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8 新しい肩書がついた私を隣にいさせて。
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そしてその通りになったらしい。本当にあっさりと。
明らかに変わった雰囲気に・・・・元通り以上の、本当に元通り以上になってる。
「ランチは驕りね。」
「やった~、先輩よろしくです。」
「了解。」
まあ、色々と大変だったらしいが必死に謝ったんだろう。
そして許されて、仲直りして、一緒に電車の中でくっついてきたんだろう。
とりあえず良かった。
桂馬に報告した。
『ランチは松田の驕りでお蕎麦を食べました。仕事が終ったらすぐに飛んで帰ります。』
『待ってる。良かったね。』
まったく桂馬も心配したから、桂馬にも奢ってもいいくらい。
一枚くらい原画買ってもいいんじゃない?
お蕎麦よりはうんと高いけど、なんて勝手に思ってたりして。
でも桂馬はあんまり心配してなかったかな。
私を安心させるためかもしれないけど、ずっと大丈夫って言っていた。
桂馬の言うとおりになった。
だってどう見ても前以上にうっとうしくなってる。
しゃべりすぎてあごを叩かれてたけど、それくらいじゃ足りないかも。
まったく、アホらしい。
どこかで羨ましいなんて思ってた自分が恥ずかしくなるくらい。
筋肉馬鹿と悪趣味な後輩。最強の組み合わせじゃないの?
「ねえ、もう準備はばっちり?」
「大丈夫だよ。」
「私、ちゃんと働くから。日曜日、緑ちゃん達が来てくれるって。」
「そんなに混まないし、ふらりと見に来てくれた人は見ると帰って行くし、結構寂しいもんだよ。」
「だって今回は葉書とかも売ってるじゃない。たくさんの人が買っていってくれるといいなあ。」
「あんまり期待すると終わった後ガッカリするから。」
「せっかくだから、桂馬も笑顔で頑張ってね。」
「苦手なんだけどなあ。会期の間に増田さんも来てくれるって。」
増田さんは前のベテラン担当者さんだ。
「忙しいのかな?会えなかったらよろしく伝えてて。」
「うん、改めて『婚約者です。』って紹介したいけど。」
指輪のない指を触られた。
見上げると嬉しそうな顔をした桂馬がいて。
婚約者・・・・。
「いいでしょう?個展が終わったら挨拶だからね。」
「うん。」
一週間の個展。
場所はとても人が多い所・・・から入ったところにある画廊。
白い建物はシンプルで、入り口に看板がある。
私も大好きな一枚が迎えてくれる。
その看板には今まで担当した小説本や雑誌の名前が書かれていた。小さいけど写真も載っている。
それを見ていたら中から声をかけられた。
「中に原画があります。見ていかれませんか?」
笑顔のきれいな人だった。
佇まいから画廊の人だと思った。
「あの、初めまして。小和田の知り合いで、明日お手伝いする新田です。今日も少しお邪魔してもよろしいですか?」
「ああ、すみません。話は小和田さんから伺ってました。どうぞ。」
中に入った。
外観と同じような白い建物。
その中に優しい色があふれていた。
原画は桂馬の仕事部屋やリビングでも何枚も見ている。
でもここでは本当に大切に飾られていて、画が主役で照明を当てられて展示されている。
そして少しずつ離れた距離で飾られていて、一つ一つの世界を堪能できる。
桂馬は女の人と一緒に作品を見て接待していた。
「ご縁のある作家さんも来てくれています。」
そういうことなんだろう。
「じゃあ、ごゆっくりして行ってください。」
「あ、あの、これ。皆さんで。下の箱は冷やしてお召し上がりください。明日はお世話になります。」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」
手土産を渡して、ゆっくり端の作品から見ていく。
画像では見たことはあったけど、壁の白さ、優しい光、そんな中で、原画をこんなに綺麗な状態で見たことはなかった。
もし、本当に単純にお客さまだとしても、すごく楽しめると思う。
何枚かは説明された画だった。
思い出しても照れるような、その言葉を思い出す。
真ん中に飾られた一枚。
案内の葉書にもなってる一枚だ。
出会って数日で見せられた作品、ふと目が覚めていなくなってた夜の次の日に聞かされた話。
今でも、私の一番のお気に入りだ。
何気ない日常で時々体を離されて、見られて話された。
いろんな動物、いろんな表情。
桂馬の頭の中はのぞけない。
でもどう感じて、どう見えてるのか、こうやって作品を見ると少しは分かる。
そしてどれも優しい世界。
寂しそうな表情をしてる動物にもきちんと暖かい光や、優しく声をかけてくれる誰かがいる。
後ろでは誰かが入ってきた声がしている。
どうか全く初めてのお客様でありますように。
どうか気に入ってくれますように。
できればハガキなど買ってくれますように。
お客の視線のまま、作品を見ながら、振り向かずにそう祈った。
後ろに足音がして、桂馬に呼ばれた。
「百合ちゃん。」
ビックリして振り向いた。
隣に女性がいた。さっきまで桂馬が話をしていた人。
今まで仕事をしたことのある人だと思う。
「婚約者の新田百合さんです。」
「百合ちゃん、今度も表紙でお世話になる川瀬さん。詳しくは楽しみにしてて。」
少しも変わらない笑顔。
仕事の時も本当にそのままらしい。
「こんにちは。初めまして。お世話になります。」
何と言っていいのか微妙な私の立ち位置ですが。
「噂は聞いてました。なかなかユニークな出会いだったらしいって、増田さんからビッグニュースが回って来てましたから。お会いできてうれしいです。やっとイメージが実際に追いつきました。」
ビックリして桂馬を見る。
一歩引いた桂馬。
なんでそこまでバラしたの?どこまで回されてるの?
「そのくらいショックを与えないとぼんやりしてるうちにおじいさんになりそうだって心配してたんです。もう、まったく無用な心配でした。良かったです。」
「はい、私も自分の行動にびっくりしてしまいましたので。」
いつもそんな事をやってると思われるのは心外だ。
「なんだか昔より動物達の感情がはっきりした気がします。小和田君、そう思わない?」
「えっ、まあ、そうかもしれません。」
「何だか納得。すごくスッキリした気分。増田君も来るって言ってたから。きっと会いたいと思うけど。」
「そうですか?明日なら一日百合ちゃんもいますから、そう伝えておきます。」
「桂馬君がまさかこんな美人さんを捕まえるなんて。本当にポテンシャル高かったのね、なんて。今度の作品もよろしくね。来月には見本が回ると思うから。」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
一緒に頭を下げた。
「じゃあ。またね。あ、せっかくだから葉書買おうっと。」
そう言って販売コーナーに歩いて行った作家の川瀬さん。
背中に感謝のまなざしをビーム付きで送る。
「桂馬、接客して。私はいいから。」
さっきの声は三人の女性だったらしい。
楽しそうに見てる。
私の横にいるとダメだから。
私は1人で続きを見る。
最後まで見終わって、また中央の作品に戻る。
ちょうど出会った瞬間のイメージだったと言われた作品。
大きなドーナッツを持って穴から楽しそうに覗いてる動物の目。
白いうさぎだった。
ドーナッツに生えたように見える耳がそよそよと楽しそうに揺れてて、穴の中から、目と鼻が興味深そうに動いてて、にっこり笑ってるらしい口も少し見えてる。
『覗き込んだ世界にあなたを見つけた』
・・・・恥ずかしい。でもこの『あなた』ってどっち。
やっぱり私が桂馬を見つけたって事よね・・・・。
「どうしてドーナッツを持ってるの?」
「それは少しは照れてる感じとか、いきなりごめんねみたいな感じが少しはあったから。」
良かった、あんなナンパのような行動に慣れてるって思われたら困る、ってその時は思ったから。でも好奇心がバレバレだったらしい。耳も鼻も、可愛く動いてるような画。
ちょっと懐かしさもある。
少し離れてその絵を見た。
画の下に値段が書かれてるけど、非売品になっていた。
あのドーナッツとうさぎの画は売らないらしい。
ちょっとうれしかったりする。
もう一度ゆっくり見始める。
ゆっくり見て回って受付のあたりに戻ると、それでもまだ川瀬さんはいてくれた。
手には葉書をたくさん持っていて。
あまりにもたくさんなので後日別に発送すると言う約束をしていた。
画廊の人が商品番号と枚数を確認してる。
「あ、小和田君に会うから、その時にもらえればいいかな。来月会うし。」
「了解いたしました。それでは小和田さんにお渡しはお願いします。」
少し後ろにいたら声をかけられた。
「じゃあ、次の作品も楽しみにしてるって伝えてね。百合さんもまたね。」
「はい。ありがとうございました。」
ふたりでお礼をする。
「あと、増田さん、明日来るらしい。驚くよって伝えといた。」
手を振って帰って行った。
私も少し時間をおいて画廊の人たちに挨拶して帰った。
夕方桂馬が疲れて帰って来た。
「お疲れ様。桂馬。疲れてるでしょう?」
「ずっと立ってると疲れるね。」
「なかなか休めなかった?」
「ううん、交代で裏に行ってたんだけど。人が来たら表に出てきて。」
「明日は何時に行けばいい?」
「三十分前くらいでいいって。僕は仕事してもいいって。その方がリアルだからって。」
「ねえ、今まで表紙になった本を並べたら?作品を読んでる人いるかもしれないし、読んでくれる人がいるかも。入り口に小さく写真はあったけど。私が持つし。」
「そうだね。」
一緒にご飯を食べる。
当然、今日は私が作る番。
明日は外食予定。
売れた?とか、たくさん来た?とは聞けない。
だって本当は原画は売りたくないかも、私が。
思い出がある作品があり過ぎて、手元に置いていたいって思ってしまう。
桂馬がどう考えてるかはわからないけど。
明日は画廊の人が急遽お休みとなり、私が代わりに手伝いを志願した。
一日あの作品に囲まれてるのもうれしい。ゆっくり見れるし。
そう思ってた。
「桂馬、明日緑ちゃんも来るから。」
「ああ、松田君もね。楽しみだね。」
「まあね、呆れないでね、本当に馬鹿ップルだから。」
「人に言えるの?あの動物たちのモデルは全部百合ちゃんですって言おうか?」
「それは、やめて。緑ちゃんは純粋にうらやましいって言いながら褒めてくれそうだけど、松田には揶揄われそう。」
「楽しみ。」
「言わないでね。ダメよ、言ったら。」
「分かってるよ。」
それでも楽しそうな顔をしてる気がする。
優しくキスをされた。
お返しは少しも優しくなくて、なかなか離れなかった。
「疲れてる?」
「大丈夫だよ。」
ドーナッツの穴をのぞいて見つけたのは私だから。
きっとこうなるって分かってたんだと思う。
大きな耳と可愛く動く鼻で聞き分けてかぎ分けて。
大切な物が見つかる不思議なドーナッツの穴。
きっとあの後二人で食べたんだろうけど。
うさぎとコアラでドーナッツを分け合って。
大好き。
何度も言う。
何度も答えてもらう。
何度も何度も重ねた体はお互いの心地いい所を知っている。
それでも丁寧に時間をかけて愛してくれる桂馬。
それを待てずにお願いしてしまうのは私。
それでも、すぐには聞いてくれなくて、マイペースな桂馬のテンポでじらされて。わざとなんじゃないかと思ってしまう。
いつもは私の言うことを一番に聞いてくれるのに、その時だけはダメを連発して、なかなか意地悪だったりする。
もう慣れたけど。
のんびりなコアラは、実は戦略家か策士か。
明らかに変わった雰囲気に・・・・元通り以上の、本当に元通り以上になってる。
「ランチは驕りね。」
「やった~、先輩よろしくです。」
「了解。」
まあ、色々と大変だったらしいが必死に謝ったんだろう。
そして許されて、仲直りして、一緒に電車の中でくっついてきたんだろう。
とりあえず良かった。
桂馬に報告した。
『ランチは松田の驕りでお蕎麦を食べました。仕事が終ったらすぐに飛んで帰ります。』
『待ってる。良かったね。』
まったく桂馬も心配したから、桂馬にも奢ってもいいくらい。
一枚くらい原画買ってもいいんじゃない?
お蕎麦よりはうんと高いけど、なんて勝手に思ってたりして。
でも桂馬はあんまり心配してなかったかな。
私を安心させるためかもしれないけど、ずっと大丈夫って言っていた。
桂馬の言うとおりになった。
だってどう見ても前以上にうっとうしくなってる。
しゃべりすぎてあごを叩かれてたけど、それくらいじゃ足りないかも。
まったく、アホらしい。
どこかで羨ましいなんて思ってた自分が恥ずかしくなるくらい。
筋肉馬鹿と悪趣味な後輩。最強の組み合わせじゃないの?
「ねえ、もう準備はばっちり?」
「大丈夫だよ。」
「私、ちゃんと働くから。日曜日、緑ちゃん達が来てくれるって。」
「そんなに混まないし、ふらりと見に来てくれた人は見ると帰って行くし、結構寂しいもんだよ。」
「だって今回は葉書とかも売ってるじゃない。たくさんの人が買っていってくれるといいなあ。」
「あんまり期待すると終わった後ガッカリするから。」
「せっかくだから、桂馬も笑顔で頑張ってね。」
「苦手なんだけどなあ。会期の間に増田さんも来てくれるって。」
増田さんは前のベテラン担当者さんだ。
「忙しいのかな?会えなかったらよろしく伝えてて。」
「うん、改めて『婚約者です。』って紹介したいけど。」
指輪のない指を触られた。
見上げると嬉しそうな顔をした桂馬がいて。
婚約者・・・・。
「いいでしょう?個展が終わったら挨拶だからね。」
「うん。」
一週間の個展。
場所はとても人が多い所・・・から入ったところにある画廊。
白い建物はシンプルで、入り口に看板がある。
私も大好きな一枚が迎えてくれる。
その看板には今まで担当した小説本や雑誌の名前が書かれていた。小さいけど写真も載っている。
それを見ていたら中から声をかけられた。
「中に原画があります。見ていかれませんか?」
笑顔のきれいな人だった。
佇まいから画廊の人だと思った。
「あの、初めまして。小和田の知り合いで、明日お手伝いする新田です。今日も少しお邪魔してもよろしいですか?」
「ああ、すみません。話は小和田さんから伺ってました。どうぞ。」
中に入った。
外観と同じような白い建物。
その中に優しい色があふれていた。
原画は桂馬の仕事部屋やリビングでも何枚も見ている。
でもここでは本当に大切に飾られていて、画が主役で照明を当てられて展示されている。
そして少しずつ離れた距離で飾られていて、一つ一つの世界を堪能できる。
桂馬は女の人と一緒に作品を見て接待していた。
「ご縁のある作家さんも来てくれています。」
そういうことなんだろう。
「じゃあ、ごゆっくりして行ってください。」
「あ、あの、これ。皆さんで。下の箱は冷やしてお召し上がりください。明日はお世話になります。」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」
手土産を渡して、ゆっくり端の作品から見ていく。
画像では見たことはあったけど、壁の白さ、優しい光、そんな中で、原画をこんなに綺麗な状態で見たことはなかった。
もし、本当に単純にお客さまだとしても、すごく楽しめると思う。
何枚かは説明された画だった。
思い出しても照れるような、その言葉を思い出す。
真ん中に飾られた一枚。
案内の葉書にもなってる一枚だ。
出会って数日で見せられた作品、ふと目が覚めていなくなってた夜の次の日に聞かされた話。
今でも、私の一番のお気に入りだ。
何気ない日常で時々体を離されて、見られて話された。
いろんな動物、いろんな表情。
桂馬の頭の中はのぞけない。
でもどう感じて、どう見えてるのか、こうやって作品を見ると少しは分かる。
そしてどれも優しい世界。
寂しそうな表情をしてる動物にもきちんと暖かい光や、優しく声をかけてくれる誰かがいる。
後ろでは誰かが入ってきた声がしている。
どうか全く初めてのお客様でありますように。
どうか気に入ってくれますように。
できればハガキなど買ってくれますように。
お客の視線のまま、作品を見ながら、振り向かずにそう祈った。
後ろに足音がして、桂馬に呼ばれた。
「百合ちゃん。」
ビックリして振り向いた。
隣に女性がいた。さっきまで桂馬が話をしていた人。
今まで仕事をしたことのある人だと思う。
「婚約者の新田百合さんです。」
「百合ちゃん、今度も表紙でお世話になる川瀬さん。詳しくは楽しみにしてて。」
少しも変わらない笑顔。
仕事の時も本当にそのままらしい。
「こんにちは。初めまして。お世話になります。」
何と言っていいのか微妙な私の立ち位置ですが。
「噂は聞いてました。なかなかユニークな出会いだったらしいって、増田さんからビッグニュースが回って来てましたから。お会いできてうれしいです。やっとイメージが実際に追いつきました。」
ビックリして桂馬を見る。
一歩引いた桂馬。
なんでそこまでバラしたの?どこまで回されてるの?
「そのくらいショックを与えないとぼんやりしてるうちにおじいさんになりそうだって心配してたんです。もう、まったく無用な心配でした。良かったです。」
「はい、私も自分の行動にびっくりしてしまいましたので。」
いつもそんな事をやってると思われるのは心外だ。
「なんだか昔より動物達の感情がはっきりした気がします。小和田君、そう思わない?」
「えっ、まあ、そうかもしれません。」
「何だか納得。すごくスッキリした気分。増田君も来るって言ってたから。きっと会いたいと思うけど。」
「そうですか?明日なら一日百合ちゃんもいますから、そう伝えておきます。」
「桂馬君がまさかこんな美人さんを捕まえるなんて。本当にポテンシャル高かったのね、なんて。今度の作品もよろしくね。来月には見本が回ると思うから。」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
一緒に頭を下げた。
「じゃあ。またね。あ、せっかくだから葉書買おうっと。」
そう言って販売コーナーに歩いて行った作家の川瀬さん。
背中に感謝のまなざしをビーム付きで送る。
「桂馬、接客して。私はいいから。」
さっきの声は三人の女性だったらしい。
楽しそうに見てる。
私の横にいるとダメだから。
私は1人で続きを見る。
最後まで見終わって、また中央の作品に戻る。
ちょうど出会った瞬間のイメージだったと言われた作品。
大きなドーナッツを持って穴から楽しそうに覗いてる動物の目。
白いうさぎだった。
ドーナッツに生えたように見える耳がそよそよと楽しそうに揺れてて、穴の中から、目と鼻が興味深そうに動いてて、にっこり笑ってるらしい口も少し見えてる。
『覗き込んだ世界にあなたを見つけた』
・・・・恥ずかしい。でもこの『あなた』ってどっち。
やっぱり私が桂馬を見つけたって事よね・・・・。
「どうしてドーナッツを持ってるの?」
「それは少しは照れてる感じとか、いきなりごめんねみたいな感じが少しはあったから。」
良かった、あんなナンパのような行動に慣れてるって思われたら困る、ってその時は思ったから。でも好奇心がバレバレだったらしい。耳も鼻も、可愛く動いてるような画。
ちょっと懐かしさもある。
少し離れてその絵を見た。
画の下に値段が書かれてるけど、非売品になっていた。
あのドーナッツとうさぎの画は売らないらしい。
ちょっとうれしかったりする。
もう一度ゆっくり見始める。
ゆっくり見て回って受付のあたりに戻ると、それでもまだ川瀬さんはいてくれた。
手には葉書をたくさん持っていて。
あまりにもたくさんなので後日別に発送すると言う約束をしていた。
画廊の人が商品番号と枚数を確認してる。
「あ、小和田君に会うから、その時にもらえればいいかな。来月会うし。」
「了解いたしました。それでは小和田さんにお渡しはお願いします。」
少し後ろにいたら声をかけられた。
「じゃあ、次の作品も楽しみにしてるって伝えてね。百合さんもまたね。」
「はい。ありがとうございました。」
ふたりでお礼をする。
「あと、増田さん、明日来るらしい。驚くよって伝えといた。」
手を振って帰って行った。
私も少し時間をおいて画廊の人たちに挨拶して帰った。
夕方桂馬が疲れて帰って来た。
「お疲れ様。桂馬。疲れてるでしょう?」
「ずっと立ってると疲れるね。」
「なかなか休めなかった?」
「ううん、交代で裏に行ってたんだけど。人が来たら表に出てきて。」
「明日は何時に行けばいい?」
「三十分前くらいでいいって。僕は仕事してもいいって。その方がリアルだからって。」
「ねえ、今まで表紙になった本を並べたら?作品を読んでる人いるかもしれないし、読んでくれる人がいるかも。入り口に小さく写真はあったけど。私が持つし。」
「そうだね。」
一緒にご飯を食べる。
当然、今日は私が作る番。
明日は外食予定。
売れた?とか、たくさん来た?とは聞けない。
だって本当は原画は売りたくないかも、私が。
思い出がある作品があり過ぎて、手元に置いていたいって思ってしまう。
桂馬がどう考えてるかはわからないけど。
明日は画廊の人が急遽お休みとなり、私が代わりに手伝いを志願した。
一日あの作品に囲まれてるのもうれしい。ゆっくり見れるし。
そう思ってた。
「桂馬、明日緑ちゃんも来るから。」
「ああ、松田君もね。楽しみだね。」
「まあね、呆れないでね、本当に馬鹿ップルだから。」
「人に言えるの?あの動物たちのモデルは全部百合ちゃんですって言おうか?」
「それは、やめて。緑ちゃんは純粋にうらやましいって言いながら褒めてくれそうだけど、松田には揶揄われそう。」
「楽しみ。」
「言わないでね。ダメよ、言ったら。」
「分かってるよ。」
それでも楽しそうな顔をしてる気がする。
優しくキスをされた。
お返しは少しも優しくなくて、なかなか離れなかった。
「疲れてる?」
「大丈夫だよ。」
ドーナッツの穴をのぞいて見つけたのは私だから。
きっとこうなるって分かってたんだと思う。
大きな耳と可愛く動く鼻で聞き分けてかぎ分けて。
大切な物が見つかる不思議なドーナッツの穴。
きっとあの後二人で食べたんだろうけど。
うさぎとコアラでドーナッツを分け合って。
大好き。
何度も言う。
何度も答えてもらう。
何度も何度も重ねた体はお互いの心地いい所を知っている。
それでも丁寧に時間をかけて愛してくれる桂馬。
それを待てずにお願いしてしまうのは私。
それでも、すぐには聞いてくれなくて、マイペースな桂馬のテンポでじらされて。わざとなんじゃないかと思ってしまう。
いつもは私の言うことを一番に聞いてくれるのに、その時だけはダメを連発して、なかなか意地悪だったりする。
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