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第一章:冷徹な夫との新婚生活
ヒート時の決定的な拒絶
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身体の異変に気づいたのは、夕方のことだった。下腹部が熱く疼き、肌が敏感になっていく。息が荒くなり、身体の奥から甘い熱が湧き上がってきた。鏡を見ると、頬が紅潮していて、瞳が潤んでいた。
(ヒートだ)
心臓が高鳴り、期待が胸を満たした。オメガのヒートは、アルファを惹きつける甘い香りを放つ。過去の夫たちも、ヒートの時は僕を抱いてくれた。痛いだけで何も感じなかったが、少なくとも拒絶はされなかった。
(今度こそ)
心の中で呟きながら、僕は身体を清めた。浴槽に湯を張り、バラの香りの入浴剤を溶かす。身体を沈め、丁寧に洗っていく。髪も念入りに洗い、柔らかく梳かした。湯から上がると、薄い絹の夜着を纏う。いつもより透ける素材で、身体の線が全て見える。
鏡の前に立ち、自分の姿を確認した。ヒートの影響で、身体は熱く火照っている。肌は桃色に染まり、瞳は潤んで艶めかしい。首筋からは甘い香りが立ち上り、自分でも分かるほど濃厚だった。
(もしかしたら)
期待が膨らんだ。ヒートの匂いなら、レオニードも無視できないかもしれない。アルファは本能的にオメガのヒートに惹かれる。抱いてくれるかもしれない。子どもを授かることができるかもしれない。
部屋を出て、廊下を歩き始めた。使用人たちの視線が突き刺さるが、今は気にならなかった。身体が熱く、頭がぼうっとしている。足元がふらつき、壁に手をついて進んだ。
レオニードの部屋の前に立ち、ノックをする。いつもより強く、何度も叩いた。中から低い声が聞こえてくる。
「入れ」
扉を開けると、レオニードは書斎机に向かって書類を読んでいる。蝋燭の明かりが彼の横顔を照らし、鋭い眼光が紙面に注がれていた。僕が入ってきても、顔を上げる気配すらない。
「あの……」
声が震えた。身体が熱く、息が荒い。レオニードはペンを動かし続け、僕を無視している。
「今夜こそ、お願いします」
懇願するような声を出すと、レオニードの手が止まった。ペンを置き、ゆっくりと顔を上げる。深い紺色の瞳が僕を捉え、何かに気づいたように目を細めた。
「……ヒートか」
低い声が響き、心臓が跳ね上がる。レオニードが立ち上がり、こちらに近づいてきた。
(来てくれる)
期待が胸を満たした。レオニードは僕の前で立ち止まり、顎を掴んで顔を上げさせた。鋭い視線が僕を見下ろし、冷たさだけが伝わってくる。
「勘違いするな」
冷たい声が耳朶を打ち、期待が一気に崩れ落ちた。
「結婚してやったのは、お前の家の後ろ盾のためだ」
心臓が凍りつき、息が止まりそうになる。
「オメガを抱く気はない」
はっきりと告げられた拒絶の言葉に、涙が溢れそうになった。レオニードは僕の手を払いのけ、身体を離す。
「出ていけ」
命令の声に、僕は思わずレオニードの腕に縋り付いた。
「お願いします……身体が、熱くて……苦しいんです」
必死に訴えると、レオニードは苛立ったように舌打ちをして、僕の手を振り払った。力任せに払われた手に、身体のバランスが崩れる。足がもつれ、後ろに倒れ込んだ。
ゴン。
鈍い音が響き、視界が真っ白になった。後頭部に激痛が走り、身体から力が抜けていく。何かにぶつかった。ベッドの柱だと、ぼんやりと理解した。
「……っ」
声も出せず、床に崩れ落ちる。痛みで頭が割れそうになり、耳鳴りがした。視界がぼやけ、天井が揺れている。
「おい」
レオニードの声が遠くから聞こえた。足音が近づき、僕の前に膝をつく気配がした。
「だいじょ……」
手が伸ばされてくるのが見えた。大きな手が、僕の肩に触れようとする。
「平気です」
涙目で言葉を絞り出し、僕は自分で身体を起こした。手のひらを床につき、よろよろと立ち上がる。頭が痛み、目の前が暗くなりそうだった。
「待て、医師を呼ぶ」
レオニードの声が背後から聞こえたが、僕は振り返らずに部屋を飛び出した。扉を開け、廊下へと出る。足がもつれ、壁に手をついて進んだ。頭の痛みが増し、吐き気がする。視界が揺れ、まっすぐ歩けない。
自分の部屋に辿り着き、扉を開けて中に入った。扉を閉めるとその場に崩れ落ち、床に座り込んだ。
(後ろ盾のため)
涙が溢れてきて、止まらなくなった。顔を覆い、声を殺して泣いた。フェルゼン家がリヒテンベルク家の力を必要としていたことは知っている。
この結婚で、レオニードは男爵から伯爵になったのだから。
(僕はただ――自分の子がほしいだけなんだ)
自分の子を抱きたい。育てたい。家族がほしい。
(それの何が悪いんだ)
感情が乱れ、涙が次々と溢れてくる。一人だけでいい。自分の子をこの手で抱きたい。笑顔を見たい
どうして、その夢が叶わないのだろう。三度の結婚で、一度も妊娠できなかった。
医師は問題ないと言ってたのに。ヒートも来るし、身体に異常はないと。なのに、どうして子を授かることができないのだろう。
(四度目の結婚も、駄目なのか)
絶望が胸を満たし、息が苦しくなった。ベッドによじ登り、枕に顔を埋める。涙が枕を濡らし、嗚咽が漏れた。
身体が震え、寒気がした。ヒートで身体は熱いのに、心は冷え切っている。丸くなってベッドの上で震えていると、ノックの音が響いた。
「エミール様、医師がお見えです」
メイドの声が扉の向こうから聞こえた。僕は返事をすることもできず、ただ黙っていた。鍵を開ける音がして、扉が開く。
足音が近づき、ベッドの横に誰かが立つ気配がした。
「レオニード様から、頭を打ったので診察するように言われております」
老齢の医師の声が聞こえた。身体を起こされ、後頭部を調べられる。冷たい手が傷に触れ、痛みが走った。
「傷は浅いですね。手当てをします」
薬を塗られ、包帯を巻かれた。医師の手は優しく、丁寧に治療してくれる。
「しばらく安静にしていてください。目眩や吐き気があれば、すぐに呼んでください」
医師が部屋を出て行き、再び一人になった。僕はベッドに横たわり、天井を見つめた。
(こんな中途半端な優しさなんて、いらない)
心の中で呟いた。頭を打ったから医師を呼ぶ。最低限の気遣い。夫としての義務を果たしているだけ。
抱いてくれないなら、気遣いも必要ない。僕が欲しいのは、子どもだけ。
時間が過ぎ、ヒートの熱が身体を蝕んでいく。下腹部が疼き、息が荒くなる。誰にも抱かれず、ただ苦しいだけのヒートだった。
深夜になり、僕は起き上がってベルを鳴らした。メイドが部屋に入ってくると、僕は低い声で告げた。
「フリッツを呼んでください」
しばらくして、フリッツが部屋に入ってきた。僕の従者として、長年仕えてくれている男だった。
「坊っちゃん、お怪我は大丈夫ですか」
心配そうな声に、僕は頷いた。
「平気です。フリッツ、頼みたいことがあります」
「何でしょうか」
「レオニード・フェルゼンについて調べてください」
フリッツの表情が変わり、真剣な眼差しで僕を見つめた。
「何を、お調べすればよろしいでしょうか」
「全てです。生い立ち、戦歴、フェルゼン家のこと。なぜ僕と結婚したのか。なぜ四度も結婚している僕を選んだのか。全て知りたいんです」
フリッツは少し考え込むように沈黙し、やがて頷いた。
「承知しました。数日お時間をいただけますか」
「ええ、急ぎません。丁寧に調べてください」
「かしこまりました」
フリッツは一礼して、部屋を出て行った。扉が閉まり、再び静寂が戻ってくる。
僕はベッドに横たわり、窓の外を見つめた。月が雲に隠れ、暗い夜空が広がっている。風が木々を揺らし、葉擦れの音が聞こえてきた。
頭の傷が鈍く痛み、身体が重い。ヒートの熱も相まって、意識が遠のいていく。僕は目を閉じ、暗闇の中に沈んでいった。
(ヒートだ)
心臓が高鳴り、期待が胸を満たした。オメガのヒートは、アルファを惹きつける甘い香りを放つ。過去の夫たちも、ヒートの時は僕を抱いてくれた。痛いだけで何も感じなかったが、少なくとも拒絶はされなかった。
(今度こそ)
心の中で呟きながら、僕は身体を清めた。浴槽に湯を張り、バラの香りの入浴剤を溶かす。身体を沈め、丁寧に洗っていく。髪も念入りに洗い、柔らかく梳かした。湯から上がると、薄い絹の夜着を纏う。いつもより透ける素材で、身体の線が全て見える。
鏡の前に立ち、自分の姿を確認した。ヒートの影響で、身体は熱く火照っている。肌は桃色に染まり、瞳は潤んで艶めかしい。首筋からは甘い香りが立ち上り、自分でも分かるほど濃厚だった。
(もしかしたら)
期待が膨らんだ。ヒートの匂いなら、レオニードも無視できないかもしれない。アルファは本能的にオメガのヒートに惹かれる。抱いてくれるかもしれない。子どもを授かることができるかもしれない。
部屋を出て、廊下を歩き始めた。使用人たちの視線が突き刺さるが、今は気にならなかった。身体が熱く、頭がぼうっとしている。足元がふらつき、壁に手をついて進んだ。
レオニードの部屋の前に立ち、ノックをする。いつもより強く、何度も叩いた。中から低い声が聞こえてくる。
「入れ」
扉を開けると、レオニードは書斎机に向かって書類を読んでいる。蝋燭の明かりが彼の横顔を照らし、鋭い眼光が紙面に注がれていた。僕が入ってきても、顔を上げる気配すらない。
「あの……」
声が震えた。身体が熱く、息が荒い。レオニードはペンを動かし続け、僕を無視している。
「今夜こそ、お願いします」
懇願するような声を出すと、レオニードの手が止まった。ペンを置き、ゆっくりと顔を上げる。深い紺色の瞳が僕を捉え、何かに気づいたように目を細めた。
「……ヒートか」
低い声が響き、心臓が跳ね上がる。レオニードが立ち上がり、こちらに近づいてきた。
(来てくれる)
期待が胸を満たした。レオニードは僕の前で立ち止まり、顎を掴んで顔を上げさせた。鋭い視線が僕を見下ろし、冷たさだけが伝わってくる。
「勘違いするな」
冷たい声が耳朶を打ち、期待が一気に崩れ落ちた。
「結婚してやったのは、お前の家の後ろ盾のためだ」
心臓が凍りつき、息が止まりそうになる。
「オメガを抱く気はない」
はっきりと告げられた拒絶の言葉に、涙が溢れそうになった。レオニードは僕の手を払いのけ、身体を離す。
「出ていけ」
命令の声に、僕は思わずレオニードの腕に縋り付いた。
「お願いします……身体が、熱くて……苦しいんです」
必死に訴えると、レオニードは苛立ったように舌打ちをして、僕の手を振り払った。力任せに払われた手に、身体のバランスが崩れる。足がもつれ、後ろに倒れ込んだ。
ゴン。
鈍い音が響き、視界が真っ白になった。後頭部に激痛が走り、身体から力が抜けていく。何かにぶつかった。ベッドの柱だと、ぼんやりと理解した。
「……っ」
声も出せず、床に崩れ落ちる。痛みで頭が割れそうになり、耳鳴りがした。視界がぼやけ、天井が揺れている。
「おい」
レオニードの声が遠くから聞こえた。足音が近づき、僕の前に膝をつく気配がした。
「だいじょ……」
手が伸ばされてくるのが見えた。大きな手が、僕の肩に触れようとする。
「平気です」
涙目で言葉を絞り出し、僕は自分で身体を起こした。手のひらを床につき、よろよろと立ち上がる。頭が痛み、目の前が暗くなりそうだった。
「待て、医師を呼ぶ」
レオニードの声が背後から聞こえたが、僕は振り返らずに部屋を飛び出した。扉を開け、廊下へと出る。足がもつれ、壁に手をついて進んだ。頭の痛みが増し、吐き気がする。視界が揺れ、まっすぐ歩けない。
自分の部屋に辿り着き、扉を開けて中に入った。扉を閉めるとその場に崩れ落ち、床に座り込んだ。
(後ろ盾のため)
涙が溢れてきて、止まらなくなった。顔を覆い、声を殺して泣いた。フェルゼン家がリヒテンベルク家の力を必要としていたことは知っている。
この結婚で、レオニードは男爵から伯爵になったのだから。
(僕はただ――自分の子がほしいだけなんだ)
自分の子を抱きたい。育てたい。家族がほしい。
(それの何が悪いんだ)
感情が乱れ、涙が次々と溢れてくる。一人だけでいい。自分の子をこの手で抱きたい。笑顔を見たい
どうして、その夢が叶わないのだろう。三度の結婚で、一度も妊娠できなかった。
医師は問題ないと言ってたのに。ヒートも来るし、身体に異常はないと。なのに、どうして子を授かることができないのだろう。
(四度目の結婚も、駄目なのか)
絶望が胸を満たし、息が苦しくなった。ベッドによじ登り、枕に顔を埋める。涙が枕を濡らし、嗚咽が漏れた。
身体が震え、寒気がした。ヒートで身体は熱いのに、心は冷え切っている。丸くなってベッドの上で震えていると、ノックの音が響いた。
「エミール様、医師がお見えです」
メイドの声が扉の向こうから聞こえた。僕は返事をすることもできず、ただ黙っていた。鍵を開ける音がして、扉が開く。
足音が近づき、ベッドの横に誰かが立つ気配がした。
「レオニード様から、頭を打ったので診察するように言われております」
老齢の医師の声が聞こえた。身体を起こされ、後頭部を調べられる。冷たい手が傷に触れ、痛みが走った。
「傷は浅いですね。手当てをします」
薬を塗られ、包帯を巻かれた。医師の手は優しく、丁寧に治療してくれる。
「しばらく安静にしていてください。目眩や吐き気があれば、すぐに呼んでください」
医師が部屋を出て行き、再び一人になった。僕はベッドに横たわり、天井を見つめた。
(こんな中途半端な優しさなんて、いらない)
心の中で呟いた。頭を打ったから医師を呼ぶ。最低限の気遣い。夫としての義務を果たしているだけ。
抱いてくれないなら、気遣いも必要ない。僕が欲しいのは、子どもだけ。
時間が過ぎ、ヒートの熱が身体を蝕んでいく。下腹部が疼き、息が荒くなる。誰にも抱かれず、ただ苦しいだけのヒートだった。
深夜になり、僕は起き上がってベルを鳴らした。メイドが部屋に入ってくると、僕は低い声で告げた。
「フリッツを呼んでください」
しばらくして、フリッツが部屋に入ってきた。僕の従者として、長年仕えてくれている男だった。
「坊っちゃん、お怪我は大丈夫ですか」
心配そうな声に、僕は頷いた。
「平気です。フリッツ、頼みたいことがあります」
「何でしょうか」
「レオニード・フェルゼンについて調べてください」
フリッツの表情が変わり、真剣な眼差しで僕を見つめた。
「何を、お調べすればよろしいでしょうか」
「全てです。生い立ち、戦歴、フェルゼン家のこと。なぜ僕と結婚したのか。なぜ四度も結婚している僕を選んだのか。全て知りたいんです」
フリッツは少し考え込むように沈黙し、やがて頷いた。
「承知しました。数日お時間をいただけますか」
「ええ、急ぎません。丁寧に調べてください」
「かしこまりました」
フリッツは一礼して、部屋を出て行った。扉が閉まり、再び静寂が戻ってくる。
僕はベッドに横たわり、窓の外を見つめた。月が雲に隠れ、暗い夜空が広がっている。風が木々を揺らし、葉擦れの音が聞こえてきた。
頭の傷が鈍く痛み、身体が重い。ヒートの熱も相まって、意識が遠のいていく。僕は目を閉じ、暗闇の中に沈んでいった。
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