関係者の皆様、私が立派な大人になれるその日まで、あと少しだけお待ちください。

羽月☆

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17 楽しい想像は出来るのに、それは現実にはあり得ない事だったりする。

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平木さんとは週に一回くらいは一緒にランチをとっている。
なかなか夜の予定は誘われてない。

「お給料日が終わったから、忙しさがひと段落着いたの。来週あたり誘うかも。」

そう言われた。


それなのに。

「来週から社長と一緒に同行してもらおうかな。」

朝陽さんに言われた。

いきなり社長?
それは社長も承知のこと?

ゆっくり社長を見た。

相変わらずのクールな表情で。
承知のことらしい。

「よろしくお願いします。」

深々と頭を下げた。

「ああ、予定は朝陽のタブレットで確認してもらって。必要なことがあったらその都度言うから。挨拶と名刺交換が出来ればいいから。」

「はい。」

「毎回じゃないから、僕と交互ね。」

朝陽さんにそう言われた。

「はい。」

まずは朝陽さんに同行って順番じゃないの?
でも嫌とは、とても言えない。
何のために会話を打ち込む研修をしていたかわからないから。
でも挨拶だけみたいだから、大切な打ち合わせはきっと朝陽さんが一緒に行くんだと思う。



そして本当に横にいるだけだった。
研修の成果も披露することなし。

その分の交通費の精算や会話の内容を自分なりにまとめたり、頂いた名刺を整理したり、でもそれだけ。


初めての顔合わせや大切な契約の時などは朝陽さんが同行してる。
私が一緒に行くところはお礼のあいさつや、派遣した人のフォローのための外出だった。

それでもいろんな人、いろんな場所がある。
そして社長はとても明るい顔で仕事をしていた。
社長室では本当に静かなのに、表情も明るく、声も元気があるし、軽妙な会話をしていた。
私には見せることがない一面があった、その事実を知った。




そんなある時、会社を出てすぐのところで名前を呼ばれた

「芽衣。」

反射的に振り向いた、横にいた社長も止まった。

「アン!」

社長を見る。

「時間は余裕あるから。」

そう言われて少し離れていった。

「悪い。つい、びっくりして。たまにここのビルに来るんだ。」

そう言って名刺を出してきた。
誰でも知っている事務用機器のメーカーだった。

「仕事中悪い、また、連絡するよ。」

名刺を手にした私にそう言ってきた。

「会おうよ。・・・・・皆にも声かけるし。」

「うん。」

「じゃあ、悪かったな。なんか痩せたみたいだけど、大丈夫か?頑張ろうな!」


そう言ってちらりと社長の方を見て、離れていった。
アンはすっかりスーツが似合って、普通のサラリーマンっぽくなっていた。
営業の途中なんだろう。
その背中を見送り、急いで社長のとこに行き、謝った。

「お待たせしてすみませんでした。」

「あぁ。」

何事もなかったかのように歩き出した背中について私も歩き出した。

こんな時に会話のきっかけとして、普通は話をするよね。

『大学の同じゼミの仲間なんです。教授を困らせる落ちこぼれでした。すっかりサラリーマンっぽくなってビックリです。私も普通にOLさんに見えるんでしょうか?』とか。

以上が空想上の会話。
ほぼ妄想。

だって向けられた背中は少しの興味も見せてくれなくて、むしろ会話も必要ない?

いつも予定表を見て、会社の名前を見て、名刺の束から探し出して何の会社だか見る。

そして会社に着く前に少しだけ来訪の目的を聞かされる。

それだけ。

途中も会話をすることが少なくて、社長と呼びかけることも少なくて。
だから『春日さん』と呼ぶこともない、いまだかつてない。
『あの』で済んでる感じだった。

だって朝陽さんだってほとんど社長って呼んでるし。
だから社長でいいと思ってる。




今日も1人でランチをとっている。
自分からはまだ平木さんに連絡することはできずに。
昼前に携帯を見るくらい。

さすがにお昼ごとにお母さんに連絡するのはやめた。
きっと安心してる。
帰ったら一日の報告をしてる。
そうそう報告することはないけど、それなりに。
そして会話に登場するのは朝陽さんだけ・・・。
それが事実だし。


「芽衣ちゃん、こんにちは。」

声をかけられてびっくりした。
平木さんだった。手には自分と同じようにコーヒーとバナナを持っている。
指を指されて頷いたら向かいの席に座ってくれた。

「お昼それだけ?」

テーブルにはカフェオレと齧っただけのクッキーがあった。

「はい。平木さんは?デザートにバナナですか?」

「違うの。少し太ったみたいで、今週ダイエット中なの。だから飲み会の声もかけてなくてごめんね。今週はまっすぐ大人しく帰ってサラダとササミを食べる夕食なの。」

「はい・・・・。」

待っていた連絡もなくて、確かにちょっと寂しかった。

「今ね、だいぶん効果が出てきたから、そうしたら飲みに行こうね。」

「はい。楽しみに待ってます。」

バナナを美味しそうに食べてる平木さん。

「彼氏が少しは痩せた方がいいって、まったく誰のせいよねって。平気で自分は夜遅くまでビールを飲んだりしてるのに。太らないタイプって本当に厄介。」

「一緒に暮らしてるんですか?」

「うん、そう。芽衣ちゃん、好きな人は?」

首を振る。

「もう、楽しもう!!じゃあ、飲み会は彼女無しも用意しとくから。でも会社のメンズじゃない方がいいかな?その時は彼氏の友達にも聞いてもらおう。」

「いえ・・・・・。」

手と首を一緒に振る。

「だって凄く寂しそうだったよ。せめて同じフロアだったらね。あの部屋はやっぱり誰も入れないしね。」

いろんな人が私に話しかけに来たりしたら社長がびっくりしそう。
朝陽さんがお菓子を常に置いていそうだけど。
想像して、思わず笑顔になった。


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