないみたい。

そして草次郎に見上げられて、ついつい視線をそらしてしまった。

ああ、ごめんね。昨日は寂しかったよね。本当にごめんね。

視線は微妙に逸らしたまま、首を撫でて謝った。


「お腹空いたね。」

呑気に言いながら、キッチンでコーヒーをいれてくれる森友君。

朝、目が覚めた時にじっと見つめられてて恥ずかしかった。
先に起きて寝顔を見られて、スッピンも見られてて。
まあ素顔は高校の時にも披露してましたが・・・。

それに朝の明るさの中だとお互いの表情も良く見えたと思う。
昨日も明るかったけど、まだ夕方だった・・・・、そう違わない?気のせい?


草次郎の首を見つめてそんな事を自問してたら、すっかり朝ごはんの準備が終わったみたい。


「美波ちゃん、朝ご飯、どうぞ。」

急いで振り返った。

「ごめんなさい。草次郎と遊んでた。」

「大丈夫だよ。食べよう。」


草次郎にもご飯をお皿に開けてあげた森友君。
ソファに並んで朝ごはんにした。


一人暮らししたら、週末とか、こんな光景も少しは普通になるんだろうか?
でもそこに草次郎はいない。
それは寂しいよね。草次郎も、きっと。


「ねえ、他の人の部屋に行かないでね。女子が一緒でも、できたら、行かないでね。」

考えてたのは全然違うことなのに、そう言われた。

「もちろんだよ。」

当然そう答えた。



「美波ちゃん、最高にいい日だった、昨日。」

近くに来て目の前で言われる。

「うん。」

「思い切って誘ってよかった。断られたら恥ずかしいなって思ってた。」

「大丈夫だよ。」

「でも、そんなチャンスはもうない気がする。」

私もそう思う。
両親ともに留守にする夜なんて滅多にない。

貴重な時間だった。
大人になりそうな二人にとって、すごく貴重な夜だった。

もっと近づいてキスをする。

草次郎がいるのに。
すぐそこに。
見てるんじゃないの?
大丈夫?

唇が離れた時にそっちを見たら・・・・・いなかった。

「大丈夫だよ。草次郎も年頃だから、分かってるよ。」

そうなの?分かられてていいの?

静かなリビングにキスの音を立てて、近くにいる二人。
体がくっついて、手を絡めたら、立ち上がられた。

二階へ行く。

「・・・・お母さんたち帰ってこない?」

「・・・・・夕方だって。」


そう言われた目に誘われた。
だって部屋は暗いまま。
ベッドもくしゃっとなったまま。


草次郎にまた謝ることになりそう。
散歩はどうするの?


お母さんも呆れそう。夕方までには帰りたい、帰ろう。

まだまだ大人になり切れてないみたいだから。
まだまだ心配をかけると思う。
温かく見守って欲しい。

草次郎にも、お母さんたちにも。

ごめんね。

あと少しだけ。


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