幼なじみの有効期限は?

羽月☆

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8 引き戻される夏

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しばらく食欲もなかった。すこし体重も落ちてため息も増えた。
「しおりちゃん、どうかした?」
売り場の上司の辰巳さんに聞かれた。

「すみません。ちょっと。本当にすみません。ちゃんとします。」

背を伸ばして笑顔を作った。
向こうからお客様が歩いてくるのが見えて、その話はいったん終わった。

ふ~。しっかりしよう。仕事中だし。

辰巳さんが対応してるお客様には私も見覚えがある。
古くからよく商品を買っていただいてるお客様らしい。
家族や仲間のお祝いごとのたびにいろいろ相談を受ける。
そんなお客様は何人かいて、たいていがちょっとオジサマ以上の年の方だ。
若い人はお気に入りのブランドでもショップで買ってるのだろう。
でもあんな方は本当にありがとうと思う。
そう思って見てたら声をかけられた。

「あの・・・」

声をかけられて、振り向いて挨拶する。

「失礼いたしました。何かお探しですか?」

手に商品がないことを確認して聞いてみる。

「あの、真田しおりさん?」
「はい。そうです。」

誰かな・・・一生懸命思い出す。
名札は苗字だけだから下の名前は滅多に知られてないだろう。
お買い上げ伝票も名字だけだし。・・・誰?

「高校の時、塾で一緒だった潮田です。覚えてますか?」

あ・・・・・・、何で思い出せなかったのか、申し訳ないくらい

「すみません。はっきり思い出しました。すごく・・・・スーツ姿で大人びて見えたので。」

すっかりスーツが馴染んでるし、なんだか落ち着いた雰囲気を醸し出している。新人よね?

「あの時は本当に本当にありがとうございました。私の成績アップは潮田君のおかげです。家族皆で感謝したくらいです。」
「そう、なんだか春にも会えなかったから。久しぶりだね。」
「はい、もう春もいろいろとバタバタしてて、すみません、ちゃんとお礼も出来なくて。」
「うん。」
「偶然ですよね。よく分かりましたね、変わってませんか?私。」
「うん、何度か通ってて似てるなって思ってて。さりげなく名札見たんだ。珍しい名前だし。そうかなって思って。」
「すみません。気がつかなくて。接客業失格ですね。」
「会いたいと思ってたから。だから分かったんだよ。」

笑顔でそう言われた・・・・。

「あの、これ名刺なんだけど。良かったら久しぶりに懐かしい話ができないかな?」

名刺を見た。有名企業の名前があった。
やっぱり頭良かったもんね。

あ、返事。

「はい。食事なら。随分経ってしまいましたが、私にあの時のお礼をさせてください。」
「良かった。じゃあ、詳しくはメールもらえるかな?」

名刺のアドレスを指される。

「はい、今夜中にメールしますので。」
「ありがとう、待ってる。今度ネクタイ選んでもらえたらうれしいな。」
「もちろんです。是非。」

笑顔で見送り振り返ると、辰巳さんと目が合った。
お客様は帰られたようだ。

「しおりちゃん、誰?」

ニコニコしながら聞いてくる

「あ、すみません。昔お世話になった人で、たまたま見つけてくれたみたいで。」
「かっこいいね。なんだか頭もよさそう。」
「はい、いいと思います。勉強教えてもらってたんです。」
「へえ、偶然見つけてくれるなんて。いいじゃない。」

名刺をポケットにいれながら約束を忘れないように心に止めた。

「お食事を誘われましたので、今度行ってきます。」
「素直に報告してくれるのね。それにデートの約束までスマートね。」
「デートって、そんなんじゃないです。お礼です。懐かしいんだと思います。」

あんまり私語は出来ないけど今は誰もお客様がいない。
カウンターの中で笑顔を作りながら話をするのにも慣れた。
時々内緒話をしている、小声で。

「さっきは元気なくて心配したけど、少し元気になったみたいね。」

そう言われた。

ちょっとだけ忘れてた、忘れることができたかもしれない。
ポケットの名刺をそっと押さえた。

メールを出して返信が来て約束して。
金曜日の夜に待ち合わせをした。

少し時間をずらして勤務するので、早く終われる日と閉店までの日のシフトがある。
早く終わる日に、お店の向かいのコーヒー屋さんで待っててもらうことにした。
待ち合わせのお店では姿を探すまでもなく、すぐに気が付いた。
同時にこっちを見てくれて、手をあげてくれた。
席に行き向かいに座る。

「お待たせしました。」
「ううん、残業なかったからちょうどいい時間だったよ。」
「お店勝手に予約したけど良かったかな?少しだけ歩くけど。」
「はい。ありがとうございます。」
「制服だと分からなかったけど、やっぱり雰囲気変わったね。」
「そうですか?」
「うん、すごく・・・4年ぶりだもんね。」

並んで歩いて駅の方へ行く。

少し大通りから離れて、何度か角を曲がるとどのへんだか分からなくなる。
いつも地下を通ることが多いから、あんまり知らない景色だった。
ごみごみした通りを過ぎて少し落ち着いた通りに出る。
明るくてきれいなお店の前でここだと言われた。
カジュアルフレンチのお店らしい。
お客さんもたくさん入ってる。大体同じくらいの年齢の人が多い。
女性の大人数のグループだったり、男女ペアだったり。
賑わっている。

席についてメニューを決める。

コースを予約していたみたいで二つの中から冷菜、メインをそれぞれ選んだ。

「お酒は?」
「私、結構飲めるみたいなんです。」

ひらりさんと飲んで鍛え上げてる。

「そうなんだ。じゃあ、どうぞ。」

メニュー表を渡される。
部屋で飲むのとは大違いの値段のおしゃれな名前のお酒たち。
見覚えのあるカクテルをお願いした。

再会に乾杯と言ってグラスを合わせる。
美味しい。やっぱり美味しい。
でもさすがに調子に乗って飲むわけにはいかない。

社会人として、久しぶりの対面だし。

「あの夏からすごく成績が上がって、随分志望校のランクも上げられました。」
「そう、良かった。」
「私、本当に邪魔してなかったですか?」
「もちろんだよ。」
「あの頃特定の大学を目指して勉強してるのかと思った。一日中いたから。」
「ああ・・・・。」部屋から逃げ始めたのはあの夏から。
「いえ、部屋だといろいろサボるので、一念発起して頑張ってみようと思っただけです。」
「そうみたいだね。実は彼と同じ大学に行きたいのかなって思ってて。びっくりさせたいとか。だからさり気なく聞いてみたつもりだったんだけど。」


なんだろう。確かにどこ受けるの?とかは聞かれた気がした。

「播野君。」

タスク?何でタスクの事を?

「クラスに播野くんとしおりさんと同じ中学だった子がいて、僕がしおりさんと勉強してるのを見て声かけてきたんだ。それで播野君の事も聞いて。てっきりそうなのかと思ってた。」

そうって何?
私とタスクの事・・・・。

「あの、ごめん、なんだか・・・・。」
「いいえ。」
よくわからないって顔を作って、ゆっくり首を倒した。

私は今どんな顔をしてたんだろう。
すごく悲しい顔をして謝られた。
悪いこと言ってごめんみたいな顔をしてた。

下を向いて椅子を直すふりをして、もう忘れたから・・・と心でつぶやいた。

顔を上げたら食事が運ばれてきて。美味しそうなそれに声が出る。

「美味しそうですね。」
声は楽しそうに響いたと思う。

さっそくフォークとナイフを手に食べ始めた。
お腹が空いていた。
今日は美味しいものを食べようと思ってお昼も軽くしていたし。
結局さっきの話は続かず、新しい生活の話を聞く。

1人暮らしをしてるらしい。残業も多く大変だという。
その代りに営業でいろんな人に出会えるし、美味しいものも食べれると。

「いいですね。私は本当にあのお店の中に閉じこもりきりです。お客様の格好で外の天気が分かります。特に急に雨が降ってきたとか、すごく熱いとか。」
そんな日常の些細な話をしながらデザートまで食べて。

「久しぶりに食事をした気分です。美味しかったです。」
「いつもどうしてるの?」
「時々自炊です。でも遅い日はレンジに頼ってます。」
「一人だとその方が経済的だったりしてね。」
「そうそう、なんて言ってはいけないですが。」
「お店は定休日がないんだよね。」
「そうなんです。本当にほとんど年始だけみたいな・・・・。」

誰とも会わない日々。大学の友達も週末休みが多い。
そうなるとやっぱり会えない。
平日に休むことが多いから。
一人で過ごすことにすっかり慣れている。
たまに週末にあたってもぼんやりと過ごして、夕方からはひらりさんと飲んでいる。

あっという間に食後の飲み物も飲み終わる。
あの懐かしい日々から続いてる今の時間。
やっぱりだんだん平気になるんだろう。
今にいない誰かを思い出すことも、考えることもなく過ごせる日になるんだろう。


結局誘ったのは自分だから、そう言う潮野さんにご馳走になってしまった。
お店を出て駅に向かう。

「すみません、お礼のつもりで誘いを受けたのに、結局ご馳走になってしまって。」

又の機会には・・・そう言った方がいいかもしれないけど、どうなんだろう。
また会いたいのかどうなのか。
分からない。
もうすぐ駅と言うところに来た。

「しおりさん、又お食事に誘ったら迷惑ですか?」
潮田さんがそう聞いてきた。

さっき考えてたところでした。
私も・・・・。

でも返事が出来ない。

今の気持ちとしてはまた会いたいとは・・・思えてないのだ。
私の中で今日の食事はあくまでもお礼の気持ちでの食事だったらしい。
でも何度か会えば変わる?すごく優しい人だと思うし。

「ごめん、いいんだ。でも、ちょっとだけ考えてもらえるかな?もし気が変わって、又会ってもいいと思えるようだったら、その時に連絡もらえればうれしい。今日のお礼のメールはもういいからね。」
「すみません。今はちょっと・・・。その、多分・・・・。」
「うん、分かってるかも。でももう少しだけ期待したいしたいかな。」

「じゃあね、気を付けて。」
そう言って自分の使う路線の方へ歩いて行った潮田君。

私は目のまえの改札から入ればいい。
わざわざ送ってきてくれたらしい。

まっすぐに歩いていく潮田さんの背中を見つめて、悲しい思いを膨らませた。
酷く傷つけてしまったかもしれない。
でも無理してももっと傷つけるだけだから。
背中から視線を戻して一人改札をくぐる。

無性に実家の部屋に帰りたくなった。
少し遅いけど、電話したらまだ起きてるって言われた。
このまま実家まで電車に乗って帰った。

あんなに逃げてばかりいた部屋だったけど、今はとてもあの部屋に帰りたい。
たとえ窓の向こうにもうタスクはいなくても。
その隣に誰かがいても。

小さなころの思い出にゆっくりと癒されたい。
その後悲しくなったとしても、今はそうしたい。


実家に帰り、手土産を渡して、お風呂に入って部屋に行った。
明日は休み。

「ゆっくり寝たいから起こさないで。」

そう言ってきれいな布団に横になった。
急に帰ってきたのに、お部屋は私がいた時のまま変わらずにきれい。
お布団も気持ちいい。

お母さんありがとう。つぶやいて目を閉じた。

窓を開けると子供の頃のタスクがすぐそこにいるような気がする。
でも開けない、絶対。
現実は辛くても、懐かしい思い出の中では、とてもかわいい声で私の名前を呼んでくれる。

『しおり、いる?』

ここにいるよ、タスク。
私は今ここにいるのに。

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